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第五章 刀と竜
叶えたい事と成りたい自分
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「マスターって、知ってましたけど……」
「みなまで言うな……わかってる……」
俺は、ディアナから戦略的撤退を行い、路地裏で黒炎の全身鎧を解除した。
「俺は、一体どうしたら……」
頭を抱えていると、ヤナビが囁く。
「設定に、設定を重ねた挙句に、自分の設定に酔ったのか気障な捨て台詞『もし、お前と我輩に見えない糸があるのであれば、また会えるだろう!』って……見えない糸って、赤い糸ですよね? そうですよね? どうしちゃったんですか?」
「俺の声で再生しないでぇええええ!……あまりにも真っ直ぐに漆黒の騎士に向けられる眼差しに、つい……」
「乙女の純情を弄ぶマスター……下衆ですね」
「がはぁ!」
俺が地面に四つん這いに、なっていると再びヤナビが囁く。
「こうなったら、彼女と契約するしかないんじゃないんですか?」
「は? 契約? 何の?」
「彼女と『初めての契約』を結んじゃえ!」
「お前が下衆いわ! かわいく言っても内容が酷い!」
俺はとりあえず、この問題を棚上げすることにした。
「マスター……それが自分を追い詰めていると、何故気付かないのです……」
ヤナビの呟きを、聞こえないふりをしてやり過ごしながら、ギルドと宿屋周辺にディアナがいるかどうか気配を探る。
どうやら、ディアナはギルドや宿屋周辺にもういなかった為、コソコソと宿屋の自分の部屋に戻った。
「ふぅ、疲れた……」
「マスターは、自業自得過ぎて、労う気も起きませんね」
「……」
俺が椅子に座り項垂れていると、三人が戻って部屋に入ってきた。
「あら? あなた戻ってきていたのね」
「あぁ、何だかどっと疲れた」
「主様……さっき、見てましたけど……あれはちょっと」
「あぁ、うん……だよね?」
「ヤナ様、私達とも『見えない糸』繋がっているのでしょうか?」
「セアラ……純粋に聞いているんだよな? 俺を、苛めてる訳じゃないよな?」
どうやら、三人はあの後に、さり気なくディアナのこれからの予定を聞いてくれたそうだ。ディアナは、明日には王都を離れ、北都ノスティへと戻るらしい。それを聞いて、俺は即断した。
「よし! 今日中に、北都ノスティに出発するぞ! アメノ爺さんに、刀工への紹介状も貰ったしな! 善は急げだ!」
三人に何故か半眼で見られたが、ここはスルーが正解な筈だ。
改めて今日、北都ノスティに出発する事を伝える為に、ギルドの扉を開けると、冒険者達に一斉に目を逸らされた。よく見ると笑いを堪えているのか、手で口を押さえ肩を震わせている。
「俺って、北の魔物の大氾濫をひとりで食い止めた謂わば英雄だよな? 何故こんな扱いなんだ……」
「主様……自分で言わないでください……悲しくなりますよ?」
俺は肩を落としながら、受付へと向かった。
「Bランクのヤナだが、今日これから北都へ向かう事を伝えにきたんだが、今の俺の担当って誰なんだ?」
「ヤナ様ってアレなんですよね!? 私の初めては奪わないでください!?」
「……泣いていい?」
エディスが、俺の代わりに受付職員を落ち着かせてくれたお陰で、普通に話を出来るようになった。
「わわわ私が、エディスさんの後任になったたたラビナでです!」
年の頃は俺くらいのボブの女性が、小動物のようにビクビクしながら、自己紹介をしてきた。
「ビビりすぎだって……改めてヤナだ、よろしく」
「ひゃい!」
「……なら、行ってくる」
俺は、心が折れそうになりながらも不撓不屈の力を借りながら、持ち堪えたのだった。
「さて、勇者達は未だ防衛の救援をしてるっていうし、挨拶に行けばディアナと鉢合わせそうだから、このまま北へ逃げるぞ」
「ヤナ様、やっぱり逃げるっていう意識なんですね……」
セアラの憐れむような目線を振りほどきながら、北の門へと向かう。
そして、門から離れ人目につかない所まで移動したところで、『神火の馬車』『 神火の騎馬』『神火の神兵』を作り出した。
「今回は、特に何かのクエストって訳ではないから、旅を楽しもう」
