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第56話 主人公には重めの過去があるもの
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『クーラーボックスに入ってる氷が勿体無いし、暇つぶしもとい嫌がらせの為に、カンのボディの中に、転送しようかな』
「嫌がらせと白状するのが早すぎるわ。せめて、実行に移すまでは隠せ。かといって、それはやって良いという意味ではないがな」
『しちゃ、駄目?』
「むしろ許可が下りると、何故思う」
『まぁ、いいか。とりあえず私の七光りによって、そっちでは何とかなりそうでしょ』
「うむ、先程の学園長と教諭から〝伝説の〟という言葉で、カインもやる気を取り戻していたしの。〝伝説の〟の何かは、教えてくれなんだがな」
やや腑に落ちないカンだったが、それでも自身の立場が、多少は改善した事には安堵していた。
『それはよかったね。先ずは、魔法学園で魔力制御を取得する事だね。魔力制御を取得したらカイン君の〝帰還〟の魔法で、ここに帰ってこれる様にしてあげるよ。勿論、新しい空き缶への転生も、許可しようじゃないか』
「おぉ! 飴キタぁあああああ!」
まさに、狂喜乱舞といった様子のカン。
『それまで何かあったら、その時は、お空に昇ったカンに祈りを捧げながら、次は未開封スチール缶のブラックコーヒーを使って、新たに擬人化召喚する事にするよ』
「後任の奴にだけハイスペック化はずるいぞ! 何故に我は我なのだぁああ!」
『哲学的な?』
「違うわ!」
『そんなことを文句言っていないで、しばらくはそこのポケットの中で我慢するんだね』
「そんなこと、で片付けてはいけない事だと思うがな。それにカインの制服のポケットなのだが、このまま此処に居ては、絶対何かの拍子に潰れ……ぺきゃら!?」
カンが、それを狙っているとしか思えないフラグを立てた事により、カインはトラブルに見舞われる事になった。
『あぁあ、カンが余計な事を口走るからぁ。カイン君が、かわいそぉ』
「わ……我の所為なのか……」
既に辛そうな声を出すカン。
「おぃ! 落ちこぼれが、廊下の真ん中を歩くんじゃねぇよ!」
「痛っ……なんだよ、それに君は誰?」
カインは、身体が大きく角刈りの男子生徒にぶつかり、その際にそのままいきなり突き飛ばされてしまった。
そして転んだ拍子にポケットに入っていたカンは、当然の様に凹んだ。
人知れずに、カンは決して軽くないダメージを、その身に負っていた。
「俺様の事を知らないとは、よほどの田舎者だな? よく聞け! 俺様がこれからこの学園のトップになる予定の、ゴイラ=イモイ様だ!」
「ゴリラ芋煮? かなりアグレッシブな芋煮であるな」
お約束と言わんばかりに、聞き間違えるネタに走るカン。
「ゴリラ……芋煮……だとぉおおお! 誰だ! 今の声はぁあああ!」
そしてこちらも、お約束通りにしっかりカンの呟きが聞こえたゴイラ=イモイ。
「カン! ゴリラ芋煮じゃないよ! ちゃんと訂正しなくちゃ、色々痛そうな事になるよ!」
しっかり、カンが発言したことを証言する真面目なカイン。
「そこは黙っておいて、誤魔化す所じゃないのカァアアアアン!?」
『カイン君は、良い子だね。それに引き換えこの空き缶は……』
ゴイラ=イモイだけでなく、カインにまで敵に回したカンは、すぐさま卑屈な態度に出る。
「聞き間違いって、お約束だと思いまして……悪気は……はい、ありました」
『聞き間違いというのは、よくあるお約束ではあるけども、時と場所を考えられない初心者は、やっては駄目だという良い見本だね。責められて謝るくらいなら、初めからそんなことしなければ良いのに』
カンは、ある意味ではさっそくお約束通りに、やらかしてしまったのである。
「窮地カァアアアン!?」
ゴイラ=イモイの事を、わざとゴリラ芋煮と言い間違えるという失礼極まりない空き缶のカンは、カインがポケットから出したことで、騒ぎに集まっていた他の新入生達の目にも止まっていた。
