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第25話 クリティカル耐性ゼロだからね

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『カンも、勇者君みたいなカッコイイ必殺技中二的な叫び声が欲しい? 逆に、必殺される技なら沢山あるけどね』

「大概の技は我にとってのクリティカルカァアアアアアン!?」

 ただの空き缶にとって、踏まれるだけでも十分な必殺技である。

〝勇者の放った天竜超越激雷紅蓮破魔スラッシュシンプルに剣に魔力を注いだ一撃が、カンに命中!〟
〝勇者の天竜超越激雷紅蓮破魔スラッシュは、カンにクリティカルヒット!〟
〝カンに300のダメージ! カンの体力が0になった!〟
〝カンの常時発動M型(Lv.3)の効果が発動! カンの体力が3残った!〟
  
「やったか!」
  
 ただの喋る空き缶現状はゴミに対して容赦ない勇者の会心の一撃は、カンに完璧に決まった。そして、舞い上がる土埃で、カンの姿は見えない。

 しかし、確実にカンを斬った手応えは、その手に残っていた。

 だがしかし現実は、必ずしも思い描いたイメージ通りにはいかないものである。
  
「フフフ……ハハハハハ! 勇者よ、その台詞はフラグというのだよ」

 土埃が消え、その姿を表した時、カンは不敵に笑っていた。空き缶なので、勇者には不敵に笑っている表情は、全く見えないが、声はそんな感じだった。
  
「な!? 倒せなかった! え? 本当に? しかも、フラグって……」
  
「こ……混乱している様だが、勇者よ……我にお前の攻撃は……効かぬわ!」
  
 凄く効いている。クリティカルヒットである。体力が一度ゼロになっていると言うことは、一回死亡しているぐらいには、しっかり効いている。

「今度は……こちらから行くぞ? 絶対に逃げるのだぞ? 逃げないと魂まで消滅する感じの魔王の魔法だぞ?……いいか? いくぞ? 逃げなくて良いのか? 逃げろよ? 逃げることをお薦めするからな?」

『ハッタリにも程があるね』
  
「魂まで消滅!? 逃げなくちゃ!?」
  
うぉおおお!まさか本気で信じたカァアン!?  い、行くカン!残念勇者なのか? ウルトラスーパー魔王砲! カウントダウン! 5、4、3、打つぞぉおお! 早く逃げないと! とっても大変なことになったりならなかったりするカァアアアン!」
  
「ひぃ!?」
  
「さぁさぁ! あとカウントが、2、1……どカァアアアアアン!」
  
「ぎゃぁあああ!」

 勇者はカンの言葉信じて、その場から一目散に立ち去っていった。
  
………ふっ……逃げたかマジで信じよったぞ、嘘であろう?
  
 しかし勇者もまた、ただ逃げるのも癪だったようで、来る途中で魔物を倒した際にドロップした切れ味の悪いナイフを、カン目掛けて投げつけたのだった。

 その切れ味の悪いナイフは、綺麗な弧を描いてカンに向かって飛んでいったのだった。
  
「そんな苦し紛れの投擲など、当たるわけないであろうよ」

 たっぷりと威厳を持たせたカンの言葉に対し、それを無視するかのように、切れ味の悪いナイフは、しっかりとカンに向かって飛んでくる。
  
『この状況、このフリ、そしてカンという存在を持ってすれば、そのナイフが最後の役割を成すことなど、実に容易いだろうね』
  
「お主は、何目線で語っておるのだ! よく見てみろ、方向だって無茶苦茶……んん? 無駄にカーブがかかって……カーブがかかってぇえええ!?」

『何せ投げたのが、召喚されし勇者だよ? 主人公補正、もといご都合主義が発生しても何ら問題ない』

「我にとって、問題しか無いのだが!?」
  
 ぼろぼろに成って至る所が欠けているナイフの重心は、当然の如く狂っており、普通に投げたら真っ直ぐ飛ぶわけがない。

 しかしだからこそ、あさっての方向に飛んでいったナイフは、まるで誘導されか如くカンに向かって来るのであった。
  
「カィイイン!?」

 そして、見事直撃。

〝勇者のボロボロのナイフが、カンに命中!〟
〝勇者の投擲は、カンにクリティカルヒット!〟
〝カンに300のダメージ! カンの体力が0になった!〟
〝勇者は、カンを倒した経験値3を獲得した!〟

