61 / 165
第四章 自由な旅路
敢えて空気は読まない
しおりを挟む
「そろそろ、いいんじゃない? 治ったんでしょう?」
シラユキがジト目で俺を見てくるが、抱きついているのはルイであって、俺ではないと声を大にして言いたい。
「ルイ? 治った……よな?」
「チッ……治ったよぉ」
ルイの何だか暗黒面を一瞬見た気がしたが、俺は全力で見なかった事にした。
「ルゥゥイィイイ! よかったぁああ!」
「ごふ!……喜ぶのはいいけどな? 俺ごと抱きつくな……苦しいわ」
「ヤナもよかったぁああ! あんたもあんなになって、死ぬかと思ったじゃないぃい!」
「「げふ!」」
俺とルイが、アリスに鯖折りをくらい悶絶していると、コウヤの叫びが聞こえた。
「こっちは、割と結構ピンチなんですけどぉおお!」
「「「忘れてた」」」
「酷い!?」
実際、結構コウヤは苦戦していた。既に瘴気纏いの怪物になってしまっているAランク冒険者のエドリックは、明らかに盗賊頭よりも強かった。地力の実力が高かった為に、瘴気纏いになった際も強くなるのかもしれない。
そして、その様子を見て俺もコウヤと共に、瘴気纏いエドリックを相手取った。
「くっ! 流石Aランク冒険者だなっと!」
「あぁ! 結構レベルも上げて強くなったと思ったんだけどっね! こいつは、一人じゃまだ無理!」
俺は、コウヤにエドリックの事を、掻い摘んで話した。コウヤは顔を歪めて、明らかに魔族に対する怒りとエドリックに対する同情で、感情が揺れていた。
「ヤナ! 元に戻す方法は、あるのかい!」
「生きてるうちに元に戻ったのは、一度だけアシェリが成功させている。ああなる前に、瘴気の腕輪を斬り落とすことだっと!」
「っと! 腕輪は……さっき自分で外して、壊してたよ!」
「俺が殺った瘴気纏いの怪物になっちまった盗賊頭と……同じだな! ぐっ!」
「殺ったって、人を…?」
コウヤが一瞬固まって、俺を見る。
「あぁ……同じ様に瘴気の腕輪を装備して怪物になった盗賊の頭をな。斬ったあと、元の人間に戻ったよ」
「そうか……」
「死んだら戻るらしい」
俺はネミアさんに頼まれていた事を、ずっと戦いながら考えていた。
『どっちにしろ救ってください』
殺すにしろ、腕を斬り落とすにしろという事だろう。
もう元に戻す手段は、息の根を止めるしか残ってない。
「死ぬしか元に戻す事が出来ないなら、やる事は一つだろう?」
俺は、覚悟を決めた。
「ルイ! こいつは、死なないともう元に戻らない! 今からこいつの息の根を止める! 俺がアメノのクソジジイに、息の根を止められた時のこと覚えてるか!」
「え!? あっ、うん! 覚えてるよ!」
「「「は?」」」
「アメノ様……何してるんですか……」
ルイ以外の勇者達は驚き、ミレアさんが呆れている。
「今から、こいつの心臓を止める! 死んだら、身体が戻る! だが、こいつが俺と同じなら、魔力が抜け切る前に回復が出来る筈だ!」
「ふふ!『普通』じゃないね!」
「あぁ!『普通』こんなことしねぇよ! ハッハッハ!」
「ねぇ?笑う内容?」
「いや…正直内容だけ聞くと、ドン引きだけど?」
「ルイまで、笑ってる…」
「ルイ様…もうこちらには戻って来れないのですね…」
俺は心臓を一突きするべく、狙いを定めようとするが中々動きが速く、狙いが定まらない。
「ちょこまか動きやがって!」
そんな時に、アシェリから呼出がかかってきた。
「『ヤナだ! どうした!』」
「『アシェリです! 浜辺にキングクラーケンと更に瘴気纏い個体も同時に現れて、防衛側が持ちこたえらそうにありません!』」
「『くそ! 次から次へと!』」
「『あと、人魚のネミアさんですが、彼女が何か『見つけた!』と叫びながら何処かへ駆け出して行きました! エディスさんは、彼女を追いかけて行きました!』」
ネミアさんは何かを、『見つけた』らしい。彼女が短時間しか出来ない足を使ってまで、駆け出す何かとは何だ。
「『アシェリ! 今何処にいる!』」
「『ネミアさんに高い所はないかと聞かれて、浜辺の監視塔の一番上にいますが何か?』」
「『しまった! ここか!』」
ネミアさんは高台から、ここの場所を見て探していたのだろう。
「ヤナ君!」
その時、エディスさんの俺を呼ぶ大声がした。咄嗟にそちらを向くと、エディスさんの前をネミアさんがエドリックに向かって、走っていた。
「エド! もうやめてぇ!」
俺はネミアさんからエドリックを挟む形で反対側にいた為に、間に合わなかった。
ネミアさんが近づいて来ていることに気付き、エドリックは後ろを振り向いた。
そして、悲劇は起こった。
