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第七章 悠久
素手喧嘩
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「ギルドの訓練場を、今から使うことは出来るか?」
俺達は、迷宮からギルドへと移動し、総合受付でギルドの訓練場が使えるかを尋ねた。
「大中小の内、中は使われていますので、大か小の訓練場が使えますが如何されますか?」
「大訓練場で頼む。時間は、今から夕飯ぐらいまでだから……一時間ぐらいでいいかな」
俺が時間を受付の職員の女性に伝えると、背後から何故か溜息のようなものが聞こえた気がしたが、気のせいだろう。遊ぶのに溜息なんて、絶対に出るわけがない。
「承知しました」
俺は、訓練場の使用料を自分の口座からの引き落としで頼み、大訓練場へと向かった。小中訓練場は四階、五階にあるらしいが、大訓練場は地下一階にある為、俺達は地下へと階段を下って行った。
「おぉ、フロア全体が全て訓練場になっていて、広くていいな。天井も案外高いんだな。地下だからと低いかもと思ったが、これなら結構思いっきり行けそうだ」
そして、俺は床や訓練場の壁を、コンコンと拳で硬さを確認していった。
「主様、どうされたのですか?」
「いやな、さっき総合受付でギルド本部の訓練場の特徴を聞いてきたんだが、床も壁も相当硬い素材を使っている上に、対物理魔法障壁やら強度強化やらが何重にもかけてあるらしいんだよ」
俺が、感心したように話していると、エディスも同じように感心している様子だった。
「流石、本部の訓練場ね。前来た時は、使わなかったからここには来なかったけど、支部の訓練場の比じゃない頑強さがあるわね」
俺と、エディスが訓練場の仕様に感心していると、セアラがスカートの中から鬼の金棒を取り出し、思いっきり壁を叩きつけた。
「これは……おそらく衝撃緩和系の障壁も重ね掛けしてありますね。これなら、ヤナ様も思いっきり出来るかもしれませんよ?」
セアラは、俺の思考を読んだかのように、そう告げてきた。
「ふふふ、セアラよく分かっているじゃないか、俺もそれを丁度考えていたところだ」
俺とセアラは嗤いあう。
「あの娘、大丈夫なのか? 違った意味で、ヤナよりも怖い顔で嗤っておるのだが……」
「シェンラちゃん、セアラお姉ちゃんのあの顔は見ちゃダメだって、みんなに教わったよ」
「……そうだの、それはきっと正しい事なのじゃ……」
ライとシェンラは、しっかりセアラの嗤い顔から目を背けていた。
そして、俺は期待を込めて腕輪と指輪を外し、ランニングしてみた。
「おぉ! 壊れない! 抉れない! 地面が割れない! 素晴らしいぞ! ギルド本部の訓練場はぁあああ!」
俺は徐々に速度を増しながら、縦横無尽に駆けてみたが、訓練場は全く壊れなかった。
「なんか、逆に壊れないと悔しいな……今度は『天』『地』で斬りつけ……」
「「「やめなさい!」」」
「ヤナ、悔しそう」
「唯のアホだの」
三人に止められたが、気分は良かった。これで、一層激しく鍛錬が出来る事に、完全に気を良くしていた俺は、早く腕輪と指輪の無い状態で鍛錬をするべく準備をする。
「まぁ、あれだ、時間も一時間しかないし、今日は遊ぶって言ってたし、良いよな? 遊んでも? な? 今度からはさ、ちゃんと抑えるからさ、な?」
俺はウキウキが止まらず、顔が自分でも分かるほどに嗤いで歪む。
「「「ひぃ!?」」」
「アレも見ちゃ駄目なやつじゃな!?」
「アレは、かっこいいかな」
「「「「え!?」」」」
ライの呟きに、俺は一層気分が乗ってくる。
「『明鏡止水』『三重』『神殺し』『天下無双』」
本気で身体強化を行い、更に魔法を唱える。
「『神火の断崖』『形状変化』『神火の鎧』」
更に、神殺しの刀『天』『地』にも、神火で表面加工を施した。
「……マスター、ガチじゃないですか」
俺は、自由に制御出来ない『死中求活』と『六倍重ね掛け』を除き、今の最高の状態を創り上げた。
