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第七章 悠久
纏う者達
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『嬉しそうな声で哭いちゃって、ふふふ』
デキスラニアは、目の前に映し出された外の映像を見ながら微笑んだ。
『でも、傷だらけである事には変わりないわ。背中に乗るあの人が、どうするかによるわね』
映像に映るシェンラとヤナは、気迫だけは十分といった様子だったが、特にシェンラは本当に気迫で飛んでいるように見えた。回復魔法が効かない竜殺しの武器で付けられた傷からは、竜の血が流れ続けている。
『私は大丈夫なんだから、あなたも生きて帰るのよ』
迷宮内の魔族は次々と討伐されており、勇者達一行もヤナビの指示の元、地上へと向かいながら残りの魔族を討伐していた。
「せやぁあああ!」
「グギャァアア!」
コウヤの聖剣が名無し魔族を切り捨て、ヤナビに向かって叫ぶ。
「ヤナビさん! 次は!」
「残りは、探索者と冒険者が対応出来ていますね。ここからは、全速力で地上へ向かいますよ」
ヤナビは徐ろに天井を見て、顔を顰めた。
「どうしたの? ヤナビちゃん、上はヤナがいるから大丈夫でしょ?」
アリスが、ヤナビにそう尋ねるが、顔は言葉とは裏腹に不安げな表情をしていた。
「マスターと共有している情報から判断するに、地上戦は今は何とかSランク冒険者達やアシェリ様達のお陰で均衡を保っています」
「今はって事は、そうなくなるかもってこと? それに地上戦って言うってことは、空中戦があるってこと?」
シラユキが、悪い予感がすると言いげに硬い表情でヤナビに問いかけた。
「……均衡が取れているのは、現在戦場が明確に分かれている為に戦いをコントロール出来ているからでしょう。各戦場を受け持っている方達が『挑発』で引きつけている為、拡散していませんからね」
「それなら、もし『狂化』したら……」
「えぇ、『狂化』状態になれば、『挑発』の効果が薄まります。結果……あぁ、敵も同じ事を考えている様ですね。相手を無視して、散り始め……ていない?」
ヤナビは、相変わらず天井を見つめながら、自分の予想が外れた事を確信した。
「ヤナビちゃん? 空中戦は?」
ルイが、待ちきれずといった様子で空中戦の事を、シラユキに続き問いかけた。
「空中戦は、マスターが戦っていましたが、先ほど敵に地上へと叩き落とされました。しかし今は、二人で空を駆け上がっています」
「二人?」
「えぇ、二人です」
ヤナビは、少し微笑んだ後に目線を勇者達へと戻した。
「地上の瘴気纏い火竜達が、一斉に大聖堂と避難区に分かれて向かい始めました! さぁ、全速力で走りますよ! 貴方達は勇者! この世界に生きる人々の希望! 限界は超えるためにあるのです! 限界を超えて走れぇええええ! 走らない子は、悪い子ですよぉおお!」
ヤナビは身体を鬼へと変化させ、手にしていた刀をナタへと変化させた。そしてナタを振り上げながら、勇者達を鼓舞した。
「「「ぎゃぁああああ!」」」
「ヤナ君とヤナビちゃんは、同類なんだねぇぇえええ!」
「ヤナ様は、私には優しかったのに! もう涙枯れるぅう!」
迷宮内に、勇者達と従者騎士ミレアの悲鳴が響き渡ったのだった。
「マスター、今度は私を置いていかないでくださいね」
ヤナビの少し寂しげな呟きは、迷宮の影へと吸い込まれ、誰にも聞かれることはなかった。
「あれは……ヤナと、シェンラちゃん?」
ライは、空に駆け上がる傷ついた竜の背中に乗るヤナを、地上から見上げていた。
「セアラ! 瘴気纏い共が二手に分かれ始めた! オラァ! 邪魔ぁあ!」
エディスが、瘴気纏火竜を蹴り飛ばしながら、相手が二手に散り始めた事に気付き叫んだ。
「アシェリ! 気配は追えますか! 私達を無視して移動している様です!」
セアラが、エディスの蹴り飛ばした瘴気纏い火竜にとどめを刺していたアシェリに向かって叫ぶ。
「ちょっと待ってください!……確かこの方角は……大聖堂! もう一方は……なんて言っていたかな……えっと……そうだ! 避難区です!」
