要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第六章 偽り

その姿はまるで

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「ヤナ殿、中々盛り上がった模擬戦エキシビジョンとなったな」

 ロイド伯爵がニヤニヤと笑いながら、模擬戦を終えた俺に話しかけて来た。

 俺たちが、気を失ったカヤミとディアナを大会医務室へと運びベッドで寝かせた所で、部屋にロイド伯爵とディアナの父騎士が入ってきたのだ。

「あぁ、お蔭で完璧な悪役わるもんになっちまったよ。はぁ、何処までこれが広まるかと思うと、頭が痛い……」

「そんな事は、心配しなく良いぞ」

「え? そうなのか? もしかして、あんまり広がらな……」

「闘剣大会には、各地の貴族や有力者の使者が、自分の護衛等を探しに来ているからな。王国全土どころか他国にも今回の内容はしっかり伝わるだろう。良かったな、名が売れて」

「いやぁあああああ!」

 俺は、ロイド伯爵の死刑宣告に心が折れかけていると、ヴァレリーとマイナも部屋へと入ってきた。

「ディアナを、よろしく・・・・ね」

「ごはぁ!」

「マスター、トドメでしたね」

 ヴァレリーのたった一言の破壊力に、俺のメンタルが見事粉砕された所に、マイナがトコトコと近づいてきた。

 そして、じっと顔を見てから俺にしか聞こえないような声で呟く。

「貴方は、何を・・この世界で・・・成そうとしているの?」

 マイナの言い回しに、俺は確信した。

「誰かから、聞いたのか?」

「ううん、見えるの」

「見える?」

「うん、この目は『鑑定眼』だから」

「……鑑定眼……」

 以前城にいる時に、『鑑定』というスキルは、古にあったとされるがそれは、伝説に近い言い方だった。

「何故、それを俺に?」

「うん、シラユキ様なんだけど、気にかけておいてね」

「ん? シラユキ? 何でだ?」

「あの人だけ、何故か一部読み取れない文字で、書かれた箇所があったの」

「読み取れない箇所?」

 俺は、この世界に召喚された際に、シラユキのステータスプレートも見たが、そんな文字化けでもしてるような箇所は記憶に無かった。シラユキも、そんな事は言っていなかった。

「もしかしたら、これ鑑定眼でしか、見えないのかもしれない。ただ、これ鑑定眼でも、文字が読めなかったから、何かわからなかったの」

「いや、教えてくれてありがとう。コウヤの奴にでも、それとなく伝えておくかな」

 俺は、取り敢えずコウヤの奴に、伝えておいてさりげなくフォローしてもらおうと考えていた。

「コウヤって、あの『勇者』の人?」

「そうだ、『勇者の中の勇者』に任せておけば、先ずは大丈夫だろ」

「そうだといいけど」

 少し不安そうな顔を、マイナがしたので、俺は笑いながら説明する。

「イケメン勇者主人公だぞ? そんな、物語の英雄みたいな奴は、必ず勝つのさ」

「イケメン?」

 思わず元の世界の言葉を使ってしまい、マイナは不思議そうな顔をしていた。

「あぁ、知らないよな。イケメンって言うのは、格好いい男のことさ。まぁ、あいつの場合、男らしい格好良さではなく、キレイな男って感じだがな」

 それを聞いても、マイナは不思議そうな顔をしていたが、まだ子供には興味ない話かも知れないなと、それ以上は説明はしなかった。

 すると、マイナが口を開きかけたところで、医務室にベッドに寝かされていたカヤミとディアナが目を覚ました。

「う……ここは?」
「……どこだ?」

「ここは、大会医務室だ。ディアナよ、見事な戦いだった」

「カヤミよ、お主も鍛治の腕だけではなく、刀の腕前もあがっておったのだな」

 目を覚ました二人に対して、ロイド伯爵とタケミ爺さんが、労いの言葉をかけていた。

 すると、二人は思い出したように俺を見て、不安そうな顔をした。



「「ヤナ……」」



「そんな顔をするな、見事な一撃だったぞ。お蔭で、俺の兜が割れて格好悪くなっちまったよ」


「それじゃぁ……」
「やはり、夢じゃなかった……」


 二人は、お互い目を合わせ目に涙を貯めていた。

「二人とも、その時が来たら、俺の力になってくれるか?」

「えぇ、勿論よ」
「それまで、まだまだ私は強くなってみせる」

 二人は力強い返事をしてくれた。その返答に満足して、俺は良い雰囲気のまま王都に戻る事を告げて、颯爽と部屋から脱出・・しようとした。

「それじゃ、またなぐへぇら!……苦し……」

 俺が部屋から出ようとした瞬間、何かに首と胴体を羽交い締めにされた。

「何処行くの?」

「いや……だから、王都に…」

「私達との『契約』は、どうした?」

「………」

 俺は二人の目を見て、背中に大量の汗を流していた。まさに肉食獣の目になっている女達が、そこにいたからだ。

「男が、『約束』を破る何て言わないわよね?」
「そうだぞ? 男なら、交わした約束は守らないとな?」

「よし、ちょっと落ち着こうか。あれだ、あれだよ、そうそうあれあれ。俺ってば、アレじゃん? 悪神と戦う訳だろ? お前たちだって、ホラ、色々忙しいだろ? だから、ほら、全部終わった後にってことにしない?」

