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第27話 お天道様が見ているぞ
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「率先して汚れる仕事が出来る人って、僕は凄いと思うよ。カンは、人じゃなくて、缶だけど」
「わざわざ訂正しなくても、分かっておるわ。それはそれとして、確かに自ら進んで汚れ仕事が出来る者は、徳が高そうではある。しかし字面から判断するに、我の〝ヨゴレ耐性〟はそう言う意味では無い気がするんだが?」
スキルの意味としては、おそらくカンの認識で間違いはなかった。
「細かい事を気にしてたら、立派なヨゴレに成れないぞ! もっと下ネタや一発芸を磨くことが、カンが光り輝く道と知れ!」
「そんな道は知らぬわ! 魔王! 我が成るのは、魔王の方だから!」
そんな魂からの叫びは、果たして面白がっているイチカに響いたかどうかは、甚だ謎である。
「と言うことで、新たな力に目覚めたカンよ。早速、次の異世界に……」
そう言うなり、イチカはカンに向かって右手を突き出すと、カンが立っている机の上に、空き缶サイズの転送魔法陣を出現させ、そのまま起動しようとした。
「待て待て待つカァアアアアン!? 〝魔法〟はどうしたのだ! フリ逃げするでないわ! これまでの話の流れを、よく考えてから次の行動を起こすべきだろうに!」
「だからぁ、その〝魔法〟の為に異世界へと、今から転移して貰うんじゃないか」
「ど……どういう事なのだ?」
イチカは、勝手にそのまま異世界に飛ばしてしまおうとしていた転送陣の発動をキャンセルすると、椅子に深く座り直した。
そして目を細めると、如何にも楽しそうに微笑んだ。
「例えばだよ? 僕がカンのボディのアルミ缶を、ファンタジーの定番金属である〝魔鉄〟とか、最終的には〝オリハルコン〟とか〝アダマンタイト〟とかにしたとしよう」
浪漫溢れるイチカの言葉に、カッと身を見開いた様な雰囲気を出したカンは、興奮しながら叫ぶ。
「それだぁああ! そんなのになりたいのだぁああ!
「だがしかし、転生したらカンのボディは、どうなるんだった?」
「……また空き缶ということなのか?」
「その通りだ! 転生出来る! 尚且つボディは、転生前のオリハルコン!……そんな訳あるかぁあ! 缶生そんなに甘いと思うなよぉおお! 調子になるなぁああ!」
「調子に乗ったのではなくて、ファンタジーに夢を見ただけカァアアアアアン!?」
カタカタを空き缶ボディを震わせながら、カンはまるで地面に這いつくばっているかのような絶望感を、器用に空き缶の身体で見事に表現した。
そして、その姿を見ているイチカは、ゆっくりと頷くと、諭す様にカンに語りかけた。
「潰れて、人で言えば〝死んでしまった〟としても、新しい空き缶に転生できて、尚且つ空き缶であるのにも関わらず、どの世界の者達ともコミュニケーションが取れるんだぞ? これ以上望むのであれば、本当にチートだと思わないか? そんなご都合主義のような強さを、カンは欲しかったのかい?」
「……我は……」
「それでカンは、胸を張ってお天道様に向かって、自分は〝強くなった〟と言えるのかい? そんな紛い物の強さが、カンの目指す〝最強最恐最高の魔王様〟なのかい?」
「……我は……最強で最恐で最高で……〝本物〟の魔王に成りたいのだ……我は……我は……」
イチカの問いかけに、自らの魂に語りかける微動だにしないカンの姿は、本当にただの空き缶にしか見えなかった。
その見事なまでのただの空き缶の如き姿は、思わずイチカが資源ゴミの袋に思わず放り投げるのを、本気で思いとどまる程だった。
「なぁ、カンよ。〝最弱〟と自他と元に認める空き缶のカンよ。強くなる手間を惜しんだ先に見る景色が、美しいとは限らないんだよ」
