上 下
62 / 99

第62話 魔法の常識

しおりを挟む
 勝つための戦いというのは、準備が大事であり、弱き者が準備を怠っては勝てるはずもないのである。

 現時点で、新しき力を得たカンであったが、当然の如く未だ〝弱き者〟である。
  
「ちょ!?  え!? は!? ゴゴゴッゴッゴーレムカァアアン!?」
  
 入学式の次の日、カインは自分のクラスである一年三組において、召喚士としての戦闘の模擬戦を授業で行う事になった。

 そして、出席番号順で相手が自動的に決められ、その結果としての相手がゴイラ=イモイだったのだ。

『どうやら、今はもう入学式の次の日で、しかも授業の真っ最中みたいだね。そして、その授業は〝召喚獣を用いた模擬戦〟と言うこと。そして、カンが召喚された状況を考えれば、おのずと答えは導き出せるわけだ』
  
「そうだったのカァアン!? 召喚獣って、こんな唐突に呼ばれて対応できるものなのかカァアアアン!?」 
  
『いや、そんな事はないみたいね。他の召喚獣は、カイン達の世界の枠組みで生きる者達だから、自分の主達と同じ時間を共有しているし、当然召喚主の現在の状況といった情報も得る事が出来るんだよ。だけどカンは、そもそも異世界の者であるから、帰還してる際はカインからの情報を得る事が出来ないためだと思うよ』
  
「それ大事な情報な上に、めっちゃ我って不利ではないカァアアアン!?」

『不利なのは、そんなカンとパートナーを組んでいるカイン君だと思うけどね』

「それを言われるとぐうの音もでぬカァアアン!?」

 イチカの真っ当な言葉が、カインへの罪悪感を増しながらカンにダメージを与える。そんな狼狽えるカンの元に、カインの掛け声が届いた。
  
「カン! 行けぇえ!」
  
「ゴレモイ! そんな空き缶なぞ、踏み潰せぇええ!」

 同時に、ゴイラの声も訓練場に響いた。
  
〝ゴイラ親方! 任しておくでごわす! こんな空き缶など、おいの足でぺしゃんこにしてやるでごんす!〟

 ゴーレムは気合をいれながら、カンに向かって歩き出していた。当然、その言葉はカンにのみしか、聞くことはできない。

 側から聞けば、ただゴーレムが雄叫びをあげている様にしか聞こえなかった。
  
「ちょ!? 見た目通りのごっつぁんキャラなのカァアアン! 待つのだ!? 待て! 仕切り直しカァアン!」
  
〝ゴーレムは、急に止まれないでごわす!〟
  
「トラックの如き突進力カァアアアン!? トラック転生してしまうカァアアン!?」
   
「カン! 避けて! ほら! 潰されちゃうから!」

 ゴーレムの足が迫っている中、カインがカンに対して指示を出す。
  
「我は動けないぃいカァアアアアン!」
  
 カインの指示も虚しく、カンは既に目の前に迫っている巨大なゴーレムの足の前に、転生を覚悟していた。

 カンにゴーレムの足が触れると思った瞬間、時間が止まりカンに何処からともなく声が聞こえてきた。

〝力を欲したものよ〟
  
「時間が止まったところで、察しはついているが、イチカであるな?」
  
〝何の為に、魔力制御を覚えたのだ〟

「無視か」
  
〝魔風は、何の為に身につけたのだ〟

 その声はたたみかける様に、言葉を紡ぐ。
  
〝カンは、ただの潰れる空き缶か?〟

「そうでは……ない……はず」

 否定しながらも、そこには〝揺るぎない自信を持つ〟言葉という様子はなかった。
  
〝それとも、魔王に至る空き缶か?〟
  
「……イチカ……おぬし……」
  
〝さぁ、空き缶よ。喋る空き缶のカンよ。お前は、何を手に入れた?〟
  
「風を……魔風を……」
  
〝そうさ、カン。君はもう、動けない空き缶じゃないんだ。カンなら、空も飛べるさ〟
  
「……カ……カァアアアン!」
  
そして時は再び動き出した時、ゴーレムの足が地響きとともに、カンが立っていた位置の鍛錬場の地面に、踏み下ろされたのだった。
  
「カァアアアン!? 大丈夫!?」
  
「ふははは! 空き缶が、完全に踏み潰されちまったようだな!」
  
 カインの悲鳴と、ゴイラ=イモイの高笑いが鍛錬場に響き渡った。しかし、そこにはもう一つ声が響き渡るのだった。
  
「ふ……フハハハハ! カァアアアン! 我の時代が今此処にキタカァアアアアン!」
 
『ほほう、言うじゃないか。だが、そういう調子の乗り方は、嫌いじゃないよ』
  
 カンは、ゴーレムに潰される直前に〝風龍の戯れ(Lv.2)〟を発動し、自分自身が魔風を纏うことで風の力により移動し、踏み潰しを躱した。そして、空中にふわりと吹き上がっていた。
  
 "カンは、風龍の戯れ(Lv.2)を発動した!"
 "カンのMPが15消費された!"
 "カンのMPは残り2となった!"※足りないMP分はストックMPから充填
 "カンの風龍の戯れ(Lv.2)の効果が切れるまで残り3秒……2秒……1秒……効果終了!"   

