上 下
32 / 99

第32話 〝創造〟という言葉の浪漫度は果てしない

しおりを挟む
「どうなっておるのだ!? 〝まりょく〟が増えているではないか! 〝1〟だけれども! 〝1〟だけれども!」
  
「大事なことだからと、二回言わなくても良いから。理由としては、今回の異世界転移の際に、魔沼ヨゴレの呪いにかかったから、そのおかげだと考えるのが妥当かな」

 カンは、今まで何度確認しても〝0〟であった〝まりょく〟が〝1〟に増えていることに驚愕しながらも、喜びに震え、机をカタカタと空き缶ボディで鳴らしていた。

 イチカは、割と冷静にカンの〝まりょく〟が増えたことを推察し、納得顔であったが〝呪い〟という言葉にカンは引っかかり、ボディを震わすのをやめた。
  
「ん? 呪いのおかげ? それは、どう言う意味なのだ」
  
「今回カンが同化してしまったのは、〝魔沼〟と呼ばれる高濃度に魔力が溜まってしまった沼なんだよ。遥か昔に、そこで魔王同士の争いが起きた所為だね。ほら、ここにそう書いてある」

 イチカが手元のノートパソコンの画面をカンに見えるように動かすと、そこにはカミペディアに、先程カンが同化していた沼の記載が、詳細に記されていた。

 そして、すでに〝喋る石鹸が一部同化済み〟と早くもカンの事が載っていた。
  
「出たなカミペディアめ!? 既に我の事まで載っているとは、驚きを通り越して恐怖を感じるレベルだぞ!? って、ん? 魔王!? いるのかさっきの世界に!?」
  
「本当に喧しい空き缶だね。纏めて全部にツッコミ入れないでよ、ややこしい。しかし、まぁ……そうだね、魔王みたいな存在ってのは、何処の世界でもいるものさ」
  
「ほほう、では此処もいるのか?」
  
「この世界かい?……聞きたいかい」

 カンの問いに、不敵に笑いながら威圧を身体から発するイチカの様子に、カンは無意識にボディを震わせ、再び机をカタカタと鳴らした。
  
「あぁ、うむ。聞くのは、止めておこう。話を〝まりょく〟に戻すのだ。何故、我は新しいボディに転生しても〝まりょく〟を獲得しているのだ?」
  
「カンは、魔沼と一体化したまま体力が0になったよね。その時に魂が、魔沼でヨゴレまくりで汚染されまくりで呪われまくりで、その結果として魔力が身についたんだよ」
  
「まくり過ぎで、もはや意味が分からんな。だがしかし! 〝まりょく〟を獲得した事が、大事なのだ!」

「その通りだ! 例え、〝魔沼ヨゴレ呪い〟のレベルが上がれば上がるほど、魔力が高まる代償として、身も心もヨゴレるイベントが発生するとしても、今のカンには〝まりょく〟を得ることが大事なんだ!」
  
「ちょ!? それ初耳ぃいいいカァアァアアアン!?」
  
 唐突に明かされる〝魔沼ヨゴレ呪い〟の効果に、カンは驚愕の声を上げた。
  
「しかし、ヨゴレるイベントって……何なのだ?」

「さて、次の転移は何処にしようかな♪」
  
「安定の無視か。待て待て、そう慌てるでない」
  
「なんだよ、転移しないことには何も始まらない潰れないだろ」
  
「若干、不穏の意味が含まれてそうだが……そうじゃないだろぉおお! 魔力が増えるほどヨゴレやすくなるのは、この際置いておいても、魔力だぞ! 魔力ゲットなのだ!」

 カンは、ありったけの声で吼えた。声の大きさに、イチカがややイラッとするくらいに吼えた。
  
「参考までに、初歩魔法で有名な火魔法【ファイヤーボール】でさえ消費する〝まりょく〟は〝5〟ね」
  
「……〝まりょく〟が足りない!? 消費魔力半減でも全く使えないぃいぃい……しかしだ! 何事も先ずは、挑戦あるのみ! 【ファイヤーボール】!」
  
 "カンは、ファイヤーボールを唱えた! しかし、MPが足りない!"