「あぁ、ガチだ。いい機会だからな、一度この状態であいつらの今の状態を見ておきたかったしな」
俺は嗤いながら、アシェリ達を見る。
「あなたのも、全部見せてね」
「主様の全部を、受け止めたいです」
「ヤナ様の全てを、頂きます」
三人も、俺を見て嗤い返す。
「若干、あの娘達もおかしい気がするが、気のせいかの?」
「ヤナビ先生が、お姉ちゃん達が変になったら、あんまり真似しちゃダメだって言ってた」
シェンラがライの言葉を聞き呆れているが、何を呆れる事があると言うのだ。
「シェンラは三人の相手をしてから、遊んでやるよ」
「妾と遊ぶとは、言いよるのぉ」
「シェンラちゃんも、似たような人だったんだね」
シェンラの嗤い顔を見て、ライが少し離れて呟いていた。
「さぁ、みんな俺と遊ぼうか」
次の瞬間、訓練場の中央で轟音が鳴り響いた。
「あやつは、一体何者なのじゃ?」
ヤナが身に纏った魔法を見て、余裕の表情を作りながらも、実際はかなりの衝撃を妾は受けていた。
「神火魔法なぞ、妾達の領域じゃぞ? よもや、人の身で使える者がおったとはの……」
古代の時代から、悠久の刻を生きる者が過酷な死地を幾つも乗り越え、その中でも極一部の者だけが至る事の出来る境地。
『神』の名を冠した魔法。
「しかも、何じゃあの身体強化の状態は、すでに膂力で妾と対等か……それ以上かもしれんの……アレは、本当に人か?」
三人の娘達も、相当な強さである事は一目して分かったが、その三人をしてヤナは嬉々として攻撃を躱し、自らの斬撃は与え三人を壁へと吹き飛ばしていた。三人は壁に激突し、戦闘不能な程に痛みつけられると、すぐさま隣にいたライと呼ばれている娘が回復に走っていき、『神聖魔法』で回復しすぐさま戦線へと娘達は駆け出していっていた。
「それにあのライと呼ばれている娘は、身体の状態が変わっている事に加えて、『神聖魔法』を使っておる。ヤナに加えて『神』の魔法を扱うとはどう言う事じゃ」
そもそも、戦っている三人の娘自体も、異常な程に魂から発する気が清らかで、僅かな時間だけだったが、先ほどまで一緒にいた時は心地良かったのだ。
「色々興味が尽きぬ者達じゃ。これもまた、何かしらの導きかもしれんの。妾の待ち人も、もしや……」
妾が、考えに更けようとした瞬間だった。これまでで一番の壁に激突する三つの轟音が、訓練場内に轟いた。
「うむ、成長はしているし、攻撃や防御の動きも良い。それに、一人一人が敵わないと判断するや否や、三人での連携に目配せのみで移行したのは、結構驚きだったな」
「……ごふ……それを物ともしないあなたに……驚きよ」
「かはっ……月狼で刺し違える覚悟で行っても……届かないでしょうね」
「……フフフ……アハハハハハハハハ!」
「……取り敢えず、セアラを正気に戻そうか……」
ライに三人を回復させつつ、セアラを宥めながら、次のシェンラの事を考えていた。
シェンラは完全に所謂『のじゃロリ』といった感じだったが、俺を蹴り飛ばすだけの膂力がある事は既に実感している。しかも、俺に躱させていないという事実もあるのだ。
「攻撃してくる初動を感知する事が難しいんだよな。何者だ、あの幼女は」
別にわざとシェンラの飛び蹴りを、毎回受けていたわけではないのだ。単純に、さっきまでの俺の状態では躱せなかったのだ。
「さぁ、三人の状態はよく分かったから、ここいらで休憩だ。今度は、のじゃロリと遊ばにゃならんからな」
「せいぜい、妾が遊んでやるとするのじゃ」
シェンラは、そう言いながら訓練場の中央に先に歩いて行った。
「武器は使わないのか?」
子供用鱗の鎧以外の装備が見当たらなかった為、そう尋ねたが、シェンラはそれを聞いて不敵に嗤っていた。
「妾の武器は全身じゃからの、心配無用じゃ。それにお主には、少しばかり興味があっての。どうじゃ、お互いの事を知る為に『ステゴロ』とは行かぬか? これは、遊びなのじゃろ? 折角、お主と遊ぶのじゃ、楽しい方が良いと思っての」
