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第60話 空き缶だって、やる時はやる!

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 物語の主人公というのは、最大のピンチを迎えた時に、新たな力を覚醒する事がある。

 はたして空き缶であるカンに、そんな主人公補正が働くのであろうか。

 この物語の一応の主人公であるカンにおいても、そのチャンスが訪れていた。

 しかし、それと同時に〝真の死〟という存在の消滅の危機も、同時に襲いかかって来ていた。
  
 カインとニヤンが、これからの学園生活の事を楽しそうに話をしている後ろでは、カンがこれまでの缶生人生的なものの最大の窮地を迎えていたのだった。

『うわぁ……これは、きつそうだねぇ。カン、本気で気合入れるんだ。存在の危機だと、ここでしっかり認識することだよ。その命を本当の意味で危機に晒す今、己の想いの真価が問われているのだから』
  
「イチカの真面目な助言が今の窮地を十二分に我に認識させるカカカカカァアアアン!?」

 実際、書斎ではイチカが手に汗を握っていた。冗談抜きに、カンの存在を左右する瞬間であり、かつ自身の魂の一部が砕けるかの状況であったからだ。

 それすらも楽しむイチカもまた、狂っているのだが。

 そしてそれを全く隠すことなく楽しげな様子で、カンに対して話しかける。

『バッドエンドの打ち切りとかにさせないでよ? カンの今の状況を勝手に小説にした作品を、勝手にネットにアップしてるんだからさ。少数だけど、読んでくれる人いる訳だし』

「ファンタジーなのにノンフィクションカァアァン!? 何勝手に我を晒してるカァアアン!? しかも少数なのかカァアン!? もっと頑張れカァン!」

『それは、お互い様でしょ。もっと劇的にピンチに、そして悲劇的でいて感動的に、カンが潰れれば読者は満足するだろうか。あぁあはははっはっはっはは!』

「完全に狂ってる奴ではないカァアアアン!?」

 カンにとっての衝撃の事実が明かされたところで、さらに事態は進んでいく。
  
〝今あんたの中に、私の魔力を注入したわ! いつだって、恋は命懸け! 魔力制御も、命懸け! その魔力を、自分の中でどんなイメージでもいいからコントロールしなさい! 失敗したら、ドパンよ!〟
  
「ドパン!? スパルタ過ぎるぅうう!? しかも恋は関係ないではないカァアアアアン!?」

 実際は、ライティがカンの中から魔力を吸収すれば、事態は収束するのだが、そんな事はライティはする気はさらさらなかった。

 何故なら、カンの中に魔力を注入した際に、あることに気がついていたからだった。
  
〝あんたの中に魔力を注入した時に、空き缶の体内に龍の魔力微かに感じたわ。あなた、一度は龍の魔力を扱った事があるんじゃない?〟

 カンが騒ぎ立てる中でも、ライティは冷静にカンの状態を観察していた。
  
「扱ったというか……龍の魔力を暴走させた事が……あったりなかったり」
  
 カンは、確かに風龍の魔力をその身に宿していたが、扱いの難しさ故に制御した経験などないと思っていた。

 しかし、カンは忘れていたのだ。

 一番初めに風龍の魔力を、その身に宿して時の事を。

『暴走ばっかじゃなかったんじゃない? 最初の風龍との出会いを思い出してごらんよ』
  
「初めて……最初……初体験……」

『思い出し方が、気持ち悪いよ』
  
「やかましいわ! 黙っとれ! 確か……我は風龍のブレスを……」
  
〝そろそろ魔力の暴走が、臨界点を迎えるわよ! 今のままじゃ、ドドォオンよ!〟

「ドドォン!? 擬音の威力が上がってるカァアン!?」
  
 カンは、風龍に遊ばれた時の事を思い出していた。風龍という存在と、自身の中に魔力が溜まっていく感覚を感じようとしていたのだ。
  
「我は空き缶……そう、我は中身のない空き缶……空き缶の中は、円筒形なのカァアアアアン!」
  
〝あぁ! もう限界よ!〟
  
「魔力よ回れカァアアアン! くぉおおぉおおお!」
  
 スポーツで何か新しい動きを身体で覚える時は、実際に正しい動きに矯正する練習方法というのが、当然の様に存在している。
  
 では、得体の知れない何かを感じろと言われたら、どうしたらよいのだろうか。
  
 この場合、まさに魔力がそれだった。
  
「魔力を、缶内で回すイメージをぉおお!」
  
 カンは、自分の中で暴れまわる魔力を風に見立てていた。

 これまでのカンは魔力を液体と捉えていた為、どうしても口が開いている空き缶の自分では、液体を制御できるイメージが湧かなかったのだ。
  
「我は、ただの空き缶である! だがしかし! 空き缶である事に囚われては、空き缶としての成長は望めぬ! 中身がないのが空き缶! 故に、内部は空洞であるという事! ならばそれを強みに変えれば良いだけのことカァアアアアン!」
  
 今のカンは、綺麗な円筒の空き缶ではない。歪められ、曲げられている潰れかけている空き缶だった。それでも、カンは自分の空き缶としての内部空間をイメージし続けた。
  
「我の内部はには、無限の可能性が広がっておるのカァアアアン!」

 魂からの叫びに、世界は応えた。
  
 "カンは、【内部空間保持】を取得した!"
 "カンは、魔力属性【風】を取得した!"  
 "カンは、魔力属性【風】の効果により、内部空間に【魔風】を創りだした!"
 "カンは、【魔風制御】を取得した!"

 新たな技能スキルの取得を告げる世界の声が、カンのボディに響くのであった。 
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