イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

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第23話 仲間にして欲しそうな顔をしていると思うてか

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『雨の日って、家でまったりして、外に出かけたりする気がなくなっちゃうよねぇ。その点、どこかの迷宮だか洞窟だかに転移したカンは、雨も降らないし、気温も若干のひんやりで、外出するには気持ちよさそうな場所と言えなくもないかな』

 イチカの書斎から見える窓の外は、しとしと雨が降っていた。

「天気の話と同列に話でない! 我はピンチなのだぞ!?」
  
『ピンチはチャンスだというし、何かそこから物語が始まりそうじゃない? オラ、ワクワクすっぞ! まぁ、頑張れガンバレ』

「見てるだけの無責任発言!? 応援の言葉に、全く心がこもってないカァアアン!」
  
『カンが大声で独り言を話しているせいで、ゴブリンとスライムは随分と引いているようだよ?』
  
「独り言ではないわ! 貴様に文句を言っているのだ!」

 当然、イチカの声はカンにしか聴こえていない。結果として、カンが割と大きめの声で、独り言を言っているようにしか、ゴブリンとスライムには見えなかった。
  
"なぁ、スライム。こいつ何かおかしいから捨てて良いゴブ?"
  
"勇者と遭遇したら、こいつを投げて逃げれば良いプヨ"
  
「サラッと酷いこと言われとるぅう」
  
『この〝始まりの迷宮〟は、勇者召喚によりこの世界へとやって来た異世界人が、この世界の魔物に慣れる為に始めにやってくる場所なんだってさ。その為、国が管理する迷宮であり、階層も五階層しかないんだねぇ。へぇ、迷宮を維持する迷宮核も破壊されずに寧ろ保護されているって、カミペディアに書いてあったよ』
  
「調べることが出来るなら、最初から教えてから転移させるれば良かろうに! というか、何だその適当な情報の調べ方は!」

 イチカがコーヒー片手に、創造者マスター専門情報サイト〝カミペディア〟で、カンが飛ばされた異世界の世界座標を調べると、しっかり情報が記載されていたのだった。
  
"ほんに煩いゴブ。ちょっと黙ってろゴブ!"

「カピャ!?」

 喧しく騒いでいたカンに苛ついたゴブリンが、黙らせるつもりで握る腕に力を込めると、あっさりとカンは潰れてしまった。

 それもそのはずで、中身の無いアルミ缶など、人の力であっても簡単に潰すことが出来てしまうというのに、人より力の強いゴブリンの握力を持ってすれば、当然の結果であった。

"すぐ潰れたプヨ。弱すぎるプヨ"
  
「カァァアン……さらに際どく瀕死ぃえぇえぇ……」
  
 カンがゴブリンに簡単に握り潰された頃、同じ階層に召喚されし勇者がやって来たのだった。

 しかしこの時はまだ、カン一行はその事に気付いていなかった。

「我が瀕死になっているというのに、イチカは何をしているのだ! 何かしらこう、手助けとかないのか!」

『ほっと一息するには、コーヒーが一番だね。というか、コーヒー飲まないと一息つけない。もっと言えば、コーヒーが常に飲める状態にしておかないと、イラついてカンを世界の狭間に飛ばしちゃうよね』
 
「このコーヒー中毒者め! まったりコーヒー飲んでいる場合カァアアアン!」

『そんなに褒めるなよぉ♪』 

「中毒者って言葉は、間違いなく褒め言葉と違うからな?」
 
 イチカは身体も心も、ホッと一息つきながらカンとのやりとりを楽しんでいるのだが、カンは楽しむ余裕は全く無かった。
  
『飲み終わった空き缶は、カンの生き返り用ボディのストックになるから、ゴミ処理の心配はしなくていいよ』
  
「はなからそんな心配しておらんわ! そうこう言っているうちに、我は林檎の食べカスみたいにな形状になってしまったではないか!』

 勇者の元へと向かう緊張からか、カンをさらに強く握りしめていた為に、齧り終わったリンゴの芯状態になっていたのだった。
  
『ではないかって言われても、ブツブツ一人ツッコミ入れてたからでしょ。そうなる前に、何かやれる事があったんじゃないのかい? 例えば、ゴブリン君の緊張をほぐすために、冗談の一つや二つぐらい言うとかさ。それを、人のせいにするとは何様?』
  
「おのれぇええええぇ! 今すぐ殴らせろぉおおお!」
  
『あっ、ちなみにさっきのゴブリンのメタルグラップ単なる強めに握られただけで既に、残りの体力HP2になってるみたいよ?』
  
「そうだろうな! むしろ1でない事に対して、驚く感じになっとるわ!」
  
 林檎の食べカス形態のカンの独り言に、ゴブリンとスライムは苛立ちながらも、いざという時の投擲アイテムとして使用する為に我慢していた。
  
 そんな時だった。

 遂に、その時は訪れた。
  
「ゴブ!?」
「プヨ!?」
  
「いたなモンスターどもめ! この天翔龍 光が討伐してやる!」
  
 "勇者天翔龍 光が現れた!"
 "ゴブリンは、カンを投げつけた!"
 "勇者天翔龍 光は、投げられた空き缶に気を取られた!"
 "ゴブリンとスライムは逃げ出した!"
  
「カァアァアアアン!?」

 一瞬の躊躇いのないゴブリンとスライムの行動は、まさに彼らの命を救った。

 勇者天翔龍 光は、まさかモンスターから、〝元の世界で見慣れていたゴミ〟を投げつけられるとは思わず、完全にソレに気を取られてしまったのだ。

 更に、彼にとって予想外の事が起きる。
  
「……ハ……ハロー? 我は、悪い空き缶じゃないぞ?」
  
「空き缶が喋った!? しかも、何そのネタ知ってるんだよ!?」
  
「我に聞かれても……どうしてこうなったのか、我も知りたいくらいなのだがな……」

 そして、一人と一缶既に見ためはゴミの間に、静寂が訪れたのだった。
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