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第66話 空き缶の覚悟
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「まるで春に溶ける雪の如く、カンの魔力負債が消えたね。結果、ヒモ認定されたけど」
「ありがたい事なのだが、釈然としないカァン」
「釈然としてたら、クズだよね。本来自身で返すべき負債を、他人に肩代わりさせた挙げ句に、それをさらに他人に代わりに返させるとか……鬼畜缶?」
「そこまで言う? だがしかし、我からイチカへ魔力が流れておるとは、知る訳ないであろうカァアアァアン!」
「持っているときに、きっちり返してもらわないとね」
「おのれぇえぃ! そもそも〝魔力の負債〟とか、意味が分からぬのだ!」
今更なツッコミを入れるカンを無視して、イチカは話題を変えた。
「実際、その身に彼の魔力を受けてみてどうだった?」
「コロコロと話を変えよって……しかし、確かにカインは、最強の召喚士になれる可能性があるのであろうな。なにせ、あれほどの魔力放出は異常なのであろう?」
「受け止めてくれる相手がいれば……ね」
「うむ……確かに、それが問題なのだが」
カンは、カインの切なそうにしている表情を思い出した。
「彼は自分の魔力の大きさと出力の大きさの問題を把握していて、この魔法学園にも来るつもりが本当はなかったんだ。勿論、これもカミペディア情報だよ」
「最早、恐ろしいぞカミペディア……では、何故あやつは学園へと?」
「両親の失踪の謎……いや、両親を助け出す為には、力が必要だったのさ」
「カァン!? どういうことだ!」
「知りたいのかい?」
そこでイチカは、カンに問う。
「んん? そんなことは、当たり前だろう」
「知った処で唯の喋る空き缶が、どうするの?」
いつもより、若干温度が下がるような低い声で、イチカはカンに問いかけた。
「な……なんだと!」
イチカの纏ういつもと違う空気に臆しながらも、カンは強がって大声をあげる。
「彼にとって、あの世界が生きる世界なんだよ。だから、彼はそれに人生を賭ける。だけどカンは、偶々あの世界に召喚されたにすぎないんだよ。そして、目的の魔力制御だって手に入れたのだろう? 彼の事情に、首を突っ込む必要が何処にあるの? カンは、魔王になりたいんだろう? こんなところで、足踏みしていていいのかい?」
「な……」
「良いかい、よく考えるんだ。あの世界には、確かに危機が迫っている。しかも、その中心となる人物は彼であり、そして彼の両親は、既に巻き込まれている」
そして、一段と凄みを増した声で、イチカはカンに告げる。
「もしかしたら、魂を砕く事が出来る相手だっているかもしれない」
「魂を砕く……だと?」
「そうさ、そうなったらカンは転生出来ないよ。潰れて終わり、っことさ」
「……終わり……か。一つ、教えてくれぬか」
一言呟いた後、カンは取り乱すことなく、イチカに問いかける。
「なんだい?」
「カインは……我が、あの世界にいくのを拒否したら、あやつはどうなる?」
「君がいなかった未来に、再び収束して行くだけだよ」
「それは……」
「聞きたいかい? あの世界において、召喚獣も仲間も居らず、一人で〝魔王〟へと立ち向かっていった十六歳の少年の行く末を? もはや聞くまでもない未来が、彼を待っているじゃないか」
「魔王だと!?」
イチカの言葉を聞いたカンは〝魔王〟の存在を知り、強く反応した。
「口が滑ったかな。何処の世界にも魔王と呼ばれる者は居ると、前に言っただろう」
「……くくく……カァァアンカンカンカン!」
「どうしたの? ただただカンカン煩いんだけど。罵缶になったの?」
「大笑いしたのだ! さりげなく、罵缶にするでないわ。魔王が相手だと知って、我が臆すると思うてか! 空き缶を舐めるでないわぁああ!」
カンは、力の限り叫んだ。己の魂を、まるで鼓舞するかのように。
「という事は?」
「ふっ、知れたことよ。我がカインと共に、魔王を倒してくれるわ!」
カンの強い意志をもった宣言に対し、イチカは先程までの威圧を含んだ表情を緩めた。
そして、優しく微笑んだ。
「そうか……なら何も私は言わないよ。やるからには頑張るんだよ。ちなみに、あの世界にいる魔王の魔力は、1億MPだから」
「……え? はやくも、ハイパーインフレしてるカァアアァアン!?」