「こいつが俺の事をゴリラ芋って言ったんだな……って、ん? 今、この歪んだ空き缶が、言葉を喋ったっていうのか?」
怒りのままにカンを踏み潰してもおかしく無かったゴイラだったが、目の前の空き缶が人語を理解し、なおかつ話をしていることが判ると表情が固まった。
「歪んでいるのが、正常ではない。ノーダメージであれば、綺麗な円筒である」
「そこに誇りを持ってそうな言い方だけど、カンはすぐ凹みそうだし、別にそれで間違いじゃないんじゃない?」
「カインよ、ツッコミがきついな。メンタルが凹むぞ?」
時間の経過と共に、カンの扱いが雑になるカインに釘を刺すカンだが、その様子を見つめるゴイラは、そんなまったりとした空気は纏っていなかった。
「ちょっと待て。確認だが、それは空き缶だよな?」
「うん、空き缶のカンて言うんだよ。そして、僕の召喚獣だよ」
「……はっはっはっはっは! 貴様にお似合いの、ゴミのような召喚獣だな!」
「なんだと! このゴリ……」
「駄目!」
「もがもが!? あまり強く掴むと凹むがむあむが」
余計な一言を発する寸前、カンはカインに割と強めに掴まれた。カインは失礼な事を口にする空き缶の口を塞いだ。
「ふん、ゴミはゴミらしくいつでも隅を歩くんだな!」
ゴイラ=イモイはカインとカンに、そう吐き棄てるとその場を立ち去っていった。
「なんじゃ、あいつは!」
「あいつの名前……ゴイラ=イモイって名乗っただろ?」
「それがどうしたのだ」
「今年の魔法学園は、名門召喚士の家の跡取りが、何人も入学したらしくてね。その内の一人が、ゴイラ=イモイって名前なんだって。ここに来る前に、おばあちゃんから気をつけるようにって言われてたのを、すっかり忘れてた」
忘れてしまったのは、完全にカンというイレギュラーを召喚したショックの為である。
「ほう、あっちはお主の事を知っているようだったが?」
「うちも、昔は有名だったからね……お父さんとお母さんが行方不明になるまでは……」
「……唐突に重い話がキタカァアアアアン!?」
完全に油断していたカンは、悲鳴に似た叫び声をあげたのだった。
「嫌がらせと白状するのが早すぎるわ。せめて、実行に移すまでは隠せ。かといって、それはやって良いという意味ではないがな」
『しちゃ、駄目?』
「むしろ許可が下りると、何故思う」
『まぁ、いいか。とりあえず私の七光りによって、そっちでは何とかなりそうでしょ』
「うむ、先程の学園長と教諭から〝伝説の〟という言葉で、カインもやる気を取り戻していたしの。〝伝説の〟の何かは、教えてくれなんだがな」
やや腑に落ちないカンだったが、それでも自身の立場が、多少は改善した事には安堵していた。
『それはよかったね。先ずは、魔法学園で魔力制御を取得する事だね。魔力制御を取得したらカイン君の〝帰還〟の魔法で、ここに帰ってこれる様にしてあげるよ。勿論、新しい空き缶への転生も、許可しようじゃないか』
「おぉ! 飴キタぁあああああ!」
まさに、狂喜乱舞といった様子のカン。
『それまで何かあったら、その時は、お空に昇ったカンに祈りを捧げながら、次は未開封スチール缶のブラックコーヒーを使って、新たに擬人化召喚する事にするよ』
「後任の奴にだけハイスペック化はずるいぞ! 何故に我は我なのだぁああ!」
『哲学的な?』
「違うわ!」
『そんなことを文句言っていないで、しばらくはそこのポケットの中で我慢するんだね』
「そんなこと、で片付けてはいけない事だと思うがな。それにカインの制服のポケットなのだが、このまま此処に居ては、絶対何かの拍子に潰れ……ぺきゃら!?」
カンが、それを狙っているとしか思えないフラグを立てた事により、カインはトラブルに見舞われる事になった。
『あぁあ、カンが余計な事を口走るからぁ。カイン君が、かわいそぉ』
「わ……我の所為なのか……」
既に辛そうな声を出すカン。
「おぃ! 落ちこぼれが、廊下の真ん中を歩くんじゃねぇよ!」
「痛っ……なんだよ、それに君は誰?」
