要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第五章 刀と竜

妹と妹

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「『神殺し』…?」

 カヤミが我に返り、絞り出すように声に出した。

「あぁ、そうだ。ちょっと神をぶった斬りたくてな。『神鉄』は俺が採ってくるし、この通り『神火』は俺が用意出来る。だからカヤミ、『神殺し』の刀を打ってくれ」

「はい?」

「そうか! やってくれるか! いやぁ、二つ返事とは有難いなぁ」

「誰が打つって言ったのよ!」

「主様、今のを『了承はい』と受け取るのは、ちょっと苦しいかと……」

「くっ! ノリでいけるかと思ったが、駄目か!」

「お前さん……脳みそまで筋肉か?」

「「「正解です」」」

「やかましいわ!」

 俺たちが騒いでいると、カヤミは何も言わずに出て行ってしまった。

「騒ぎすぎたかな?」

「かといって、あなたは静かに何て出来ないんでしょ?」

「まぁ、そうだな。俺は、暗いのは嫌いだからな」

 俺はカヤミが出て行った扉を眺めながら、エディスの問い掛けに応えた。

「なら、あの人私達と同じ様に、照らしてあげてください」

 セアラが優しく微笑みながら、俺に告げた。



「いきなりなんなの!? あの男は!」

 私は、初心者装備の癖して堂々と『神鉄』を採ってくると言い放ったあの男の事を考えながら、鍛冶場に向かった。

「何が『神殺し』よ……そんなの出来るわけないじゃない」


『初代』『刀工』が『神鉄』を『獄炎』で鍛えて打った『神の刀』


 世間一般では喪失したとされている『神の刀』は、代々の『刀工』が受け継いでいる刀だ。正に、その刀を持つことが『刀工』の証であり、その刀を超える事こそが代々の『刀工』の夢なのだ。

 あにぃは、その偉業に果敢に挑んだ結果、一握りの神鉄を私に渡して逝ってしまった。

「あにぃに出来なかった事が、私に出来るわけないじゃない」

「そんなのやってみなきゃ、わからんだろうに」

「な!?」

 私は突然声が聞こえてきて、驚き振り向くと、鍛冶場の入り口にさっきの男が立っていた。

「勝手に、鍛冶場に入るな!」

「いやいや、まだ入ってないだろ?」

 確かによく見ると、男は出入り口の外側に立っていた。

「屁理屈を言って……何の用!」

「そう、きゃんきゃん吠えるなよ。さっき言ったのは冗談じゃないってのを、きちんと伝えに来たんだよ。あそこじゃ騒いでいるうちに、あんたが出て行っちまったからな」

「ふん! あんたみたいな初心者に、何が出来るって言うのよ。どうせ、さっきの女の子達の前で格好つけたかっただけでなんでしょ? 口だけの男が、私は一番嫌いなのよ」

「まぁ、確かにこれ革鎧を出発した時の選別だがな。あんまりそっちも、見た目で判断してると程度が知れるぞ?」

「はぁ!? なんですって!」

 私は完全に頭に来て、一発ぶん殴ってやろうと男向かって歩き出した。

 すると、男は逃げた・・・

「は? 何で逃げるのよ! 殴らせなさいよ!」

「いやいやいや! やっぱり、そうだったか! この世界の・・・女は、何でこんなに煽り耐性がないんだよ!」

「あんたが、先に喧嘩売ってきたんでしょうが! 男なら、黙って殴られなさい!」

「確かに、若干は言い返したが、元はと言えばそっちが先に煽ってきただろうが! それにな、手にハンマー持って近づいてきたら、誰でも逃げるわ!」

 男はそう言いながら、追いつくかギリギリを保ちながら、私の前を走って逃げる。

「おちょくってんの!? さっさと止まって殴られるか、さっさと追いつかれて、殴られるかしなさいよ!」

「どんだけ、殴りたいんだよ! 魔物じゃあるまいし、言葉を使え言葉を!」

「誰がゴブリンよ! あんた全ての女性に対し、喧嘩売ったわね!」

「どんな耳してるんだ! そこまで言ってねぇだろ!」

 その男は、そんな事を言いながら、暫く逃げ回っていると急に速度を落とした。

「やっと殴られる気になったのね。さぁ、行くわ……よ……あれ? ここは、霊峰の麓の入り口……」

 私の様子を見ていた男が、苦笑していた。

「まさか本当に、ここまで付いてくるとは思わなかったぞ。途中で気づくと思ったんだが、どんだけ俺の頭しか見てなかったんだよ……」

「……五月蝿い。何でここに来たのよ」

「どうしても、俺にはあんたの力が必要なんだよ。冗談でも何でもなく、俺は悪神に喧嘩を売っている。どうしてもあのクソヤロウを、俺は斬らなきゃならない」

 男は一転して、真剣な眼差しで私を真っ直ぐ見て、そんな出来ない事を言う。

「あんた、頭大丈夫? 仮にそれが、本当だとしてもそんなの無理に決まってるじゃない。悪神なんて、そもそもいるかどうかも分からない存在を斬るだなんて……」

「悪神はいるさ。少なくとも、俺の大事な仲間を泣かしてやがったクソヤロウだ」

 男は、明らかな怒りの空気を纏いながら言い放つ。

「……私には、関係ないわ。こんな所で何をしたかったか、知らないけど。あの山に私は、何も感じない。それじゃあ、私は戻るわ。次舐めた事を言ったら、試し斬りの素材にしてやるから」

