24 / 99
第24話 勇者よ、ソレで良いのか?
しおりを挟む
カンと〝勇者〟天翔龍 光は、まるでお互いの隙を伺っているかのような雰囲気をだしながら、その場で固まっていた。
『何を固まってるのさ。相手が勇者だろうと空き缶に出来るのは、言葉によるコミュニケーションだけだろうに。ん? いや待てよ、今のカンは空き缶と言えるのか? 空き缶の定義とは何か、それが問題だな。潰れている時点で、ただのゴミと言う可能性も』
「いくら潰れているといっても、我は空き缶以外の何者でもないだろうが。流石に、我もキレるぞ」
『分かってるなら、残りの体力を使い切る勢いで、強気で行きなよ』
『体力使い切っちゃ駄目であろう!? というか、体力2の時点で、割と絶体絶命なのだが!?』
カンの目の前には、空き缶が言葉を話したことに驚き、そしてそれを凝視する勇者が立っていた。
勇者は聖剣を手に持つと、地面に無残に転がっている林檎の食べカス、もとい空き缶を警戒した。
「この世界には、言葉を話す潰れた空き缶のような魔物がいるってことだね。油断せずに、対応しなくちゃね」
「誰が魔物だ!」
「魔物ではないの? では一体何者?」
話が出来る空き缶など、ほぼ魔物である。しかし、カンは明確にそれを否定した。
それを聞いていたイチカは〝魔王って、魔物の王ってことではないの?〟と素朴な疑問を抱いたが、話の腰を折らずに聞き入ることにした。
「我か……我のボディに書いてある成分表示の所を見れば、きっと分かるだろう」
「見ろって言われてもさ……潰れて捻れて見にくい……名前は……カンか。そのまんまだね」
「そのまんまなのだ。もっと言ってやってくれ」
「誰に対して、もっと言うのさ。だけど、あとは殆ど潰れて見えな……ん? M? なんで、ローマ字が魔物っぽいクズ缶に?」
「自然とゴミ扱いになっておるぞ。あと、〝M〟に関しては、別に気にしなくて良いから、スルーして欲しいのだが?」
勇者は、目に付いた〝M〟の文字がどうしても気になった。何故だが、すごく気になった。それはもう、気になった。
何度も何度も、その文字を見返しては、何かを考えているかのようだった。
『まるで誰かから〝意識誘導されている〟かのように、勇者君は〝M〟の表記を気にしているね』
「〝意識誘導〟……イチカ! 貴様の仕業カァアアアン!」
そして、勇者は何かを閃いたかのように、ハッとした顔でカンを見た。
「M……MA……MAOU……魔王!? お前! そんななりして、まさか魔王なのか!?」
「発想の飛躍が、天才か!? 勇者よ、お主の頭は大丈夫なのか!? しかし、悪い気はしないがな!」
カンは、初めて自称だった〝魔王〟を、他人から呼ばれた事で、驚きとともに照れるのであった。
『ねぇねぇ、早く話を進めてくれない? こっちは、カンが勇者の持つ聖剣で斬られたら、どんな感じになるのか楽しみにしてるんだからさ』
「とんだ鬼畜野郎だな!?」
「うわ、特にまだ何もしてないのに、鬼畜野郎呼びしてくるとか……魔王って、情緒不安定なの? それとも、そういう設定?」
「誰が設定だ! ただの痛い缶ではないか!」
『そうだよね? 割と情緒不安定でしょ?』
「空き缶なんぞになったら、不安定にならない方がおかしいだろうが!」
勇者は、カンが騒がしく叫びまくってる姿にドン引きしながらも、手に持つ聖剣にしっかりと魔力を流し始めていた。
聖剣に勇者の魔力が注がれると、眩いばかりに輝き出した聖剣からは、圧倒的な覇気が迸っていた。
明らかに、ただの空き缶に対して使うには、オーバーキルが過ぎるような武具である。
「一応の確認なのだが、それを……どうする気なのだ?」
「え? お前が魔王なんでしょ? お前を倒す為に、僕はこの世界に召喚されたんだから、この聖剣で跡形もなく消滅させるに決まってるでしょ」
「……待てぇええぇ!」
「なに? いいじゃん、どうせ既に瀕死っぽいし」
勇者は、そう話しながらも更に魔力を高めていった。
『彼はこのあいだカンを召喚した国が、改めて召喚した本物の勇者だって。カミペディア情報より♪』
「情報更新早いなカミペディア!? しかも、我の後任だとぉおお!?」
『彼はまさしく異世界から来た勇者であり、召喚された時点で絶大な魔力と超絶スキルを既に保有していたらしいよ。林檎の食べカスもとい、潰れた空き缶とは雲泥の差だね』
「己で言うのも何だが、ガチの勇者と我が同じ召喚術で呼び出されるって、大丈夫なのかあの国」
『まさしく召喚ガチャだね。ちなみに勇者君はSSRだけど、カンは……』
「みなまで言わんで良いわ」
カンが微妙にメンタルを凹ませてると、〝勇者〟天翔龍 光に見下ろされていた。
「それじゃ、サクッと倒すよ。これからハーレム作るから、僕は忙しんだ」
「案外ゲスかったぁあ!?」
「僕の最強剣技をくらえ! 〝天竜超越激雷紅蓮破魔スラッシュ〟ぅうう!」
「中二病ぉおおお万歳カァアアアアアン! ハーレムちょっと羨ましく思っちゃったカァアァアアアン!?」
『空き缶のハーレムって、何?』
カンの叫びを聞いて、資源ゴミのアルミ缶回収を頭に思い浮かべるイチカであった。