「グルアァアアア!」
「ごふっ……エド……もう……やめて……貴方は、あんな魔族になんかに……負けないで……」
エドリックの腕が、ネミアさんの胸を貫いた。
そして、ネミアさんの言葉をきき、エドリックは一瞬硬直した。そして、ネミアさんはその瞬間に、口から血を流しながらエドリックに口づけをした。
「……グ……グガァアアアア!」
エドリックの目からは涙が流れ、誰が聞いても心が締め付けような慟哭が、その場に響き渡った。
そして、みんながその悲劇の光景に心を痛めている中、そっと俺はエドリックに近づき背後から心臓を貫いた。。
「「「空気読め!?」」」
勇者達の失礼な発言はスルーして、ルイを呼ぶ。
「ルイ急げ! ネミアさんを回復だ! まだ魔力が残ってる! まだ、完全に死んでないぞ!」
「わかったよ!」
ルイが駆け寄ると同時に、エドリックの全身とネミアさんの貫かれた胸の傷を『神火の清め』で、瘴気を浄化する。
そして、心臓を貫いた瘴気纏いエドリックが徐々に元の身体に戻っていく。心臓を貫かれて、徐々に身体が死んでいく。
「……早く……早く……戻った! 今だ! ルイ! エドリックもだ!」
「任せてぇ! えぇえええいい!」
ルイの回復魔法によって、一足先に回復したネミアさんが、倒れているエドリックに抱きつく。
「エド! 目を覚まして! お願い……また私に、貴方の笑顔を見せて……」
ネミアさんが、エドリックに優しい口づけをした。
「……ん……ネ……ミア……? 何故ここに……」
「エド!」
ネミアさんがエドリックに、泣きながら再び抱きついた。
「普通逆だよな? 口づけで起こすのは」
俺は笑いながら、隣のルイに話しかける。
「まぁ、いいんじゃない? これも、ふふ」
ルイもつられて笑っていた。
すると、突然エドリックが大声で叫ぶ。
「そうだ! ゲッソは何処にいる!」
「ゲッソさんなら、瘴気纏いキングクラーケンの担当職員ですから、今は浜辺の前線で指揮をとっていると思いますよ?」
エディスさんが、エドリックさんに当たり前のことを告げた。
「あ……あいつは……魔族だ! 俺達の船を、あいつが大渦で大破させたんだ!」
全員が驚きと共に、浜辺の方向を見た時、ここからでも見える程の瘴気纏いキングクラーケンの巨大な身体が姿を現した。
シラユキがジト目で俺を見てくるが、抱きついているのはルイであって、俺ではないと声を大にして言いたい。
「ルイ? 治った……よな?」
「チッ……治ったよぉ」
ルイの何だか暗黒面を一瞬見た気がしたが、俺は全力で見なかった事にした。
「ルゥゥイィイイ! よかったぁああ!」
「ごふ!……喜ぶのはいいけどな? 俺ごと抱きつくな……苦しいわ」
「ヤナもよかったぁああ! あんたもあんなになって、死ぬかと思ったじゃないぃい!」
「「げふ!」」
俺とルイが、アリスに鯖折りをくらい悶絶していると、コウヤの叫びが聞こえた。
「こっちは、割と結構ピンチなんですけどぉおお!」
「「「忘れてた」」」
「酷い!?」
実際、結構コウヤは苦戦していた。既に瘴気纏いの怪物になってしまっているAランク冒険者のエドリックは、明らかに盗賊頭よりも強かった。地力の実力が高かった為に、瘴気纏いになった際も強くなるのかもしれない。
そして、その様子を見て俺もコウヤと共に、瘴気纏いエドリックを相手取った。
「くっ! 流石Aランク冒険者だなっと!」
「あぁ! 結構レベルも上げて強くなったと思ったんだけどっね! こいつは、一人じゃまだ無理!」
俺は、コウヤにエドリックの事を、掻い摘んで話した。コウヤは顔を歪めて、明らかに魔族に対する怒りとエドリックに対する同情で、感情が揺れていた。
「ヤナ! 元に戻す方法は、あるのかい!」
「生きてるうちに元に戻ったのは、一度だけアシェリが成功させている。ああなる前に、瘴気の腕輪を斬り落とすことだっと!」
「っと! 腕輪は……さっき自分で外して、壊してたよ!」
「俺が殺った瘴気纏いの怪物になっちまった盗賊頭と……同じだな! ぐっ!」
「殺ったって、人を…?」
コウヤが一瞬固まって、俺を見る。
「あぁ……同じ様に瘴気の腕輪を装備して怪物になった盗賊の頭をな。斬ったあと、元の人間に戻ったよ」
「そうか……」
「死んだら戻るらしい」
俺はネミアさんに頼まれていた事を、ずっと戦いながら考えていた。
『どっちにしろ救ってください』
殺すにしろ、腕を斬り落とすにしろという事だろう。
もう元に戻す手段は、息の根を止めるしか残ってない。
「死ぬしか元に戻す事が出来ないなら、やる事は一つだろう?」
俺は、覚悟を決めた。