「……ふぃ? 効果……シュウリョウ?」
  
 世界の声の発した言葉の意味を理解したくないという想いが、カンの言葉をカタコトにさせる。 

 カンの発動した風魔法〝風龍の戯れ(Lv.2)〟の効果により風を操り空中に浮かんでいたカンは、魔法の効果時間が終了したと同時に落下を始めた。
  
「不味い! もう一度、魔法カァアアン! 〝風龍の戯れ(Lv.2)〟!」
  
"カンは、【風龍の戯れ(Lv.2)】を唱えた!"
"しかし、MPが足りなかった!"
  
「……はぁああ!?」
 
『MPが足りなかったら、魔法は発動しない。これ、常識だよね』
  
「カン! 動かないと、そのままじゃ!」
  
 突然、自然落下を始めたカンに、カインが声を出した時、同時にゴイラ=イモイも自身の召喚獣のゴーレムに指示を出していた。
  
「そのまま、殴り飛ばせぇええ!」
  
 "ガッテン承知の助でごわすぅうう"
  
「ちょ!? 待つカァン! けぺら!?」
  
 無常にもカンのアルミボディに、ゴーレムの巨大な拳が見事にクリーンヒットしたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる
ファンタジー
ゴーナ王国のフォンブランデイル公爵家のみに秘かに伝わる、異世界を覗くことができる特殊スキル【神の眼】が発現した嫡男ドレイファス。  しかしそれは使いたいときにいつでも使える力ではなく、自分が見たい物が見られるわけでもなく、見たからといって見た物がすぐ作れるわけでもない。  食いしん坊で心優しくかわいい少年ドレイファスの、知らない世界が見えるだけの力を、愛する家族と仲間、使用人たちが活かして新たな物を作り上げ、領地を発展させていく。 主人公のまわりの人々が活躍する、ゆるふわじれじれほのぼののお話です。 ゆるい設定でゆっくりと話が進むので、気の長い方向きです。 ※日曜の昼頃に更新することが多いです。 ※キャラクター整理を兼ね、AIイラストつくろっ!というアプリでキャラ画を作ってみました。意外とイメージに近くて驚きまして、インスタグラムID koha-ya252525でこっそり公開しています。(まだ五枚くらいですが) 作者の頭の中で動いている姿が見たい方はどうぞ。自分のイメージが崩れるのはイヤ!という方はスルーでお願いします。 ※グゥザヴィ兄弟の並び(五男〜七男)を修正しました。 ※R15は途中に少しその要素があるので念のため設定しています。 ※小説家になろう様でも投稿していますが、なかなか更新作業ができず・・・アルファポリス様が断然先行しています。

召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。 途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。 だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。 「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」 しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。 「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」 異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。 日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。 「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」 発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販! 日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。 便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。 ※カクヨムにも掲載中です

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

魔王の娘がこちらを見ている〜人間に手違いで召喚された俺は、魔王たちと仲良くやります〜

オニオン太郎
ファンタジー
「おい、人間! もっとなでなでして!」 「はいはい」 二十歳のフリーター、無田勝人(ムダカツヒト)は、ある日異世界人の手違いにより、剣と魔法の世界へ召喚されてしまう。勇者としての適正が無かったカツヒトは、悪逆無慈悲な異世界人により町を追い出されてしまう。 飢えと渇きに苦しんでいるところを魔王軍に拾われたカツヒトは、衣食住完備のお客様待遇でもてなされ、現代に戻るまでの日々を魔王の元で暮らすことになった。 そんな中、カツヒトは魔王の娘、ラキアと出会い、彼女が抱える「何をやっても報われない」という問題に向き合っていくこととなる。 「人間! もっと私を褒め称えろ! ほら、早く早く!」 「うわーすごーい」 こんな感じのファンタジー・ヒューマンコメディ! ※小説家になろうでも同名作品を発表してます。同じ作者ですので気にしないでください。 ※テスト投稿の側面もあります。不慣れですので、使い方について指摘があればお願いします

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

マヌー

スーパーちょぼ:インフィニタス♾
ファンタジー
夢見る力を失った少年は何よりも美しい夢を求めた🐸   絶望に効く(かもしれない)夢と狂気の入り混じる悲喜劇ファンタジーです。 どちらかといえば絶望してる人向けな作品のため、 序盤はほとんどストーリーがありません 。 (やっと動き出すのは第三章以降でしょうか)

処理中です...