セアラは初めて王都を離れての旅となるのと、エディスは聖痕がなくなって初めての遠出だ。アシェリが嫌な思いをしたケシン渓谷を抜けた所にある森を、避けたかった事もあり、ケシン渓谷を抜ける最短ルートではく、渓谷を避けた通常ルートを馬車で向かう事にした。そもそもケシン渓谷は、俺が全力で走り抜けたから、今の道がどうなっているか想像もしたくない。
「今回は、夜はちゃんと野営をする。ただ、寝るのは馬車中だけどな」
俺が笑いながら、そう説明すると三人は其々が少し驚いた顔をしていた。
「でも、今回の旅は、あなたの刀を新しくする為のものなんでしょう?」
「そうです、わたしの事は気にせずケシン渓谷を抜けてください」
「初めての旅だからと気を使って頂かなくても大丈夫ですから、早くヤナ様の刀を手に入れましょう」
「何か勘違いしているようだから、言っておくが、俺がゆっくり行きたいんだ。別にみんなに気を使ってる訳じゃない。ケシン渓谷を通らないのは、単に最近ちょっと、多分、道が……」
俺が若干気まずそうにしているので、三人が不思議そうに顔を見合わせていたが、取り敢えずそう決めたからと言って強引に馬車乗り込ませた。
一通りセアラが神火の馬車に驚くお約束を済ませると、馬車を出発させた。
「今日はゆっくりと馬車に乗って移動しよう」
「「「今日は?」」」
「明日からは、少し思いついた事があってな?お楽しみだ、くっくっく」
俺は楽しみで思わず嗤いを、我慢できなかった。
「嗤ってる……」
「絶対、碌でもないですよね?」
「楽しい事……なんですよね?」
昼食は馬車の中で、俺が台所で料理をして振舞った。
「え? ヤナ様って、こんなに料理が出来たんですか?」
「まぁ、クックルさんに教えてもらったしな。食える程度には、作れるようになったぞ」
セアラが俺の料理を食べて固まっている所に、アシェリとエディスさんが何故か諦めたような表情で、セアラの肩をポンポンと叩いていた。
今日は何もしないと決めていたので、車中では俺が元いた世界の事を話したり、セアラが他の二人に王女である事を打ち明けた事を報告されたりと、お互いの事を話しながら穏やかな時間が流れていた。
今日だけは、近くに寄ってきた魔物も『神火の神兵』に討伐させていたので、本当に馬車での旅を楽しんだといった所だ。
夕方になってきたので、野営地に馬車止めて馬車の前に薪木で火を起こし、キャンプの様な感じで皆で外で夕食をとった。
夕食時には、俺の城での生活などを話したりして、何故かアシェリとエディスに呆れられるという事になったが、俺とセアラは理由が分からなかった。
そして、食後のカーシーを飲みながら火を前に座っていると、セアラが話しかけてきた。
「ヤナ様……最初にお会いした時に、『元の世界にしばらく帰るつもりない』と仰っていましたが、今もそうなんですか?」
「ん? あぁ、勿論だ。さっき話した通り、ここには俺の世界には無い魔法があるんだぞ? 確かに危険はあるが、それでも帰りたいとは思わんよ」
俺は、笑いながらそう答えた。
「……そう……ですか。なら、よかったです」
「あぁ、だから何も気にしなくていいぞ。よし、そろそろ寝るか! ちゃんと四人用に馬車の中も変えてあるからな。それに寝ずの番は自動操縦で神火の神兵にさせるから、心配せずにぐっすり眠ってくれ」
そう言って、馬車の中に入り、俺たちは眠りについた。
俺は目を瞑りながら、セアラに聞かれた事を考えていた。
そんなの帰りたいに、決まっている
こんなクソッタレな絶望が、其処彼処に垂れ流されている世界なんて、大嫌いだ
だけど……
こんなクソッタレな世界で、懸命に生きている人は好きだ
俺は、昔からテレビのヒーローに憧れた
家ではいつも、ヒーローごっこをして遊んでいた
そのせいで家ではよく"ヒーロー君"と、家族によく笑われながら呼ばれていた
マイペースな弟と人見知りな妹を守るお兄ちゃんである為に、人一倍頑張った
強く逞しい父親に、憧れた
優しく厳しい母親に、守られた
幸せだった
俺に帰りたいのか聞いた時、セアラは不安そうな目で少し震えていた様に見えた
何も気にしなくていいと言っても、気にするに決まっている
他の二人にしても、いくら聖痕が消えようと、これまでの傷が消える訳じゃ無い
父親ならこんな時、俺に何と言うだろう?