「ルイ! こいつは、死なないともう元に戻らない! 今からこいつの息の根を止める! 俺がアメノのクソジジイに、息の根を止められた時のこと覚えてるか!」
「え!? あっ、うん! 覚えてるよ!」
「「「は?」」」
「アメノ様……何してるんですか……」
ルイ以外の勇者達は驚き、ミレアさんが呆れている。
「今から、こいつの心臓を止める! 死んだら、身体が戻る! だが、こいつが俺と同じなら、魔力が抜け切る前に回復が出来る筈だ!」
「ふふ!『普通』じゃないね!」
「あぁ!『普通』こんなことしねぇよ! ハッハッハ!」
「ねぇ?笑う内容?」
「いや…正直内容だけ聞くと、ドン引きだけど?」
「ルイまで、笑ってる…」
「ルイ様…もうこちらには戻って来れないのですね…」
俺は心臓を一突きするべく、狙いを定めようとするが中々動きが速く、狙いが定まらない。
「ちょこまか動きやがって!」
そんな時に、アシェリから呼出がかかってきた。
「『ヤナだ! どうした!』」
「『アシェリです! 浜辺にキングクラーケンと更に瘴気纏い個体も同時に現れて、防衛側が持ちこたえらそうにありません!』」
「『くそ! 次から次へと!』」
「『あと、人魚のネミアさんですが、彼女が何か『見つけた!』と叫びながら何処かへ駆け出して行きました! エディスさんは、彼女を追いかけて行きました!』」
ネミアさんは何かを、『見つけた』らしい。彼女が短時間しか出来ない足を使ってまで、駆け出す何かとは何だ。
「『アシェリ! 今何処にいる!』」
「『ネミアさんに高い所はないかと聞かれて、浜辺の監視塔の一番上にいますが何か?』」
「『しまった! ここか!』」
ネミアさんは高台から、ここの場所を見て探していたのだろう。
「ヤナ君!」
その時、エディスさんの俺を呼ぶ大声がした。咄嗟にそちらを向くと、エディスさんの前をネミアさんがエドリックに向かって、走っていた。
「エド! もうやめてぇ!」
俺はネミアさんからエドリックを挟む形で反対側にいた為に、間に合わなかった。
ネミアさんが近づいて来ていることに気付き、エドリックは後ろを振り向いた。
そして、悲劇は起こった。
「グルアァアアア!」
「ごふっ……エド……もう……やめて……貴方は、あんな魔族になんかに……負けないで……」
エドリックの腕が、ネミアさんの胸を貫いた。
そして、ネミアさんの言葉をきき、エドリックは一瞬硬直した。そして、ネミアさんはその瞬間に、口から血を流しながらエドリックに口づけをした。
「……グ……グガァアアアア!」
エドリックの目からは涙が流れ、誰が聞いても心が締め付けような慟哭が、その場に響き渡った。
そして、みんながその悲劇の光景に心を痛めている中、そっと俺はエドリックに近づき背後から心臓を貫いた。。
「「「空気読め!?」」」
勇者達の失礼な発言はスルーして、ルイを呼ぶ。
「ルイ急げ! ネミアさんを回復だ! まだ魔力が残ってる! まだ、完全に死んでないぞ!」
「わかったよ!」
ルイが駆け寄ると同時に、エドリックの全身とネミアさんの貫かれた胸の傷を『神火の清め』で、瘴気を浄化する。
そして、心臓を貫いた瘴気纏いエドリックが徐々に元の身体に戻っていく。心臓を貫かれて、徐々に身体が死んでいく。
「……早く……早く……戻った! 今だ! ルイ! エドリックもだ!」
「任せてぇ! えぇえええいい!」
ルイの回復魔法によって、一足先に回復したネミアさんが、倒れているエドリックに抱きつく。
「エド! 目を覚まして! お願い……また私に、貴方の笑顔を見せて……」
ネミアさんが、エドリックに優しい口づけをした。
「……ん……ネ……ミア……? 何故ここに……」
「エド!」
ネミアさんがエドリックに、泣きながら再び抱きついた。
「普通逆だよな? 口づけで起こすのは」
俺は笑いながら、隣のルイに話しかける。
「まぁ、いいんじゃない? これも、ふふ」
ルイもつられて笑っていた。
すると、突然エドリックが大声で叫ぶ。
「そうだ! ゲッソは何処にいる!」
「ゲッソさんなら、瘴気纏いキングクラーケンの担当職員ですから、今は浜辺の前線で指揮をとっていると思いますよ?」
エディスさんが、エドリックさんに当たり前のことを告げた。
「あ……あいつは……魔族だ! 俺達の船を、あいつが大渦で大破させたんだ!」
全員が驚きと共に、浜辺の方向を見た時、ここからでも見える程の瘴気纏いキングクラーケンの巨大な身体が姿を現した。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる