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第75話 テンプレは嫌いじゃないよ

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 異世界に召喚された時に、期待するものとは、いわゆるチート能力というものが、お約束ではないだろうか。
  
「我にも、きっちりチートは貰えるのであろうな!」
  
 カンは図々しくも、女神に対して貰えるものは貰おう精神で、チート能力を要求していた。
  
〝えっと……貴方は、空き缶ですね?〟
  
「うむ、正真正銘由緒正しき新種の空き缶だな」
  
〝何故、此処に空き缶がいるのですか?〟
  
「え?」
  
〝え?〟
  
 空き缶は間抜けな声をあげ、女神はあざと可愛く首を傾げた。
 
「喚ばれたのは、我の方なのだが?」
  
〝先程の者達と同じ場所に居たのですか? 空き缶まで、召喚する術式になっていなかっはずですが〟
  
「え? それは一体、どういう事なのカァン?」
  
 カンと女神は、互いに困惑していた。それもその筈である。カンは、ある大いなる力により、クラス転移に無理やり巻き込ませられたのだからだ。

『あ、こっちでカンをそこに割り込みで送り込んだの』
  
「おぉおのれぇえええ! イチカめぇえぇえええ!? 恥をかいたではないカァアァン!?」
  
〝よく分からないですが、召喚陣の誤作動みたいなものでしょうか。取り敢えず、この神域に居てもらっては困るので、先程の子達と同じ所へ送りましょう〟
  
「さらっとバグ扱いされたが……ちょっと待つカァアァアン!」
  
〝なんでしょう?〟
  
「我にチート能力は!」
  
〝空き缶仕様の能力等は、流石に想定外で用意しておりません〟
  
「そこを何とか、仕様変更を! 空き缶にご慈悲を! おぉ! 女神よ! 女神様よ! 何かくれぬまで、ここに居座るカァアァン!」

 何とか粘る空き缶。カンカンと身体を揺すりながら、女神に最後は脅しのようにしてお願いしている。
  
〝……すぐに仕様変更出来る能力となると、大したものはありませんが、それでも宜しいですか?〟

『あ、女神の眉間に皺が……よっぽど、カンが面倒くさいんだね』
  
「何でも良いから、貰えるものは貰いたいカァアァン!」
  
〝では、少し待ってください〟
  
 女神は、空き缶をサッサと追い出したいが為に、サクッと与えられそうな能力を選んだ。
  
「チート! チート! チート!」
  
〝では、これを貴方に与えましょう〟
  
「おぉおお! 遂に我はチート缶になったのカァアァン!」
  
〝特殊技能スキル【やや浮く】を与えましたので、さらばです〟
  
「〝やや〟……浮く?」

 カンが、女神の言葉の意味を考えているとき、再びカンは召喚の光に包まれる。
  
「また召カァアアアン!?」
  
 こうして、カンは新たなる力【やや浮く】をがめつく女神から恵んでもらい、再びクラス転移に紛れ込むんだのだった。
  
「〝やや浮く〟って何ぞカァァアアァン!?」

 カンを包んでいた光が消えると、そこは先程まで一緒だった高校生の集団の足元だった。

『ホバリングで、滑らかな移動が出来るのかな? もしくは、クラスでやや浮く存在になれるのかな? クラス転移なだけに』
  
「クラスから浮く意味であれば、現時点でもっと大分浮く筈カァン!」

『浮いてる自覚はあったのね』

「悲しくなるからやめるのカァン! 実際、我はやや浮いてるのカァン! しかしだ! 浮いているだけで移動出来ないのカァアァン!?」
  
『あれ? そうなんだ。成分表示はどうなっているの?』
  
「表示は……」
  
 ・・・・・・・
 名前:カン
  
 称号:
 風龍に認められし空き缶

 種族:空き缶(Lv.14)  
  
 体力:24(最大24)   
  
 魔力ストック:10(最大10)
  
