上 下
10 / 99

第10話 世代を超えた遊び

しおりを挟む
『ロリカンは、目の前に自分をかばうように少年達に立ち塞がる女の子を、地面からスカートを見上げて、その中を覗こうと頑張っているんだね。単刀直入に、クズだね』

「どちらかと言うと、我を冤罪に仕立て上げる貴様が、クズ野郎だがな。そもそも見上げる瞳は、我の何処にあるといのうか……は!? そんな事より、我を助ける天使が、今まさに舞い降りたという事が重要なのだ!」
  
『魔王を目指すカンは、天使のような少女に助けられて興奮しているんだね。引くわぁ……』

「悪意しか感じない言い方だの……」

 カンはイチカの言葉で、メンタルにダメージを蓄積させながらも、実際問題として、今の状況を客観的に見れば、少女のスカートを覗き込む位置に転がっている為に、強く否定する事が出来ないでいた。

 どうするものかとカンが考えている間にも、状況は刻一刻と変化していくのだった。
  
「退けよ、蜜柑! そいつ返せよ!」
  
「ダメだよ! なんか嫌がってるもん!」
  
 蜜柑と呼ばれた少女は、自分より大きな男の子に対して、一歩も引かずにその場に踏み止まっていた。

 そして、蜜柑に対してカンの引き渡しを要求している少年は、その少女の知り合いの様だった。

「ん? 何やら様子がおかしい感じが……」

 カンが二人の様子を見ていると、特に少年の方が何やら戸惑っている様な表情をしており、自分の今の行動が理解出来ていない様子だった。
  
「いつも缶蹴りなんか、"かっちゃん"しないじゃん!」
  
「うるさい! なんか知らないけど、無性に今日は缶蹴りがしたんだよ!」
  
『蜜柑に"かっちゃん"と呼ばれた少年は、蜜柑にそう言われちゃうと、自分でも何故こんなにも缶ケリがしたいのかの理由を説明出来ないだろうねぇ。この公園に遊びに入ると、無性に缶蹴りがしたくなるように"限定的強制誘導エリア"に指定して、カンを通して術を僕が施してあるんだから。まぁ、この子達にとっては、"不思議な事"といった感じじゃないかな』

「この外道がぁああああ!」

 その時、少年少女達に声をかける者達が現れた。

「え?」

 少年少女が振り返ると、そこには見るからにヤンチャそうな高校生達が立っていたのだった。

 五人組の高校生は、肩にバッグを担ぎながら蜜柑を見下ろしていた。
  
「よぉよぉ、その空き缶お兄さん達に貸してくれよ。缶蹴りしてぇからよ」
  
 髪を茶髪に染めた男子生徒が、蜜柑の前でしゃがみこみ、ぶっきらぼうに言いながらカンを指差していた。

『真打ち登場だね、カン。彼らはきっと、特に公園に用事もなかっただろうに、"缶蹴りが無性にしたくなる限定的強制誘導エリア"のおかげで、園内に誘われたんだろう。蜜柑ちゃんにとっては、不運だったね』

「我にとっても、十分不運だがなぁああ!」

 自分よりも大きい高校生に、突然声をかけられた蜜柑は完全に固まっていた。

 そして、声をかけている男子高校生の後ろでは、既に他の男子高校生達が荷物を降ろして準備体操を始めていた。

 一見やんちゃ見えた高校生達の念入りな準備の様子は、まるで何処かのサッカー・・・・部の様であった。

「半端ない系カァアアアアアン!?」

 そして、気づくと蜜柑の周りには、先ほどまで一緒に遊んでいた子供達がいなくなっていた。

 子供達は高校生が蜜柑に話しかけているタイミングで、公園の隅の方へと逃げていたのだ。

『蜜柑ちゃん以外は、みんなカンを捨てて逃げちゃったね、空き缶だけに』

「遊んでいた空き缶は、きちんとゴミ箱に……ではないわ、たわけ。仕方ない事であろう、あの年齢の子供にはあの五人は恐ろしく見えるであろう。実際、準備運動が終わり蹴りの素振りをしている様子は、我でも恐ろしいのだからな」

『確かにそうだろうね。という事は、如何に蜜柑ちゃんが勇敢であり、尚且つ心優しい子供だという事が際立つね。そんな少女に護ってもらう気持ちは、ねぇねぇ、どんな気持ち?』

「貴様……必ずブン殴ってやるからの」

 カンがイチカに対する制裁を心に固く決意した頃、入念なウォーミングアップを終えた高校生達が蜜柑の元へと近づいてきていた。

 蜜柑を説得していた高校生も、固まっていた蜜柑に対して、最初はぶっきらぼうながらも目線を合わせ、彼なりに優しく語りかけていたが、蜜柑が全くカンを渡そうとする仕草が見えなかった為に、既に譲って貰う・・・・・事は諦めていた。

 そして、片膝をついていた男子高校生はおもむろに立ち上がると、突然公園の入り口の方向に顔を向けると、驚いた様に叫んだ。

「あ!? お嬢ちゃん! あんな所に、空き缶の大群が整列して綺麗に踊ってるぞ!」

「え!? 空き缶が踊ってるの!? どこ!?」

 蜜柑は思わず男子高校生が指差した方向へと目線を移してしまった・・・

「は!? いかん! 蜜柑! それは罠カァアアアアアン!?」

『カン、叫んでないで衝撃に備えた方が良い様だよ』

 イチカが派手なリアクションを取っているカンに助言した直後、気を取られた蜜柑を後ろでウォーミングアップを完了した俊足自慢の男子高校生が、一瞬の隙を見逃さずに駆け出した。

 そして、一歩目の踏み込みから瞬時にトップスピードに達していた。

『これは……流石、"瞬神"の二つ名を持つフォワードFWの高柳君だね』

「一体、何の情報カァアアアアアン!?』

 イチカの感心する様な呟きが聞こえ、カンがその情報にツッコミを入れた瞬間、その時は訪れた。


 "空き缶が、空を翔んだ全力で蹴られたのだった"
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

没落貴族なのに領地改革が止まらない~前世の知識で成り上がる俺のスローライフ~

昼から山猫
ファンタジー
ある朝、社会人だった西条タカトは、目が覚めると異世界の没落貴族になっていた。 与えられたのは荒れ果てた田舎の領地と、絶望寸前の領民たち。 タカトは逃げることも考えたが、前世の日本で培った知識を活かすことで領地を立て直せるかもしれない、と決意を固める。 灌漑設備を整え、農作物の改良や簡易的な建築技術を導入するうちに、領地は少しずつ活気を取り戻していく。 しかし、繁栄を快く思わない周囲の貴族や、謎の魔物たちの存在がタカトの行く手を阻む。 さらに、この世界に転生した裏には思わぬ秘密が隠されているようで……。 仲間との出会いと共に、領地は発展を続け、タカトにとっての“新たな故郷”へと変わっていく。 スローライフを望みながらも、いつしか彼はこの世界の未来をも左右する存在となっていく。

処理中です...