母親ならこんな時、俺に何と言うだろう?
弟妹ならこんな時、俺に何と言うだろう?
そんなの近くにいなくても、分かっている。
『ヒーローの出番だ!』
「ふふ、わかってるさ。俺は絶対に、諦めない」
俺は、小さな声で思わず呟いた。
その呟きを聞いている者がいた事も知らずに、この夜ヤナは、久しぶりに家族に励まされた様な気がしながら、眠りについたのだった。
「おはよう! さぁ、楽しい鍛錬を始めようか!」
俺はいつも通り、夜明け前に起き、同じ様に起きてきた三人にいつも通りに、元気よく声をかける。
「「「はい!」」」
三人は、真っ直ぐに熱の籠った目線で、俺を見ながら返事をした。
「うぉ! 何だか全員気合い入ってるな。そうか、そんなに鍛錬が楽しみだったか! うん! そうだよな! よし! いつも以上に、俺も頑張っちゃおっかな!」
「え!? 鍛錬が好きな訳じゃ」
「わたし達が好きなのは、鍛錬じゃなくて……」
「エイダ……どうしたらこの気持ち正しく伝わるの?」
俺は笑いながら、鍛錬の準備を始める。
このクソッタレな世界で、悪神と人の両方から忌み嫌われ、魂まで絶望に染められようとしていた少女達と、俺は共に絶望と抗うために強くなってみせる。
俺は、自分の望みを叶えた姿を想像する
俺は、自分の夢を夢で終わらせないと誓う
俺は、自分に問いかける
俺は、どうしたい?
俺は……
この世界を救うヒーローになる
「みなまで言うな……わかってる……」
俺は、ディアナから戦略的撤退を行い、路地裏で黒炎の全身鎧を解除した。
「俺は、一体どうしたら……」
頭を抱えていると、ヤナビが囁く。
「設定に、設定を重ねた挙句に、自分の設定に酔ったのか気障な捨て台詞『もし、お前と我輩に見えない糸があるのであれば、また会えるだろう!』って……見えない糸って、赤い糸ですよね? そうですよね? どうしちゃったんですか?」
「俺の声で再生しないでぇええええ!……あまりにも真っ直ぐに漆黒の騎士に向けられる眼差しに、つい……」
「乙女の純情を弄ぶマスター……下衆ですね」
「がはぁ!」
俺が地面に四つん這いに、なっていると再びヤナビが囁く。
「こうなったら、彼女と契約するしかないんじゃないんですか?」
「は? 契約? 何の?」
「彼女と『初めての契約』を結んじゃえ!」
「お前が下衆いわ! かわいく言っても内容が酷い!」
俺はとりあえず、この問題を棚上げすることにした。
「マスター……それが自分を追い詰めていると、何故気付かないのです……」
ヤナビの呟きを、聞こえないふりをしてやり過ごしながら、ギルドと宿屋周辺にディアナがいるかどうか気配を探る。
どうやら、ディアナはギルドや宿屋周辺にもういなかった為、コソコソと宿屋の自分の部屋に戻った。
「ふぅ、疲れた……」
「マスターは、自業自得過ぎて、労う気も起きませんね」
「……」
俺が椅子に座り項垂れていると、三人が戻って部屋に入ってきた。
「あら? あなた戻ってきていたのね」
「あぁ、何だかどっと疲れた」
「主様……さっき、見てましたけど……あれはちょっと」
「あぁ、うん……だよね?」
「ヤナ様、私達とも『見えない糸』繋がっているのでしょうか?」
「セアラ……純粋に聞いているんだよな? 俺を、苛めてる訳じゃないよな?」
どうやら、三人はあの後に、さり気なくディアナのこれからの予定を聞いてくれたそうだ。ディアナは、明日には王都を離れ、北都ノスティへと戻るらしい。それを聞いて、俺は即断した。
「よし! 今日中に、北都ノスティに出発するぞ! アメノ爺さんに、刀工への紹介状も貰ったしな! 善は急げだ!」
三人に何故か半眼で見られたが、ここはスルーが正解な筈だ。