喋らないカンなど、ただの空き缶のゴミにしか見えない為、イチカは自己分析中のカンに話しかけた。
要は、ただの空き缶を見ていることに飽きたのだ。
「なぁ、イチカよ? 確認したいことがあるのだが」
「そんな美しい世界が、この世界にはあるんだよ」
「ねぇってば」
「だから……頑張ろうな!」
「我の話をきぃけぇえええ!」
「何だよ? 空き缶の分際で、自らの夢とは何か、強さとは何か、そして自分自身の事について黄昏ていたゴミが!」
「自分自身の事を考えただけで、そこまで言われる我は、同情されるべき存在だと思うぞ。それにメンタル折れたら逝くことを知っているのだから、もうちょい優しく我をかまえよ。思わず心が折れたら、どうするつもりなのだ。逝くぞ? お主の目の前で、逝ってしまうぞ? いいのか、うん?」
「メンヘラ缶みたいな脅し方だな、それ。逝ったところで、次の空き缶に転生するだけだろうに」
「まぁ、良い。確認したい事とはだな、イチカがストックしているその空き缶に、我は転生するから、ボディを鍛えてもリセットされてしまう訳であるな?」
机の角に置いてある先程飲み干した空き缶を見ながら、カンはイチカに問いかける。
「そうだね。もう一つ言っておくと、空き缶のストックがなくなったら、転生出来ないからね」
「カァアン!? そうだったのか!?」
「当たり前だろ? 空き缶が手元にないのに、どうやって転生するんだよ。何を今更なことを聞いてくるんだ」
「と言うことは、今の我のボディのストックは……」
「これだけだね」
ひょいと机の角に置いてあった空き缶をイチカは摘み、カンの前でひらひらと揺らしながら見せつけた。
「はようじゃんじゃん飲め! 我の身には、何が起きるか分からぬのだぞ!?」
自分の予備の残機が、あと一機だと判明したことで、焦るカン。その様子を見て、呆れたように首を横に振るイチカ。
「これ全部微糖なんだぞ? 糖分摂り過ぎたら、どうするつもりだよ? 責任とれんの? あぁ?」
「ほどほどにストックの為に飲んでぇカァアアン……は!? 魔法の話をまた進められなかったカァアァアアアン!?」
「何がしたいのさ、本当に」
今度は、本当に呆れるイチカであった。
「わざわざ訂正しなくても、分かっておるわ。それはそれとして、確かに自ら進んで汚れ仕事が出来る者は、徳が高そうではある。しかし字面から判断するに、我の〝ヨゴレ耐性〟はそう言う意味では無い気がするんだが?」
スキルの意味としては、おそらくカンの認識で間違いはなかった。
「細かい事を気にしてたら、立派なヨゴレに成れないぞ! もっと下ネタや一発芸を磨くことが、カンが光り輝く道と知れ!」
「そんな道は知らぬわ! 魔王! 我が成るのは、魔王の方だから!」
そんな魂からの叫びは、果たして面白がっているイチカに響いたかどうかは、甚だ謎である。
「と言うことで、新たな力に目覚めたカンよ。早速、次の異世界に……」
そう言うなり、イチカはカンに向かって右手を突き出すと、カンが立っている机の上に、空き缶サイズの転送魔法陣を出現させ、そのまま起動しようとした。
「待て待て待つカァアアアアン!? 〝魔法〟はどうしたのだ! フリ逃げするでないわ! これまでの話の流れを、よく考えてから次の行動を起こすべきだろうに!」
「だからぁ、その〝魔法〟の為に異世界へと、今から転移して貰うんじゃないか」
「ど……どういう事なのだ?」
イチカは、勝手にそのまま異世界に飛ばしてしまおうとしていた転送陣の発動をキャンセルすると、椅子に深く座り直した。
そして目を細めると、如何にも楽しそうに微笑んだ。
「例えばだよ? 僕がカンのボディのアルミ缶を、ファンタジーの定番金属である〝魔鉄〟とか、最終的には〝オリハルコン〟とか〝アダマンタイト〟とかにしたとしよう」
浪漫溢れるイチカの言葉に、カッと身を見開いた様な雰囲気を出したカンは、興奮しながら叫ぶ。
「それだぁああ! そんなのになりたいのだぁああ!
