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第44話 ファンタジーには違いないけども
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『やはり魔王と言われると、某ドラゴンなクエストのイメージが湧いてしまうよねぇ。恐怖を与えるような容姿と、力強さを兼ね備えた至極のイメージだよ、あれは』
「魔王よ! 超絶イケメンとなり、勇者のハーレムごと幹部を取り返して〝ざまぁ〟すれば良いのだ!」
『まさかのゲス缶が、ここにいたようだね。これは、ひくねぇ』
カンは、問題の勇者が自分と会ったあのゲスい夢を持つ青年だと分かると、正にゲスの極みといった表情で笑うのだった。
『酷い顔だね、全く』
「空き缶に、表情などないであろう。誤報を、さらっと流すでないわ」
カンの側面は、某コーヒーブランドの〝微糖〟のロゴが目立っているだけであり、当然〝顔〟と呼べるものはない。
「何故、我輩がそのような真似をせねばならぬのだ」
魔王は、訝しげにカンに問う。
「その勇者は、実は以前に我も会った事があるのだ。これもまた、数奇な運命の巡り合わせという事なのだろうカァン」
『だから、さもドヤ顔で決めた感じの台詞吐いてるけど、全く表情見えないからね?』
「……」
イチカのツッコミに、黙るカン。
「なに!? 何と言うことなのだ……この出会いもまた、神に仕組まれし宿命だということか……」
しかしチョロい魔王は、しっかりカンに反応してくれていた。それに、心から感謝するカンであった。
「奴は、ハーレムを目指す勇者であった。恐らく、今もその想いは消えることなく、遂には魔王の女幹部まで凋落したのであろう」
「なんと……まさか異世界から来てまで……一体何をしておるのだ? 阿呆なのか? 異世界勇者とは、そのような者ということは、やはり異世界の空き缶である貴様も、空き缶を集めたいと思っておるのか?」
「空き缶が空き缶を集めて、何が楽しいカァアアン!? 全く……しかし、勘違いしてはいけない。そのような者だとしても、魔王軍幹部を凋落出来る術を持っていると言う事なのだから」
「なるほど。それはわかったが、何故に吾輩が超絶イケメンならねばならぬのだ。今も、魔王然としてカッコ良いだろう」
身体から溢れ出る魔力のオーラは、まさしく見るものに死を幻視させる〝魔王〟であった。
「た……確かに今のお主は、正に〝魔王の中の魔王〟といった出で立ち。我は、物凄くカッコ良いとは思う」
思わず魔王のオーラに、ビビってしまうカン。
「空き缶に褒められても、あまり嬉しくはないがな。では、我輩は別にこのままで良いではないか」
「ダメなのだ!」
カンは、ここでかなり強めに否定する。
「顔色が紫で、般若みたいな顔では、人の女にモテないのだ!」
カンの言葉に、理解が出来ないと怪訝な表情を見せる魔王だが、それもその筈である。
特に魔王において、人族から見た顔の美醜など全く〝強さ〟に関係ないのだから。
「別に、人間にモテようとは思っておらぬが?」
「ふふふ、甘いなぁ、甘すぎるぞ、魔王よ。ゲス勇者には、ゲス魔王で対抗すれば良いのだよ。ゲス勇者の周りの女達を惑わし、こちら側へと寝返らせれば、勇者にとってこれ以上ない精神攻撃となるに違いないカァアアン!」
「……考えが、ゲスい空き缶であるな」
呆れる魔王が、カンを静かに見下すのであった。
「そして、我もいつか……くっくっく」
『欲というのは、物凄いパワーの源になる訳だ。空き缶の癖にモテたいと願うカンもまた、欲のパワー全開なわけだね。空き缶にモテて、どうするんだと言うのは、魔王と同意見な訳だけれども。スチール缶にでも、求愛するつもりなの?』
「まさに身持ちが硬いと言う訳か、スチールだけに。とでも言うと思うてか!」