アシェリの報告を聞き、四人がどちらに向かうか決めようと話を始めようとした時だった。ヤナビから仲間通話で、全員に呼出が入った。
「『ヤナビです! 皆様は大聖堂へと向かって下さい! 私は勇者様達を連れて、避難区へ向かいます!』」
そして、それだけ伝えるとヤナビからの通話は切れた。
「行くわよ! 大聖堂へ!」
「「はい!」」
「うん!」
そして、四人は駆け出した。
四人は、ヤナが一度空から叩き落とされたのを知っていた
それでも、彼女たちは自分達の戦場を離れなかった
ヤナから任された事を、全員が果たそうとした
そして、ヤナを信じていた
だから彼女達は、ヤナを背に大聖堂へと走る
彼が、無事に帰ってくる事を信じて
「ヤナよ、先ほど空に転移してきた我に落ちてきたが、何があったのだ」
俺は竜と成ったシェンラの背に乗り、再び俺の戦場へと戻るため、上昇していた。
「さっきは神火の翼で、あそこまで上がっていったんだがな。どうやら俺の翼より、あちらさんの竜の翼の方が早いらしい。しかも、あの竜には魔族の中でも上位に位置するような奴が乗ってやがってな。取り敢えず、相手の攻撃から離脱した所に、お前が急に現れたってとこだ」
「攻撃を離脱っていうより、完全に叩き落とされて来ておっただろう……負けず嫌いめ」
「……竜ってのは、飛ぶのが早い上に、あんなに騎乗している奴の思うがままって感じに飛べるのか?」
俺は、シェンラの呆れ声をスルーして、先程の戦闘を思い起こしながら、同じ竜であるシェンラに問いかけた。
「アレは、元々が業火竜であるからな。そこらの火竜とは比べ物にならぬよ。古代竜である我には及ばずとも、その飛ぶ速さは人では追いつけぬ」
「その業火竜より、シェンラの方が早いのか」
「普段であればな……ぐ……今の我の力と、瘴気纏いと成り果てた業火竜では、流石にあちらに分があるだろう」
俺は、神火の翼より早く飛翔しているシェンラを見ながら、身体中に付けられた傷を確認した。
「確かにこれじゃ、きついわな……よし、そのまま飛んでおけよ」
俺はシェンラの背に手を触れながら、頭の中にあるイメージを創り始めた。最強の竜の姿を、俺の心をときめかすドラゴンの姿をだ。
「何をする気なのだ」
「ふふふ、大丈夫だって。俺に任せろ、今からお前をパワーアップしてやる!」
「……良い予感がせぬのだが?」
俺はシェンラの言葉をスルーし、シェンラを変身させる。
「『明鏡止水』『十指』『神火の大極柱』『収束』『形状変化』『神火全身機械天空竜』!」
「な!? 神の火に身体が……ぬわぁあああああ!」
そして、シェンラは神の火に包まれ、再び火の中から姿を現した。まるで不死鳥の如く、火の中からパワーアップした姿を神々しく空に輝かせていた。
「おぉおおおお! 想像以上に……かっこいいぃいいい!」
「な……な……なんなのじゃぁああああ!」
シェンラが、思わず『のじゃドラ』になる程に喜んでいる。顔も全て神々しい真っさらに輝くホワイトボディで、機械的な外装で覆われている。表情が見えない為、実際は喜んでいるのか分からないが、こんな格好良いボディを装備して喜ばない筈がない。
「やっぱり竜に鎧を着せるなら、絶対メカっぽくしないとな! いやぁ、会心の出来だな。あとで、そのまま街の上を旋回しような!」
「はしゃぎすぎじゃろ! せっかく妾が古代竜らしい話方をしておったのに、台無しなのじゃ!」
「いやいやいやいや、逆に考えてみろ。この世界で全身鎧を装備して似合う竜なんて、古代竜以外に、何処にいるっていうんだ!」
俺は、有らん限りの力で叫んだ。
「確かに……竜が鎧を装備するなど、発想がなかったのじゃ」
そもそも、竜の鱗自体が尋常じゃない強度を持っているので、装備等必要ないだろうと思いながらも、口に出すことはない。
「そうだろう? これが初代勇者のいた世界の偉大なる言葉『発想の転換』だ!」
「なんじゃとぉおお!」
「ふふふ、そして俺も変身だ!『神火の鎧』『形状変化』『神火竜騎士』!」
俺の神火の鎧を『神火竜騎士』へと形状変化を施した。
シェンラと同じく全身鎧に変わり、新たに追加したマントを翻しながら、鎧には竜の爪をイメージした装飾を施した。頭部を覆う兜は、当然竜の頭を模したものになっている。
