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第四章 自由な旅路
脳筋のくせに
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「ヤナ君、もしかしてこの方達は……」
俺と勇者達がギルドの入り口で鉢合わせた所に、後ろからついて来ていたエディスさんが勇者達に気付いたらしい。
「あぁ、ご想像通り、勇者達だな」
「やはりそうでしたか。直接お目にかかるのは、初めてですね。私は、ジャイノス王都支部ギルド職員のエディスと申します」
エディスさんが営業スマイルで、微笑み掛けながら自己紹介をした。
コウヤは、エディスさんの着ている服を押し上げるアレに目を奪われ、固まっている。
ルイとシラユキは、自分のアレとエディスさんのアレと見比べている。
アリスは……殺気を抑えるのに必死なのだろう。握り拳がふるふる震え、手が充血している。
ミレアさんは、大人の余裕なのかニコニコしていたが、目は笑っていなかった。ミレアさんのアレもアリスとさほど変わらないのだ。
「僕たちは、一ヶ月前にこの世界に召喚された勇者です。僕はコウヤです」
「ルイです! よろしく!」
「シラユキです。よろしくお願いします」
「ぐむぅ……ア……アリスです……世露死苦ぅ!」
「アリス様……気持ちはわかります……ミレアです。世露死苦!」
若干二名、とても残念な人達が居たが、お互いスルーしていた。
「その勇者様方とヤナ君は、知り合いなのですか?」
エディスさんが、俺と勇者達との関係を訪ねて来た。確かに唯の冒険者と世界の救世主である勇者がなぜ知り合いなのかという事は、誰でも不思議に思うだろう。
「それはね、ヤナも同じ召喚ぐぶえぇ……な……何故……げふ……」
「ダイジョウブか! やっぱり勇者といっても、疲れが溜まっているみたいだなぁ。実はさ、俺が冒険者になる前に、鍛錬中の勇者達に助けられた時があってな。歳も近かったから、その時に仲良くさせて貰ってさ。言葉使いも俺は最初敬語を使ってたんだが、勇者達が喋りにくいからこんな話し方でいいぞと言ってくれてな。ソウダッタヨナ?」
「「「「……ソーデスネ」」」」
「コウヤもソウダッタヨナ?」
「……ソーデスネ……」
その様子を見ていたエディスさんが、半眼で俺を見ているが、ここはスルーさせて貰う。勇者達と同じ召喚者だとは、なるべく知られるのは避けたい。エディスさんは、まだ何か言いたそうにしていたが、丁度その時に、俺とエディスさんの後ろに立っていたアシェリが、勇者達に見える位置に顔を出した。
「あ! 可愛い!」
「何この子! 可愛い過ぎるぅう!」
「持って帰っていい!?」
ルイ、アリス、シラユキは獣人幼女アシェリを見た瞬間に、騒ぎ立てる。コウヤは思わず頭を撫でようしたので、一人だけに殺気と威圧を叩きつけてやった。コウヤだけは脂汗を額に出しているが、他の女勇者達はきゃーきゃー騒いでいる。
「ヤナ君! この可愛い子は、ヤナ君の知り合いなの!? 紹介してよ!」
「ルイ含めて、お前ら興奮し過ぎだろ……コウヤは、そこから動くなコロスぞ……」
コウヤの悲痛な叫びは、完全にスルーしてやった。
その時コウヤに気を取られるあまり、俺は油断していたのだ。エディスさんがどんな人だったのかを。俺がアシェリの事を話そうとしたその瞬間、嗤っているエディスさんが俺の目にはいった。
「エディスさん……何を嗤って……まずい! この子は……」
エディスさんは、サッとアシェリの耳を両手で塞ぎ、俺より先に口を開いてしまった。
「この子は『ヤナ君の奴隷』のアシェリちゃんです。それはもう毎日、刺しつ刺されつで可愛がっている子ですよ。王都からここまで、移動中も激しく動くものですから見ていてハラハラしましたよ? ねぇ? ヤぁナぁくぅん?」
「な!? 何を言って……」
エディスさんは、俺にだけ見える角度で嗤いながら言い放つ。
「何か間違っていましたか? 毎日。ヤナ君の剣で、アシェリちゃんを突いてますよね? フフフ」
「うぐ……た……確かに、何も間違っていないが……」
「でしょう? ナニも間違っては……いないという事ですよ、勇者様方」
俺は、背筋にゾクっとした気配を感じ、ゆっくりと勇者達を見た。
「ひぃ!?」
まるで汚物でも見ている方が、まだ可愛いのではないかという程の、完全に色の無くなった瞳を女勇者達とミレアさんから向けられていた。
「屑」
「下衆」
「鬼畜」
「ヤナ様……シネ」
