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第9話 姫ポジ

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 カンは缶蹴りで使う空き缶として、何度も子供達に蹴られ空中を舞いながら、どうしてこんな事になっているのだろうと考えていた。

『試練とは突然やってくるものであり、悲劇もまた同じなんだよ……』

「完全に悲劇カァアアアアアアン!? って、お主の仕業であろうが! 全くもって、こんなもの人災でしかないわ!」

 時折聞こえてくるイチカからの声に、カンは全力でツッコミを入れてしまっていた・・・・・・
  
「なぁ、さっきから変な声しない?」
「確かに缶を蹴るたびに、何か聞こえるね」
  
 イチカへのツッコミのみならず、蹴られる度に、カンは情けなくも悲鳴を毎度あげてしまっていた為に、流石におかしいと子供達が気付き出したのだった。

「我の存在に、やっと気付きおったか」
  
「空き缶が喋った!?」

 イチカがカンを介して施していた"限定的強制誘導エリア"は、あくまで"子供達の遊びで缶蹴りが物凄く流行っている公園"という条件であった。

 それ故に、その場の勢いで空き缶が悲鳴をあげるという不自然さに、これまでさほど気にしていなかった子供達であったが、流石に空き缶に話しかけられる事は、とても可笑しい・・・・という事に気付いた。

「ふふふ、恐れおののくが良い、我こそは……」
  
「おもしろぉい!」

「カァアアアアアアン!?」
  
 子供達は喋る空き缶を逆に面白がって、更に声を出させようと空き缶サッカーを始めたのだった。

 この公園の中では、強く"缶蹴り"に誘導される筈であったが、子供の好奇心は術で縛れるものではなかったようだった。

 その代わりに、遊戯としての"缶蹴り"は中断したが、サッカーボールの代わりに"缶を蹴って"いた。

 そして、カンは蹴られるごとに悲痛な悲鳴をあげていた。

「空き缶には、いきなりハードモード過ぎるカァアアアアアン!」

 そして、いよいよ体力が底をつきそうになった時、カンを庇うように一人の少女がカンを護るように立っていた。
  
「弱いものイジメは、かわいそうだよ!」

「カァアアン……弱い者……こふ……」
  
 助けられながらも、ある意味精神的に痛恨の一撃をくらったカンであった。

 ボディ的にも精神的にも追い込まれたカンであったが、同時に子供達の蹴りが飛んでこないことにホッとしていたのも、事実であった。

『ほう、勇ましいね。まるで騎士ナイトのようじゃないか』

 その様子をカンを通して観ていたイチカは、少女の勇気ある行動に感心していた。一方のカンは……

「まさかの姫ポジだとぉおお!?」

 自分の立ち位置が、決して強者である魔王ではなく、騎士に護られる姫のような状況であることに、無駄にプライドだけは高い空き缶は、更にメンタルにダメージを負っていた。

『何を今更、驚いているのさ。女の子が庇ってくれて、直ぐにホッとしてた癖に。ちょっと蹴りが止まって落ち着いたからって、ショックを受けた風に装うなんて、見苦し過ぎる空き缶だね』

「お主は、辛辣過ぎるがな……」

 カンはイチカの指摘に嘆息を吐きながらボヤいていた。しかし内心ではイチカの言う通り、自分が見苦しく酷く情けないと感じていた。

 それと同時に、どこかで同じことを体験していたような既視感デジャヴを感じていた。

「イチカよ」

『なんだい?』

「転生前の記憶……前世の記憶というのは、引き継がれるものなのか?」

『唐突だねぇ。今の状況に何か感じる事があるのかな? 前世の記憶ねぇ……普通・・は前世の記憶なんてものは、引き継がれる事はないね。当然、前世で持っていたけ力や術なんかも、普通・・は無理だよ』

「そうであるよな……」

 カンの問いに対してイチカは、少し含みのある答え方をしていた。


『転生』に際しての、"前世の記憶の有無"。

 『転生』に際して、前世の"記憶"や"技術"、"魔術"等を引き継ぐには『継承』という特別な力を持っている事が前提で本来起きる事だった。

 そして『継承』を持っている存在は、どの世界においても"強大且つ特殊な力を持つ者"に限られた。

 "魔王"や"賢王"、"英雄王"や"覇王"等といった『王』と呼ばれる者達が得ている力であり、逆にこの『継承』を得ているが為に、長い時を懸けて力を受け継ぐ事で、その世界で並ぶ者のいない程の存在になれたとも言えた。

 ただし、『継承』されるのは、あくまで"力"であり、その者の性格や性質と言ったものは別であった。

 その為、例え"魔王"であっても悪逆非道を形にした様な者もいれば、誰かの為に身を犠牲にする魔王も過去には存在していた。

 しかし当然、魔王に成った者の性質は、殆ど場合は前者であった。

 そしてカンの前世は、その世界における『王』という存在ではなかった。その為、前世から『継承』したものなど無い筈・・・であり、イチカも『継承』に付いて詳しい説明をカンにする気はなかった。

 だから、その他の可能性を提示したのだ。

『但し、その者の魂にまで刻まれる様な"強い想い"が乗っている"記憶"というのは、不思議な事に転生しても僅かに覚えている場合があるんだ。大抵の場合は、覚えていたとしても"意味"まで理解出来る者は少ないけどね』

「前世の記憶の"意味"……か」

『だからもし、今のその状況にカンが何か思う所があるのであれば……』

「あれば?」

『幼女とも言える様な年の女の子を下から見上げている時に、思い出す前世の記憶持ちなんて、間違いなくカンの前世は"変態紳士ロリコン"だったんだろうね』

「カァアアアアアン!?」

突然、悲鳴をあげたカンに対して、目の前の少女はびくっと身体を強張らせたのだった。

 ・・・・・・・
 名前:カン

 種族:空き缶(Lv.1)

 体力:3(最大10)

 技能:
 言語理解(全異世界において言葉による意思疎通が可能)

 状態:
 側面に凹み×6+頭部に歪み

 現在地:子供達の遊びで缶蹴りが物凄く流行っている公園
 ・・・・・・・
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