要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
155 / 165
第七章 悠久

空へ

しおりを挟む
「『おらおら! 蝋燭トカゲ共! 吹き消してやるからこっち来いや!』」

 俺は空中へと『神火の大翼イカロス』で飛び上がり、障壁をすり抜けて来る瘴気纏火竜達を、『挑発』で引きつけて斬り捨てていた。

 上空から街を見下ろすと中央広場で、アシェリ達が同じ様に瘴気纏火竜達を引きつけながら、四人で連携しながら戦っていた。

 そして、迷宮から東の方でも瘴気纏火竜達が集まっていたが、咆哮すら聞こえず、何故か風が止んだ凧の様に落ちていく。

「あそこは『凪』キョウシロウか……一体何したら、あんなに穏やかな戦場が生まれるんだ?」

 そして、反対側の迷宮管理局の方角では、先程とは正反対に瘴気纏火竜達の断末魔が響き渡り、阿鼻叫喚の戦場と化していた。

「……あっちはアヤメか……うん、あそこには近寄らない様にしよう」

 現状は、すり抜けて来る瘴気纏火竜の数と、防衛側が斬り捨てる数が大体釣り合っている為、このままであれば事態は収束に向かうだろう。

 迷宮のヤナビから度々もたらされる報告でもAランク冒険者と上級探索者達の連携もあり、迷宮内の魔族達の掃討も滞りなく進んでいるとの事だった。ただし、報告毎に大きくなっていく勇者達の悲鳴は、心の中で合掌しながらもスルー無視した。

「まぁ、このままって事はないだろうな……ん? 何だありゃ?」

 俺が、向かってくる瘴気纏火竜達を斬りながら、上空の大物の気配に注視していると、太陽の様なモノが大物竜の周りに出現していた。

「おいおいおい、アレが障壁をすり抜けるって事は……くそ! マジですり抜けやがった!」

 紅蓮の炎に包まれた大岩が隕石の如き勢いで、各戦場へと降り注いた。

「『狂喜乱舞ヤナ流二刀剣術』『千塵斬りチリトナレ』」

 俺に落ちてきた燃える隕石は、千塵斬りチリトナレで文字通り塵になるまで斬り刻んだ。他の戦場も各々が燃える隕石を処理していたが、大聖堂へと向かっていた隕石へと目を向けると、大聖堂の天辺にコイス局長とリンダ秘書がポージングで待ち構えていた。

「……何してんだアレ?……嘘……だろ?」

 二人は落ちてきた隕石を、胸筋をアピールするボディビルの代表的なポージングであるサイドチェストで受け止めていた。そして同時に二人の身体から液体が噴き出し燃える隕石を包み込み炎も消えていた。

 そして、二人の白い歯と更にテカリを増したボディは無傷のまま、力を失った隕石は地上へとゆっくり落ちていった。

 俺は、二人の高笑いを聞きながら、絶対にあの二人と手合わせはしないと心に固く誓った。

 そして、あの二人の様子を見て絶句していると、キョウシロウから呼出コールが入った。

「『キョウシロウだ。おい、あんまりあの二人の戦い方を見ないほうがいい。伝染するぞ?』」

「『は? 伝染? てか、あの人たちなんなんだ? どうなってんだ、この都市の事務方って』」

「『あの二人は、迷宮二百階層単独到達の記録を持つ元最上級探索者であるコイス局長と、元Aランク冒険者のリンダだからな。二人揃うと『筋肉魅了マッスルチャーム』の名で冒険者や探索者達に恐れられるペアだ』」

「『ん? 何で冒険者・・・探索者・・・に恐れられるんだ?』」

 俺は、魔物ではなく何故同業者から恐れられるのか不思議に思い、思わず聞き返してしまった。

「『奴らのあの戦い方を見てるとな……知らないうちに自分もその格好を取り出すんだよ……気付くと鏡の前で……まるで魅了チャームにかかった様にな……』」

「『そんな魅了チャームは嫌だぁあああ!』」

 俺が絶叫すると、周りの瘴気纏火竜達が一瞬ビクッとなった為、その隙を突いて序でに斬り捨てた。

「『お前が筋肉魅了マッスルチャームに掛かろうが、どうでも良いんだが、上のやっこさん何とか出来るか? またさっきの燃える大岩降らせようとしてやがる。このまま降り注がれると、戦場が乱されて乱戦に持ち込まれそうだ』」