 ちから:0 
 すばやさ:0 
 かたさ:2
 まりょく:12 
  
 ※補正
 『魔沼ヨゴレ呪い』効果により魔力増加(+2) 
 『風龍に認められし空き缶』効果により魔力増加(+10) 

 技能:
  言語理解全異世界の誰とでも話が出来る
  常時発動M型(Lv.13) 
  熱耐性(Lv.2) 
  寒耐性(Lv.2) 
  ヨゴレ耐性(Lv.3) 
  風龍の戯れ(Lv.3) 
  魔力暴走(Lv.2) 
  内部空間保持潰れた時も空き缶内の空間を保持出来る
  魔力属性【風】 
  魔風制御 
  風龍制御(Lv.1) 
  空き缶浮遊(Lv.1) NEW!
  
 状態:
 魔沼ヨゴレの呪い(Lv.2) 
  
 現在地:
 異世界スノリンガム NEW!
 ・・・・・・・
  
「空き缶浮遊(Lv.1)……空き缶浮遊!?』
  
 女神はカンに授ける能力を、空き缶仕様に改変する必要があった。何故なら、チート能力を空き缶に授ける前例はなく、空き缶に与える想定もしていなかったからだ。

 その為、兎に角すぐに改変出来そうな能力として、たまたま目に付いた能力を与えたのだった。

 そしてこの瞬間、まさに世界に一つだけの空き缶専用スキルが誕生したのだった。

『多分、この〝空き缶浮遊〟ってのは、ユニークスキルだろうね。空き缶を浮かせるだけの技能スキルなんて、くだらなさ過ぎて取得する人いないだろうし』
  
「イチカが何と言おうとユニークスキルを獲得なのカァアァン! 効果は【やや浮く】だけれども!? 〝やや〟だけれども!」

 周りの状況を一切無視して、ユニークスキルの獲得にはしゃぐ空き缶。
  
「チッ、ドMカンも一緒か」
「ほらね、きっと一緒だと思ったんだよ」
  
「自然にMに〝ド〟をつけるで無いカァン」

 もはや足元に喋る空き缶がいたところで、まったく驚く感じを見せない蜜柑とかっちゃんの二人。
  
「おぉ! これはこれは、勇者様が大量に! 我が国はまさに、女神に愛された国である証拠ですな!」
   
 クラス召喚された全員の前で、大神官といった風貌の年老いた男が、歓喜に震えながら叫んでいた。

 そして、その横には絶世の美少女とも言える姫君が立っており、徐ろに口を開いた。
  
「勇者様方、お初にお目にかかります。私は、この国の第一王女ワリアと申します。ようこそ、我が国ブラークカーシャへおいで下さいました。是非とも我が国の民の為に、魔王を討ち滅ぼし、この国をお救い下さい」

 憂いを帯び、わずかに涙ぐむ瞳を召喚達に向ける美しい姫君の登場に、浮き足立つ高校生達。
  
「ブラック会社カァン?」

『カンて、空気読めないよね』

「カァン!?」

 割と本気のトーンのイチカの呟きに、地味にメンタルにダメージが入るカン。
  
「僕は、このクラス学級委員長を務める葉桜はざくらと申します。僕達は女神様の使徒として、ここへやって来ましたが、詳しい事は分かりません。色々教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか」

 召喚者達の代表は自分だと言わんばかりに、葉桜委員長は一歩前に出ると、ワリア王女に一礼し、そして堂々と話を始めた。
  
「もちろんですとも、これより皆様を王の間へとお連れいたします。そこで我が国の王や大臣より、詳しい話を聞いて頂きます」
  
「そうですか。よし、みんな! 先ずはこの状況の把握しない事には、何も始まらない! 落ち着いて行動しよう!」

 葉桜は、クラスメートの方に振り返ると、大きな声で指示を出し始めた。
  
「ほう、中々のリーダーシップであるカァン」
  
「……そうだな」
「かっちゃん……」
  
 クラス転移した総勢三十三名と一缶は、王の間へと向かう。

 そしてこの時、誰一人として帰還方法を誰も確認することなく、第一王女について行くのであった。
 
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