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第五章 刀と竜
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「これは……予想以上に酷いな」
ロイド伯爵は目の前で、起きている惨状に若干引いていた。
「はい……まさか、ここまでヤナ殿が酷いとは、我が娘は騎士なれど、流石に気の毒になりますな」
ディアナの父も、自分の娘が想い人に叩き伏せられ、容赦無く蹴り飛ばされる様を見て、顔をしかめる。
「しかし見事に、ヤナ殿は悪役だな。観衆は、五人の乙女を応援する声で一色だ。これほど、嫌われる闘剣大会の優勝者も珍しい」
ロイド伯爵は、五人の乙女をズタボロに転がしながら、高笑いをして観衆を煽るヤナを見ながら、苦笑した。
「そうですな。私も、行っていいなら殴りに行きたい! ディアナを……くっ」
「お前は、ディアナがヤナ殿に惚れてるからだろう、全く」
ロイド伯爵は、ディアナの父の様子に呆れながらも、じっくりと全員の戦いぶりを見ていた。
「しかし、ヤナ殿は桁違いの強さだな。私の目から見ても、あの乙女たちは、五人が全員、闘剣大会の優勝者だとしても不思議ではない実力者に見えるが……それを、見た目は鬼畜だが、しっかり鍛錬しているかの様に、ヤナ殿は戦っている」
「はい、あの乙女たちの実力は、ロイド伯爵様の見立て通りかと。しかも、一撃も貰わずに居ながらも、程よく刀で攻撃を受け止め、観客を盛り上げる事も忘れていないあたりは、流石と言うか、何と言いますか」
ヤナは、完全に全く手も足も出させずに五人を叩きのめしている訳ではなかった。きちんと要所要所では刀で攻撃を受け止め、五人の攻撃のリズムもわざと良くしていた。
「だが、最後には容赦無く、剣戟で吹き飛ばされているがな。あそこまで、女子供に容赦無く出来るとは、噂に違わぬ変態だな」
「えぇ、流石『変態の中の変態』ですな」
二人は、じっと戦いの行く末を見守りながら、呟いた。
「どうした、お前たち。それで終いか?」
俺は、取り敢えずズタボロに成るまで叩き伏せ、地面に転がした五人の戦乙女達に向かって言い放つ。
「あなた……その『三重』は、予想以上ね」
「主様……流石に高笑いしながらは、酷いかと」
「ヤナ様……まさかあそこまで簡単に結界壁を破壊されるとは……もっと狂う程に、閉じ込めたいと想う事が必要なのですね」
「うん、セラはちょっと方向性見失っている感があるから、後で説教な」
三人は、いつもの鍛錬より多少きつい程度と思っている為なのか、中々にしぶとく、ボロボロに転がされても逞しい反応を見せている。
しかし、カヤミとディアナは霊峰で多少鍛錬したものの、まだまだ俺の鍛錬はきつい様だった。
「……霊峰の鍛錬より……きついわ……ね……かはっ」
「あぁ……ゴフッ……ここまで、まだまだ差が……あるとは…」
二人は、肩で息をしながらも、何度も何度も立ち上がっては、叩き伏せられ、ヤナに地面に転がされた。
その鬼気迫る様子に、アシェリ達は何か感じるものがあったのか、終盤になるとヤナに挑むのを止め、二人の様子を見守っていた。そして、観客もその二人の気迫に呑まれる等に、徐々に固唾を飲んで、この戦いの結末を静かに見届けようとしていた。
「二人共、そろそろ終わるか? 十分観客も楽しめだろうし、そろそろ休んでいいぞ?」
ヤナは二人に向かって、普通の声で問いかける。
「「嫌だ!」」
だが、二人の返答は揃って、拒絶の言葉だった。
「模擬試合だし、もう二人共限界だろう?」
ヤナは、二人のあまりの様子に、流石にもうそろそろ休むように伝えるが、二人は全く応じようとしなかった。
「ふふふ……ディアナ、限界だって?」
「ふっ……そうだなカヤミ、限界らしいぞ?」
二人は揃って、ヤナに嗤いかける。
「限界を超えてこその、鍛錬でしょう?」
「限界など、超えるためにあるものだ」
それを聞いたヤナも、二人に嗤う。