当然だが、格好良いことこの上ない。寧ろ何故今まで、これをしなかったのか不思議に思ったくらいだ。
「………」
「どうだ。古代竜に乗る竜騎士に相応しい姿になったとは思わんか?」
シェンラが、顔を俺に向けて黙っていたが、俺は自信満々に言い放った。
「お主は、妾の想像の上を行くのじゃ……それに気力が、身体の底から湧いてくるのじゃ……これは……」
「それが神火全身機械天空竜に成った効果だ。気分が乗ってくるだろう?」
こんな格好いい装備に初めて身を包んだら、テンションが上がらない筈がない。
「この高揚感が『神火全身機械天空竜』の効果……今なら、何が来ても妾達を止めること出来はしないのじゃ!」
そして神火全身機械天空竜は、もう目の前にまで迫ってきた悪の竜騎士達に向かって咆哮した。
俺とシェンラは、上空にいた奴らの前に躍り出た。
「さぁ、戻ってきたぞ。今度は俺も神火竜騎士と成り、神火全身機械天空竜と一緒にな」
「そうでなくてはな。我が半身であるケンシーを、葬った男ではあるまい」
瘴気が漂う禍々しき全身鎧に身を包み、手には瘴気を溢れさせている魔槍を携えた魔族が、嬉しそうにしていた。
「大層な竜を手に入れた様だが、我が手に入れたこの瘴気狂煉獄竜も中々だぞ?」
瘴気狂煉獄竜と言われた竜は、ただの瘴気纏いより更に瘴気に濃く染まっており、瘴気がさも鎧の様に全身を覆っていた。
「そんな胸糞悪い瘴気なんぞに染められたら、全て台無しだけどな」
「この心地良さが分からぬとは憐れだな。そう言えば、名乗っておらなかったな、先ほどはお前があっさり落ちていったからな、クックック」
馬鹿にするように笑った後に、魔族は名乗りを上げた。
「我はキリュウ、悪神様の巫女を誑かすお前を殺す者だ」
「竜に乗って名前が騎竜って、剣士といいボキャブラリー無さすぎだろ……」
俺は、ケンシーと同じような適当な名前のキリュウを前にして、思わず呆れ声を出したが、精神は集中していた。先程一太刀合わせた瞬間に、コイツがケンシーと同格という事は把握していた。
「俺はヤナ。女を泣かすクソヤロウを殺す男だ」
大空で『神火を纏し竜騎士』と『瘴気を纏し竜騎士』が、互いの竜の咆哮を合図に激突した
街の遥か上空は、空を駆ける覇者を決める戦場と化したのだった
翼を持たぬ者は立ち入る事すら許されず、その戦いは苛烈を極めていくのであった
デキスラニアは、目の前に映し出された外の映像を見ながら微笑んだ。
『でも、傷だらけである事には変わりないわ。背中に乗るあの人が、どうするかによるわね』
映像に映るシェンラとヤナは、気迫だけは十分といった様子だったが、特にシェンラは本当に気迫で飛んでいるように見えた。回復魔法が効かない竜殺しの武器で付けられた傷からは、竜の血が流れ続けている。
『私は大丈夫なんだから、あなたも生きて帰るのよ』
迷宮内の魔族は次々と討伐されており、勇者達一行もヤナビの指示の元、地上へと向かいながら残りの魔族を討伐していた。
「せやぁあああ!」
「グギャァアア!」
コウヤの聖剣が名無し魔族を切り捨て、ヤナビに向かって叫ぶ。
「ヤナビさん! 次は!」
「残りは、探索者と冒険者が対応出来ていますね。ここからは、全速力で地上へ向かいますよ」
ヤナビは徐ろに天井を見て、顔を顰めた。
「どうしたの? ヤナビちゃん、上はヤナがいるから大丈夫でしょ?」
アリスが、ヤナビにそう尋ねるが、顔は言葉とは裏腹に不安げな表情をしていた。
「マスターと共有している情報から判断するに、地上戦は今は何とかSランク冒険者達やアシェリ様達のお陰で均衡を保っています」
「今はって事は、そうなくなるかもってこと? それに地上戦って言うってことは、空中戦があるってこと?」
シラユキが、悪い予感がすると言いげに硬い表情でヤナビに問いかけた。
「……均衡が取れているのは、現在戦場が明確に分かれている為に戦いをコントロール出来ているからでしょう。各戦場を受け持っている方達が『挑発』で引きつけている為、拡散していませんからね」
「それなら、もし『狂化』したら……」
「えぇ、『狂化』状態になれば、『挑発』の効果が薄まります。結果……あぁ、敵も同じ事を考えている様ですね。相手を無視して、散り始め……ていない?」
