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第16話 勇者召喚
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「新しい能力の確認も終わったし、そろそろ次は、異世界へと行ってもらおうかな」
「全く確認になっておらんのだが? 結果として、我のボディがド派手に凹んだだけではないか……」
思いっきりカンを蹴飛ばしたイチカは、特に悪びれることも無く、さっさと話を進めようとしていた。
カンは、ぐっと怒りを心中に押し込めながらも、一応文句だけは口に出していた。現状、イチカに対してやり返す手段が無い以上は、怒りをぶつけても仕方なしと諦めた為であった。
「それに、次は異世界へと行ってもらうだと? 先程といい、お主は一体どんな力を持っておるのだ?」
「そこまで、大きな力を使う事は許されて無いけど、この世界の何処かに飛ばすぐらいの転移術は心得てるよ。ただ、異世界への転移術となると結構制約が厳しいから、実際は術の発動状況を"異世界ネットワーク"で検索して、その発現先を誘導するくらいかな」
「なんなのだ、その"異世界ネットワーク"とは」
基本的な情報はイチカの知識と共有されているカンであったが、"異世界ネットワーク"という単語は、意味が理解出来なかった。
イチカがこの世界であれば転移させる事が出来る事も知らなかったが、既に転移させられている身である為に、そこまで驚くことでもなかった。
「僕らみたいな創造者同士のコミュニケーションツールみたいなものだね。元々カンのいた世界の創造者も、それで検索してたでしょ? 創造者や異世界検索、創造者掲示板なんかもあるから、そこに異世界召喚しそうだとか書き込みがあったりするんだよね」
「なんぞ、えらく軽い感じのノリだの……異世界ネットワーク……」
イチカの説明に酷く残念感を抱いていたカンだったが、実際はそこまで簡単なものではなかったりする。
その世界の管理神に位置する創造者は、お互いの世界に干渉が及ぶ事態を回避する為に、ある程度の情報の共有化が必要であった。
そのためにそのような事を調べる事が出来る権限が、創造者には更に上位の存在によって与えられている。
そして、その事は本来であれば間違いなく秘匿される事実であるとともに、そもそも口外したとしても彼ら以外には、聞き取れない様になっていた。
それであるのに関わらず、どうしてカンは世界の重要事項を聞き取る事が出来たのか?
重ね重ねであるが、カンが"神核の欠片"を有してるという事が、本来であれば聞き取れぬ筈の言葉を認識出来る様にしていた。
イチカは面白がってその様な事も放置しているが、本来であれば大問題である。
「案外難しそうに見えることも、知っている者からしたら、大した事ない事実だったりするんだよね。という事はどうでも良くて、要はそんなツールを使って、カンを異世界に飛ばすから、心の準備はいいかい?」
「全く、どうでも良くないわ。割と重要な事をサラッと流しおって。まぁ、我がそれを知った所でなんぞ変わるわけではないがな……って、待つのだ! 人がまだ話をしているというのに、しれっと異世界に飛ばそうとするでないわ!」
「人で無くて、空き缶ね」
「やかましいわ! しかもどうせまた、転移先で缶蹴りでもさせるつもりだろう!」
イチカの細いツッコミに対して、かぶせる様に大声を出したカンは、先ほどの唐突な転移の上に公園を缶蹴りフィールドにされた事を根に持っていると言わんばかりに叫んだ。
しかしイチカは、そんなカンの文句を無視し、椅子に座った。そしてコーヒーを一口飲む余裕を見せながら、床に置かれているカンを見下ろしていた。
「今度は缶蹴りをする雰囲気と場所じゃないから、大丈夫じゃないかな」
「どう言う意味なのだ?」
「もう説明してる時間はないみたいだよ」
イチカの言葉にカンが不思議に思っていると、イチカはカンの置かれている床を指差し呟いた。
「は? 足元に魔法陣が!?」
「カンに足はないけどね」
「揚げ足とりぃぇぇええぇ」
そして次の瞬間、カンの周囲の床に突如として魔法陣が浮かび上がった。
その魔法陣から放出される魔力は凄まじく、書斎は魔法陣を中心とした魔力の嵐が発生しており、室内だというのに稲妻まで発生していた。
カンは、自分を中心にしたその異様な状況に完全に呑まれながらも、早くも条件反射のようになってしまったイチカへのツッコミを入れながら、徐々に魔法陣の中へと引きずり込まれていった。
「いってらっしゃぁあい♪」
「カァアアァン……」
そして、カンはイチカの言葉を聞きながら、新たな異世界へと旅立っていった。
一体何処へ向かって行くのかだろう等と考える余裕もなく、カンの意識は魔法陣に完全に飲み込まれる瞬間に消えていくのだった。
「う……ここは……どこなのだ?」
カンを包んでいた光が消えていくと、自然と意識を取り戻したカンの目に前には、祈りを捧げるように手を合わた美しい姫が、自分に向かって跪いていた。
そして目を開くと同時に、切なる思いが籠った台詞を述べるのだった。
「ようこそ、おいで下さいました勇者様。魔王を倒し、この世界をお救いください」
「……カァン?」
「……え?」
「……勇者召カァアアアアアアアン!?」
そしてお互いの存在を確認すると、時が止まったかのようにその場が静まり返った。その結果、一瞬早く我に返ったカンの叫びが、召喚の儀式の間に響き渡ったのだった。
「……そうか、我は勇者だったのか……」