「中々言うようになったじゃないか。だが、余り長引くと観客もダレるからな、次の一撃で二人の意識を完全に断たせて貰う。これが、最後だ」
その言葉を聞いた二人は、息を揃えて口を開いた。
「「わかった」」
二人は、ヤナの言葉を聞いた直後に大きく息を吸い、ゆっくりと吐きながら、精神を集中する。
既に二人には、技を繰り出すだけの魔力も体力もなかった。
ただ、ある想いの為だけに立ち上がり、これまでヤナに立ち向かっていたのだ。
「ヤナ、最後に一つだけ聞かせて?」
私は、ヤナにある事を問い掛けた。
「何だ?」
「私は、貴方の力になれるかしら?」
「既に『神殺しの刀』を打ってくれたじゃないか。十分力になれてるさ」
私は、その言葉を聞いて、少し悔しくなった。
「それは、ありがとう……でもね、そうじゃないの。貴方は、これからきっともっと過酷で、厳しい戦いに挑む。そこに私も居ることが出来るのかと、聞いているの」
私は、刀工なのだから、刀を打ってお終い。
それでは、嫌だった。
私は、私自身として彼の側で共に戦いたかった。
「そうだな……その答えを言う前に、この最後の一撃に応えて見せろ。だが、俺の行く先に平穏があると思うなよ?」
「えぇ、それでも構わないわ」
私は、最後の一撃に自分の想いを乗せるべく、集中した。
「漆黒の騎士様……否、ヤナに私も確認したい事がある」
「今度はディアナか……どうした?」
「以前、王都で会った漆黒の騎士様は、ヤナだったのだな?」
「あぁ、そうだが?」
私はその答えを聞いて、胸が熱くなった。
「そうであれば……あの時、ヤナは全く嘘を言っていなかったのだな。ヤナの敵は、悪神だった。正体を晒してしまえば、本当に私に危険が迫るかもしれない」
「あぁ、そうだ」
「そして、ヤナと共に戦い、ヤナの力になる為には、本当にヤナに一撃を与えられる程でなければならないのだろう」
「だが、一撃を加えられたして、カヤミにも言ったが、その先に待つものは更なる苦境かもしれないんだぞ?」
「それでも私は……ヤナ、もう一度ヤナが約束をしてくれ。一撃を入れる事が出来れば、私もヤナの力になれるだろうか?」
「そうだな、改めて俺が約束をしよう。一撃を入れる事が出来たのであれば、俺の力になってくれ」
ディアナは、その言葉を聞き、更に精神を集中させた。
俺は二人と約束を交わしたが、俺自身としても巻き込む側として、確認しておきたかった事があった。
「二人に聞く。お前たちは折角、自分たちの叶えたい事を叶え、成りたい自分になれたのだろう? 別に、俺に付き合って苦しむ事はないんだぞ?」
すると、二人はその言葉を聞いて、二人共が同じような優しい微笑みを俺に返す。
「そうね、これまでの叶えたかった事も成りたかった自分も成れたわ」
「あぁ、自分の夢も叶える事が出来た」
「それなら……」
別に良いじゃないか無理して苦労しなくても、これまで苦しんで来たのだからと、伝えようとしたが、二人に遮られた。
「まだ、分からない? そんなの決まってるじゃない」
「そうだ、何故分からない?」
俺は、二人が何故そこまで、希望に満ちた顔で俺を見ているのかが、分からなかった。
「新しい叶えたい事と」
「新しい成りたい自分を」
二人はそこまで言うと、最後は息がぴったりあった。
「「見つけたから」」
俺は、二人の自信に満ちた顔を見て、思わず笑った。
「笑うなんて、ひどくない?」
「そうだ、失礼だ」
「そう言う二人だって、笑っているじゃないか」
「ふふふ、そうね」
「ふふ、確かにな」
そんな二人に様子に、思わず俺は呟いた。
「まぁ、好きだけどな、そういうのも」
「「好き!?」」
二人が、いきなり慌てだした。
「ねぇ、ディアナ、今の聞いた?」
「あぁ、好きだと言ったな、私達の事を」
「はい? 待て待て、別にお前達を好きと言った訳では……」
「「言質取ったぁ!」」
俺はその二人の叫びと、肉食獣のような目に若干の寒気を感じながら、不覚にも後ずさってしまった。
「珍しく、あの人が後ろに下がったわね」
「主様、もしや押しに弱いのでは?」
「アレは押しというより、狩りの目ですが」
