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第24話 勇者よ、ソレで良いのか?

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 カンと〝勇者〟天翔龍 光は、まるでお互いの隙を伺っているかのような雰囲気をだしながら、その場で固まっていた。

『何を固まってるのさ。相手が勇者だろうと空き缶に出来るのは、言葉によるコミュニケーションだけだろうに。ん? いや待てよ、今のカンは空き缶と言えるのか? 空き缶の定義とは何か、それが問題だな。潰れている時点で、ただのゴミと言う可能性も』

「いくら潰れているといっても、我は空き缶以外の何者でもないだろうが。流石に、我もキレるぞ」

『分かってるなら、残りの体力を使い切る勢いで、強気で行きなよ』
  
『体力使い切っちゃ駄目であろう!? というか、体力2の時点で、割と絶体絶命なのだが!?』
  
 カンの目の前には、空き缶が言葉を話したことに驚き、そしてそれを凝視する勇者が立っていた。

 勇者は聖剣を手に持つと、地面に無残に転がっている林檎の食べカス、もとい空き缶を警戒した。
  
「この世界には、言葉を話す潰れた空き缶のような魔物がいるってことだね。油断せずに、対応しなくちゃね」
  
「誰が魔物だ!」
  
「魔物ではないの? では一体何者?」
 
 話が出来る空き缶など、ほぼ魔物である。しかし、カンは明確にそれを否定した。

 それを聞いていたイチカは〝魔王って、魔物の王ってことではないの?〟と素朴な疑問を抱いたが、話の腰を折らずに聞き入ることにした。
 
「我か……我のボディに書いてある成分表示の所を見れば、きっと分かるだろう」
  
「見ろって言われてもさ……潰れて捻れて見にくい……名前は……カンか。そのまんまだね」
  
「そのまんまなのだ。もっと言ってやってくれ」
  
「誰に対して、もっと言うのさ。だけど、あとは殆ど潰れて見えな……ん? M? なんで、ローマ字が魔物っぽいクズ缶に?」
  
「自然とゴミ扱いになっておるぞ。あと、〝マゾ〟に関しては、別に気にしなくて良いから、スルーして欲しいのだが?」

 勇者は、目に付いた〝M〟の文字がどうしても気になった。何故だが、すごく気になった。それはもう、気になった。

 何度も何度も、その文字を見返しては、何かを考えているかのようだった。

『まるで誰かから〝意識誘導されている〟かのように、勇者君は〝マゾ〟の表記を気にしているね』
  
「〝意識誘導〟……イチカ! 貴様の仕業カァアアアン!」

 そして、勇者は何かを閃いたかのように、ハッとした顔でカンを見た。
  
「M……MA……MAOU……魔王!? お前! そんななりして、まさか魔王なのか!?」
  
「発想の飛躍が、天才か!? 勇者よ、お主の頭は大丈夫なのか!? しかし、悪い気はしないがな!」

 カンは、初めて自称だった〝魔王〟を、他人から呼ばれた事で、驚きとともに照れるのであった。

『ねぇねぇ、早く話を進めてくれない? こっちは、カンが勇者の持つ聖剣で斬られたら、どんな感じになるのか楽しみにしてるんだからさ』
  
「とんだ鬼畜野郎だな!?」
  
「うわ、特にまだ何もしてないのに、鬼畜野郎呼びしてくるとか……魔王って、情緒不安定なの? それとも、そういう設定?」
  
「誰が設定だ! ただの痛い缶ではないか!」

『そうだよね? 割と情緒不安定でしょ?』

「空き缶なんぞになったら、不安定にならない方がおかしいだろうが!」
  
 勇者は、カンが騒がしく叫びまくってる姿にドン引きしながらも、手に持つ聖剣にしっかりと魔力を流し始めていた。

 聖剣に勇者の魔力が注がれると、眩いばかりに輝き出した聖剣からは、圧倒的な覇気が迸っていた。

 明らかに、ただの空き缶に対して使うには、オーバーキルが過ぎるような武具である。
  
「一応の確認なのだが、それ聖剣を……どうする気なのだ?」
  
「え? お前が魔王なんでしょ? お前を倒す為に、僕はこの世界に召喚されたんだから、この聖剣で跡形もなく消滅させるに決まってるでしょ」
  
「……待てぇええぇ!」
  
「なに? いいじゃん、どうせ既に瀕死っぽいし」
  
 勇者は、そう話しながらも更に魔力を高めていった。

『彼はこのあいだカンを召喚した国が、改めて召喚した本物の勇者だって。カミペディア情報より♪』
  
「情報更新早いなカミペディア!? しかも、我の後任だとぉおお!?」
  
『彼はまさしく異世界から来た勇者であり、召喚された時点で絶大な魔力と超絶スキルを既に保有していたらしいよ。林檎の食べカスもとい、潰れた空き缶とは雲泥の差だね』
  
「己で言うのも何だが、ガチの勇者と我が同じ召喚術で呼び出されるって、大丈夫なのかあの国」

『まさしく召喚ガチャだね。ちなみに勇者君はSSRだけど、カンは……』

「みなまで言わんで良いわ」

 カンが微妙にメンタルを凹ませてると、〝勇者〟天翔龍 光に見下ろされていた。
  
「それじゃ、サクッと倒すよ。これからハーレム作るから、僕は忙しんだ」
  
「案外ゲスかったぁあ!?」
  
僕の考えた最強剣技名前だけをくらえ! 〝天竜超越激雷紅蓮破魔スラッシュ〟ぅうう!」
  
「中二病ぉおおお万歳カァアアアアアン! ハーレムちょっと羨ましく思っちゃったカァアァアアアン!?」

『空き缶のハーレムって、何?』

 カンの叫びを聞いて、資源ゴミのアルミ缶回収を頭に思い浮かべるイチカであった。

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