「だがしかし、転生したらカンのボディは、どうなるんだった?」
「……また空き缶ということなのか?」
「その通りだ! 転生出来る! 尚且つボディは、転生前のオリハルコン!……そんな訳あるかぁあ! 缶生そんなに甘いと思うなよぉおお! 調子になるなぁああ!」
「調子に乗ったのではなくて、ファンタジーに夢を見ただけカァアアアアアン!?」
カタカタを空き缶ボディを震わせながら、カンはまるで地面に這いつくばっているかのような絶望感を、器用に空き缶の身体で見事に表現した。
そして、その姿を見ているイチカは、ゆっくりと頷くと、諭す様にカンに語りかけた。
「潰れて、人で言えば〝死んでしまった〟としても、新しい空き缶に転生できて、尚且つ空き缶であるのにも関わらず、どの世界の者達ともコミュニケーションが取れるんだぞ? これ以上望むのであれば、本当にチートだと思わないか? そんなご都合主義のような強さを、カンは欲しかったのかい?」
「……我は……」
「それでカンは、胸を張ってお天道様に向かって、自分は〝強くなった〟と言えるのかい? そんな紛い物の強さが、カンの目指す〝最強最恐最高の魔王様〟なのかい?」
「……我は……最強で最恐で最高で……〝本物〟の魔王に成りたいのだ……我は……我は……」
イチカの問いかけに、自らの魂に語りかける微動だにしないカンの姿は、本当にただの空き缶にしか見えなかった。
その見事なまでのただの空き缶の如き姿は、思わずイチカが資源ゴミの袋に思わず放り投げるのを、本気で思いとどまる程だった。
「なぁ、カンよ。〝最弱〟と自他と元に認める空き缶のカンよ。強くなる手間を惜しんだ先に見る景色が、美しいとは限らないんだよ」
喋らないカンなど、ただの空き缶のゴミにしか見えない為、イチカは自己分析中のカンに話しかけた。
要は、ただの空き缶を見ていることに飽きたのだ。
「なぁ、イチカよ? 確認したいことがあるのだが」
「そんな美しい世界が、この世界にはあるんだよ」
「ねぇってば」
「だから……頑張ろうな!」
「我の話をきぃけぇえええ!」
「何だよ? 空き缶の分際で、自らの夢とは何か、強さとは何か、そして自分自身の事について黄昏ていたゴミが!」
「自分自身の事を考えただけで、そこまで言われる我は、同情されるべき存在だと思うぞ。それにメンタル折れたら逝くことを知っているのだから、もうちょい優しく我をかまえよ。思わず心が折れたら、どうするつもりなのだ。逝くぞ? お主の目の前で、逝ってしまうぞ? いいのか、うん?」
「メンヘラ缶みたいな脅し方だな、それ。逝ったところで、次の空き缶に転生するだけだろうに」
「まぁ、良い。確認したい事とはだな、イチカがストックしているその空き缶に、我は転生するから、ボディを鍛えてもリセットされてしまう訳であるな?」
机の角に置いてある先程飲み干した空き缶を見ながら、カンはイチカに問いかける。
「そうだね。もう一つ言っておくと、空き缶のストックがなくなったら、転生出来ないからね」
「カァアン!? そうだったのか!?」
「当たり前だろ? 空き缶が手元にないのに、どうやって転生するんだよ。何を今更なことを聞いてくるんだ」
「と言うことは、今の我のボディのストックは……」
「これだけだね」
ひょいと机の角に置いてあった空き缶をイチカは摘み、カンの前でひらひらと揺らしながら見せつけた。
「はようじゃんじゃん飲め! 我の身には、何が起きるか分からぬのだぞ!?」
自分の予備の残機が、あと一機だと判明したことで、焦るカン。その様子を見て、呆れたように首を横に振るイチカ。
「これ全部微糖なんだぞ? 糖分摂り過ぎたら、どうするつもりだよ? 責任とれんの? あぁ?」
「ほどほどにストックの為に飲んでぇカァアアン……は!? 魔法の話をまた進められなかったカァアァアアアン!?」
「何がしたいのさ、本当に」
今度は、本当に呆れるイチカであった。
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