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第65話 潰れている空き缶は危ない

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『龍に成れたら、カッコいいよね。慣れたらかっこいいということは、成れないカンはそうでもないってことで』
  
「風龍さぁああん!? もうちょっと、優しく掴んでぇええ!?」

 具現化された風龍に掴まれながら空を飛ぶカンは、悲鳴をあげていた。
  
「風龍だって空き缶なんて掴んだことないだろうし、無理じゃない? 中身が入っている状態ならいざ知らず、空っぽだからすぐ凹むし」
  
「メキャメキャっとぉおおお鳴ってるカァアァアアン!?」
  
 カインの居る屋上の上空には、雄大に空を駆ける風龍の姿があった。そして、その手には、カンが若干所か結構な勢いで凹みながら掴まれていた。
  
「凄い……これがカンの力……」
  
「メキャメキャぁああ!? 無理無理無理無理カァアアァアアン!?」
  
「えっと……カンの……力なの?」 
  
「食いこみが激しくて捻じ切れちゃうカァアァアアン」
  
「……〝魔力供給停止〟……」

 黙ってカインは、カンに送っていた魔力を止めたのであった。
  
「風龍が消えた!?」

 カインの魔力を用いて、風龍を呼び出していた為、当然魔力の供給がとまればそうなる。
  
「……てことは……やっぱり落下するのカァアァアアン!?」
  
 風龍に掴まれていたカンの情けない悲鳴に、情けなくも可哀想になったカインが、取り敢えず魔力の供給を停止すると、カンが具現化した風龍もただの風となり消えていった。

そして、カンは当然落下した。
  
「カン! 掴まって! くっ! 届かない!?」
  
「カイン! 安心せよ! 我の魔力は、まだ残っておる!〝風龍の戯れ(Lv.2)〟!」
  
 "カンは、風龍の戯れ(Lv.2)を発動した!"
 "カンのMPが15消費された!"
 "カンのMPは残り2となった!"※MPが足りない分は、ストックMPから充填
  
 カンは、保持魔力とストック魔力を使って、〝風龍の戯れ(Lv.2)〟を発動させ風を纏った。そしてカインが伸ばした手に飛び込んだのだった。
  
「カァアアアン!」

「カイィイイイン!」
  
『盛り上がってるところだけど、地味に既にさっきの風龍の鉤爪に掴まれた初撃で体力0なってるからね。すぐさま常時発動M型で戻ったんだけど、結局引き続き掴まれたままだから、グシャっとつぶれてるけども』

「互いに腕を伸ばし、ピンチを乗り切ろうとするハラハラのシーンに水を差すカァアアアアン!?」
  
『確かにそうなんだけど……既にけっこう潰れている空き缶を掴もうとしたら、どうなるかって話なんだよなぁ』
  
「カァン!?」
  
 カインは飛んで向かってきたカンを落とすまいと、力を込めて掴んだ。
  
「痛っ!?」

 その結果、ひしゃげて尖っている部分の空き缶ボディで、手のひらを怪我をした。
  
「あ……カァアアアン!? 」

 当然、痛さのあまりカンを離す。
  
「ごめん! カンのボコボコのボディが、手に当たって痛かったの!」  
  
『空き缶がボコボコにベキベキに潰れていたら、鋭い金属の角が出来てしまうからね。そんなボコボコのベキベキの空き缶を思いっきり掴んだら、当然掌に角が当たって痛いよね』
  
「我こそ申し訳ないカァアアアン!? そしてやっぱり落ちたぁああ!?」
 
「カァアアアアン! あとで召喚するからねぇぇえ」
  
 夕焼けに染まる屋上に、カンの恐怖に染まる悲鳴と、カインの割りと冷静な声が響き渡ったのだった。


  
「おぉ、カンよ。落下にビビってメンタルが折れて、体力が0になるとは情けない。結果、Lv.12になったね」
  
「普通折れるわ!」
  
「しかし、あの風龍を具現化出来るほどの魔力供給とはね。カイン君、恐るべし」
  
「うむ、まさかあそこまでとは思わなかったな」
  
「今回も、カンのしっかりレベルも上がったみたいだよ」
  
 ・・・・・・・
 名前:カン
  
 称号:
  風龍の玩具
  ヒモ缶 NEW! 

 種族:空き缶(Lv.12) UP!
  
 体力:22(最大22) UP!
  
 魔力ストック:10(最大10)
  
 ちから:0 
 すばやさ:0 
 かたさ:2
 まりょく:7 
  
 ※補正
 『魔沼ヨゴレ呪い』効果により魔力増加(+2) 
 『風龍の玩具』効果により魔力増加(+5) 

 技能:
  言語理解全異世界の誰とでも話が出来る
  常時発動M型(Lv.11) UP!
  熱耐性(Lv.2) 
  寒耐性(Lv.2) 
  ヨゴレ耐性(Lv.3) 
  風龍の戯れ(Lv.3) 
  魔力暴走(Lv.2) UP!
  内部空間保持潰れた時も空き缶内の空間を保持出来る 
  魔力属性【風】 
  魔風制御 
  
 状態:
  魔沼ヨゴレの呪い(Lv.2) 
  召喚待機中
  
 現在地:
  イチカの書斎
 ・・・・・・・

 そして、カンはあることに気付いた。
  
「ん? イチカに対する〝絶対服従〟が消えておらぬか?」
  
「だって、さっきカイン君からの魔力供給の時に、100万MPがカンを通して、こちら側へ支払われたからね」
  
「……100万だぞ!? それを一括返済カァアアアン!?」

 まさかのカインが供給した魔力は、イチカが肩代わりしていたカンの〝借魔力100万MP〟を、風龍の具現化をした上で、返し切るほどであった。
  
「彼の魔力量と出力は、半端ないからね。そのせいで逆に、制御出来ずに魔法を覚えられないんだろう。そして召喚獣も、余程高位の者でなければ彼の魔力供給量には耐えられないだろうね」
  
「そうだったのカァン……」
  
「あっ、そうだ」

 何かに合図するかのように、イチカは指を鳴らした。
  
 "カンは、100万MPの負債をカイン=アーキから供給された魔力により返済した!"
 "カンは、称号【ヒモ缶】を得た!"
  
「……ヒモ缶!? 我の立場がドンドン下がるカァアアァン!?」

 世界の理にさえ、〝ヒモ〟と認められた空き缶は、カンが世界で初であった。
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