改めて今日、北都ノスティに出発する事を伝える為に、ギルドの扉を開けると、冒険者達に一斉に目を逸らされた。よく見ると笑いを堪えているのか、手で口を押さえ肩を震わせている。
「俺って、北の魔物の大氾濫をひとりで食い止めた謂わば英雄だよな? 何故こんな扱いなんだ……」
「主様……自分で言わないでください……悲しくなりますよ?」
俺は肩を落としながら、受付へと向かった。
「Bランクのヤナだが、今日これから北都へ向かう事を伝えにきたんだが、今の俺の担当って誰なんだ?」
「ヤナ様ってアレなんですよね!? 私の初めては奪わないでください!?」
「……泣いていい?」
エディスが、俺の代わりに受付職員を落ち着かせてくれたお陰で、普通に話を出来るようになった。
「わわわ私が、エディスさんの後任になったたたラビナでです!」
年の頃は俺くらいのボブの女性が、小動物のようにビクビクしながら、自己紹介をしてきた。
「ビビりすぎだって……改めてヤナだ、よろしく」
「ひゃい!」
「……なら、行ってくる」
俺は、心が折れそうになりながらも不撓不屈の力を借りながら、持ち堪えたのだった。
「さて、勇者達は未だ防衛の救援をしてるっていうし、挨拶に行けばディアナと鉢合わせそうだから、このまま北へ逃げるぞ」
「ヤナ様、やっぱり逃げるっていう意識なんですね……」
セアラの憐れむような目線を振りほどきながら、北の門へと向かう。
そして、門から離れ人目につかない所まで移動したところで、『神火の馬車』『 神火の騎馬』『神火の神兵』を作り出した。
「今回は、特に何かのクエストって訳ではないから、旅を楽しもう」
セアラは初めて王都を離れての旅となるのと、エディスは聖痕がなくなって初めての遠出だ。アシェリが嫌な思いをしたケシン渓谷を抜けた所にある森を、避けたかった事もあり、ケシン渓谷を抜ける最短ルートではく、渓谷を避けた通常ルートを馬車で向かう事にした。そもそもケシン渓谷は、俺が全力で走り抜けたから、今の道がどうなっているか想像もしたくない。
「今回は、夜はちゃんと野営をする。ただ、寝るのは馬車中だけどな」
俺が笑いながら、そう説明すると三人は其々が少し驚いた顔をしていた。
「でも、今回の旅は、あなたの刀を新しくする為のものなんでしょう?」
「そうです、わたしの事は気にせずケシン渓谷を抜けてください」
「初めての旅だからと気を使って頂かなくても大丈夫ですから、早くヤナ様の刀を手に入れましょう」
「何か勘違いしているようだから、言っておくが、俺がゆっくり行きたいんだ。別にみんなに気を使ってる訳じゃない。ケシン渓谷を通らないのは、単に最近ちょっと、多分、道が……」
俺が若干気まずそうにしているので、三人が不思議そうに顔を見合わせていたが、取り敢えずそう決めたからと言って強引に馬車乗り込ませた。
一通りセアラが神火の馬車に驚くお約束を済ませると、馬車を出発させた。
「今日はゆっくりと馬車に乗って移動しよう」
「「「今日は?」」」
「明日からは、少し思いついた事があってな?お楽しみだ、くっくっく」
俺は楽しみで思わず嗤いを、我慢できなかった。
「嗤ってる……」
「絶対、碌でもないですよね?」
「楽しい事……なんですよね?」
昼食は馬車の中で、俺が台所で料理をして振舞った。
「え? ヤナ様って、こんなに料理が出来たんですか?」
「まぁ、クックルさんに教えてもらったしな。食える程度には、作れるようになったぞ」
セアラが俺の料理を食べて固まっている所に、アシェリとエディスさんが何故か諦めたような表情で、セアラの肩をポンポンと叩いていた。
今日は何もしないと決めていたので、車中では俺が元いた世界の事を話したり、セアラが他の二人に王女である事を打ち明けた事を報告されたりと、お互いの事を話しながら穏やかな時間が流れていた。