『どう見ても、空き缶だと思うよ』
カンの呟きに、冷静にツッコミを入れるイチカであった。
「全く確認になっておらんのだが? 結果として、我のボディがド派手に凹んだだけではないか……」
思いっきりカンを蹴飛ばしたイチカは、特に悪びれることも無く、さっさと話を進めようとしていた。
カンは、ぐっと怒りを心中に押し込めながらも、一応文句だけは口に出していた。現状、イチカに対してやり返す手段が無い以上は、怒りをぶつけても仕方なしと諦めた為であった。
「それに、次は異世界へと行ってもらうだと? 先程といい、お主は一体どんな力を持っておるのだ?」
「そこまで、大きな力を使う事は許されて無いけど、この世界の何処かに飛ばすぐらいの転移術は心得てるよ。ただ、異世界への転移術となると結構制約が厳しいから、実際は術の発動状況を"異世界ネットワーク"で検索して、その発現先を誘導するくらいかな」
「なんなのだ、その"異世界ネットワーク"とは」
基本的な情報はイチカの知識と共有されているカンであったが、"異世界ネットワーク"という単語は、意味が理解出来なかった。
イチカがこの世界であれば転移させる事が出来る事も知らなかったが、既に転移させられている身である為に、そこまで驚くことでもなかった。
「僕らみたいな創造者同士のコミュニケーションツールみたいなものだね。元々カンのいた世界の創造者も、それで検索してたでしょ? 創造者や異世界検索、創造者掲示板なんかもあるから、そこに異世界召喚しそうだとか書き込みがあったりするんだよね」
「なんぞ、えらく軽い感じのノリだの……異世界ネットワーク……」
イチカの説明に酷く残念感を抱いていたカンだったが、実際はそこまで簡単なものではなかったりする。
その世界の管理神に位置する創造者は、お互いの世界に干渉が及ぶ事態を回避する為に、ある程度の情報の共有化が必要であった。
そのためにそのような事を調べる事が出来る権限が、創造者には更に上位の存在によって与えられている。
そして、その事は本来であれば間違いなく秘匿される事実であるとともに、そもそも口外したとしても彼ら以外には、聞き取れない様になっていた。
それであるのに関わらず、どうしてカンは世界の重要事項を聞き取る事が出来たのか?
重ね重ねであるが、カンが"神核の欠片"を有してるという事が、本来であれば聞き取れぬ筈の言葉を認識出来る様にしていた。
イチカは面白がってその様な事も放置しているが、本来であれば大問題である。
「案外難しそうに見えることも、知っている者からしたら、大した事ない事実だったりするんだよね。という事はどうでも良くて、要はそんなツールを使って、カンを異世界に飛ばすから、心の準備はいいかい?」
「全く、どうでも良くないわ。割と重要な事をサラッと流しおって。まぁ、我がそれを知った所でなんぞ変わるわけではないがな……って、待つのだ! 人がまだ話をしているというのに、しれっと異世界に飛ばそうとするでないわ!」
「人で無くて、空き缶ね」
「やかましいわ! しかもどうせまた、転移先で缶蹴りでもさせるつもりだろう!」
イチカの細いツッコミに対して、かぶせる様に大声を出したカンは、先ほどの唐突な転移の上に公園を缶蹴りフィールドにされた事を根に持っていると言わんばかりに叫んだ。
しかしイチカは、そんなカンの文句を無視し、椅子に座った。そしてコーヒーを一口飲む余裕を見せながら、床に置かれているカンを見下ろしていた。
「今度は缶蹴りをする雰囲気と場所じゃないから、大丈夫じゃないかな」
「どう言う意味なのだ?」
「もう説明してる時間はないみたいだよ」
イチカの言葉にカンが不思議に思っていると、イチカはカンの置かれている床を指差し呟いた。
「は? 足元に魔法陣が!?」
「カンに足はないけどね」
「揚げ足とりぃぇぇええぇ」
そして次の瞬間、カンの周囲の床に突如として魔法陣が浮かび上がった。
その魔法陣から放出される魔力は凄まじく、書斎は魔法陣を中心とした魔力の嵐が発生しており、室内だというのに稲妻まで発生していた。
カンは、自分を中心にしたその異様な状況に完全に呑まれながらも、早くも条件反射のようになってしまったイチカへのツッコミを入れながら、徐々に魔法陣の中へと引きずり込まれていった。
「いってらっしゃぁあい♪」
「カァアアァン……」
そして、カンはイチカの言葉を聞きながら、新たな異世界へと旅立っていった。
一体何処へ向かって行くのかだろう等と考える余裕もなく、カンの意識は魔法陣に完全に飲み込まれる瞬間に消えていくのだった。
「う……ここは……どこなのだ?」
カンを包んでいた光が消えていくと、自然と意識を取り戻したカンの目に前には、祈りを捧げるように手を合わた美しい姫が、自分に向かって跪いていた。
そして目を開くと同時に、切なる思いが籠った台詞を述べるのだった。
「ようこそ、おいで下さいました勇者様。魔王を倒し、この世界をお救いください」
「……カァン?」
「……え?」
「……勇者召カァアアアアアアアン!?」
そしてお互いの存在を確認すると、時が止まったかのようにその場が静まり返った。その結果、一瞬早く我に返ったカンの叫びが、召喚の儀式の間に響き渡ったのだった。
「……そうか、我は勇者だったのか……」
『どう見ても、空き缶だと思うよ』
カンの呟きに、冷静にツッコミを入れるイチカであった。
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