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第四章 自由な旅路
王都防衛戦
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「ヤナビ、聞きたいんだが、俺と『接続』出来るか?」
「マスター、流石変態ですね。イヤラシイ意味での『接続』ですよね? 身体があれば、何とかしてみせます」
「やかましいわ! 誰が自分のスキルに欲情するか! はぁ…落ち着け俺、こいつはスキル、こいつはただの不良品スキル……」
「スキルですね。但し、マスターの妄想の産物ですが?」
「五月蝿い! 集中させろ!……『双子』『十指』『神火の大極柱』『形状変化』『神火の式神』」
俺は神火で二十体の式神を創り出した。
「あとは、『案内者』『接続』『対象:ヤナ・フトウ』っと、あとはこれを式神の一体にかけてっと」
俺と『接続』した『案内者』を、神火の式神にかけた。
「は?」
式神にサングラスをかけた瞬間、何故か勝手に、ヤナビをかけた神火の式神が、サイドテールの美少女に形状変化していた。しかも、おそらく神出鬼没を勝手に使って、全身に色付けしており、俺じゃなければ人と見間違うばかりの出来栄えだ。俺が驚愕して立ち尽くしていると、ソレは自分のアレを揉みながら呟く。
「これくらいの大きさが、好みなんですね。まぁ割と大きめですか、そうですか」
「はぁあああああ!? 何で勝手に形変わってるの!? 確かに姿はちょっと好みだけ……イヤイヤ違う違う! そんなことはどうでもよかった!」
俺と『接続』して『案内者』に神火の式神を操らせたら、自動操縦よりも、更に俺の動きを再現できるんじゃないかと思って試したのだが、予想外の事が起きていた。
「五月蝿いですよ。もう直ぐ迷宮から魔物が溢れてくるのに、何フリーズしてるんですか。強制的に再起動させましょうか? マスターは脳みそのキャパ足りてないんですから、さっさと私を『集線』にして他の神火の式神を『接続』してください。アンダァスタァン?」
「ぐっ! サングラスに言われてる筈なのに、なんてリアルな口パクしてきやがるんだ」
「早よ」
「わぁっとるわ! 『案内者』『集線』『接続』『神火の式神』!これで良……なぁあああああ!?」
俺がヤナビに『集線』『接続』で残りの十九体の『神火の式神』を繋げた瞬間、全ての神火の式神が形状変化と神出鬼没で姿も色も美少女達に変わっていく。
「マスターもっと鍛錬して、四十八体まで出せるようにしてください」
「なるほど! 異世界でアイドルを目指す少女達の物語が、いま幕を開けさせねえよ! しかも、手がマジの手刀でなんか怖い!」
十九体の美少女達が、嗤い顔で手の形状が大剣の刃のようにしながら、整列しているのだ。怖くない筈がない。
「ほらほら、下手なノリツッコミなんて寒いだけですから、戦闘準備してくださいね」
ヤナビをセンターに、整列したアイドル集団全員にじっと見られる。
「ひぃ!? こっち見るな! 怖いわ! ん? ってことは、その状態ならもっときつい鍛錬できるんだな」
俺は、鍛錬のきつさを上げられる事に気付き、嗤った。
「マスターも大概ですからね?」
「そんなに褒めても、何もやらんぞ?」
「……」
遂にスキルにまで、何故か呆れた目線を頂いた。何故だ?