『何を固まってるのさ。相手が勇者だろうと空き缶に出来るのは、言葉によるコミュニケーションだけだろうに。ん? いや待てよ、今のカンは空き缶と言えるのか? 空き缶の定義とは何か、それが問題だな。潰れている時点で、ただのゴミと言う可能性も』
「いくら潰れているといっても、我は空き缶以外の何者でもないだろうが。流石に、我もキレるぞ」
『分かってるなら、残りの体力を使い切る勢いで、強気で行きなよ』
『体力使い切っちゃ駄目であろう!? というか、体力2の時点で、割と絶体絶命なのだが!?』
カンの目の前には、空き缶が言葉を話したことに驚き、そしてそれを凝視する勇者が立っていた。
勇者は聖剣を手に持つと、地面に無残に転がっている林檎の食べカス、もとい空き缶を警戒した。
「この世界には、言葉を話す潰れた空き缶のような魔物がいるってことだね。油断せずに、対応しなくちゃね」
「誰が魔物だ!」
「魔物ではないの? では一体何者?」
話が出来る空き缶など、ほぼ魔物である。しかし、カンは明確にそれを否定した。
それを聞いていたイチカは〝魔王って、魔物の王ってことではないの?〟と素朴な疑問を抱いたが、話の腰を折らずに聞き入ることにした。
「我か……我のボディに書いてある成分表示の所を見れば、きっと分かるだろう」
「見ろって言われてもさ……潰れて捻れて見にくい……名前は……カンか。そのまんまだね」
「そのまんまなのだ。もっと言ってやってくれ」
「誰に対して、もっと言うのさ。だけど、あとは殆ど潰れて見えな……ん? M? なんで、ローマ字が魔物っぽいクズ缶に?」
「自然とゴミ扱いになっておるぞ。あと、〝M〟に関しては、別に気にしなくて良いから、スルーして欲しいのだが?」
勇者は、目に付いた〝M〟の文字がどうしても気になった。何故だが、すごく気になった。それはもう、気になった。
何度も何度も、その文字を見返しては、何かを考えているかのようだった。
『まるで誰かから〝意識誘導されている〟かのように、勇者君は〝M〟の表記を気にしているね』
「〝意識誘導〟……イチカ! 貴様の仕業カァアアアン!」
そして、勇者は何かを閃いたかのように、ハッとした顔でカンを見た。
「M……MA……MAOU……魔王!? お前! そんななりして、まさか魔王なのか!?」
「発想の飛躍が、天才か!? 勇者よ、お主の頭は大丈夫なのか!? しかし、悪い気はしないがな!」
カンは、初めて自称だった〝魔王〟を、他人から呼ばれた事で、驚きとともに照れるのであった。
『ねぇねぇ、早く話を進めてくれない? こっちは、カンが勇者の持つ聖剣で斬られたら、どんな感じになるのか楽しみにしてるんだからさ』
「とんだ鬼畜野郎だな!?」
「うわ、特にまだ何もしてないのに、鬼畜野郎呼びしてくるとか……魔王って、情緒不安定なの? それとも、そういう設定?」
「誰が設定だ! ただの痛い缶ではないか!」
『そうだよね? 割と情緒不安定でしょ?』
「空き缶なんぞになったら、不安定にならない方がおかしいだろうが!」
勇者は、カンが騒がしく叫びまくってる姿にドン引きしながらも、手に持つ聖剣にしっかりと魔力を流し始めていた。
聖剣に勇者の魔力が注がれると、眩いばかりに輝き出した聖剣からは、圧倒的な覇気が迸っていた。
明らかに、ただの空き缶に対して使うには、オーバーキルが過ぎるような武具である。
「一応の確認なのだが、それを……どうする気なのだ?」
「え? お前が魔王なんでしょ? お前を倒す為に、僕はこの世界に召喚されたんだから、この聖剣で跡形もなく消滅させるに決まってるでしょ」
「……待てぇええぇ!」
「なに? いいじゃん、どうせ既に瀕死っぽいし」
勇者は、そう話しながらも更に魔力を高めていった。
『彼はこのあいだカンを召喚した国が、改めて召喚した本物の勇者だって。カミペディア情報より♪』
「情報更新早いなカミペディア!? しかも、我の後任だとぉおお!?」
『彼はまさしく異世界から来た勇者であり、召喚された時点で絶大な魔力と超絶スキルを既に保有していたらしいよ。林檎の食べカスもとい、潰れた空き缶とは雲泥の差だね』
「己で言うのも何だが、ガチの勇者と我が同じ召喚術で呼び出されるって、大丈夫なのかあの国」
『まさしく召喚ガチャだね。ちなみに勇者君はSSRだけど、カンは……』
「みなまで言わんで良いわ」
カンが微妙にメンタルを凹ませてると、〝勇者〟天翔龍 光に見下ろされていた。
「それじゃ、サクッと倒すよ。これからハーレム作るから、僕は忙しんだ」
「案外ゲスかったぁあ!?」
「僕の最強剣技をくらえ! 〝天竜超越激雷紅蓮破魔スラッシュ〟ぅうう!」
「中二病ぉおおお万歳カァアアアアアン! ハーレムちょっと羨ましく思っちゃったカァアァアアアン!?」
『空き缶のハーレムって、何?』
カンの叫びを聞いて、資源ゴミのアルミ缶回収を頭に思い浮かべるイチカであった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる