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第78話 スチールめぇえええ!

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『斬るべき者だけ斬るとか、格好良いよねぇ。それに比べて、斬られたと思って、絶叫すのってはちょっと、ねぇ?』
  
「ちょ!? 蒸し返さないで欲しいのカァアァン!?」
  
 カンが勘違いにより絶叫をした事に悶えている間にも、展開は止まらず続いていた。
  
「王! ワリア様は!?」
  
「心配いらぬ。ワリアの中の邪悪な気配のみを斬り捨てた。ワリア自身は気絶しているだけであろう。しかし……まさか、我が操られておったとはな」
  
「いつからワリア様は、あの様な状態だったのかは、ワリア様が目を覚ましたら、それとなく聞いてみましょう」
  
「よろしく頼むぞ。だが、今はそれ以上に問題が起きておる」
  
「そうですな。この者達は、一体……」 
   
 王と大臣は、ワリア姫を介抱するように衛兵へと指示を出した後に、目の前の惨状に頭を痛くしていた。

 クラス転移により召喚された生徒達は、泣いている者や家に返せと叫ぶ者、そして一部の者は不敵に笑い、明らかに良からぬ事を考えているように見えたのだ。
  
「一先ず、皆を落ち着かせる事が何よりであろうカァン」
  
「空き缶に言われんでも、わかっておるわ。皆の者! よく聞いてほしい。先ずはそなた達の事だが、一先ず、我が国で保護するので案ずるな。我が娘が何者かに操られて、このような事態を招いた事を深くお詫び申し上げる。こちらも現状の把握をせねばならぬ故、一旦客間にて休まれよ。ただ、その休んでいる間に代表者を一人選んでおいてくれ」
  
 王の言葉を受けて、クラス転移してきた学生達は全員が客間へと案内されていったのであった。

 そしてカンは、再びかっちゃんに掴まれ、一緒に移動する事になったのだった。
  
「……〝やや浮く〟を使う場面がない……」
 
 代表者というのは、とても大事な存在である。 その者が示す方向性によって、全体の流れが変わることもある為である。
  
 かっちゃんは、客間へと向かう途中で、手に持つ空き缶へと話しかけた。
  
「なぁ、ドMカン。俺達、元の場所へと帰れると思うか?」
  
「のぉ、ドMカンで確定なのカァン? まるでドデカイMサイズのようカァン。お主達を召喚した術次第だが、普通に考えたら召喚陣があるという事は、送還陣もしくは帰還陣もありそうなものだがな」
  
「その言い方だと、カンちゃんは私達と違う召喚陣でここに来たってことかな?」
  
「蜜柑は、鋭いの。我は、頭のネジが数十本外れた奴に、無理やりこのクラス転移に巻きこむようにしくまれたのカァン」
  
「なら、元の世界に帰る手段は分かってるのか?」
  
「うむ、完全に潰れれば元の場所で転生するのカァン」
  
「それって、帰るっていうのかな? それって、私達で言うところの〝生まれ変わり〟ってことだよね?」
  
「そうとも言う。もっとも、我の場合は、生まれ変わっても空き缶だがな」
  
「お……おう……苦労してんだな」
「希望があるようで、ないよね」
  
『腐れ空き缶が二人に憐憫の目を向けられて悶えて興奮しているところだけど、クラスは客間へと到着したようだね』
  
「分かりやすく罵倒するな。誰が腐れカァン。我のアルミボディが腐るものカァン!」

『腐食させてやろうか、この駄缶が!』

「頭のネジ発言を根に持ってるのカァン! 無闇に絡んでくるなカァン!」

 カンとイチカが口喧嘩していると、召喚者達の中でも動きがあった。
  
「当然、僕が代表者で良いだろうね! みんな!」

 クラスメート達全員に向かって葉桜が、自信に満ちた表情で代表者に名乗りをあげていた。
  
「ちょっと、待てよ。いきなり決定みたいな言い方をするな」
  
「かっちゃん……」

 突然の提案に、クラスメートが動揺する中で、かっちゃんが葉桜の目の前に立ち、鋭い眼光で睨みついていた。
  
「何何? この雰囲気? あと、地味にそろそろ二人以外も、我を気にしようカァン?」
 
『ライバルと読んで、好敵手と書く。もしかしたら、そんな関係かもと思わせるね。カンにとってのスチール缶のように、お互いに対して過剰な嫉妬を覚えなければ良いけれど』
  
「スチールめぇえええ! 鉄を使用されたというだけど、我より硬くなりよってぇええ!」
  
 カンがスチール缶への無駄な嫉妬に駆られている最中、客間の中央では葉桜学級委員長とかっちゃんが、尚も睨み合っていた。
  
「ならば、阿木君が代表者をするっていうのかい?」

「そう言う意味じゃねぇよ。お前が代表者になるってのがありきで、話を進めるんじゃねぇって言ってんだ」
  
「バチバチしているのぉ」
  
「かっちゃんと葉桜君はね、幼馴染で元々はお互いを認め合うライバルだったの」
  
「ほほう、なるほど」
  
「同じ中学の野球部でエースを競い合ってたんだけど、僅かな差でかっちゃんがエースの座を射止めたの」
  
「ふむふむ」
  
「そんな時にね、暴力事件が起きて当事者である二人が退部して事を収めた事があって……それ以来、二人はあんな感じなんだ」

 寂しそうな表情で、蜜柑は睨み合う二人を見つめていた。
  
「何とも主人公が持っていそうな、お約束な過去をもつ男が二人……は!? 今回も、主人公枠は、我じゃないのカァアァン!?」
  
『むしろ何故、空き缶に主人公枠が回ってくる可能性が、あると思っているのか知りたいよ』
  
「やかましいカァン。蜜柑は、二人が暴力事件を起こした理由を知っているのカァン?」
  
「ううん……かっちゃんは教えてくれないし、葉桜君はそれ以来から、私を避けるようになったから。元々三人、幼馴染で仲良かったのにね」
  
「蜜カァン……」

「蜜柑ね、みかん。変な風に呼ばないで」

 ゴミを見る目で、蜜柑に見下されるカン。

「……カァン」
  
「なら、立候補者が他にいるかい!」
  
 カンが、カタカタと恐怖で震えていると、葉桜の大声が客間に響き渡った。

 しかし、葉桜以外に手を挙げる者はいなかった。
  
「おや、阿木君。君は、口だけかい?」
  
「チッ、うるせぇよ」
  
「ヘタレめ……それじゃ、立候補者が一人という事で、代表者は僕で良いよね!」
  
「おいおい、立候補だけでなく推薦がおらぬかも聞かぬカァン」
  
「今の発言は誰だい?」
  
「我だ、我」
  
「だぁかぁらぁ、誰だと聞いているし姿を見せなよ」
  
「蜜柑の足元に、さっきからいるカァン。我は、新種の空き缶のカンという。よろしくカァン」
  
「……幻聴と幻覚だね。それじゃメイドさん、こちらの代表者は僕で……」

 召喚者達のいた部屋の扉の前にいたメイドの女性に、葉桜は声をかけた。
  
「見なかった事にもするでないカァアァン! 現実を受け止めんカァアァン!」
  
「……空き缶が喋ってるだってぇええ!?」
  
「「「えぇえええええ!?」」

「地味に、全員驚いているのカァン」

『コントのようだね』

 お約束と言わんばかりに、驚きの反応を示す召喚者達であった。
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