「ま……待て! これは違っ……」
「主様? どうかしましたか?」
俺は、アシェリがここで俺を"主様"呼びしてきた事に驚愕していると、エディスさんが満面の嗤い顔で俺を見ていた。
「「「主様って、呼ばせてる……うわぁ」」」
「エディスさん! あんたの仕業かぁああ!?」
「あら? ヤナ君、『エディスさん』なんて、他人行儀ですね……二人の時は、エディスなのに……」
エディスさんが、俺ではなく勇者達の方に向けて微笑みかける。
「ヤナ……お前って、大人になったんだな……」
「コウヤ! 違う! 俺はエディスさんに、嵌められたんだ!」
「ハメられたなんて……ひぃ!? 僕は何も言ってません……言ってません」
コウヤが他の勇者達から、俺と同じ目を向けられてガクガクと震えだした。
そこから俺は、三人の勇者達からの精神攻撃をジッと耐えながら、根気強くこれまでの経緯を説明した。この時ほど、俺は不撓不屈を意識して発動させた事は無いだろう。同時にこの時ほど、このスキルに感謝した事は、あの時以来だろう。
そして、勇者達はエディスさんの冗談だとやっと理解すると、今では女性陣同士で何事も無かったように、盛り上がって話をしている。
「疲れた……俺は一体何の為に……理不尽過ぎる」
「ヤナ……流石にこれは、気の毒だと僕も思う……エディスさん、コワイ」
すっかり打ち解けている女性陣を尻目に、コウヤからここにいる理由などを聞いた。どうやら、この街に来た理由は俺と同じで、瘴気纏いキングクラーケン討伐をドルフィ伯爵から頼まれたらしい。
「丁度、ノスティからここに移動している時だったから、すぐこれたのさ」
ここに来る前は、北の街ノスティにいたらしい。俺が護衛クエストで行った時も居たらしいが、鉱山にある迷宮などでレベリングをしていたらしい。そのおかげで既に全員が五十レベルを超えたらしい。流石の勇者の成長促進スキルである。俺なんて、あれだけ暴れて魔族も討伐してやっとラオライン討伐後に三十レベルにやっとなったというのに。
「折角だから、協力しないか? 唯でさえ、情報が無いからな」
「うん、いいよ」
丁度良かったので、勇者達とミレアさんエディスさんに、俺の通信魔法を説明し友達登録させて貰った。
エディスさんは驚き固まっていたが、アシェリに肩を叩かれ、何故か慰められていた。ミレアさんも驚いていたが、俺も召喚者だと知っているためか、これくらいなら許容範囲らしく、割とすぐに受け入れていた。
「何で城出る時に、これ教えてくれなかったのよ……」
シラユキが、半眼で俺を睨んでくる。
「本当は、そのつもりだったんだけどさ。色々忙しくて、お前らに会いに行く暇が無かったんだよ」
「来ようと思えば、すぐ来れたくせに……」
「悪かったって。確かに、これは便利だからな。これからは、何か情報仕入れたら呼出してくれよ」
「ふん、わかったわよ。何か情報仕入れたらね!」
シラユキは、そう言うなりギルドを先に出て行った。慌ててコウヤとアリス、ミレアさんも別れの挨拶をしながらシラユキを追いかけて出て行った。
「何なんだ? あれか? 機嫌が悪い日か?」
「ヤナ君、それ言ったらシラユキちゃんに色々えぐられるよ?」
「……気をつける……ルイは追いかけないのか?」
一人ルイだけがまだ、出て行ってなかった。
「今いくよ。実はね、シラユキちゃん結構強がってるけど、精神的に結構きてるんだ。北の都でも瘴気纏いの魔物と戦ったんだけど、火力職で目立つせいかシラユキちゃん狙われやすくてさ。結構危ない場面とかあったから」
「所謂ヘイトって奴だな。その辺は、皆んなでカバーしていくしか無いだろうなぁ」
「だからね、別に新しい情報がなくても、時々でいいからシラユキちゃんに呼出してあげて?」
「わかったよ。時々からかってやるさ」
俺は笑いながら、そう答えた。
そして、それを聞いてルイもギルドを出て行こうと出口に歩き出す。扉に手をかけたところで、振り返り笑顔を俺に見せた。
「私にも呼出してね?」
「はは、わかってるよ。そっちも気をつけろよ? 何かあれば呼出しろ」
「そしたら、ヒーローみたいに来てくれるの?」
「そうだな。ギリギリのタイミングで、駆け付けるぞ?」
そして、笑顔でルイもギルドを出て行った。
「何ですかコレ? ヤナ君のクセに……」
「なんなんですかね? 主様のクセに……」
「お前らの俺の評価って何なの……?」
「「変態鍛錬バカ」」
「俺も終いにゃ、心折れるぞ!?」
俺の心の回復薬は、何処で売っているのですか?