「またそんな言葉をどこで覚えたんだか……まぁ、それもまた一興ってやつか? ふふふ、良いじゃないか『ステゴロ』」
まさに漫画の世界のような誘いに、俺は心が躍った。
「観客もいるんだ。こんな燃える誘いは、断れんだろう」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
シェンラも楽しそうに、同意している。
俺は、サングラスと『天』『地』をライへと預ける。更に、全身に纏っていた神火の鎧と身体強化スキルの発動を解除した。
「使わぬのは、武器だけでよかったのじゃぞ?『ステゴロ』とはそう言うものじゃろ?」
「おいおい、スキルなんて使っていたら、ステゴロと言いながら、拳にメリケンサックつけている様なものだぞ? 『ステゴロ』と言ったら、素手喧嘩だろ?」
俺は、嗤いながらそう言うと、シェンラは一瞬惚けたような顔をしたが、次の瞬間には大笑いしていた。
「フハハハハ! そうじゃの! 確かに素手喧嘩に、スキルは野暮じゃの」
「野暮とは、粋な言葉を知っているな」
「妾に勝ったら、何故妾がそんな言葉を知っているか、教えてやらんでもないぞ?」
「そこまで、知りたい訳ではないが、ご褒美くらいには考えておくさ」
俺は、シェンラのいる訓練場中央へと足を運びながら、そう言葉を返した。
「ロリだろうが、俺は容赦しないぞ?」
「そんな事は、さっきのを見ていればわかるのじゃ」
俺は、ちらりとアシェリを見て笑った。
「ははは、そらそうだな。ん? なんだ、驚いたような顔をして」
「お主、普通にも笑えるのじゃな……てっきり、あの嗤い方しかせんのかと思っていたのじゃ」
「……なんの事だがわからないなぁ……さぁ、ヤるか」
「……恐ろしく、ごまかし方が下手だのお主……まぁ、よい。ヤルかの」
俺は三人に向かって、叫ぶ。
「誰か開始の合図をしてくれ!」
それを聞いたセアラが、鬼の金棒を手に取り大きく振りかぶり、後ろの壁を殴りつけ、轟音が鳴り響いた。
その瞬間、俺とシェンラの拳が交錯した。
かつての出会いを再現するかのように
悠久の刻を経て拳が重なり合う
初代勇者と語りあった刻のように
お互いの魂をぶつけあう
初代勇者が創りし場所にて
二人は笑っていた
俺達は、迷宮からギルドへと移動し、総合受付でギルドの訓練場が使えるかを尋ねた。
「大中小の内、中は使われていますので、大か小の訓練場が使えますが如何されますか?」
「大訓練場で頼む。時間は、今から夕飯ぐらいまでだから……一時間ぐらいでいいかな」
俺が時間を受付の職員の女性に伝えると、背後から何故か溜息のようなものが聞こえた気がしたが、気のせいだろう。遊ぶのに溜息なんて、絶対に出るわけがない。
「承知しました」
俺は、訓練場の使用料を自分の口座からの引き落としで頼み、大訓練場へと向かった。小中訓練場は四階、五階にあるらしいが、大訓練場は地下一階にある為、俺達は地下へと階段を下って行った。
「おぉ、フロア全体が全て訓練場になっていて、広くていいな。天井も案外高いんだな。地下だからと低いかもと思ったが、これなら結構思いっきり行けそうだ」
そして、俺は床や訓練場の壁を、コンコンと拳で硬さを確認していった。
「主様、どうされたのですか?」
「いやな、さっき総合受付でギルド本部の訓練場の特徴を聞いてきたんだが、床も壁も相当硬い素材を使っている上に、対物理魔法障壁やら強度強化やらが何重にもかけてあるらしいんだよ」
俺が、感心したように話していると、エディスも同じように感心している様子だった。
「流石、本部の訓練場ね。前来た時は、使わなかったからここには来なかったけど、支部の訓練場の比じゃない頑強さがあるわね」
俺と、エディスが訓練場の仕様に感心していると、セアラがスカートの中から鬼の金棒を取り出し、思いっきり壁を叩きつけた。
「これは……おそらく衝撃緩和系の障壁も重ね掛けしてありますね。これなら、ヤナ様も思いっきり出来るかもしれませんよ?」
セアラは、俺の思考を読んだかのように、そう告げてきた。
「ふふふ、セアラよく分かっているじゃないか、俺もそれを丁度考えていたところだ」