そして、俺は俺で全身に形状変化で神火の鎧を纏い、大太刀『烈風』『涼風』に神火を付与し、構えを取る。
「俺の魔力は、大半をお前達の維持に使う」
俺はヤナビ達に向かって、命令を出す。
「最後の一体まで、殲滅しろ」
「イエス、マスター」
そして、遂に迷宮の出口から魔物達が溢れ出した。
「てめぇら!『外』に出られると思うなぁああ!」
二十一人と数万に及ぶ魔物達との、戦いの火蓋が切って落とされた。
「明かりを照らせぇ! 対空部隊は、気配感知を怠るな! 魔法部隊詠唱開始! 放てぇ!」
王城では、夕暮れ時に遂に訪れた魔物の大氾濫に対する防衛戦が、夜戦に突入しておりガストフ支部長の指示が現場に響いていた。
「ここからの時間は、闇に紛れこむ魔物が増える! 街中の近接戦闘部隊は、気合を入れぇい!」
街中でも、アメノが任された近接戦闘部隊に気合を入れていた。
「アメノ様、少し単独で行動を取ってもよろしいですか?」
「うむ、アシェリ殿なら問題ないじゃろ。だが、気をつけるのじゃぞ? 闇は獣の領分じゃ」
「えぇ、心得ております。では」
そして、アシェリは街中の闇に紛れ込んだ。
「そう、闇は獣の領分。今宵の月は眩しいくらいに私を照らす。主の家の『中』を汚そうとする獣は、全て狩り尽くしてくれる……『完全獣化』『真神』」
アシェリは狼の形態へと変身し、月に向かって吼えた。
「ウォオオオオオオン!」
そして、闇夜に向かって駆け出した。
「『貴方の為に強くなる』! はぁああああ!」
「グギャア!」
「セ……ラさん! 大丈夫ですか!」
セアラは上空から滑空してきた魔物を、スカートの中から取り出した金棒で叩き潰した。
「闇に紛れて、やはり撃ち漏らしが出ているようですね。ライア様、貴方と私で皆さんに魔物が行かないようにしますよ。いいですね? フフフ、ヤナ様帰ってくる場所を汚す蛆虫共……グチャグチャに潰してあげる」
セアラは、先ほどの叩き潰した魔物の返り血を浴びた。そして返り血で汚れたメイド服に、金棒を担ぎながら嗤っている。但し、目は笑っていない。
「ひぃい!? どうしてこうなっちゃったの!?」
「早く行くわよ?」
「ひゃい!」
ライアは涙目で怯えながら、セアラについていく。
そして、セアラは上空に魔物を見つけては、『四方を囲む壁』で圧死させ、滑空してきた魔物は金棒で叩き潰して行く。
その結果、常にセアラには上空で圧死させた魔物の血の雨が降り注ぎ、足元にはグチャグチャに叩き潰した魔物が転がっている。
「ウフフ……あぁ……ヤナ様に、早く褒めて貰いたいわ」
そう言いながらまた、魔物を叩き潰す。
「……『血の雨』……」
ライアの震える声で呟いた言葉は、この日の夜が明ける頃には、セアラの二つ名として、周辺魔術師、冒険者等を震え上がらせるのであった。
そして、一晩中魔物の断末魔、咆哮、叫び声は止むことなかった。
「なんだとぉ! 援軍が遅れるとは、何があったのだ!」
そろそろ朝日が昇り始めるであろう時間に、城の会議室ではサーレイス大臣の怒号が響き渡った。
「『済まぬ。どういう訳か、王都に向かう街道に瘴気纏い個体が次から次へと湧き出てくるのだ。アライが対応しているが、いかんせん数が多い』」
「『こちらも同じだ。冒険者と兵で対応しているが、進行がかなり遅れている』」
東西の諸侯が魔道具の画面で、苦渋の顔をしていた。
「くそ! 何故こんな時に!」
「サーレイスよ、落ち着け。実際この状況で、都合悪く街道に瘴気纏い個体が現れるとは、おかしくないか?」
王は、激昂するサーレイスを落ち着かせ、この状況について疑問を投げかけた。
「取り乱し、申し訳ありません。確かに……瘴気纏い個体の報告自体、王都周辺では珍しいというのに、狙ったように……」
「東と西の迷宮は、ヤナ殿が破壊したのだったな?」
「左様です」
「そして、東と西に瘴気纏い魔物が現れたという事か。サーレイス、早急にこの事をガストフ支部長に伝えろ。最悪、瘴気纏い個体が魔物の大氾濫に合わさるかもしれん」
「わかりました。しかし、これで北の迷宮が氾濫すれば、王都だけで北と南を同時に相手せねばならぬのですな」
サーレイスのその言葉を聞いて、王は少し考えた後にサーレイスにガストフ支部長に、北の迷宮の現状確認をするように指示を出した。
「この状況で北が氾濫すれば、厳しいかもしれんな……」
王は一人、誰にも聞こえない大きさで呟くのであった。
エディスは、救護班として魔物との戦いで負傷した冒険者や兵を、ギルドで手当てしていた。
「エディス! 俺の部屋に来い!」
ガストフ支部長が、険しい顔でエディスを自分の部屋へ呼び寄せた。
「どうしました? まだ戦線は保っている筈ですが」
「あぁ、思った以上に防壁に施されている結界が良く持っている。まだ暫くは大丈夫だろう。それに夜の間、街に紛れ込んだ魔物も、ほぼ討伐できた。一晩中防衛した割には、被害は最小限と言っていい」
戦果としては、おそらく最上に近い筈であるのにも関わらず、ガストフ支部長の表情は険しいままだった。
