イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
77 / 99

第77話 斬られて……?

しおりを挟む
「全員、目を覚ますカァアアァアン!」
  
 カンは、いつぞやのゲス勇者と同じく、第一王女が周囲の人間を魅了している事を見抜いた。

 そして、周囲に漂っている魅了の香りを〝風龍の戯れ(Lv.3)〟を用いて吹き飛ばしたのだった。
  
「何事です、この風は! しかも、この風は……魔力を帯びておるではありませんか! 王の御前で、無礼を働いた者は誰ですか!」
  
「ほほう、王女よ。よくこの風が、魔力を帯びておると見抜いたカァン」
  
「誰です! 姿を現しなさい!」

 周りを見回しながら、険しい顔で叫ぶ王女。
   
「ここカァン」
  
「姿を見せぬ卑怯者め! 反逆者に違いない! 探して、引っ捕えよ!」

 気づかれることなく展開が進むのを、唖然と見る空き缶。
  
「カ……カァン……」
  
「多分、普通に見えなかっただけだと思うから、気にするなよ」
「正直、空き缶が喋ると思ってないし、気付かないよね」
  
「その優しさが、逆にメンタルにダメージが入るカァアアアアン!?」

 適当に扱われていた二人から、生温かい目と同情のこもった言葉をかけられたカンは、メンタルに小さくないダメージを負いながら、アルミボディをカタカタと震わせるのであった。
  
「何をしているのです! 早く、今の声の主を探し出すのです!」
  
 第一王女ワリアが叫ぶも、誰もその場から動かないばかりか、王も含め頭を押さえ苦しそうにしていた。
  
「ぐ……我は一体何を……大臣、この者達は誰だ?」
  
「王……申し訳ございません。私も何故、このような状況なのか」

 玉座に先程まで、どっしりと構えていた王や、召喚者達を見定める様に鋭い目を向けていた大臣が、まるで記憶がないかのように困惑していた。
  
「お父様!? 大臣まで!? 何故、私の魅了が解けた!?」
  
「ふ、墓穴を掘ったな。やはり魅了であったカァン」
  
「お前は……空き缶!?」
  
 カンはかっちゃんの情により、手の平の上に乗せてもらい王女達の前まで歩み出てきたのだった。

 かっちゃんは、本当に優しい男なのであった。
  
「王よ、お主達は王女の魅了の力によって、操られておったのであろう」
  
「なんだと……大臣よ」
「王……」

 かっちゃんの手のひらに乗せられた空き缶に、今の状況を説明される王と大臣。

 その表情は、明らかに混乱している様であった。
  
「驚くのも無理はあるまい。しかし、安心せよ。我の風龍の力が宿る風により、魅了の香りは吹き飛ばしてくれたカァアアァン!」

 ビシッとドヤ顔のつもりで、そしてまるで指でも力強く差しているかのような勢いで、カンは叫んだ。
  
「「空き缶が喋るだとぉおおお!?」」
  
「もう一度そこからカァアアン!? 流石にめんどいぃいカァアァン!?」
 
『同じ事を何回も説明するのは、大変なことだけどさ。しかし、相手が変われば致し方ないことなんだよね』
  
「そこはファンタジーの世界っぽい訳で、我の存在も素直に受けれてはくれぬのカァン」
  
『魔王すら驚いていた訳だし、無理じゃない? そもそも空き缶が喋る訳ないんだから、驚かれるのは無理ないよ。まだ武具や宝具なんかに魂が宿るなら分かるけど、ただの空き缶だからね』
  
「そう言われると、ぐうの音もでないカァァン」
  
 カンにより王や大臣は勿論の事、クラス転移してきた学生達も魅了の効果が解けていた。

 その為、それまで魅了により麻痺していた動揺や恐怖を感じ始め、更には元の世界への帰還を求めて騒ぎ出し始めていた。

 まさに、玉座の間は混乱の場と化していた。
  
「落ち着くカァアァン! この際、空き缶が喋ろうと喋らまいと関係ないであろう! 大事なのは、そこの姫が魅了で多くの者を操っていたという事ではないのカァン! 王よ!」

 王に詰め寄るカンを遮るように、王女は王とカンの間に割って入る。
  
「お父様! 大臣! 空き缶が喋る筈がありません! これは、魔王の手下に違いありません!」
  
「魔王の手下か……大臣、我の剣を」
「は!」
  
「カァン!?……この流れは……まさカァン……」
  
 王は立ち上がると自身の剣を手に取り、構えをとった。まさにその姿は達人の佇まいと言うに相応しいものであった。

「おいおい、マジかよ……これどうすんだよ、空き缶」

「そうであるな……先ずは、おぬしは我を床に置いて下がるカァアァン。案ずるな我なら心配な……」

「だよな、ほれ」

「行動が早いカァアアン!? 最後まで、言わせて欲しいカァアアァン!?」

『〝自分を置いて先に逃げろ〟とか言いたかったのは分かるけど、言い切るまで待ってあげるほどの信頼関係は無いよね』

「メンタルに更にダメージカァアン!?」

『あ、ちなみにカミペディア情報だと、その王様は剣術を極めし者が名乗ることが出来る称号〝剣聖〟を得ている者らしいよ』
  
「剣王カァアァン!? 格好良すぎないか王よ!?」
  
「褒めた所で何も変わらんぞ。魔王の手下よ」

 不敵に笑う王は、最上段に剣を構えると、全身から魔力と覇気が溢れ出す。
  
「え!? 本当にその感じで、斬られちゃうカァアァン!?」
  
「奥義〝心眼次元斬〟!」
  
「カァアアアアン!?」
「ギャァアアアアア!」

 玉座の間に王の剣技による余波で、風が舞おこり、そして同時に二つの絶叫が響いた。
  
「……ん? あれ? 悲鳴が他にも聞こえたカァン? 我……斬れてなぁああカァアァン!?」
  
 王が鋭く剣を振り下ろした先は、怪しい喋る空き缶では無く、自分の娘である第一王女であった。

 そして、王の間に自分が斬られたと思い、ノリで悲鳴をあげた空き缶とは異なり、姫の本気の断末魔が響き渡ったのだった。
  
『……何してるの?』
  
「恥ずいぃいカァアァン!?」

 すぐさまカンの悲鳴が、再度響いたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

処理中です...