 私は、霊峰に背を向け村へと戻る道を、引き返した。



「何も感じないなら、何でそんなに悔しそうで怒りに満ちた目をするんだ……分かりやすいんだよ」

 俺は、一人霊峰の麓にある山道の入り口に立ちながら、遠くなるカヤミの背中に向かって呟いた。

 俺は、その後も少し霊峰を眺めて立っていた。すると、予期せぬ再会を果たすことになった。誰かが近づいて来た気配感じ振り返ると、あの・・女騎士が歩いてきていた。

「げっ! 何でここに!」

「マスター、もう忘れたんですか? ここに来る途中に調子にのって、『漆黒の騎士ジェットブラック』になってたでしょう」

「……そうだった」

 あちらディアナも俺に気づいたらしく、近づいて来るにつれ顔が険しくなって行く。

「貴様、よくもまた私の前に姿を現せられたものだな」

「いやいやいや、今そっちディアナからこっちに歩いてきたじゃねぇか」

「ふん! 屁理屈を言いおって」

「なに? 最近俺ってG黒い悪魔並みに嫌われるんだけど……そろそろ泣くよ?」

 俺は、二人続けての仕打ちに心を折られそうになっていると、ディアナが口を開く。

「なぜ偽物が、こんな所にいるのだ?」

「おまけにさっきから、お前とか貴様とか偽物とか……俺にはヤナって言う名前があってだな」

「ごちゃごちゃ五月蝿い! またここにいらっしゃるであろうジェット様の名を、騙ろうと言うのなら……今から斬ってやる」

「はぁ……疲れる……ここには、自分の刀を打ってもらいに来てるんだよ」

 ヤナビから『自業自得です』と聴こえてくるが、絶対無視だ!

「ほう、まだ駆け出しであるのにも関わらず、自分専用の武器を得ようとするとは、中々意気込みだけはあるじゃないか」

 そう言いながら、ディアナは霊峰を見つめていた。

「あのな、だから俺はBランクの冒険者……」

「あの霊峰には、氷雪竜が巣食うのだ。度々配下の竜達が、山から飛び立ち被害をもたらす」

「いや……訊けよ……しかも、話がいきなり芝居がかりやがって……お前は劇団員か……」

 俺は、いきなり自分の世界に入りだすディアナに呆れながら、茶化すと斬られそうなので、黙って話を聞く。

「私の兄が率いる討伐隊がその竜の被害を止めるべく氷雪竜に挑み、そして死んだのだ」

「結構重いな、おい……それで、お前は敵討ちに挑みに来たのか?」

 俺がそう言うと、ディアナは珍しく卑屈な笑みを浮かべた。

「はは、兄が出来なかった事を、私ごときが出来るはずが無いだろう。兄は、伯爵様に仕えていなければ、騎士国において聖騎士パラディンになれたかもしれないと言われたほどの騎士だったのだ……私など、挑む事すらおこがましい」

 そう言いながら、硬く拳を握りながら霊峰を睨みつけるディアナの眼差しは、明らかに悔しさと怒りが混じり合った目だった。

「お前もかよ……」

「何を言っているのだ? まぁいい、二度とジェット様の名を語るんじゃ無いぞ」

 ディアナは、そう言って立ち去ろうとしたので、念のため尋ねた。

「ちなみに、なぜお前はここに?」

「ロイド伯爵様御一家が、闘剣大会にお越しになるからな。その為の先見隊として、村に異常が無いか来たのだ」

本当本音は?」

漆黒の騎士ジェットブラック様の捜索だ!」

 そう拳を握り締め、力強く宣言したディアナは、堂々と道を引き返していった。

「マスター、モテモテですね、ゲスですね」

「……」

 俺は、意気消沈しながら、村へと戻った。戻りながらアシェリに呼出コールすると、先に宿屋戻ったらしく、俺も宿屋へと向かった。

 そして、宿屋に付いて、扉を開けると目の前に見知った顔が並んでいた。

「何コレ?」

「「ヤナ!」」
「「ヤナ君!」」

「ヤナ様、いきなり疲れた様な顔をしないで下さい。泣きますよ? よよよ」

 俺は続々と集まる知り合いに、若干疲れた顔をしていると、ミレアさんに嘘泣きをされて、更に疲れた。

「マスター、これはアレですね」

「アレってなんだよ?」

「ラブコメの予感です」

「やかましいわ!」

 どうにもドタバタする予感を実際感じながら、俺は一人呟いた。



「なる様になれだ……」

「マスター……もう少し成長しましょう? ね?」



 こうして、舞台に登場人物が集まり、物語の幕が上がるのであった。
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