俺が、四つん這いで嘆いていると、それすら無視して二人は歩き出す。
「エディス様、とりあえずゲッソ様が言っていた、海が一望出来る高台に行こうと思います」
「私は、評価者ですからアシェリちゃんの好きにしたらいいですよ」
「俺の試験だからね!?」
「「遅い」」
近いうちに俺はきっと、『精神耐性スキル』を取得出来ることをこの時確信した。
その後、三人でギルドをあとにし、ゲッソの言っていた高台へと向かって歩いて行った。途中海岸に出たので、ある事を試してその結果に驚いていると、エディスさんには何をそんなに驚いているのかと逆に聞かれてしまった。海を見るのが初めてと誤魔化しておいたが、訝しげな顔をされてしまった。
暫く高台に登る道を歩いていると、開けた場所に出た。
「おぉ、これは中々の絶景だな」
「えぇ、風も気持ちいわね」
「水面がキラキラして綺麗です」
景色を楽しんでいると、遠くに何かが見えた。
「ん? 何だあれ? 魚……にしてはデカイな……何か追いかけてる?」
「主様? 何か見えるんですか?」
「あぁ、ちょっと待ってな。何か……なぁ、エディスさん? 人魚っているのか?」
魔物の群れに追われて、追われている方の水面を跳ねた姿を見た俺は、エディスさんに聞いた。
「えぇ、いますよ。彼らは、あまり海岸近くには現れませんから、目撃自体は少ないですが、人魚族は海に暮らしていますよ」
「なら、あれが多分そうだな。恐らく魔物に襲われてるから、ちょこっと逃げるのを手助けするかな」
「アシェリちゃん……見える?」
「身体強化して、やっと何か動いているのがわかる程度です……人魚族かどうかは全く……」
二人がブツブツ言っている横で、準備を進める。
「『十指』『獄炎極球』『形状変化』『黒炎の銛』『自動操縦』『対象:あの人魚の少女を襲っている魔物の群れ』」
特に必要はないのだが、『黒炎の銛』を一本手に取り、少し助走を取り走りだす。
「ぬぉりゃぁあああああ! せぃいいい!」
思いっきり魔物に群れに対して投擲し、黒炎の銛を投擲し、残りの銛もそれに付いて行くように一斉に飛び出した。
「今の意味ある?」
「きっと気分でしょうね」
それが、大事なのだ。
そして、十本の黒炎の銛は綺麗な弧を描き、魔物の群れに直撃した。
そして魔物が絶命するまで何度も貫き、最後には銛に魔物を刺した状態で、此方に向かって戻ってきている。
「情け容赦もないわね……」
「見えない所から……哀れの一言です」
「そんなに褒めるなよ? 照れるだろ、ふふふ」
二人から冷めた目線を頂いたが、そんなのはご褒美で断じてない為スルーした。
そして、助けた人魚の少女はと言うと、何が起こったのか分からないと言った様子で辺りを見回していた。
「まぁ、いきなりだったからな。流石に混乱するよな」
「いきなりじゃなくても、この距離から普通助けられるとは思わないでしょうね……」
エディスさんの呟きを聞きながらも、様子を見ていると取り敢えず銛に貫かれた魔物が飛んで行った方向、つまり此方を見ていた。一応高台から見下ろす位置に俺は立っている為、彼方からも角度的には見える。
不意にその人魚族の少女と、目が合った。
「エディスさん、人魚族ってのは目が良いんだな。目が合ったぞ?」
「そこまで私も詳しくはないですね。しかし、この距離でヤナ君と目があうという事は、相当良いのでしょうね」
俺とその人魚の少女は、お互い視線を切らずに居たが、不意に少女は海に潜り消えてしまった。
俺は、海に潜り消える瞬間に見せた少女の表情が偶然目に入った。
その顔は、とても命が助かった表情とは思えなかった。
そして、海は次第に荒れ始めたのだった。
俺と勇者達がギルドの入り口で鉢合わせた所に、後ろからついて来ていたエディスさんが勇者達に気付いたらしい。
「あぁ、ご想像通り、勇者達だな」
「やはりそうでしたか。直接お目にかかるのは、初めてですね。私は、ジャイノス王都支部ギルド職員のエディスと申します」
エディスさんが営業スマイルで、微笑み掛けながら自己紹介をした。
コウヤは、エディスさんの着ている服を押し上げるアレに目を奪われ、固まっている。