ヤナビは、相変わらず天井を見つめながら、自分の予想が外れた事を確信した。
「ヤナビちゃん? 空中戦は?」
ルイが、待ちきれずといった様子で空中戦の事を、シラユキに続き問いかけた。
「空中戦は、マスターが戦っていましたが、先ほど敵に地上へと叩き落とされました。しかし今は、二人で空を駆け上がっています」
「二人?」
「えぇ、二人です」
ヤナビは、少し微笑んだ後に目線を勇者達へと戻した。
「地上の瘴気纏い火竜達が、一斉に大聖堂と避難区に分かれて向かい始めました! さぁ、全速力で走りますよ! 貴方達は勇者! この世界に生きる人々の希望! 限界は超えるためにあるのです! 限界を超えて走れぇええええ! 走らない子は、悪い子ですよぉおお!」
ヤナビは身体を鬼へと変化させ、手にしていた刀をナタへと変化させた。そしてナタを振り上げながら、勇者達を鼓舞した。
「「「ぎゃぁああああ!」」」
「ヤナ君とヤナビちゃんは、同類なんだねぇぇえええ!」
「ヤナ様は、私には優しかったのに! もう涙枯れるぅう!」
迷宮内に、勇者達と従者騎士ミレアの悲鳴が響き渡ったのだった。
「マスター、今度は私を置いていかないでくださいね」
ヤナビの少し寂しげな呟きは、迷宮の影へと吸い込まれ、誰にも聞かれることはなかった。
「あれは……ヤナと、シェンラちゃん?」
ライは、空に駆け上がる傷ついた竜の背中に乗るヤナを、地上から見上げていた。
「セアラ! 瘴気纏い共が二手に分かれ始めた! オラァ! 邪魔ぁあ!」
エディスが、瘴気纏火竜を蹴り飛ばしながら、相手が二手に散り始めた事に気付き叫んだ。
「アシェリ! 気配は追えますか! 私達を無視して移動している様です!」
セアラが、エディスの蹴り飛ばした瘴気纏い火竜にとどめを刺していたアシェリに向かって叫ぶ。
「ちょっと待ってください!……確かこの方角は……大聖堂! もう一方は……なんて言っていたかな……えっと……そうだ! 避難区です!」
アシェリの報告を聞き、四人がどちらに向かうか決めようと話を始めようとした時だった。ヤナビから仲間通話で、全員に呼出が入った。
「『ヤナビです! 皆様は大聖堂へと向かって下さい! 私は勇者様達を連れて、避難区へ向かいます!』」
そして、それだけ伝えるとヤナビからの通話は切れた。
「行くわよ! 大聖堂へ!」
「「はい!」」
「うん!」
そして、四人は駆け出した。
四人は、ヤナが一度空から叩き落とされたのを知っていた
それでも、彼女たちは自分達の戦場を離れなかった
ヤナから任された事を、全員が果たそうとした
そして、ヤナを信じていた
だから彼女達は、ヤナを背に大聖堂へと走る
彼が、無事に帰ってくる事を信じて
「ヤナよ、先ほど空に転移してきた我に落ちてきたが、何があったのだ」
俺は竜と成ったシェンラの背に乗り、再び俺の戦場へと戻るため、上昇していた。
「さっきは神火の翼で、あそこまで上がっていったんだがな。どうやら俺の翼より、あちらさんの竜の翼の方が早いらしい。しかも、あの竜には魔族の中でも上位に位置するような奴が乗ってやがってな。取り敢えず、相手の攻撃から離脱した所に、お前が急に現れたってとこだ」
「攻撃を離脱っていうより、完全に叩き落とされて来ておっただろう……負けず嫌いめ」
「……竜ってのは、飛ぶのが早い上に、あんなに騎乗している奴の思うがままって感じに飛べるのか?」
俺は、シェンラの呆れ声をスルーして、先程の戦闘を思い起こしながら、同じ竜であるシェンラに問いかけた。
「アレは、元々が業火竜であるからな。そこらの火竜とは比べ物にならぬよ。古代竜である我には及ばずとも、その飛ぶ速さは人では追いつけぬ」
「その業火竜より、シェンラの方が早いのか」
「普段であればな……ぐ……今の我の力と、瘴気纏いと成り果てた業火竜では、流石にあちらに分があるだろう」
俺は、神火の翼より早く飛翔しているシェンラを見ながら、身体中に付けられた傷を確認した。
「確かにこれじゃ、きついわな……よし、そのまま飛んでおけよ」
俺はシェンラの背に手を触れながら、頭の中にあるイメージを創り始めた。最強の竜の姿を、俺の心をときめかすドラゴンの姿をだ。