 世界の声が止むと、その場には誰も居なくなっていた。

  
「おぉ、カンよ。色々情けない」
  
「お約束の台詞は、省略するほど長くもあるまい。そして、省略するなら〝情けない〟という言葉も省略してしまえ」

 そしてカンは、イチカの書斎の机の上で、新しい空き缶に転生していた。
  
「最後、ナイフが命中してどうなったかの動画みる? 当たった瞬間に、体力ゼロでカン死んじゃったし、自分の最後の姿みてないでしょ」
  
「見たいと言うと思うのか? それに、何当たり前のように我の姿を、動画で撮ってるのだ。せめて、我の許可を取れ」

「暇つぶしに編集して、カミチューブに動画アップしようかなと思ってるの」

「思ってるの、ではないわ」
  
「ちなみに、これがさっきの最後ね」

 キーボードをスタタァンっと、勢いよくイチカが叩いた後、ノートパソコンの画面をカンに向けると、先程のラストシーンの映像が流れた。

「ボディが見事に真っ二になっとるカァアアアン!? ぎゃぁあああ!?」

「いやいや、そんなに驚くことないでしょ。実質、空き缶に汚いナイフが綺麗に当たった映像だし」
  
「その空き缶は我だがな! は! 一回蘇ったのだから、レベルは上がったのか! どうなのだ!」
  
「そういえば、そんな設定だったね。よく覚えてたね。正直、忘れてたんだけど。自分のボディを見てみなよ」

「お主、どれだけ適当なのだ……まぁ、良い。そのうちど突くとして、どれどれ?」
  
 ・・・・・・・
 名前:カン
  
 種族:空き缶(Lv.5) 1UP!
  
 体力:14(最大14) 1UP!
  
 ちから:0 
 すばやさ:0 
 かたさ:2 
 まりょく:0 
  
 技能:
 言語理解全異世界の誰とでも話が出来る
 常時発動M型(Lv.4) 1UP!
 熱耐性(Lv.1)
 寒耐性(Lv.1)
  
 状態:傷無し
  
 現在地:イチカの書斎
 ・・・・・・・
  
「安定してレベルと体力、M型は上がっておるが、他は中々上がらぬのだな」
  
「当たり前だろ? カンは何か強くなるような事をしたのかい?」
  
「え?……確かに、潰れただけだが」
  
「そう。潰れて転生を繰り返すだけの空き缶が何故、レベルが上がっただけでステータスが上がると思うのかね。いつからこの空き缶は、自分が物語の主人公だと勘違いしてたのか、やれやれだ」
  
「レベルアップで、ステータスが上がらないだとぉおお!? そこは、上がるのがむしろ基本だろうが! では一体どうしたら、我は強くなれるというのだ!」

 現実は、そんなに甘くない。そもそも、空き缶のレベルアップとは何かと言うことから、謎である。

「やはり、強くなるポイントは〝魔法もしくはそれに類似した何か〟だろうね。ファンタジーの基本だよ、そこんとこは押さえていかないと」
  
「うぉおおおお! 魔法! 魔法!」
  
「興奮しているところ悪いけど、結局〝まりょく0〟じゃ、覚えても〝MPが足りない!〟ってなるだけだけどね」
  
「安定のぬか喜びカァアアアアアン!?」

 絶叫するカンであったが、それでも〝魔法〟という響きに、内心ではとても興奮してしまうのであった。
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