「そら、さっそく呼ばれてるよ。いってきなよ」
カンの底材の下に、召喚陣が浮かび上がる。
「驚きの余韻が冷めやらぬうちにぃいい異世界召カァアアァアアン!?」
そして、カンは再び世界の壁を超えて旅立っていった。
カインは、屋上から落ちていったカンが光の粒子となって消えていくのを確認すると、屋上でカンを召喚したのだった。
「行ったり来たりと忙しいカァアン!?」
「カンて、基本テンション高いよね。疲れない?」
「わざわざ、高くしたいわけでないぃい」
「さっきのだけど……アレ、魔力暴走してたでしょ」
「お主、気付いておったのか」
カインは真っ直ぐと床の上のカンを見下ろしながら、静かにそう告げた。
厳密には魔力は暴走していたわけではない。具現化された風龍の鉤爪の握力に、カンのボディが耐えられなかっただけである。
ただ、それを正直に告げるのは、今の空気と自身の安い矜持の為に、カインの言葉を暗に肯定するカンであった。
『サイテー』
「……気にしなくてよいと思うカァン?」
若干、媚びた感じにカインに声をかけるカンであった。
「……凄かったね、あの龍」
「お主の魔力供給がなければ、呼べぬがな。お主がいなければ、我はただの喋る空き缶だったのだ」
「カン……」
「だがしかし! お主がいれば別カァアン! 我は! 否! 我々は、魔王をも倒すことが出来るはずカァアン!」
「な!? 何故、カンが魔王の存在を!?」
予想外のカンの言葉に、驚き狼狽するカイン。
「そんな事は、どうだって良いのだ! 大事なのは、カイン!」
「なに!?」
「お主は、戦えるという事だ!」
「……え?」
「我と共に! お主は、強くなれるのだ! 誰よりも強く! 魔王よりも強く! この世界を救う程の〝強き者〟に、お主はなれる!」
「……空き缶が……喋る空き缶が……何言ってるんだよ!」
夢を見させるなと言わんばかりに、カインは叫ぶ。
「空を見上げてみるのだ、カイン。この空の広さ以上に、お主の可能性は今この瞬間にも広がっておるのだ。そして、それは嘘でも励ましでもなく、単なる事実なのカァン」
淡々とそう述べるカンの言葉に、カインは目を見開き、そして数秒の沈黙の後、口を開いた。
「カン……はは……空き缶のくせに……うわぁああああ」
カインは、泣いた。
黄金色から暗くなっていく空を見上げながら、彼は泣いたのだった。
「ありがたい事なのだが、釈然としないカァン」
「釈然としてたら、クズだよね。本来自身で返すべき負債を、他人に肩代わりさせた挙げ句に、それをさらに他人に代わりに返させるとか……鬼畜缶?」
「そこまで言う? だがしかし、我からイチカへ魔力が流れておるとは、知る訳ないであろうカァアアァアン!」
「持っているときに、きっちり返してもらわないとね」
「おのれぇえぃ! そもそも〝魔力の負債〟とか、意味が分からぬのだ!」
今更なツッコミを入れるカンを無視して、イチカは話題を変えた。
「実際、その身に彼の魔力を受けてみてどうだった?」
「コロコロと話を変えよって……しかし、確かにカインは、最強の召喚士になれる可能性があるのであろうな。なにせ、あれほどの魔力放出は異常なのであろう?」
「受け止めてくれる相手がいれば……ね」
「うむ……確かに、それが問題なのだが」
カンは、カインの切なそうにしている表情を思い出した。
「彼は自分の魔力の大きさと出力の大きさの問題を把握していて、この魔法学園にも来るつもりが本当はなかったんだ。勿論、これもカミペディア情報だよ」
「最早、恐ろしいぞカミペディア……では、何故あやつは学園へと?」
「両親の失踪の謎……いや、両親を助け出す為には、力が必要だったのさ」
「カァン!? どういうことだ!」
「知りたいのかい?」
そこでイチカは、カンに問う。
「んん? そんなことは、当たり前だろう」
「知った処で唯の喋る空き缶が、どうするの?」
いつもより、若干温度が下がるような低い声で、イチカはカンに問いかけた。
「な……なんだと!」
イチカの纏ういつもと違う空気に臆しながらも、カンは強がって大声をあげる。
「彼にとって、あの世界が生きる世界なんだよ。だから、彼はそれに人生を賭ける。だけどカンは、偶々あの世界に召喚されたにすぎないんだよ。そして、目的の魔力制御だって手に入れたのだろう? 彼の事情に、首を突っ込む必要が何処にあるの? カンは、魔王になりたいんだろう? こんなところで、足踏みしていていいのかい?」