「現場に問題が起きていないという事は、まさか援軍が遅れるという事ですか?」
「その通りだ。おそらく後三日はかかるとの事だ。道中の街道に瘴気纏い個体が溢れているらしい。そのため、単独先行して戦力も送り出すことも出来んというわけだ。それが、既に迷宮の核が破壊された東と西の両方だ」
「後三日ですか、ギリギリ持つか持たないかという所ですね。南だけなら……ですが」
「あぁ、南だけならな。それとだ……東と西に瘴気纏いが出たという事は、当然南と北にも予想しておいたほうがいいだろう」
「もし、この状況で瘴気纏いが混ざったら、一気に形勢が危うくなりますね」
「そうだ。そこでだ、もし瘴気纏いが合流した場合、俺が殺れるだけ瘴気纏いを集中的に殺る。当然戻ってくるつもりはない。その時が来たら、お前をギルド支部長代理に指名し、俺が死んだ瞬間に、ギルド支部長就任だ。既にギルドマスターには了解を得ている。反論は無しだ」
エディスは、ガストフ支部長の言葉を聞き、僅かに目を見開き動揺の色見せたが、ガストフ支部長の覚悟を感じ、口を噤んだ。
ガストフ支部長は、その様子見て納得したのだろうと考えた。その為、自分の決断を受け入れたエディスに安堵し、エディスの瞳に自分と同じ覚悟の色がある事を気付かなかった。
そして、部隊を纏める人間と冒険者パーティの各リーダーに援軍が遅れる事を伝え、そのつもりで対応する人間の交代や休憩、回復薬等の事を検討し直す様に指示を出した。
食事や休憩には、避難所へと逃げなかった住民が炊き出しや、寝床の提供を行っている。
逃げたくても逃げる当てがなく、絶望する者
冒険者や兵を信じその無事を、祈る者
守りたい者の為に、堪える者
己の力を示すために、戦う者
生き残るために、抗う者
其々が、その心に様々な想いを持ちながら、只々魔物の大氾濫の終わりを待つ。
そして、魔物の大氾濫の発生から三日が過ぎた。
未だ援軍は来ない。
「瘴気纏いだぁああああ!」
災厄は止まらない
「マスター、流石変態ですね。イヤラシイ意味での『接続』ですよね? 身体があれば、何とかしてみせます」
「やかましいわ! 誰が自分のスキルに欲情するか! はぁ…落ち着け俺、こいつはスキル、こいつはただの不良品スキル……」
「スキルですね。但し、マスターの妄想の産物ですが?」
「五月蝿い! 集中させろ!……『双子』『十指』『神火の大極柱』『形状変化』『神火の式神』」
俺は神火で二十体の式神を創り出した。
「あとは、『案内者』『接続』『対象:ヤナ・フトウ』っと、あとはこれを式神の一体にかけてっと」
俺と『接続』した『案内者』を、神火の式神にかけた。
「は?」
式神にサングラスをかけた瞬間、何故か勝手に、ヤナビをかけた神火の式神が、サイドテールの美少女に形状変化していた。しかも、おそらく神出鬼没を勝手に使って、全身に色付けしており、俺じゃなければ人と見間違うばかりの出来栄えだ。俺が驚愕して立ち尽くしていると、ソレは自分のアレを揉みながら呟く。
「これくらいの大きさが、好みなんですね。まぁ割と大きめですか、そうですか」
「はぁあああああ!? 何で勝手に形変わってるの!? 確かに姿はちょっと好みだけ……イヤイヤ違う違う! そんなことはどうでもよかった!」
俺と『接続』して『案内者』に神火の式神を操らせたら、自動操縦よりも、更に俺の動きを再現できるんじゃないかと思って試したのだが、予想外の事が起きていた。
「五月蝿いですよ。もう直ぐ迷宮から魔物が溢れてくるのに、何フリーズしてるんですか。強制的に再起動させましょうか? マスターは脳みそのキャパ足りてないんですから、さっさと私を『集線』にして他の神火の式神を『接続』してください。アンダァスタァン?」
「ぐっ! サングラスに言われてる筈なのに、なんてリアルな口パクしてきやがるんだ」
「早よ」
「わぁっとるわ! 『案内者』『集線』『接続』『神火の式神』!これで良……なぁあああああ!?」
俺がヤナビに『集線』『接続』で残りの十九体の『神火の式神』を繋げた瞬間、全ての神火の式神が形状変化と神出鬼没で姿も色も美少女達に変わっていく。
「マスターもっと鍛錬して、四十八体まで出せるようにしてください」
「なるほど! 異世界でアイドルを目指す少女達の物語が、いま幕を開けさせねえよ! しかも、手がマジの手刀でなんか怖い!」
十九体の美少女達が、嗤い顔で手の形状が大剣の刃のようにしながら、整列しているのだ。怖くない筈がない。
「ほらほら、下手なノリツッコミなんて寒いだけですから、戦闘準備してくださいね」
ヤナビをセンターに、整列したアイドル集団全員にじっと見られる。
「ひぃ!? こっち見るな! 怖いわ! ん? ってことは、その状態ならもっときつい鍛錬できるんだな」
俺は、鍛錬のきつさを上げられる事に気付き、嗤った。
「マスターも大概ですからね?」
「そんなに褒めても、何もやらんぞ?」
「……」
遂にスキルにまで、何故か呆れた目線を頂いた。何故だ?