ルイとシラユキは、自分のアレとエディスさんのアレと見比べている。
アリスは……殺気を抑えるのに必死なのだろう。握り拳がふるふる震え、手が充血している。
ミレアさんは、大人の余裕なのかニコニコしていたが、目は笑っていなかった。ミレアさんのアレもアリスとさほど変わらないのだ。
「僕たちは、一ヶ月前にこの世界に召喚された勇者です。僕はコウヤです」
「ルイです! よろしく!」
「シラユキです。よろしくお願いします」
「ぐむぅ……ア……アリスです……世露死苦ぅ!」
「アリス様……気持ちはわかります……ミレアです。世露死苦!」
若干二名、とても残念な人達が居たが、お互いスルーしていた。
「その勇者様方とヤナ君は、知り合いなのですか?」
エディスさんが、俺と勇者達との関係を訪ねて来た。確かに唯の冒険者と世界の救世主である勇者がなぜ知り合いなのかという事は、誰でも不思議に思うだろう。
「それはね、ヤナも同じ召喚ぐぶえぇ……な……何故……げふ……」
「ダイジョウブか! やっぱり勇者といっても、疲れが溜まっているみたいだなぁ。実はさ、俺が冒険者になる前に、鍛錬中の勇者達に助けられた時があってな。歳も近かったから、その時に仲良くさせて貰ってさ。言葉使いも俺は最初敬語を使ってたんだが、勇者達が喋りにくいからこんな話し方でいいぞと言ってくれてな。ソウダッタヨナ?」
「「「「……ソーデスネ」」」」
「コウヤもソウダッタヨナ?」
「……ソーデスネ……」
その様子を見ていたエディスさんが、半眼で俺を見ているが、ここはスルーさせて貰う。勇者達と同じ召喚者だとは、なるべく知られるのは避けたい。エディスさんは、まだ何か言いたそうにしていたが、丁度その時に、俺とエディスさんの後ろに立っていたアシェリが、勇者達に見える位置に顔を出した。
「あ! 可愛い!」
「何この子! 可愛い過ぎるぅう!」
「持って帰っていい!?」
ルイ、アリス、シラユキは獣人幼女アシェリを見た瞬間に、騒ぎ立てる。コウヤは思わず頭を撫でようしたので、一人だけに殺気と威圧を叩きつけてやった。コウヤだけは脂汗を額に出しているが、他の女勇者達はきゃーきゃー騒いでいる。
「ヤナ君! この可愛い子は、ヤナ君の知り合いなの!? 紹介してよ!」
「ルイ含めて、お前ら興奮し過ぎだろ……コウヤは、そこから動くなコロスぞ……」
コウヤの悲痛な叫びは、完全にスルーしてやった。
その時コウヤに気を取られるあまり、俺は油断していたのだ。エディスさんがどんな人だったのかを。俺がアシェリの事を話そうとしたその瞬間、嗤っているエディスさんが俺の目にはいった。
「エディスさん……何を嗤って……まずい! この子は……」
エディスさんは、サッとアシェリの耳を両手で塞ぎ、俺より先に口を開いてしまった。
「この子は『ヤナ君の奴隷』のアシェリちゃんです。それはもう毎日、刺しつ刺されつで可愛がっている子ですよ。王都からここまで、移動中も激しく動くものですから見ていてハラハラしましたよ? ねぇ? ヤぁナぁくぅん?」
「な!? 何を言って……」
エディスさんは、俺にだけ見える角度で嗤いながら言い放つ。
「何か間違っていましたか? 毎日。ヤナ君の剣で、アシェリちゃんを突いてますよね? フフフ」
「うぐ……た……確かに、何も間違っていないが……」
「でしょう? ナニも間違っては……いないという事ですよ、勇者様方」
俺は、背筋にゾクっとした気配を感じ、ゆっくりと勇者達を見た。
「ひぃ!?」
まるで汚物でも見ている方が、まだ可愛いのではないかという程の、完全に色の無くなった瞳を女勇者達とミレアさんから向けられていた。
「屑」
「下衆」
「鬼畜」
「ヤナ様……シネ」
「ま……待て! これは違っ……」
「主様? どうかしましたか?」
俺は、アシェリがここで俺を"主様"呼びしてきた事に驚愕していると、エディスさんが満面の嗤い顔で俺を見ていた。
「「「主様って、呼ばせてる……うわぁ」」」
「エディスさん! あんたの仕業かぁああ!?」
「あら? ヤナ君、『エディスさん』なんて、他人行儀ですね……二人の時は、エディスなのに……」