「マスター……また、棚上げして……」

 俺だって、流石に色々と心の整理が付かない中で、食べられたくは無い。

「ふぅん……ディアナ、どうする?」
「そうだな……ただ契約を伸ばされるのも、面白くないな」

 二人は、少し考えていたので、ここはこの交渉の勝負所だと判断した俺は、一歩踏み込む。

「そうだ、待ってくれたら、ちゃんと頑張る・・・から、な?」

「頑張る?……へぇ」
「ほぅ……頑張るのか…」

 俺は二人の、獲物を前にお預けをくらっている猛獣のような表情に引きながらも、何とか悪神を倒すまでは、待ってくれるように、交渉を済ませた。

「マスター、お預けをすればするほど、その時・・・の反動が凄そうだと言うのに……頑張って・・・・下さいね?」

「……」

 俺は、色々と覚悟を決めながら、アシェリ達と宿屋へと戻ったのだった。



 俺は、一人自分の部屋のベッドに寝転びながら考えていた。

「はぁ……どうしよう」

「マスター、そんな迷わなくても、サクッとして・・これば、良いではないですか。マスターも男なんですから、あんな美女で立派なアレですから、致したいでしょう?」

「やかましいわ……別にしたくない訳じゃない。そう言ってくれる気持ちだって、嬉しいさ」

「なら……」

「ただ、俺はこの世界の人間じゃない。そして、これからどうするか、どうなるかも分からない」

 俺は、この世界を救う事は決めていた。ただ、それ以降・・、どうするか決めかねていた。

「当然、元の世界へと帰る手段は探す。絶対に帰る事は、諦めない。ただな……帰れるとなった際に、帰る決断が出来るかどうか、きっとその時にならないと分からない」

「それなら、いっそ断って、きちんとお二人をフッてしまえば良いじゃないですか?」

「それは、その……まぁ、なんだ。何かあそこまで俺を想ってくれる人を、断るってのも、ちょっと言いづらいし? 別に二人が、嫌いって訳じゃないし?……なぁ、どうしたらいい?」

「……うわぁ……スキルにまで、そんな事聞かないで下さい……ヘタレ過ぎでしょう…」

「うるせぇ! 今までモテた事なんてない男に、こんな事分かるわけないだろ!」

「逆ギレしないで下さいよ、マスター……益々情けなく見えますから…」

 こうして、ヤナは悪神とは、全く関係ない所で頭を悩ませるのであった。

「コウヤに、相談しようかな……」



 そして、次の日の朝、村から王都へ出発する旨を呼出コールで、カヤミとディアナに伝え、朝食を食べ終わった頃に宿にカヤミとディアナがやって来た。

「二人共、本当に素材は、もういらないのか?」

「えぇ、貰いたい分は貰ったしね」

「そもそも、私はロイド伯爵に仕える騎士だ。討伐証明さえあれば、よかったしな」

 氷雪竜とモドキの素材は結局、討伐部位となる角はディアナが、他の部分については、刀鍛治に使えそうな所はカヤミに渡し、それ以外は俺が貰うことになったのだ。

「それに、ヤナに貸しを作れば、作るほど頑張って・・・・くれそうだし」

「あぁ、その通りだから、ヤナは気にしなくていいぞ」

「余計気にするわ……」

 俺が、大袈裟にため息を吐いていると、不意に二人が俺を見ながら呟く。

「ちゃんと、駆けつけるから……呼んでね?」

「その為に、もっと強くなるから……置いて、行かないでくれ」

「そんな心配そうな顔をするなって、置いてなんか行かないよ。俺が呼ぶまで、ちゃんと鍛錬するんだぞ?」

 俺は、優しく微笑みながら、二人の頭を撫でた。

「待ってるからね?」
「約束だぞ?」

「あぁ、約束は守るさ。それじゃ、またな」

 俺は、再開の約束をして、村を出発したのだった。



「マスター?」

「なんだ?」

「まさに、現地妻ですね。あと、何人増やすつもりですか?」

「ごはぁ!……さ……さぁ、北都まで走るぞ! 勿論、全員の神火の肉体改造器具養成ギプスと 神火の重石帯ウェイトバンドは、景気良く来るときの三倍程の負荷で行こう!」

「完全にとばっちりね」
「はい、都合が悪くなるとすぐこれですね」
「締め付けが、強くなるのは……別に嫌いじゃないです」

 改めて、王都に帰るまでに、セアラに説教する事を固く決意し、俺たちは王都へ向かって帰路に着いたのだった。



「Aランクへのランクアップ試験?」

「あぁ、そうだ。ヤナにはAランクアップ試験を受けて貰いたい」



 新たな物語の序章は、この時既に始まっていたのだった
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