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第41話 世界の半分をくれると言うことは

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「あ、カンおかえり。まぁ、今回もお早いお帰りで」
  
「軽いわ! せめてテンプレの台詞ぐらい言うのだ! しかも、早いと言うでない!」

 カンはマークの自爆に盛大に巻き込まれた結果、イチカの書斎の机の上に用意されていたイチカが飲んだコーヒーの空き缶に、しっかり転生していた。
  
「今回も、見事に巻き込まれたね。流石のM型ドMだよ、カンはさ」
  
「誰がドMだ、聞こえておるぞ。しかし……今回もここざし半ばで途中退場したせいで、その後の展開が気になって仕方ない」

 自爆したマーク。そして、相棒だったリュウ。マークの最後の言葉に残された謎。

 見ていた映画を途中で切られたかの様な感覚を覚えるカンだったが、これは現実に起きたことであり、物語の感覚でいる時点でカンも十分狂っていると言えた。
  
リュウのその後かい? カンが関わった未来は、その後も変わるから教えても意味はないよ。カンが転移していない世界の未来であれば、そこそこの未来は視ることは出来るんだけど」
  
「……はい?」
    
「本来ならカンが存在していない異世界に、転移や召喚をしているのだから、その時点で多少なりとも、その世界は影響を受けるさ」

「我の存在が、未来の鍵を握るカァン!?」
  
「何を今更。だからこそ、〝異世界召喚〟は〝薬〟であり〝毒〟なんだよ。停滞した世界や、未曾有の危機に瀕した世界を、召喚した存在が救うことになるか終わらせることになるか。ただの喋る空き缶だったとしても、異世界からの来訪者は結果として、どんな因果を引き起こすか、僕らにもわからないからね」

「ふぉおおぉぉ……そ、そんな重大な事をポンポンとやっていたが、大丈夫なのか? 転移先の〝神〟の怒りを買うのではないのだろうか……」

 異世界転移する事による影響を、今更に教えられたカンは、神から怒りを向けられやしないかと、カタカタとボディを震わせていた。

「その点は大丈夫さ。異世界転移転生カタログ、略して〝いせログ〟に載っている異世界にしか、カンを飛ばしていないから」

「〝いせログ〟……不穏な印象しかイメージ出来ぬのだが……まさか」

「異世界からの転生や転移を受け入れている〝世界〟のカタログだね。日々更新されているから、〝誰でも受け入れる〟という項目にチェックがある世界なら、特に相手世界の神に許可を得る必要もないから、即飛ばせるんだよ」

「軽い!? 軽すぎる異世界転移転生カァアァン!?」

 衝撃の事実に、軽く目眩を覚えながらも、取り敢えず神からの怒りの雷を受けない事がわかり、カンは一応安堵した。
  
「そういえば、また転生したんだし、ボディの表示は変わったかい?」
  
「そうだな。どれどれ、我はどれほどに強くなったのか」
  
 ・・・・・・・
 名前:カン
  
 称号:
 風龍の玩具

 種族:空き缶(Lv.8) +1UP!
  
 体力:17(最大17) +1UP!
  
 魔力ストック:0(最大10) 
  
 ちから:0 
 すばやさ:0 
 かたさ:2 
 まりょく:6 
  
 ※補正
 『魔沼ヨゴレ呪い』効果により魔力増加(+1) 
 『風龍の玩具』効果により魔力増加(+5) 
  
 技能:
 言語理解(全異世界の誰とでも話が出来る)
 常時発動M型(Lv.7) +1UP!
 熱耐性(Lv.1)
 寒耐性(Lv.1)
 ヨゴレ耐性(Lv.2)
 風龍の戯れ(Lv.2) +1UP!
 魔力暴走(Lv.1) NEW!
  