そして、俺は俺で全身に形状変化で神火の鎧を纏い、大太刀『烈風』『涼風』に神火を付与し、構えを取る。
「俺の魔力は、大半をお前達の維持に使う」
俺はヤナビ達に向かって、命令を出す。
「最後の一体まで、殲滅しろ」
「イエス、マスター」
そして、遂に迷宮の出口から魔物達が溢れ出した。
「てめぇら!『外』に出られると思うなぁああ!」
二十一人と数万に及ぶ魔物達との、戦いの火蓋が切って落とされた。
「明かりを照らせぇ! 対空部隊は、気配感知を怠るな! 魔法部隊詠唱開始! 放てぇ!」
王城では、夕暮れ時に遂に訪れた魔物の大氾濫に対する防衛戦が、夜戦に突入しておりガストフ支部長の指示が現場に響いていた。
「ここからの時間は、闇に紛れこむ魔物が増える! 街中の近接戦闘部隊は、気合を入れぇい!」
街中でも、アメノが任された近接戦闘部隊に気合を入れていた。
「アメノ様、少し単独で行動を取ってもよろしいですか?」
「うむ、アシェリ殿なら問題ないじゃろ。だが、気をつけるのじゃぞ? 闇は獣の領分じゃ」
「えぇ、心得ております。では」
そして、アシェリは街中の闇に紛れ込んだ。
「そう、闇は獣の領分。今宵の月は眩しいくらいに私を照らす。主の家の『中』を汚そうとする獣は、全て狩り尽くしてくれる……『完全獣化』『真神』」
アシェリは狼の形態へと変身し、月に向かって吼えた。
「ウォオオオオオオン!」
そして、闇夜に向かって駆け出した。
「『貴方の為に強くなる』! はぁああああ!」
「グギャア!」
「セ……ラさん! 大丈夫ですか!」
セアラは上空から滑空してきた魔物を、スカートの中から取り出した金棒で叩き潰した。
「闇に紛れて、やはり撃ち漏らしが出ているようですね。ライア様、貴方と私で皆さんに魔物が行かないようにしますよ。いいですね? フフフ、ヤナ様帰ってくる場所を汚す蛆虫共……グチャグチャに潰してあげる」
セアラは、先ほどの叩き潰した魔物の返り血を浴びた。そして返り血で汚れたメイド服に、金棒を担ぎながら嗤っている。但し、目は笑っていない。
「ひぃい!? どうしてこうなっちゃったの!?」
「早く行くわよ?」
「ひゃい!」
ライアは涙目で怯えながら、セアラについていく。
そして、セアラは上空に魔物を見つけては、『四方を囲む壁』で圧死させ、滑空してきた魔物は金棒で叩き潰して行く。
その結果、常にセアラには上空で圧死させた魔物の血の雨が降り注ぎ、足元にはグチャグチャに叩き潰した魔物が転がっている。
「ウフフ……あぁ……ヤナ様に、早く褒めて貰いたいわ」
そう言いながらまた、魔物を叩き潰す。
「……『血の雨』……」
ライアの震える声で呟いた言葉は、この日の夜が明ける頃には、セアラの二つ名として、周辺魔術師、冒険者等を震え上がらせるのであった。
そして、一晩中魔物の断末魔、咆哮、叫び声は止むことなかった。
「なんだとぉ! 援軍が遅れるとは、何があったのだ!」
そろそろ朝日が昇り始めるであろう時間に、城の会議室ではサーレイス大臣の怒号が響き渡った。
「『済まぬ。どういう訳か、王都に向かう街道に瘴気纏い個体が次から次へと湧き出てくるのだ。アライが対応しているが、いかんせん数が多い』」
「『こちらも同じだ。冒険者と兵で対応しているが、進行がかなり遅れている』」
東西の諸侯が魔道具の画面で、苦渋の顔をしていた。
「くそ! 何故こんな時に!」
「サーレイスよ、落ち着け。実際この状況で、都合悪く街道に瘴気纏い個体が現れるとは、おかしくないか?」