「『確かにちょっとあのポージングしてみたく……なんて凶悪な魅了チャームなんだ……空のアレか、俺の今受け持っている分の雑魚共は、あんたが引き取ってくれるのか?』」

「『あぁ、引き連れてこっちに来い。ある程度こっちに近づいたら俺が引き受けるから、お前は上のでかいのまで飛んでいけ』」

「『分かった。今からそっちへ向かう』」

 俺は再度『挑発』をかけた後に、キョウシロウの戦場へと飛んで向かった。

 そして、近づいた所でキョウシロウから再び呼出コールがはいった。

「『そこで、止まれ! それ以上はコッチに来るな。お前も落ちるぞ?』」

 俺は、キョウシロウに言われた瞬間に気配を完全に消し更に上空へと垂直に飛び上がった。

「『おいおい、こりゃ……あんたも涼しい顔してエゲツないな』」

 地上へと目線を向けると、キョウシロウのスキルなのか地上から突き出ている刀の型をした突起物に、剣山に刺さる華の様に瘴気纏火竜達が突き刺さり絶命していた。そして、俺を追いかけて来ていた瘴気纏火竜達は気配を突然消した俺を見失い、そのまま目の前のキョウシロウへと向かっていった。

 キョウシロウは、向かって来た瘴気纏火竜達に向かって、だらりと片手に刀を持ったまま剣技の名を発した。


「『夜凪に眠れおやすみ』」


 キョウシロウが、一振り向かってきた瘴気纏火竜達に向かって優しく刀を振るうと、次々と瘴気纏火竜達が眠る様に失神して地上へと落下していった。


「『朝凪の目覚めおはよう』」


 キョウシロウが返す刀で、そのまま自分が立っていた建屋の屋上に剣を突き立てた。

「……それじゃ、目覚める前に永眠だろ」

 気絶し落下していく瘴気纏火竜達に、キョウシロウが屋上で刀を突き立てた瞬間、地面が刀の型に隆起して瘴気纏火竜達を貫いた。

 キョウシロウは、俺に向かって空を指差した。

「あぁ、行ってくる」

 そして、俺は大物目掛けて更に上昇していった。



『シェンラ! 意識はある!? 大丈夫!?』

 妾は『竜に逆鱗プッツン』で無理やり力を引き出し、最下層に攻め込んで来た魔族共を一掃した。

「クハ……ハハハ……オマエの傷は……瘴気を纏った竜殺し武器ドラゴンスレイヤーで……ツケタモノダ……回復魔法では回復セヌ」

「だったら……何じゃというのじゃ」

「無理ヤリ腕輪を……外した様だが……もう力もノコッテイマイ……キリュウ様がアノ竜を手にしたイマ……オワリ……ダ……」

 最後まで妾に捨て台詞をは吐いていた魔族は、塵になり崩れていった。

「業火竜の奴が瘴気纏いに……ぐぅ……なっておるのなら……妾が行かねば……」

 妾は片足を引き摺りながらも、デキスのいる最奥の間へ辿り着いた。

『シェンラ! 大丈夫! 』

「デキス……ちと疲れたが、何とかなったのじゃ……上はどうじゃ?」

『上の階層にいた魔族達は、今代の勇者達と探索者と冒険者が掃除してくれてるわ。このままなら、私が侵食される前に瘴気の侵入は防げる筈よ』」

「という事は、地上次第と言う事じゃな……ぐぅううう……さぁ、妾を上に転移するのじゃ」

 妾は『竜の逆鱗プッツン』を使用した影響と竜殺しの武器ドラゴンスレイヤーで与えられた傷により、気を抜くと意識を失いそうになりながらも、自分の役割を果たさんとした。

『その身体で、瘴気纏いになった業火竜と魔族と戦う気?……あなたの時間が、終わるわよ?』

「ふふふ、妾が滅すると言うのか……最後まで妾が立てた誓いを、全うできるなら……それもまた、良しじゃ」



 あれから悠久の刻が経とうとも、我は貴方を・・・待ち続けた

 その為に我の刻は、永く与えられているのだから



 最奥にて護り続けた

 貴方の街を

 貴方の仲間を



 我の悠久の刻が、今日という日に終わろうとも

 我の心は、その事に恐れはしない

 あなたの為に、我の刻を使う事が出来るのだから



「次は限りある刻を生きてみたいものじゃな……さぁ、デキス頼むのじゃ」

 妾は転移陣の上へと移動し、デキスに戦場へと転移する様に頼んだ。

『あなたは、私の友。だから、あなたを止めないわ。誇り高き古代エインシェントドラゴンである天空の覇者シェンラは、誰よりも美しく、誰よりも力強く空を駆ける』

「ふふふ、そうじゃ! 妾は『天空の覇者』シェンラなのじゃ! 妾の領域を穢す者を討ち滅ぼしてくれるのじゃ!」

 そして、転移陣が光だし起動し始めた。


「行ってくるのじゃ」