「何をする気なのだ」
「ふふふ、大丈夫だって。俺に任せろ、今からお前をパワーアップしてやる!」
「……良い予感がせぬのだが?」
俺はシェンラの言葉をスルーし、シェンラを変身させる。
「『明鏡止水』『十指』『神火の大極柱』『収束』『形状変化』『神火全身機械天空竜』!」
「な!? 神の火に身体が……ぬわぁあああああ!」
そして、シェンラは神の火に包まれ、再び火の中から姿を現した。まるで不死鳥の如く、火の中からパワーアップした姿を神々しく空に輝かせていた。
「おぉおおおお! 想像以上に……かっこいいぃいいい!」
「な……な……なんなのじゃぁああああ!」
シェンラが、思わず『のじゃドラ』になる程に喜んでいる。顔も全て神々しい真っさらに輝くホワイトボディで、機械的な外装で覆われている。表情が見えない為、実際は喜んでいるのか分からないが、こんな格好良いボディを装備して喜ばない筈がない。
「やっぱり竜に鎧を着せるなら、絶対メカっぽくしないとな! いやぁ、会心の出来だな。あとで、そのまま街の上を旋回しような!」
「はしゃぎすぎじゃろ! せっかく妾が古代竜らしい話方をしておったのに、台無しなのじゃ!」
「いやいやいやいや、逆に考えてみろ。この世界で全身鎧を装備して似合う竜なんて、古代竜以外に、何処にいるっていうんだ!」
俺は、有らん限りの力で叫んだ。
「確かに……竜が鎧を装備するなど、発想がなかったのじゃ」
そもそも、竜の鱗自体が尋常じゃない強度を持っているので、装備等必要ないだろうと思いながらも、口に出すことはない。
「そうだろう? これが初代勇者のいた世界の偉大なる言葉『発想の転換』だ!」
「なんじゃとぉおお!」
「ふふふ、そして俺も変身だ!『神火の鎧』『形状変化』『神火竜騎士』!」
俺の神火の鎧を『神火竜騎士』へと形状変化を施した。
シェンラと同じく全身鎧に変わり、新たに追加したマントを翻しながら、鎧には竜の爪をイメージした装飾を施した。頭部を覆う兜は、当然竜の頭を模したものになっている。
当然だが、格好良いことこの上ない。寧ろ何故今まで、これをしなかったのか不思議に思ったくらいだ。
「………」
「どうだ。古代竜に乗る竜騎士に相応しい姿になったとは思わんか?」
シェンラが、顔を俺に向けて黙っていたが、俺は自信満々に言い放った。
「お主は、妾の想像の上を行くのじゃ……それに気力が、身体の底から湧いてくるのじゃ……これは……」
「それが神火全身機械天空竜に成った効果だ。気分が乗ってくるだろう?」
こんな格好いい装備に初めて身を包んだら、テンションが上がらない筈がない。
「この高揚感が『神火全身機械天空竜』の効果……今なら、何が来ても妾達を止めること出来はしないのじゃ!」
そして神火全身機械天空竜は、もう目の前にまで迫ってきた悪の竜騎士達に向かって咆哮した。
俺とシェンラは、上空にいた奴らの前に躍り出た。
「さぁ、戻ってきたぞ。今度は俺も神火竜騎士と成り、神火全身機械天空竜と一緒にな」
「そうでなくてはな。我が半身であるケンシーを、葬った男ではあるまい」
瘴気が漂う禍々しき全身鎧に身を包み、手には瘴気を溢れさせている魔槍を携えた魔族が、嬉しそうにしていた。
「大層な竜を手に入れた様だが、我が手に入れたこの瘴気狂煉獄竜も中々だぞ?」
瘴気狂煉獄竜と言われた竜は、ただの瘴気纏いより更に瘴気に濃く染まっており、瘴気がさも鎧の様に全身を覆っていた。
「そんな胸糞悪い瘴気なんぞに染められたら、全て台無しだけどな」
「この心地良さが分からぬとは憐れだな。そう言えば、名乗っておらなかったな、先ほどはお前があっさり落ちていったからな、クックック」
馬鹿にするように笑った後に、魔族は名乗りを上げた。
「我はキリュウ、悪神様の巫女を誑かすお前を殺す者だ」
「竜に乗って名前が騎竜って、剣士といいボキャブラリー無さすぎだろ……」
俺は、ケンシーと同じような適当な名前のキリュウを前にして、思わず呆れ声を出したが、精神は集中していた。先程一太刀合わせた瞬間に、コイツがケンシーと同格という事は把握していた。
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