エディスさんが、俺ではなく勇者達の方に向けて微笑みかける。
「ヤナ……お前って、大人になったんだな……」
「コウヤ! 違う! 俺はエディスさんに、嵌められたんだ!」
「ハメられたなんて……ひぃ!? 僕は何も言ってません……言ってません」
コウヤが他の勇者達から、俺と同じ目を向けられてガクガクと震えだした。
そこから俺は、三人の勇者達からの精神攻撃をジッと耐えながら、根気強くこれまでの経緯を説明した。この時ほど、俺は不撓不屈を意識して発動させた事は無いだろう。同時にこの時ほど、このスキルに感謝した事は、あの時以来だろう。
そして、勇者達はエディスさんの冗談だとやっと理解すると、今では女性陣同士で何事も無かったように、盛り上がって話をしている。
「疲れた……俺は一体何の為に……理不尽過ぎる」
「ヤナ……流石にこれは、気の毒だと僕も思う……エディスさん、コワイ」
すっかり打ち解けている女性陣を尻目に、コウヤからここにいる理由などを聞いた。どうやら、この街に来た理由は俺と同じで、瘴気纏いキングクラーケン討伐をドルフィ伯爵から頼まれたらしい。
「丁度、ノスティからここに移動している時だったから、すぐこれたのさ」
ここに来る前は、北の街ノスティにいたらしい。俺が護衛クエストで行った時も居たらしいが、鉱山にある迷宮などでレベリングをしていたらしい。そのおかげで既に全員が五十レベルを超えたらしい。流石の勇者の成長促進スキルである。俺なんて、あれだけ暴れて魔族も討伐してやっとラオライン討伐後に三十レベルにやっとなったというのに。
「折角だから、協力しないか? 唯でさえ、情報が無いからな」
「うん、いいよ」
丁度良かったので、勇者達とミレアさんエディスさんに、俺の通信魔法を説明し友達登録させて貰った。
エディスさんは驚き固まっていたが、アシェリに肩を叩かれ、何故か慰められていた。ミレアさんも驚いていたが、俺も召喚者だと知っているためか、これくらいなら許容範囲らしく、割とすぐに受け入れていた。
「何で城出る時に、これ教えてくれなかったのよ……」
シラユキが、半眼で俺を睨んでくる。
「本当は、そのつもりだったんだけどさ。色々忙しくて、お前らに会いに行く暇が無かったんだよ」
「来ようと思えば、すぐ来れたくせに……」
「悪かったって。確かに、これは便利だからな。これからは、何か情報仕入れたら呼出してくれよ」
「ふん、わかったわよ。何か情報仕入れたらね!」
シラユキは、そう言うなりギルドを先に出て行った。慌ててコウヤとアリス、ミレアさんも別れの挨拶をしながらシラユキを追いかけて出て行った。
「何なんだ? あれか? 機嫌が悪い日か?」
「ヤナ君、それ言ったらシラユキちゃんに色々えぐられるよ?」
「……気をつける……ルイは追いかけないのか?」
一人ルイだけがまだ、出て行ってなかった。
「今いくよ。実はね、シラユキちゃん結構強がってるけど、精神的に結構きてるんだ。北の都でも瘴気纏いの魔物と戦ったんだけど、火力職で目立つせいかシラユキちゃん狙われやすくてさ。結構危ない場面とかあったから」
「所謂ヘイトって奴だな。その辺は、皆んなでカバーしていくしか無いだろうなぁ」
「だからね、別に新しい情報がなくても、時々でいいからシラユキちゃんに呼出してあげて?」
「わかったよ。時々からかってやるさ」
俺は笑いながら、そう答えた。
そして、それを聞いてルイもギルドを出て行こうと出口に歩き出す。扉に手をかけたところで、振り返り笑顔を俺に見せた。
「私にも呼出してね?」
「はは、わかってるよ。そっちも気をつけろよ? 何かあれば呼出しろ」
「そしたら、ヒーローみたいに来てくれるの?」
「そうだな。ギリギリのタイミングで、駆け付けるぞ?」
そして、笑顔でルイもギルドを出て行った。
「何ですかコレ? ヤナ君のクセに……」
「なんなんですかね? 主様のクセに……」
「お前らの俺の評価って何なの……?」
「「変態鍛錬バカ」」
「俺も終いにゃ、心折れるぞ!?」
俺の心の回復薬は、何処で売っているのですか?