今日だけは、近くに寄ってきた魔物も『神火の神兵』に討伐させていたので、本当に馬車での旅を楽しんだといった所だ。
夕方になってきたので、野営地に馬車止めて馬車の前に薪木で火を起こし、キャンプの様な感じで皆で外で夕食をとった。
夕食時には、俺の城での生活などを話したりして、何故かアシェリとエディスに呆れられるという事になったが、俺とセアラは理由が分からなかった。
そして、食後のカーシーを飲みながら火を前に座っていると、セアラが話しかけてきた。
「ヤナ様……最初にお会いした時に、『元の世界にしばらく帰るつもりない』と仰っていましたが、今もそうなんですか?」
「ん? あぁ、勿論だ。さっき話した通り、ここには俺の世界には無い魔法があるんだぞ? 確かに危険はあるが、それでも帰りたいとは思わんよ」
俺は、笑いながらそう答えた。
「……そう……ですか。なら、よかったです」
「あぁ、だから何も気にしなくていいぞ。よし、そろそろ寝るか! ちゃんと四人用に馬車の中も変えてあるからな。それに寝ずの番は自動操縦で神火の神兵にさせるから、心配せずにぐっすり眠ってくれ」
そう言って、馬車の中に入り、俺たちは眠りについた。
俺は目を瞑りながら、セアラに聞かれた事を考えていた。
そんなの帰りたいに、決まっている
こんなクソッタレな絶望が、其処彼処に垂れ流されている世界なんて、大嫌いだ
だけど……
こんなクソッタレな世界で、懸命に生きている人は好きだ
俺は、昔からテレビのヒーローに憧れた
家ではいつも、ヒーローごっこをして遊んでいた
そのせいで家ではよく"ヒーロー君"と、家族によく笑われながら呼ばれていた
マイペースな弟と人見知りな妹を守るお兄ちゃんである為に、人一倍頑張った
強く逞しい父親に、憧れた
優しく厳しい母親に、守られた
幸せだった
俺に帰りたいのか聞いた時、セアラは不安そうな目で少し震えていた様に見えた
何も気にしなくていいと言っても、気にするに決まっている
他の二人にしても、いくら聖痕が消えようと、これまでの傷が消える訳じゃ無い
父親ならこんな時、俺に何と言うだろう?
母親ならこんな時、俺に何と言うだろう?
弟妹ならこんな時、俺に何と言うだろう?
そんなの近くにいなくても、分かっている。
『ヒーローの出番だ!』
「ふふ、わかってるさ。俺は絶対に、諦めない」
俺は、小さな声で思わず呟いた。
その呟きを聞いている者がいた事も知らずに、この夜ヤナは、久しぶりに家族に励まされた様な気がしながら、眠りについたのだった。
「おはよう! さぁ、楽しい鍛錬を始めようか!」
俺はいつも通り、夜明け前に起き、同じ様に起きてきた三人にいつも通りに、元気よく声をかける。
「「「はい!」」」
三人は、真っ直ぐに熱の籠った目線で、俺を見ながら返事をした。
「うぉ! 何だか全員気合い入ってるな。そうか、そんなに鍛錬が楽しみだったか! うん! そうだよな! よし! いつも以上に、俺も頑張っちゃおっかな!」
「え!? 鍛錬が好きな訳じゃ」
「わたし達が好きなのは、鍛錬じゃなくて……」
「エイダ……どうしたらこの気持ち正しく伝わるの?」
俺は笑いながら、鍛錬の準備を始める。
このクソッタレな世界で、悪神と人の両方から忌み嫌われ、魂まで絶望に染められようとしていた少女達と、俺は共に絶望と抗うために強くなってみせる。
俺は、自分の望みを叶えた姿を想像する
俺は、自分の夢を夢で終わらせないと誓う
俺は、自分に問いかける
俺は、どうしたい?
俺は……
この世界を救うヒーローになる
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