俺が、二人の何やら不穏な気迫に押されていると、二人は再度確認を求めてきた。
「一応確認だけど、私の『弟子を作る手伝い』をしてくれるのよね?」
「……何故、今ここでそれを聞く? 確かにそんな契約はしたが……」
そこまで言うと、カヤミは嗤ったのだ。
「ねぇ、私とお師匠の関係って聞いてる?」
「……師匠と弟子だろ?」
「えぇ、そうね。ただし、親子でもあるのよ?」
「……え? は? えぇ!? だって、タケミ爺さんだよな?」
「母は私が生まれてすぐに、病で亡くなったの。歳の差はあったけど、仲は良かったみたいよ?」
俺は、じわりじわりと何故か追い詰められている気がして、更に下がった。
「……だから、それがどう関係あるんだ?」
「ふふふ、私の一派はね? 『自分の子供を弟子とする』のよ?」
「………おい、まさか……」
「『弟子を作る』の手伝ってね?」
「マスター、嵌められましたね。そしてその結果、ハメるんですね」
「はぁああああああ!?」
俺が驚愕していると、更に追い討ちをディアナがかけてくる。
「驚いている所悪いが、私との『契約』覚えているだろうな?」
「……契約?」
「『初めての契約』に決まっているだろう。みなまで言わせるな女に」
「マジ?」
「あぁ、必ず貰って貰うぞ」
「何この肉食女子の世界……怖い」
「「ふふふ」」
「ひぃ!?」
そして、いち早くこの場を切り抜ける為に、俺は最後の一撃を急いで放つのだった。
「ヘタレマスターは、食われるくらいで丁度良いですよ」
二人と剣戟が交錯する直前に、ヤナビのそんな呟きが聞こえたが、剣戟が交錯する音でかき消されたのだった。
そしてヤナと二人の渾身の一撃が交錯し、二人はヤナにもたれかかる形で力尽きた。
私は気を失う直前に、ヤナが私を無傷で支えている事に落胆したが、次の瞬間ヤナの素顔が見えた。
そして、ヤナの顔まで覆っていた黒炎の全身鎧の兜が割れ落ちた。
ヤナの兜が割れ落ち、ヤナの優しい笑顔を見ながら、私の意識は遠ざかっていった。
ただ、意識が完全に落ちる寸前に、ヤナの小さな呟きが聞こえたような気がした。
「 」
そして、私は救われた
ロイド伯爵は目の前で、起きている惨状に若干引いていた。
「はい……まさか、ここまでヤナ殿が酷いとは、我が娘は騎士なれど、流石に気の毒になりますな」
ディアナの父も、自分の娘が想い人に叩き伏せられ、容赦無く蹴り飛ばされる様を見て、顔をしかめる。
「しかし見事に、ヤナ殿は悪役だな。観衆は、五人の乙女を応援する声で一色だ。これほど、嫌われる闘剣大会の優勝者も珍しい」
ロイド伯爵は、五人の乙女をズタボロに転がしながら、高笑いをして観衆を煽るヤナを見ながら、苦笑した。
「そうですな。私も、行っていいなら殴りに行きたい! ディアナを……くっ」
「お前は、ディアナがヤナ殿に惚れてるからだろう、全く」
ロイド伯爵は、ディアナの父の様子に呆れながらも、じっくりと全員の戦いぶりを見ていた。
「しかし、ヤナ殿は桁違いの強さだな。私の目から見ても、あの乙女たちは、五人が全員、闘剣大会の優勝者だとしても不思議ではない実力者に見えるが……それを、見た目は鬼畜だが、しっかり鍛錬しているかの様に、ヤナ殿は戦っている」
「はい、あの乙女たちの実力は、ロイド伯爵様の見立て通りかと。しかも、一撃も貰わずに居ながらも、程よく刀で攻撃を受け止め、観客を盛り上げる事も忘れていないあたりは、流石と言うか、何と言いますか」
ヤナは、完全に全く手も足も出させずに五人を叩きのめしている訳ではなかった。きちんと要所要所では刀で攻撃を受け止め、五人の攻撃のリズムもわざと良くしていた。
「だが、最後には容赦無く、剣戟で吹き飛ばされているがな。あそこまで、女子供に容赦無く出来るとは、噂に違わぬ変態だな」
「えぇ、流石『変態の中の変態』ですな」
二人は、じっと戦いの行く末を見守りながら、呟いた。
「どうした、お前たち。それで終いか?」
俺は、取り敢えずズタボロに成るまで叩き伏せ、地面に転がした五人の戦乙女達に向かって言い放つ。
「あなた……その『三重』は、予想以上ね」