 状態:
 魔沼ヨゴレの呪い(Lv.1)
  
 現在地:
 イチカの書斎
 ・・・・・・・
  
「ふむ、相変わらずM型のレベルが上がっていくのが解せぬ」
  
「放置プレイで自爆の道連れなんて事してたら、そりゃ上がるでしょ。この変態缶が、良く言うよ」
  
「変態缶とは、何なのだ。しつこくそのネタを、世界に定着させようとするでないわ」

 いつものやり取りをしていたカンだったが、新しい表記がある事に気がついた。
  
「ん?〝魔力暴走(Lv.1)〟とは、なんぞ?」

 不穏な表記に、何となく嫌な予感を感じながらも呟くカン。
  
「そのまんまだよ。思いっきり魔力を暴走させて、そもそもココから飛んでいったじゃないか。それで覚えたんだろう、〝暴走〟することをさ。思春期か」
  
「暴走といえば、思春期という連想はどうかと思うぞ。そう言えば、そんな事もあったような思い出したくない。しかし、何故にレベル表記があるのだ?」
  
「当然、レベルが上がるともっと大規模に暴走するようになるからだろうね。〝暴走〟は〝浪漫〟だから、ある意味でカンは必須の技能スキルを得たと言える」
  
「……いやそれ絶対バッドステータスであろうよ!?」
 
「だからさ……どかぁああああん!」
  
「カァアアアアアン!?」
  
と、いきなり自爆なんてしないように、気をつけてね」
  
「本当にやめカァアアアアン!! お主が言うと、本気でまぎらわしいわ! だがしかし……まぁ、そうであるな。ふふふ」
  
「なんだよ、いきなり震え笑いとかして。空き缶が笑うとか、本当に気持ち悪いんだけど?」
  
「お主はいつか絶対に、ぶん殴ってやるからな。そんな事は置いといて、〝風龍の戯れ〟が〝Lv.2〟に上がっておるのだ!」

 悦びにボディを震わせ、カタカタと机を鳴らすカン。
  
「確かにね。まぁ、Lv.1でさえどっかの異世界まで飛ばされてたけど風と一緒に僕が転移させたんだけど、Lv.2とか何処に飛ぶんだろうね異世界転移しようかな
  
「あぁ……うむ。魔力制御を修得したいのだが、どうすれば良いのだ?」

 また飛ばされては嫌だと言わんばかりに、〝風龍の戯れ(Lv.2)〟への興味よりも、それを制御する術を会得する方法に興味を移したカンは、イチカにそれを尋ねた。
  
「そりゃ、魔力を扱い慣れている者に教わるのが、良いんじゃない?」
  
「都合よくそんな者がいる所に、飛べる訳がな……おい、何を調べておるのだ」

 ノートパソコンのキーボードを叩き、〝いせログ〟の検索項目に必要事項を書き込むイチカ。それに気づいたカンが、それについて問う時には、カンの底材の下には転移魔法陣が浮かび上がっていた。
  
「カンが自らの魔力の制御を求めた時、異なる世界への扉が開いたのだ」
  
「のだ……ではないわぁあああ!? 召喚は唐突にぃいぃいいやって来るのカァアアアアン!?」
  
 そしてカンは、イチカの書斎から再び旅立っていったのだった。


  
とある城の王の間で、カンは意識を取り戻した。
  
「なんなのじゃ、いきなりイチカめ。いつかボディに腕を生やして、ぶん殴ってやるからの」

 それは、何とも気持ち悪い姿だろうか。
  
「クハハハハ! 良く来た異世界の勇者よ! 我輩と共に、世界を征服しようではないか! さすれば世界の半分をくれてやろ……ん?」
  
「……ん?」

 ある定番テンプレの台詞を叫んだ者とカンは、両者見合った状態で時が止まった。

「その台詞は……いきなり魔王と遭遇カァアアァアアン!?」
  
「あ…あ……空き缶が、喋りおったぁあああ!?」
  
「魔王、そこで驚くのカァアアアアン!?」

 何とも喧しい、魔王と空き缶の出会いであった。
 
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