俺とセアラは嗤いあう。
「あの娘、大丈夫なのか? 違った意味で、ヤナよりも怖い顔で嗤っておるのだが……」
「シェンラちゃん、セアラお姉ちゃんのあの顔は見ちゃダメだって、みんなに教わったよ」
「……そうだの、それはきっと正しい事なのじゃ……」
ライとシェンラは、しっかりセアラの嗤い顔から目を背けていた。
そして、俺は期待を込めて腕輪と指輪を外し、ランニングしてみた。
「おぉ! 壊れない! 抉れない! 地面が割れない! 素晴らしいぞ! ギルド本部の訓練場はぁあああ!」
俺は徐々に速度を増しながら、縦横無尽に駆けてみたが、訓練場は全く壊れなかった。
「なんか、逆に壊れないと悔しいな……今度は『天』『地』で斬りつけ……」
「「「やめなさい!」」」
「ヤナ、悔しそう」
「唯のアホだの」
三人に止められたが、気分は良かった。これで、一層激しく鍛錬が出来る事に、完全に気を良くしていた俺は、早く腕輪と指輪の無い状態で鍛錬をするべく準備をする。
「まぁ、あれだ、時間も一時間しかないし、今日は遊ぶって言ってたし、良いよな? 遊んでも? な? 今度からはさ、ちゃんと抑えるからさ、な?」
俺はウキウキが止まらず、顔が自分でも分かるほどに嗤いで歪む。
「「「ひぃ!?」」」
「アレも見ちゃ駄目なやつじゃな!?」
「アレは、かっこいいかな」
「「「「え!?」」」」
ライの呟きに、俺は一層気分が乗ってくる。
「『明鏡止水』『三重』『神殺し』『天下無双』」
本気で身体強化を行い、更に魔法を唱える。
「『神火の断崖』『形状変化』『神火の鎧』」
更に、神殺しの刀『天』『地』にも、神火で表面加工を施した。
「……マスター、ガチじゃないですか」
俺は、自由に制御出来ない『死中求活』と『六倍重ね掛け』を除き、今の最高の状態を創り上げた。
「あぁ、ガチだ。いい機会だからな、一度この状態であいつらの今の状態を見ておきたかったしな」
俺は嗤いながら、アシェリ達を見る。
「あなたのも、全部見せてね」
「主様の全部を、受け止めたいです」
「ヤナ様の全てを、頂きます」
三人も、俺を見て嗤い返す。
「若干、あの娘達もおかしい気がするが、気のせいかの?」
「ヤナビ先生が、お姉ちゃん達が変になったら、あんまり真似しちゃダメだって言ってた」
シェンラがライの言葉を聞き呆れているが、何を呆れる事があると言うのだ。
「シェンラは三人の相手をしてから、遊んでやるよ」
「妾と遊ぶとは、言いよるのぉ」
「シェンラちゃんも、似たような人だったんだね」
シェンラの嗤い顔を見て、ライが少し離れて呟いていた。
「さぁ、みんな俺と遊ぼうか」
次の瞬間、訓練場の中央で轟音が鳴り響いた。
「あやつは、一体何者なのじゃ?」
ヤナが身に纏った魔法を見て、余裕の表情を作りながらも、実際はかなりの衝撃を妾は受けていた。
「神火魔法なぞ、妾達の領域じゃぞ? よもや、人の身で使える者がおったとはの……」
古代の時代から、悠久の刻を生きる者が過酷な死地を幾つも乗り越え、その中でも極一部の者だけが至る事の出来る境地。
『神』の名を冠した魔法。
「しかも、何じゃあの身体強化の状態は、すでに膂力で妾と対等か……それ以上かもしれんの……アレは、本当に人か?」
三人の娘達も、相当な強さである事は一目して分かったが、その三人をしてヤナは嬉々として攻撃を躱し、自らの斬撃は与え三人を壁へと吹き飛ばしていた。三人は壁に激突し、戦闘不能な程に痛みつけられると、すぐさま隣にいたライと呼ばれている娘が回復に走っていき、『神聖魔法』で回復しすぐさま戦線へと娘達は駆け出していっていた。
「それにあのライと呼ばれている娘は、身体の状態が変わっている事に加えて、『神聖魔法』を使っておる。ヤナに加えて『神』の魔法を扱うとはどう言う事じゃ」
そもそも、戦っている三人の娘自体も、異常な程に魂から発する気が清らかで、僅かな時間だけだったが、先ほどまで一緒にいた時は心地良かったのだ。