「な……」
「良いかい、よく考えるんだ。あの世界には、確かに危機が迫っている。しかも、その中心となる人物は彼であり、そして彼の両親は、既に巻き込まれている」
そして、一段と凄みを増した声で、イチカはカンに告げる。
「もしかしたら、魂を砕く事が出来る相手だっているかもしれない」
「魂を砕く……だと?」
「そうさ、そうなったらカンは転生出来ないよ。潰れて終わり、っことさ」
「……終わり……か。一つ、教えてくれぬか」
一言呟いた後、カンは取り乱すことなく、イチカに問いかける。
「なんだい?」
「カインは……我が、あの世界にいくのを拒否したら、あやつはどうなる?」
「君がいなかった未来に、再び収束して行くだけだよ」
「それは……」
「聞きたいかい? あの世界において、召喚獣も仲間も居らず、一人で〝魔王〟へと立ち向かっていった十六歳の少年の行く末を? もはや聞くまでもない未来が、彼を待っているじゃないか」
「魔王だと!?」
イチカの言葉を聞いたカンは〝魔王〟の存在を知り、強く反応した。
「口が滑ったかな。何処の世界にも魔王と呼ばれる者は居ると、前に言っただろう」
「……くくく……カァァアンカンカンカン!」
「どうしたの? ただただカンカン煩いんだけど。罵缶になったの?」
「大笑いしたのだ! さりげなく、罵缶にするでないわ。魔王が相手だと知って、我が臆すると思うてか! 空き缶を舐めるでないわぁああ!」
カンは、力の限り叫んだ。己の魂を、まるで鼓舞するかのように。
「という事は?」
「ふっ、知れたことよ。我がカインと共に、魔王を倒してくれるわ!」
カンの強い意志をもった宣言に対し、イチカは先程までの威圧を含んだ表情を緩めた。
そして、優しく微笑んだ。
「そうか……なら何も私は言わないよ。やるからには頑張るんだよ。ちなみに、あの世界にいる魔王の魔力は、1億MPだから」
「……え? はやくも、ハイパーインフレしてるカァアアァアン!?」
「そら、さっそく呼ばれてるよ。いってきなよ」
カンの底材の下に、召喚陣が浮かび上がる。
「驚きの余韻が冷めやらぬうちにぃいい異世界召カァアアァアアン!?」
そして、カンは再び世界の壁を超えて旅立っていった。
カインは、屋上から落ちていったカンが光の粒子となって消えていくのを確認すると、屋上でカンを召喚したのだった。
「行ったり来たりと忙しいカァアン!?」
「カンて、基本テンション高いよね。疲れない?」
「わざわざ、高くしたいわけでないぃい」
「さっきのだけど……アレ、魔力暴走してたでしょ」
「お主、気付いておったのか」
カインは真っ直ぐと床の上のカンを見下ろしながら、静かにそう告げた。
厳密には魔力は暴走していたわけではない。具現化された風龍の鉤爪の握力に、カンのボディが耐えられなかっただけである。
ただ、それを正直に告げるのは、今の空気と自身の安い矜持の為に、カインの言葉を暗に肯定するカンであった。
『サイテー』
「……気にしなくてよいと思うカァン?」
若干、媚びた感じにカインに声をかけるカンであった。
「……凄かったね、あの龍」
「お主の魔力供給がなければ、呼べぬがな。お主がいなければ、我はただの喋る空き缶だったのだ」
「カン……」
「だがしかし! お主がいれば別カァアン! 我は! 否! 我々は、魔王をも倒すことが出来るはずカァアン!」
「な!? 何故、カンが魔王の存在を!?」
予想外のカンの言葉に、驚き狼狽するカイン。
「そんな事は、どうだって良いのだ! 大事なのは、カイン!」
「なに!?」
「お主は、戦えるという事だ!」
「……え?」
「我と共に! お主は、強くなれるのだ! 誰よりも強く! 魔王よりも強く! この世界を救う程の〝強き者〟に、お主はなれる!」
「……空き缶が……喋る空き缶が……何言ってるんだよ!」
夢を見させるなと言わんばかりに、カインは叫ぶ。
「空を見上げてみるのだ、カイン。この空の広さ以上に、お主の可能性は今この瞬間にも広がっておるのだ。そして、それは嘘でも励ましでもなく、単なる事実なのカァン」
淡々とそう述べるカンの言葉に、カインは目を見開き、そして数秒の沈黙の後、口を開いた。
「カン……はは……空き缶のくせに……うわぁああああ」
カインは、泣いた。
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