「〝そもそもファイヤーボールを修得しておらず、ただの中二病の叫びだった!〟」
  
「世界の声に、追加で言葉を足して、我の精神を追い込むでないわ!」

 イチカの悪ノリに、安定のツッコミを入れるカンだったが、やはりショックは隠し切れなかった。
  
「しかし、まりょく〝1〟では何も魔法など覚えられんのではないか……」

 その呟きに覇気はなく、まさに負け犬のそれだった。〝まりょく〟を例え〝1〟でも得たことを喜んでいたカンは、いったい何処へ行ったのか。

 そんなカンを見下ろしながら、イチカは優しく微笑んだ。
  
「諦めるには、まだ早いさ。まだまだこの世界には、空き缶には知らないことが多く存在するんだよ」
  
「なん……だと……? た、確かに、己で言うのも何だが、空き缶が知らないことが、きっとこの世界には溢れておるだろうな」

 イチカの言葉に反応するカンは、心なしかどこか声に力が入っていた。藁を持つかむ気持ちではあったが、イチカの更なる言葉をカンは待った。

 そこに、希望があってくれと祈りながら。
  
「まりょく〝1〟で使える魔法を、カン自身が創造すればいいんだ!」
  
「創造だと……? そ、そんな事が可能なのカァン!?」
  
「僕は嘘を言ったことがあったかい?」

「確かにイチカは、嘘を言った事が無……なかったか? なかったのだったか?」

 若干、自信が揺らぐカンだったが、〝創造〟という響きに胸が熱くなっていく感じを、確かに感じていた。
  
「魔法を……創る……だなんて事が……」

 熱を帯びるその呟きは、大きな声をだしている訳ではなかったが、不思議と書斎に響き渡ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

♪イキイキさん ~インフィニットコメディー! ミラクルワールド!~ 〈初日 巳よっつの刻(10時30分頃)〉

神棚 望良(かみだな もちよし)
ファンタジー
「♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~」 「みんな、みんな~~~!今日(こお~~~~~~んにち~~~~~~わあ~~~~~~!」 「もしくは~~~、もしくは~~~、今晩(こお~~~~~~んばん~~~~~~わあ~~~~~~!」 「吾輩の名前は~~~~~~、モッチ~~~~~~!さすらいの~~~、駆け出しの~~~、一丁前の~~~、ネコさんだよ~~~~~~!」 「これから~~~、吾輩の物語が始まるよ~~~~~~!みんな、みんな~~~、仲良くしてね~~~~~~!」 「♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~」

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

召喚魔法の正しいつかいかた

一片
ファンタジー
「世界を救って頂きたいのです」 そんな言葉から始まった上代薦の異世界転移。 世界最高の才能を一つ与えると言われたものの……何故かろくでもない状況ばかりが積み重ねられていく中、薦は使い勝手が非常に悪く役に立たないと言われている召喚魔法に全てを賭ける。 召喚魔法……何かを使役したり、とんでもない攻撃力を持つ魔法……ではない。ただ呼び出し、そして送り返すだけ。それ以外の効果を一切持たない魔法だが、薦はこれこそが自分がこの理不尽な世界で生き延びるために必要な魔法だと考えた。 状況を打破するために必要なのはとりあえず動くこと、ではない!とにかく考えて考えて考えつくすことだ! 八方ふさがりならば空を飛ぶか地面を掘れ!四面楚歌ならば別の歌を歌え! これは世界最弱のまま、世界を救わなければならず……世界最弱のまま英雄と呼ばれるようになる世界最高の召喚魔法使いの物語。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー] 特別賞受賞 書籍化決定!! 応援くださった皆様、ありがとうございます!! 望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。 そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。 神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。 そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。 これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、 たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

処理中です...