「主様……流石に高笑いしながらは、酷いかと」
「ヤナ様……まさかあそこまで簡単に結界壁を破壊されるとは……もっと狂う程に、閉じ込めたいと想う事が必要なのですね」
「うん、セラはちょっと方向性見失っている感があるから、後で説教な」
三人は、いつもの鍛錬より多少きつい程度と思っている為なのか、中々にしぶとく、ボロボロに転がされても逞しい反応を見せている。
しかし、カヤミとディアナは霊峰で多少鍛錬したものの、まだまだ俺の鍛錬はきつい様だった。
「……霊峰の鍛錬より……きついわ……ね……かはっ」
「あぁ……ゴフッ……ここまで、まだまだ差が……あるとは…」
二人は、肩で息をしながらも、何度も何度も立ち上がっては、叩き伏せられ、ヤナに地面に転がされた。
その鬼気迫る様子に、アシェリ達は何か感じるものがあったのか、終盤になるとヤナに挑むのを止め、二人の様子を見守っていた。そして、観客もその二人の気迫に呑まれる等に、徐々に固唾を飲んで、この戦いの結末を静かに見届けようとしていた。
「二人共、そろそろ終わるか? 十分観客も楽しめだろうし、そろそろ休んでいいぞ?」
ヤナは二人に向かって、普通の声で問いかける。
「「嫌だ!」」
だが、二人の返答は揃って、拒絶の言葉だった。
「模擬試合だし、もう二人共限界だろう?」
ヤナは、二人のあまりの様子に、流石にもうそろそろ休むように伝えるが、二人は全く応じようとしなかった。
「ふふふ……ディアナ、限界だって?」
「ふっ……そうだなカヤミ、限界らしいぞ?」
二人は揃って、ヤナに嗤いかける。
「限界を超えてこその、鍛錬でしょう?」
「限界など、超えるためにあるものだ」
それを聞いたヤナも、二人に嗤う。
「中々言うようになったじゃないか。だが、余り長引くと観客もダレるからな、次の一撃で二人の意識を完全に断たせて貰う。これが、最後だ」
その言葉を聞いた二人は、息を揃えて口を開いた。
「「わかった」」
二人は、ヤナの言葉を聞いた直後に大きく息を吸い、ゆっくりと吐きながら、精神を集中する。
既に二人には、技を繰り出すだけの魔力も体力もなかった。
ただ、ある想いの為だけに立ち上がり、これまでヤナに立ち向かっていたのだ。
「ヤナ、最後に一つだけ聞かせて?」
私は、ヤナにある事を問い掛けた。
「何だ?」
「私は、貴方の力になれるかしら?」
「既に『神殺しの刀』を打ってくれたじゃないか。十分力になれてるさ」
私は、その言葉を聞いて、少し悔しくなった。
「それは、ありがとう……でもね、そうじゃないの。貴方は、これからきっともっと過酷で、厳しい戦いに挑む。そこに私も居ることが出来るのかと、聞いているの」
私は、刀工なのだから、刀を打ってお終い。
それでは、嫌だった。
私は、私自身として彼の側で共に戦いたかった。
「そうだな……その答えを言う前に、この最後の一撃に応えて見せろ。だが、俺の行く先に平穏があると思うなよ?」
「えぇ、それでも構わないわ」
私は、最後の一撃に自分の想いを乗せるべく、集中した。
「漆黒の騎士様……否、ヤナに私も確認したい事がある」
「今度はディアナか……どうした?」
「以前、王都で会った漆黒の騎士様は、ヤナだったのだな?」
「あぁ、そうだが?」
私はその答えを聞いて、胸が熱くなった。
「そうであれば……あの時、ヤナは全く嘘を言っていなかったのだな。ヤナの敵は、悪神だった。正体を晒してしまえば、本当に私に危険が迫るかもしれない」
「あぁ、そうだ」
「そして、ヤナと共に戦い、ヤナの力になる為には、本当にヤナに一撃を与えられる程でなければならないのだろう」
「だが、一撃を加えられたして、カヤミにも言ったが、その先に待つものは更なる苦境かもしれないんだぞ?」
「それでも私は……ヤナ、もう一度ヤナが約束をしてくれ。一撃を入れる事が出来れば、私もヤナの力になれるだろうか?」
「そうだな、改めて俺が約束をしよう。一撃を入れる事が出来たのであれば、俺の力になってくれ」
ディアナは、その言葉を聞き、更に精神を集中させた。