「色々興味が尽きぬ者達じゃ。これもまた、何かしらの導きかもしれんの。妾の待ち人も、もしや……」
妾が、考えに更けようとした瞬間だった。これまでで一番の壁に激突する三つの轟音が、訓練場内に轟いた。
「うむ、成長はしているし、攻撃や防御の動きも良い。それに、一人一人が敵わないと判断するや否や、三人での連携に目配せのみで移行したのは、結構驚きだったな」
「……ごふ……それを物ともしないあなたに……驚きよ」
「かはっ……月狼で刺し違える覚悟で行っても……届かないでしょうね」
「……フフフ……アハハハハハハハハ!」
「……取り敢えず、セアラを正気に戻そうか……」
ライに三人を回復させつつ、セアラを宥めながら、次のシェンラの事を考えていた。
シェンラは完全に所謂『のじゃロリ』といった感じだったが、俺を蹴り飛ばすだけの膂力がある事は既に実感している。しかも、俺に躱させていないという事実もあるのだ。
「攻撃してくる初動を感知する事が難しいんだよな。何者だ、あの幼女は」
別にわざとシェンラの飛び蹴りを、毎回受けていたわけではないのだ。単純に、さっきまでの俺の状態では躱せなかったのだ。
「さぁ、三人の状態はよく分かったから、ここいらで休憩だ。今度は、のじゃロリと遊ばにゃならんからな」
「せいぜい、妾が遊んでやるとするのじゃ」
シェンラは、そう言いながら訓練場の中央に先に歩いて行った。
「武器は使わないのか?」
子供用鱗の鎧以外の装備が見当たらなかった為、そう尋ねたが、シェンラはそれを聞いて不敵に嗤っていた。
「妾の武器は全身じゃからの、心配無用じゃ。それにお主には、少しばかり興味があっての。どうじゃ、お互いの事を知る為に『ステゴロ』とは行かぬか? これは、遊びなのじゃろ? 折角、お主と遊ぶのじゃ、楽しい方が良いと思っての」
「またそんな言葉をどこで覚えたんだか……まぁ、それもまた一興ってやつか? ふふふ、良いじゃないか『ステゴロ』」
まさに漫画の世界のような誘いに、俺は心が躍った。
「観客もいるんだ。こんな燃える誘いは、断れんだろう」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
シェンラも楽しそうに、同意している。
俺は、サングラスと『天』『地』をライへと預ける。更に、全身に纏っていた神火の鎧と身体強化スキルの発動を解除した。
「使わぬのは、武器だけでよかったのじゃぞ?『ステゴロ』とはそう言うものじゃろ?」
「おいおい、スキルなんて使っていたら、ステゴロと言いながら、拳にメリケンサックつけている様なものだぞ? 『ステゴロ』と言ったら、素手喧嘩だろ?」
俺は、嗤いながらそう言うと、シェンラは一瞬惚けたような顔をしたが、次の瞬間には大笑いしていた。
「フハハハハ! そうじゃの! 確かに素手喧嘩に、スキルは野暮じゃの」
「野暮とは、粋な言葉を知っているな」
「妾に勝ったら、何故妾がそんな言葉を知っているか、教えてやらんでもないぞ?」
「そこまで、知りたい訳ではないが、ご褒美くらいには考えておくさ」
俺は、シェンラのいる訓練場中央へと足を運びながら、そう言葉を返した。
「ロリだろうが、俺は容赦しないぞ?」
「そんな事は、さっきのを見ていればわかるのじゃ」
俺は、ちらりとアシェリを見て笑った。
「ははは、そらそうだな。ん? なんだ、驚いたような顔をして」
「お主、普通にも笑えるのじゃな……てっきり、あの嗤い方しかせんのかと思っていたのじゃ」
「……なんの事だがわからないなぁ……さぁ、ヤるか」
「……恐ろしく、ごまかし方が下手だのお主……まぁ、よい。ヤルかの」
俺は三人に向かって、叫ぶ。
「誰か開始の合図をしてくれ!」
それを聞いたセアラが、鬼の金棒を手に取り大きく振りかぶり、後ろの壁を殴りつけ、轟音が鳴り響いた。
その瞬間、俺とシェンラの拳が交錯した。
かつての出会いを再現するかのように
悠久の刻を経て拳が重なり合う
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