『いってらっしゃい』


 全身が光に包まれ、次の瞬間に妾は空へと転移し、目の前には美しい青い空が広がっていなかった・・・・

「は?」

「どけぇえええええ!」

 妾に向かってあの人が、突撃してきていた。

「えぇええええ! なのじゃぁあああ!」

 そして、避ける間もなく激突し、そにまま落下した。



「うぅう……いきなりアレは酷いのじゃ……ここは、地上かの?」

 妾は、気付くと地上の建物の中まで吹き飛ばされた様だった。

「がはっ……くそ……どこの漫画の世界だよ、ここは……吹き飛ばされて建屋を何個も付き抜けるとか……」

 妾が、誰かの声が聞こえた方を見上げると・・・・・、ヤナが悪態をついていた。

「お主、妾をその身で庇ったか! 馬鹿者めが! この街の建物は恐ろしく頑丈に作っておるのだぞ! ぐぅ……見ろ……お主から血が流れ出ておる」

 この街の建物は、あの人が考案した製法により、恐ろしく硬く頑丈になっているのだ。それにあの速度で、激突すれば無事で済むはずない。

「はは、どの口がそんな事いうんだか……うぐ……むしろお前の方が、ボロボロじゃないか」

「ちと、遊んでおったら汚れただけなのじゃ」

「なら、俺と一緒だな。さぁ、俺はもう少し遊んで来るから、シェンラは回復してやるからここから離れてろ『応急処置ファーストエイド』」

 ヤナはどうやら、妾に回復魔法をかけようとした様だが、その顔は険しいものとなっていた。

「効かぬのじゃろ?」

「……あぁ、何故だ」

「そう言う類の傷と言う事じゃ。回復魔法が効かぬというだけで、時間をかければ自己治癒はするがの」

「そうか……それなら今からここを神火で防護してやるから、動けるようになるまでここを動くなよ」

 ヤナは、妾に向かって手をかざしていたが、妾はヤナの腕を掴みそれを止めた。

「何故止めた……」

「必要ないからじゃ……ぐっ……妾は、上の奴に用があるのじゃ」

 妾はよろめきながらも、崩れかけている建屋から外へと出て行った。

「おいおい、どこ行く気だ!」

 ヤナも同じ様に、ふらつきながらも妾の後を追って外へと出てきた。

 上を見上げると今度こそ、妾の空が広がっていた。

「一体何を……」

 妾はヤナの困惑している顔を見ながら、微笑む。

「言ったであろう? は『天空の覇者シェンラ』だと。あの空は、我のもの。穢れ者達にくれてやるつもりはないわぁあああ!」

 我は、全身を元の姿古代竜の姿へと戻した。

「どうした? その様な信じられない様なものを見る目をして。我が、人の姿でお主を謀った事を怒っておるのか? それとも希少素材にでも見えるか? くくく」



 ヤナは、魂は同じでもあの人とは違う

 もしかしたら、元の姿へと目の前で戻る事で、今まで騙された事を怒り狂うかもしれない

 もしかしたら、我を希少素材と見るかもしれない

 我は、情けない事に足が震えていた

 傷からくる震えではない

 恐れたのだ

 この人に拒絶される事を

 悠久の刻を生きてきた古代エインシェントドラゴンの我が

 一人の男に拒絶される事を恐れているのだ



「あぁ? 怒る? 素材? バカ言え! そんな事あるわけ無いだろう!」

「現にお主は今、怒っておるではないか」

 我は、ヤナの様子を見て心が沈んでいくのを感じた。

 ヤナは、明らかに怒っていた。

「俺が怒っているのは、シェンラが自分の事を素材とか言い出したからだ!」

「は?」

「はぁ、お前は何もわかっていないな」

 ヤナは心底呆れる様に呟いていた。

「何を言って……」

「竜が人語を話し、更には『のじゃロリ』の姿になれるだと! これほど、ファンタジーなお約束テンプレが何処にある!」

 ヤナは拳を天高く、突き上げて声高らかに吠えていた。

「………くくく……くはははは! 何とも可笑しな事もあるものだ……それならば、次に発する言葉は決まっておろうな?」


 我は、ヤナに問いかけた。

 我とヤナは同時に言葉を発した。



 お互いの想いを伝え合うかの様に

 その言葉は重なった


「俺を乗せろ」
「我に乗れ」


 背にかつての友を乗せた竜は

 街全体に響く咆哮を上げた

 その咆哮は、不思議と喜びを伝える様でもあった



竜騎士ドラグーン』は再び大空へ舞い上がる
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...