俺は二人と約束を交わしたが、俺自身としても巻き込む側として、確認しておきたかった事があった。
「二人に聞く。お前たちは折角、自分たちの叶えたい事を叶え、成りたい自分になれたのだろう? 別に、俺に付き合って苦しむ事はないんだぞ?」
すると、二人はその言葉を聞いて、二人共が同じような優しい微笑みを俺に返す。
「そうね、これまでの叶えたかった事も成りたかった自分も成れたわ」
「あぁ、自分の夢も叶える事が出来た」
「それなら……」
別に良いじゃないか無理して苦労しなくても、これまで苦しんで来たのだからと、伝えようとしたが、二人に遮られた。
「まだ、分からない? そんなの決まってるじゃない」
「そうだ、何故分からない?」
俺は、二人が何故そこまで、希望に満ちた顔で俺を見ているのかが、分からなかった。
「新しい叶えたい事と」
「新しい成りたい自分を」
二人はそこまで言うと、最後は息がぴったりあった。
「「見つけたから」」
俺は、二人の自信に満ちた顔を見て、思わず笑った。
「笑うなんて、ひどくない?」
「そうだ、失礼だ」
「そう言う二人だって、笑っているじゃないか」
「ふふふ、そうね」
「ふふ、確かにな」
そんな二人に様子に、思わず俺は呟いた。
「まぁ、好きだけどな、そういうのも」
「「好き!?」」
二人が、いきなり慌てだした。
「ねぇ、ディアナ、今の聞いた?」
「あぁ、好きだと言ったな、私達の事を」
「はい? 待て待て、別にお前達を好きと言った訳では……」
「「言質取ったぁ!」」
俺はその二人の叫びと、肉食獣のような目に若干の寒気を感じながら、不覚にも後ずさってしまった。
「珍しく、あの人が後ろに下がったわね」
「主様、もしや押しに弱いのでは?」
「アレは押しというより、狩りの目ですが」
俺が、二人の何やら不穏な気迫に押されていると、二人は再度確認を求めてきた。
「一応確認だけど、私の『弟子を作る手伝い』をしてくれるのよね?」
「……何故、今ここでそれを聞く? 確かにそんな契約はしたが……」
そこまで言うと、カヤミは嗤ったのだ。
「ねぇ、私とお師匠の関係って聞いてる?」
「……師匠と弟子だろ?」
「えぇ、そうね。ただし、親子でもあるのよ?」
「……え? は? えぇ!? だって、タケミ爺さんだよな?」
「母は私が生まれてすぐに、病で亡くなったの。歳の差はあったけど、仲は良かったみたいよ?」
俺は、じわりじわりと何故か追い詰められている気がして、更に下がった。
「……だから、それがどう関係あるんだ?」
「ふふふ、私の一派はね? 『自分の子供を弟子とする』のよ?」
「………おい、まさか……」
「『弟子を作る』の手伝ってね?」
「マスター、嵌められましたね。そしてその結果、ハメるんですね」
「はぁああああああ!?」
俺が驚愕していると、更に追い討ちをディアナがかけてくる。
「驚いている所悪いが、私との『契約』覚えているだろうな?」
「……契約?」
「『初めての契約』に決まっているだろう。みなまで言わせるな女に」
「マジ?」
「あぁ、必ず貰って貰うぞ」
「何この肉食女子の世界……怖い」
「「ふふふ」」
「ひぃ!?」
そして、いち早くこの場を切り抜ける為に、俺は最後の一撃を急いで放つのだった。
「ヘタレマスターは、食われるくらいで丁度良いですよ」
二人と剣戟が交錯する直前に、ヤナビのそんな呟きが聞こえたが、剣戟が交錯する音でかき消されたのだった。
そしてヤナと二人の渾身の一撃が交錯し、二人はヤナにもたれかかる形で力尽きた。
私は気を失う直前に、ヤナが私を無傷で支えている事に落胆したが、次の瞬間ヤナの素顔が見えた。
そして、ヤナの顔まで覆っていた黒炎の全身鎧の兜が割れ落ちた。
ヤナの兜が割れ落ち、ヤナの優しい笑顔を見ながら、私の意識は遠ざかっていった。
ただ、意識が完全に落ちる寸前に、ヤナの小さな呟きが聞こえたような気がした。
「 」
そして、私は救われた
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