『言っているじゃない』
「喧しい! 良いではないか、将来どうなるかわからんのだし。その内、人の姿とかになれる日が来るかもしれぬではないか! それに、我だってたまには活躍して、〝カンちゃんカッコいい! キャァ!〟とか、美女に言われたりしたいのだ!」
カンの心の底からのモテたいという叫びは、正に欲の塊と言って過言はなかった。
『……気持ちわる』
「マジのトーンで呟くでないわ! 単に、ハーレムを一回くらい経験したいだけではないか!」
「空き缶よ、どうでも良いが、完全に欲まみれな叫びだな」
魔王のドン引きに、カンは気付いていない。
「は!? そんな事より、魔王だ!」
「思いっきり目の前に我輩がいると言うのに、よく忘れられるな……ちょっと、自信なくなるんだが……」
「もっと自信を持つのだ! もっとゲスれ!」
「なんだか、面倒なのに引っ掛かった気分だな……そこまで言うなら、貴様をカッコよくしてやるから、我輩の代わりに行ってこい」
「はい?」
そして、魔王はカンを改造する為に、おもむろに立ち上がった。
予想の斜め上の行動に、カンは激しく動揺しながら、心の何処かでは期待もしていた。
「ちょ!? 待つのだ! だからと言って、本気で止めるという判断をしてしまう前に、詳細な説明を求むカァアン!」
「本当に面倒な空き缶であるな。説明も何も、言葉通りに我輩自ら、貴様を魅力的な空き缶にしてやろうと、言っておるのではないか」
そして両腕を貫禄ある感じに広げた魔王の背景に、なぜか室内にも関わらず稲妻が轟く。
稲妻はやがて玉座の間の中央に集まり出し、一際大きな雷鳴と共に閃光となると、後には何やら作業台のようなものが現れた。
『へぇ、これはアレだね。手術代というよりは……』
イチカが皆まで言う前に、嫌な予感がビシビシと感じたカンは、魔王に尋ねた。
「……それは、何なのカァアン?」
「貴様を改造する為の、作業台だが?」
『改造人間ならぬ、改造空き缶だね。世界観がそっちよりなのかな?』
「魔法じゃなくて、物理的なそれなのカァアアアアン!?」
カンの悲鳴は、広い玉座の間の隅々にまで雷鳴の如き速さで響き渡ったのだった。
「魔王よ! 超絶イケメンとなり、勇者のハーレムごと幹部を取り返して〝ざまぁ〟すれば良いのだ!」
『まさかのゲス缶が、ここにいたようだね。これは、ひくねぇ』
カンは、問題の勇者が自分と会ったあのゲスい夢を持つ青年だと分かると、正にゲスの極みといった表情で笑うのだった。
『酷い顔だね、全く』
「空き缶に、表情などないであろう。誤報を、さらっと流すでないわ」
カンの側面は、某コーヒーブランドの〝微糖〟のロゴが目立っているだけであり、当然〝顔〟と呼べるものはない。
「何故、我輩がそのような真似をせねばならぬのだ」
魔王は、訝しげにカンに問う。
「その勇者は、実は以前に我も会った事があるのだ。これもまた、数奇な運命の巡り合わせという事なのだろうカァン」
『だから、さもドヤ顔で決めた感じの台詞吐いてるけど、全く表情見えないからね?』
「……」
イチカのツッコミに、黙るカン。
「なに!? 何と言うことなのだ……この出会いもまた、神に仕組まれし宿命だということか……」
しかしチョロい魔王は、しっかりカンに反応してくれていた。それに、心から感謝するカンであった。
「奴は、ハーレムを目指す勇者であった。恐らく、今もその想いは消えることなく、遂には魔王の女幹部まで凋落したのであろう」
「なんと……まさか異世界から来てまで……一体何をしておるのだ? 阿呆なのか? 異世界勇者とは、そのような者ということは、やはり異世界の空き缶である貴様も、空き缶を集めたいと思っておるのか?」
「空き缶が空き缶を集めて、何が楽しいカァアアン!? 全く……しかし、勘違いしてはいけない。そのような者だとしても、魔王軍幹部を凋落出来る術を持っていると言う事なのだから」