王は、激昂するサーレイスを落ち着かせ、この状況について疑問を投げかけた。
「取り乱し、申し訳ありません。確かに……瘴気纏い個体の報告自体、王都周辺では珍しいというのに、狙ったように……」
「東と西の迷宮は、ヤナ殿が破壊したのだったな?」
「左様です」
「そして、東と西に瘴気纏い魔物が現れたという事か。サーレイス、早急にこの事をガストフ支部長に伝えろ。最悪、瘴気纏い個体が魔物の大氾濫に合わさるかもしれん」
「わかりました。しかし、これで北の迷宮が氾濫すれば、王都だけで北と南を同時に相手せねばならぬのですな」
サーレイスのその言葉を聞いて、王は少し考えた後にサーレイスにガストフ支部長に、北の迷宮の現状確認をするように指示を出した。
「この状況で北が氾濫すれば、厳しいかもしれんな……」
王は一人、誰にも聞こえない大きさで呟くのであった。
エディスは、救護班として魔物との戦いで負傷した冒険者や兵を、ギルドで手当てしていた。
「エディス! 俺の部屋に来い!」
ガストフ支部長が、険しい顔でエディスを自分の部屋へ呼び寄せた。
「どうしました? まだ戦線は保っている筈ですが」
「あぁ、思った以上に防壁に施されている結界が良く持っている。まだ暫くは大丈夫だろう。それに夜の間、街に紛れ込んだ魔物も、ほぼ討伐できた。一晩中防衛した割には、被害は最小限と言っていい」
戦果としては、おそらく最上に近い筈であるのにも関わらず、ガストフ支部長の表情は険しいままだった。
「現場に問題が起きていないという事は、まさか援軍が遅れるという事ですか?」
「その通りだ。おそらく後三日はかかるとの事だ。道中の街道に瘴気纏い個体が溢れているらしい。そのため、単独先行して戦力も送り出すことも出来んというわけだ。それが、既に迷宮の核が破壊された東と西の両方だ」
「後三日ですか、ギリギリ持つか持たないかという所ですね。南だけなら……ですが」
「あぁ、南だけならな。それとだ……東と西に瘴気纏いが出たという事は、当然南と北にも予想しておいたほうがいいだろう」
「もし、この状況で瘴気纏いが混ざったら、一気に形勢が危うくなりますね」
「そうだ。そこでだ、もし瘴気纏いが合流した場合、俺が殺れるだけ瘴気纏いを集中的に殺る。当然戻ってくるつもりはない。その時が来たら、お前をギルド支部長代理に指名し、俺が死んだ瞬間に、ギルド支部長就任だ。既にギルドマスターには了解を得ている。反論は無しだ」
エディスは、ガストフ支部長の言葉を聞き、僅かに目を見開き動揺の色見せたが、ガストフ支部長の覚悟を感じ、口を噤んだ。
ガストフ支部長は、その様子見て納得したのだろうと考えた。その為、自分の決断を受け入れたエディスに安堵し、エディスの瞳に自分と同じ覚悟の色がある事を気付かなかった。
そして、部隊を纏める人間と冒険者パーティの各リーダーに援軍が遅れる事を伝え、そのつもりで対応する人間の交代や休憩、回復薬等の事を検討し直す様に指示を出した。
食事や休憩には、避難所へと逃げなかった住民が炊き出しや、寝床の提供を行っている。
逃げたくても逃げる当てがなく、絶望する者
冒険者や兵を信じその無事を、祈る者
守りたい者の為に、堪える者
己の力を示すために、戦う者
生き残るために、抗う者
其々が、その心に様々な想いを持ちながら、只々魔物の大氾濫の終わりを待つ。
そして、魔物の大氾濫の発生から三日が過ぎた。
未だ援軍は来ない。
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