カインは、身体が大きく角刈りの男子生徒にぶつかり、その際にそのままいきなり突き飛ばされてしまった。
そして転んだ拍子にポケットに入っていたカンは、当然の様に凹んだ。
人知れずに、カンは決して軽くないダメージを、その身に負っていた。
「俺様の事を知らないとは、よほどの田舎者だな? よく聞け! 俺様がこれからこの学園のトップになる予定の、ゴイラ=イモイ様だ!」
「ゴリラ芋煮? かなりアグレッシブな芋煮であるな」
お約束と言わんばかりに、聞き間違えるネタに走るカン。
「ゴリラ……芋煮……だとぉおおお! 誰だ! 今の声はぁあああ!」
そしてこちらも、お約束通りにしっかりカンの呟きが聞こえたゴイラ=イモイ。
「カン! ゴリラ芋煮じゃないよ! ちゃんと訂正しなくちゃ、色々痛そうな事になるよ!」
しっかり、カンが発言したことを証言する真面目なカイン。
「そこは黙っておいて、誤魔化す所じゃないのカァアアアアン!?」
『カイン君は、良い子だね。それに引き換えこの空き缶は……』
ゴイラ=イモイだけでなく、カインにまで敵に回したカンは、すぐさま卑屈な態度に出る。
「聞き間違いって、お約束だと思いまして……悪気は……はい、ありました」
『聞き間違いというのは、よくあるお約束ではあるけども、時と場所を考えられない初心者は、やっては駄目だという良い見本だね。責められて謝るくらいなら、初めからそんなことしなければ良いのに』
カンは、ある意味ではさっそくお約束通りに、やらかしてしまったのである。
「窮地カァアアアン!?」
ゴイラ=イモイの事を、わざとゴリラ芋煮と言い間違えるという失礼極まりない空き缶のカンは、カインがポケットから出したことで、騒ぎに集まっていた他の新入生達の目にも止まっていた。
「こいつが俺の事をゴリラ芋って言ったんだな……って、ん? 今、この歪んだ空き缶が、言葉を喋ったっていうのか?」
怒りのままにカンを踏み潰してもおかしく無かったゴイラだったが、目の前の空き缶が人語を理解し、なおかつ話をしていることが判ると表情が固まった。
「歪んでいるのが、正常ではない。ノーダメージであれば、綺麗な円筒である」
「そこに誇りを持ってそうな言い方だけど、カンはすぐ凹みそうだし、別にそれで間違いじゃないんじゃない?」
「カインよ、ツッコミがきついな。メンタルが凹むぞ?」
時間の経過と共に、カンの扱いが雑になるカインに釘を刺すカンだが、その様子を見つめるゴイラは、そんなまったりとした空気は纏っていなかった。
「ちょっと待て。確認だが、それは空き缶だよな?」
「うん、空き缶のカンて言うんだよ。そして、僕の召喚獣だよ」
「……はっはっはっはっは! 貴様にお似合いの、ゴミのような召喚獣だな!」
「なんだと! このゴリ……」
「駄目!」
「もがもが!? あまり強く掴むと凹むがむあむが」
余計な一言を発する寸前、カンはカインに割と強めに掴まれた。カインは失礼な事を口にする空き缶の口を塞いだ。
「ふん、ゴミはゴミらしくいつでも隅を歩くんだな!」
ゴイラ=イモイはカインとカンに、そう吐き棄てるとその場を立ち去っていった。
「なんじゃ、あいつは!」
「あいつの名前……ゴイラ=イモイって名乗っただろ?」
「それがどうしたのだ」
「今年の魔法学園は、名門召喚士の家の跡取りが、何人も入学したらしくてね。その内の一人が、ゴイラ=イモイって名前なんだって。ここに来る前に、おばあちゃんから気をつけるようにって言われてたのを、すっかり忘れてた」
忘れてしまったのは、完全にカンというイレギュラーを召喚したショックの為である。
「ほう、あっちはお主の事を知っているようだったが?」
「うちも、昔は有名だったからね……お父さんとお母さんが行方不明になるまでは……」
「……唐突に重い話がキタカァアアアアン!?」
完全に油断していたカンは、悲鳴に似た叫び声をあげたのだった。
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