「なるほど。それはわかったが、何故に吾輩が超絶イケメンならねばならぬのだ。今も、魔王然としてカッコ良いだろう」
身体から溢れ出る魔力のオーラは、まさしく見るものに死を幻視させる〝魔王〟であった。
「た……確かに今のお主は、正に〝魔王の中の魔王〟といった出で立ち。我は、物凄くカッコ良いとは思う」
思わず魔王のオーラに、ビビってしまうカン。
「空き缶に褒められても、あまり嬉しくはないがな。では、我輩は別にこのままで良いではないか」
「ダメなのだ!」
カンは、ここでかなり強めに否定する。
「顔色が紫で、般若みたいな顔では、人の女にモテないのだ!」
カンの言葉に、理解が出来ないと怪訝な表情を見せる魔王だが、それもその筈である。
特に魔王において、人族から見た顔の美醜など全く〝強さ〟に関係ないのだから。
「別に、人間にモテようとは思っておらぬが?」
「ふふふ、甘いなぁ、甘すぎるぞ、魔王よ。ゲス勇者には、ゲス魔王で対抗すれば良いのだよ。ゲス勇者の周りの女達を惑わし、こちら側へと寝返らせれば、勇者にとってこれ以上ない精神攻撃となるに違いないカァアアン!」
「……考えが、ゲスい空き缶であるな」
呆れる魔王が、カンを静かに見下すのであった。
「そして、我もいつか……くっくっく」
『欲というのは、物凄いパワーの源になる訳だ。空き缶の癖にモテたいと願うカンもまた、欲のパワー全開なわけだね。空き缶にモテて、どうするんだと言うのは、魔王と同意見な訳だけれども。スチール缶にでも、求愛するつもりなの?』
「まさに身持ちが硬いと言う訳か、スチールだけに。とでも言うと思うてか!」
『言っているじゃない』
「喧しい! 良いではないか、将来どうなるかわからんのだし。その内、人の姿とかになれる日が来るかもしれぬではないか! それに、我だってたまには活躍して、〝カンちゃんカッコいい! キャァ!〟とか、美女に言われたりしたいのだ!」
カンの心の底からのモテたいという叫びは、正に欲の塊と言って過言はなかった。
『……気持ちわる』
「マジのトーンで呟くでないわ! 単に、ハーレムを一回くらい経験したいだけではないか!」
「空き缶よ、どうでも良いが、完全に欲まみれな叫びだな」
魔王のドン引きに、カンは気付いていない。
「は!? そんな事より、魔王だ!」
「思いっきり目の前に我輩がいると言うのに、よく忘れられるな……ちょっと、自信なくなるんだが……」
「もっと自信を持つのだ! もっとゲスれ!」
「なんだか、面倒なのに引っ掛かった気分だな……そこまで言うなら、貴様をカッコよくしてやるから、我輩の代わりに行ってこい」
「はい?」
そして、魔王はカンを改造する為に、おもむろに立ち上がった。
予想の斜め上の行動に、カンは激しく動揺しながら、心の何処かでは期待もしていた。
「ちょ!? 待つのだ! だからと言って、本気で止めるという判断をしてしまう前に、詳細な説明を求むカァアン!」
「本当に面倒な空き缶であるな。説明も何も、言葉通りに我輩自ら、貴様を魅力的な空き缶にしてやろうと、言っておるのではないか」
そして両腕を貫禄ある感じに広げた魔王の背景に、なぜか室内にも関わらず稲妻が轟く。
稲妻はやがて玉座の間の中央に集まり出し、一際大きな雷鳴と共に閃光となると、後には何やら作業台のようなものが現れた。
『へぇ、これはアレだね。手術代というよりは……』
イチカが皆まで言う前に、嫌な予感がビシビシと感じたカンは、魔王に尋ねた。
「……それは、何なのカァアン?」
「貴様を改造する為の、作業台だが?」
『改造人間ならぬ、改造空き缶だね。世界観がそっちよりなのかな?』
「魔法じゃなくて、物理的なそれなのカァアアアアン!?」
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