イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
57 / 99

第57話 どこで震えるかが問題なのだ

しおりを挟む
『暗い過去持つ主人公は、どこか影を匂わせており、主人公を知れば知るほど、深みを感じるわけだよ。そこがまた、人を惹きつける魅力となるわけだ』
  
「我だって、主人公枠であるわけであろう? ということは、まさか!? 我にも、語られていないダークヒーロー的な過去があるカァン!?」
  
『何言ってるのさ。カンに暗い過去などあるはずがないじゃないか、あるのは潰れるだけの明るい転生を繰り返す未来だけさ!』
  
「お先真っ暗カァアン!?」
  
 ゴイラとの出会いの後、カインの手で再び暗いポケットの中に押し込められたカンは、もう転ばないでくれと拝みながらブルブル震えていた。

『カイン君のズボンのポケットで、ブルブルとバイブするって……噂に違わぬドヘンタイだね』
  
「ちょいちょい、我を貶めるのを止めようか。身体が震えることをバイブすると表現するなど、悪意しか感じぬわ」
  
「カン、部屋に着いたよ。あと、僕のズボンのポケットからイタズラしようとするの、やめてもらっていいかな。ちょっと……ごめん、結構気持ち悪いから」

「嘘カァアン!? イタズラの意味合いが、相当悪い感じがするカァアアアアン!?」
  
 カインがそう言いながらポケットからカンを取り出すと、部屋の中にあった机の上に置いた。
  
「ここは……どこ?」

 カンがいる部屋は、所謂学生寮といった部屋だった。

 そして、この部屋が一人用ではないことは、ベッドと机がそれぞれに二つずつ設置されていたことから、明白だった。
  
「今日は、入学式と召喚の儀だけだからね。授業は、明日からなんだよ。それで今日は、下宿所の自室で荷物の整理とかの準備ってわけだよ」
  
「机とベッドが二つあるという事は、同居人がいるってことカァン?」
  
「そうみたいだけど、僕もまだ会った事ないし、誰かもわからないんだけど……うわ!?」

 その時、突然大きな音ともに勢いよく、部屋の扉が開いた。
  
「あ! もう一緒に住む部屋の人が、いたんだね! ボクは、ニヤン=コーネって言うんだ! ニャンコって呼んでね!」

 カンとカインの目の前には、女子生徒の制服を着たツインテールの美少女が、腰に手をやり胸を張って立っていた。

 ただし、その胸は絶壁と表現することに躊躇うことのない程の絶壁だった。

「……えっと、ここは男子の下宿所なので、女子は場所が違うと……」

 当然、ここの下宿所は男女の学生が同室になることはない。その為、カインは当たり前のように戸惑っていた。
  
「まさカァン?」

 その時、失礼にも絶壁な胸に注目したカンは、ある可能性について思い至った。
  
「ボクは、男だよ! 女装が趣味なだけさ!」

「えぇええ!?」

「やっぱりカァン!? 濃いキャラキタカァアアアアン!?」
  
 狭い下宿部屋に、一人と一缶の叫び声がこだまする。
  
「女子の制服を、どうやって手に入れたカァン!?」

『多様な価値観があり、それを認識出来ると面白いじゃない。そもそもカンだって、性別どっちなの問題が、ずっと燻っている訳だしさ。雄、雌、はたまた……ね? カン』
  
「その確認に手を出すと、鬼も蛇も出てきそうだから、今はやめておくべきだろう。そして、女子生徒の制服を男子学生がどうやって手に入れたかは、深く考えないようにする。きっとこの世界は、寛容で、優しい世界なのであろうよ」
  
何だかんだと言い訳しながらも、カンがニヤンのスカートの中をしっかり気にしていると、カインは部屋に沢山の荷物を運び入れているニヤンを見て唖然としていた。

『カイン君に床の上に置いてと言えば、気にしているスカートの中がばっちり見えると思うよ。そして、同時に大事なカンの尊厳が失われると思うよ』
  
「気にしているのは、完全に嘘ではないが、そればっかりだと思われても心外だな。その為に床に置けと言えば、確かに大事な何かを永遠に失うリスクがあるカァン」
  
「えっと、ニャンコ君? ちゃん? 凄い荷物だけど……それ全部ここに?」
  
「ニャンコで良いよ! これ、全部ボクの服なんだ! ここって普段は制服でも私服でも、どっちでもいいじゃん? だから、沢山持ってきちゃった! えっと……」 

 急に話すのを止めたニヤンの様子に、カインはハッとした表情をみせると、慌てて口を開いた。  

「あぁ! ごめん! 僕はカイン=アーキ。それで、コレが、僕の召喚獣のカン。同室よろしくね」
  
「うむ、よろしくなのだ。ちなみに、凹んでいるのが通常ではないのだぞ? 通常は、綺麗な円筒形なのであり、そこんとこを勘違いしないように、よろしくカァン」

 ニヤンは、カインの挨拶には笑みだったが、同じように人語で挨拶していてきた空き缶に対しては、顔の表情を硬直させた。

 戸惑いを隠さず、若干声を震わせながら、カンを指差しながら、素直な疑問をそのままカンに向かってぶつけてみた。 
  
「これ……空き缶?」
  
「空き缶だな」

 即答で答えるカン。
  
「……人の言葉を喋るの?」
  
「喋るぞ。それはもう、喋るぞ」
  
「……へ」
  
「へ? 屁はこくかと言われれば、どうなのであろうな。腸があるわけではないからの」
  
「変態ぃいいいい!」
  
「どうしてそうなったカァアン!?」
  
『痴漢にあった感じの悲鳴だよね。なになに、この男の娘ちゃんに過去何をしたのさ』
  
「そういう方向での後ろ暗い過去が欲しいわけでは無いカァアアアアン!?」

 カンと話したニヤンが、開口一番に発した〝変態〟発言により、カインもまた、自然とカンから後退りながら、しっかり距離を取ったのだった。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...