イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
34 / 99

第34話 龍の息吹という字面が既に強き者

しおりを挟む
『実際問題としてさ、風に乗って飛んだりしたら、気持ち良いのかね? 割と結構な、恐怖体験な気がしちゃうんだけど』
  
「その通りで怖いんだが!? しかもなんか唸り声が聞こえるんだが!?」
  
『ふわふわぁっと、自分の意思で持って浮く感じならまだ良いんだけど、訳もわからずに浮くのはなぁ。それに、カンの感じを見ていると、その風はきっと叩きつけられるような風なんだろうね』
  
「ポンポン何かに、蹴られるようにぃいいぃい! 風なのにぃいい! 風の筈であるのにぃい!?」
  
 カンは上空で、実際に風龍に遊ばれていた。風と同化していたそれがその姿を現すと、まさに〝龍〟と表現するしかなった。
  
「クォオオオォオ♫」

 そして、その風龍は上機嫌に吼えていた。
  
「ひぎゃぁああ!? なんじゃこやつはぁああ!?」

『おぉ、本気で風の化身じゃないか。運が良いのか悪いのか迷うところだけど……今回は、カンで遊んでいる為か機嫌も良さそうだし、運が良かったね』

「ちょ!? 待つのだ!? 風の動きが激し……ヒギィカァアアアアン!?」 
  
『〝カンは、この時思った。風の化身とも言えるような風龍と戯れる事により、風を操る極意を学べるのではないかと〟』
  
「思っとらんわ! 久々の捏造ナレーションやめよ! カィン!? ちょ!? 風塊がぁ!? らめぇカァアアアアン!?」
  
 風龍はカンに風弾をぶつけながら、自在にカンをあっちやこっちやと飛ばして遊んでいた。

 しかし、しばらく遊んでいると飽きたようで、風龍はカンを捨てて何処かへ消えていった。
  
「カァアアアアアン……子供に遊ばれるように、最後はあっさり飽きられたぁああぁ」

 あっさり捨てられたことに、若干の心の痛みを感じながらも、カンは自由になれたことに安堵した。

 しかし、ある事に気づくと声を震わせた。

「ん?……という事は……我は、今から?」
  
『当然、落ちるということだね』
  
「ひゅぉおぉおおぉおぉお!?」

 再び、地上に向けて落下していくカンであった。
  
『ジェットコースターに乗ったりすると、急降下の時には内臓がうっと上がる気がするよね。ねぇねぇ、そんな感じ?』
  
「中身が空だから、わからぬぅうう! そもそも我は、缶カァアアアン! 内臓ないぞぉおお!?」
  
スカイダイビングパラシュートなし中の割には、結構余裕のあるコメントだね。その寒いダジャレは、その上空の気温に合わせたのかい?』
  
「喧しいカァアアアアン! 地面がぁあああ!? どうにでもなれぇええ!」

 迫り来る地面に対し、半ば諦め気味に叫ぶカンに対し、イチカは叫んだ。
  
『諦めるな! まだ慌てる時間じゃないような気がしてならない!』
  
「なんどその微妙な言い回しわぁあ! 地面がぁあああ!」
  
『先ずは、落ち着くんだ。何故、カンは落ちているんだ?』
  
「イチカが、空の上に転移させたからだろうがぁあああ!」

 やけくそで、完全にキレるカン。
  
『そう、説明するのが面倒なのでいきなり飛ばした』
  
「初耳だぞ、おい。ふざけるな!」
  
『そして、風龍との邂逅で何が起きた?』

 当然の如く、イチカはカンの文句を聞き入れない。それどころか、何かを気づかせようとしている様だった。

 カンからは確認できないが、イチカの表情は真剣そのものであった。
  
『風で遊ぼれ、風弾でコンコン弾かれたのだが?』

 慣れたもので、自身の抗議を全く受け入れないイチカに対し、気持ちを切り替え、しっかり質問に答えるカンだった。
  
『そう、カンは〝魔力を纏った風〟を一身に受けていたんだよ。これの意味が、理解できるかい?』
  
「……まさか?」
  
 意味深なイチカの言葉は、いつものカンを揶揄からかう感じはなかった。

 だからこそ、カンも落下中であったが冷静さを取り戻し、イチカの問いかけに真剣に考えた。

 そして数秒の沈黙の結果、ある可能性に行き着いた。そして次のイチカの言葉で、それは確信に変わった。

『今なら感じるはずだ! 風龍の魔力が、その空っぽだった空き缶の中に、存分に満たされている筈だ! 今のカンは、ただの〝空き缶〟ではない! 〝中身が入ってる空き缶〟だ!』

 イチカの強い言葉が、カンの心を揺さぶる。

『風を感じろ! 風の流れに逆らうな! 風と魔力を、融合させるイメージを持つんだ! 今のカンの中には、〝まりょくネタ的笑い〟ではなく〝魔力ガチのやつ〟なのだから!』
  
「うぉおおおおぉおお! これが〝まりょく〟ではなく〝魔力〟! 違いがあったことが、割と衝撃の事実カァアァアアアン!?」
  
『小さなことは気にせずに、叫べ! "吹き付ける風龍の息吹ダウンバースト"と!』
  
「割と小さな事ではないが、今はこの熱いハートに身を任せるのが最善なのであろう!」

 色々と気になることはありながらも、今の雰囲気に身を任せることにしたカンは、気合を入れて叫ぶ。

「風よ来い! 我の元へ! そして我に従い吹き荒れろ! 〝吹き付ける風龍の息吹ダウンバーストぉおおおお!」

 特に必要だと言われてもいない詠唱的な文言を足しながら、カンは叫んだ。

 そしてその直後、風の唸り声とも言えるような轟音と共に、カンを風が飲みこんだ。

「ん? 風向きが……」

 自身が作り出した風に飲み込まれた時、カンは違和感にすぐに気がついた。何故なら、地面に向かって落ちる速度が増したからだ。

『〝吹き付ける風龍の息吹〟は、別名〝ダウンバースト〟だからね』

 カンの困惑した言葉に反応する形で、イチカが答えを示した。

「ダウン? え?……カァアァアアアン!?」

 そしてその言葉の意味を真に理解した結果、カンは自分の未来がはっきりと視えてしまい、悲鳴をあげた。

 まさしくそれは、断末魔と言える叫びであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...