俺が、四つん這いで嘆いていると、それすら無視して二人は歩き出す。
「エディス様、とりあえずゲッソ様が言っていた、海が一望出来る高台に行こうと思います」
「私は、評価者ですからアシェリちゃんの好きにしたらいいですよ」
「俺の試験だからね!?」
「「遅い」」
近いうちに俺はきっと、『精神耐性スキル』を取得出来ることをこの時確信した。
その後、三人でギルドをあとにし、ゲッソの言っていた高台へと向かって歩いて行った。途中海岸に出たので、ある事を試してその結果に驚いていると、エディスさんには何をそんなに驚いているのかと逆に聞かれてしまった。海を見るのが初めてと誤魔化しておいたが、訝しげな顔をされてしまった。
暫く高台に登る道を歩いていると、開けた場所に出た。
「おぉ、これは中々の絶景だな」
「えぇ、風も気持ちいわね」
「水面がキラキラして綺麗です」
景色を楽しんでいると、遠くに何かが見えた。
「ん? 何だあれ? 魚……にしてはデカイな……何か追いかけてる?」
「主様? 何か見えるんですか?」
「あぁ、ちょっと待ってな。何か……なぁ、エディスさん? 人魚っているのか?」
魔物の群れに追われて、追われている方の水面を跳ねた姿を見た俺は、エディスさんに聞いた。
「えぇ、いますよ。彼らは、あまり海岸近くには現れませんから、目撃自体は少ないですが、人魚族は海に暮らしていますよ」
「なら、あれが多分そうだな。恐らく魔物に襲われてるから、ちょこっと逃げるのを手助けするかな」
「アシェリちゃん……見える?」
「身体強化して、やっと何か動いているのがわかる程度です……人魚族かどうかは全く……」
二人がブツブツ言っている横で、準備を進める。
「『十指』『獄炎極球』『形状変化』『黒炎の銛』『自動操縦』『対象:あの人魚の少女を襲っている魔物の群れ』」
特に必要はないのだが、『黒炎の銛』を一本手に取り、少し助走を取り走りだす。
「ぬぉりゃぁあああああ! せぃいいい!」
思いっきり魔物に群れに対して投擲し、黒炎の銛を投擲し、残りの銛もそれに付いて行くように一斉に飛び出した。
「今の意味ある?」
「きっと気分でしょうね」
それが、大事なのだ。
そして、十本の黒炎の銛は綺麗な弧を描き、魔物の群れに直撃した。
そして魔物が絶命するまで何度も貫き、最後には銛に魔物を刺した状態で、此方に向かって戻ってきている。
「情け容赦もないわね……」
「見えない所から……哀れの一言です」
「そんなに褒めるなよ? 照れるだろ、ふふふ」
二人から冷めた目線を頂いたが、そんなのはご褒美で断じてない為スルーした。
そして、助けた人魚の少女はと言うと、何が起こったのか分からないと言った様子で辺りを見回していた。
「まぁ、いきなりだったからな。流石に混乱するよな」
「いきなりじゃなくても、この距離から普通助けられるとは思わないでしょうね……」
エディスさんの呟きを聞きながらも、様子を見ていると取り敢えず銛に貫かれた魔物が飛んで行った方向、つまり此方を見ていた。一応高台から見下ろす位置に俺は立っている為、彼方からも角度的には見える。
不意にその人魚族の少女と、目が合った。
「エディスさん、人魚族ってのは目が良いんだな。目が合ったぞ?」
「そこまで私も詳しくはないですね。しかし、この距離でヤナ君と目があうという事は、相当良いのでしょうね」
俺とその人魚の少女は、お互い視線を切らずに居たが、不意に少女は海に潜り消えてしまった。
俺は、海に潜り消える瞬間に見せた少女の表情が偶然目に入った。
その顔は、とても命が助かった表情とは思えなかった。
そして、海は次第に荒れ始めたのだった。
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