要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
57 / 165
第四章 自由な旅路

脳筋のくせに

しおりを挟む
「ヤナ君、もしかしてこの方達は……」

 俺と勇者達がギルドの入り口で鉢合わせた所に、後ろからついて来ていたエディスさんが勇者達に気付いたらしい。

「あぁ、ご想像通り、勇者達だな」

「やはりそうでしたか。直接お目にかかるのは、初めてですね。私は、ジャイノス王都支部ギルド職員のエディスと申します」

 エディスさんが営業・・スマイルで、微笑み掛けながら自己紹介をした。

 コウヤは、エディスさんの着ている服を押し上げるアレ・・に目を奪われ、固まっている。

 ルイとシラユキは、自分のアレ・・とエディスさんのアレ・・と見比べている。

 アリスは……殺気を抑えるのに必死なのだろう。握り拳がふるふる震え、手が充血している。

 ミレアさんは、大人の余裕なのかニコニコしていたが、目は笑っていなかった。ミレアさんのアレもアリスとさほど変わらないのだ。

「僕たちは、一ヶ月前にこの世界に召喚された勇者です。僕はコウヤです」
「ルイです! よろしく!」
「シラユキです。よろしくお願いします」
「ぐむぅ……ア……アリスです……世露死苦ぅ!」
「アリス様……気持ちはわかります……ミレアです。世露死苦!」

 若干二名、とても残念な人達が居たが、お互いスルー無視していた。

「その勇者様方とヤナ君は、知り合いなのですか?」

 エディスさんが、俺と勇者達との関係を訪ねて来た。確かに唯の冒険者と世界の救世主である勇者がなぜ知り合いなのかという事は、誰でも不思議に思うだろう。

「それはね、ヤナも同じ召喚ぐぶえぇ……な……何故……げふ……」

「ダイジョウブか! やっぱり勇者といっても、疲れが溜まっているみたいだなぁ。実はさ、俺が冒険者になる前に、鍛錬中の勇者達に助けられた時があってな。歳も近かったから、その時に仲良くさせて貰ってさ。言葉使いも俺は最初敬語を使ってたんだが、勇者達が喋りにくいからこんな話し方でいいぞと言ってくれてな。ソウダッタヨナ?」

「「「「……ソーデスネ」」」」

「コウヤもソウダッタヨナ?」

「……ソーデスネ……」

 その様子を見ていたエディスさんが、半眼で俺を見ているが、ここはスルー無視させて貰う。勇者達と同じ召喚者だとは、なるべく知られるのは避けたい。エディスさんは、まだ何か言いたそうにしていたが、丁度その時に、俺とエディスさんの後ろに立っていたアシェリが、勇者達に見える位置に顔を出した。

「あ! 可愛い!」
「何この子! 可愛い過ぎるぅう!」
「持って帰っていい!?」

 ルイ、アリス、シラユキは獣人幼女アシェリを見た瞬間に、騒ぎ立てる。コウヤは思わず頭を撫でようしたので、一人だけに殺気と威圧を叩きつけてやった。コウヤだけは脂汗を額に出しているが、他の女勇者達はきゃーきゃー騒いでいる。

「ヤナ君! この可愛い子は、ヤナ君の知り合いなの!? 紹介してよ!」

「ルイ含めて、お前ら興奮し過ぎだろ……コウヤは、そこから動くなコロスぞ……」

 コウヤの悲痛な叫びは、完全にスルー無視してやった。

 その時コウヤに気を取られるあまり、俺は油断していたのだ。エディスさんがどんな人・・・・だったのかを。俺がアシェリの事を話そうとしたその瞬間、嗤って・・・いるエディスさんが俺の目にはいった。

「エディスさん……何を嗤って……まずい! この子は……」

 エディスさんは、サッとアシェリの耳を両手で塞ぎ、俺より先に口を開いてしまった・・・・

「この子は『ヤナ君の奴隷』のアシェリちゃんです。それはもう毎日、刺しつ刺されつ剣での斬り合い可愛がって鍛錬いる子ですよ。王都からここまで、移動中も激しく動くものですから見ていてハラハラしましたよ? ねぇ? ヤぁナぁくぅん?」

「な!? 何を言って……」

 エディスさんは、俺にだけ・・見える角度で嗤いながら言い放つ。

「何か間違っていましたか? 毎日。ヤナ君の剣・・・・・で、アシェリちゃんを突いてますよね? フフフ」

「うぐ……た……確かに、何も間違っていないが……」

「でしょう? ナニも間違っては……いないという事ですよ、勇者様方」

 俺は、背筋にゾクっとした気配を感じ、ゆっくりと勇者達を見た。

「ひぃ!?」

 まるで汚物でも見ている方が、まだ可愛いのではないかという程の、完全に色の無くなった瞳を女勇者達とミレアさんから向けられていた。

「屑」
「下衆」
「鬼畜」
「ヤナ様……シネ」

「ま……待て! これは違っ……」

「主様? どうかしましたか?」

 俺は、アシェリがここで俺を"主様"呼びしてきた事に驚愕していると、エディスさんが満面の嗤い顔で俺を見ていた。

「「「主様って、呼ばせてる……うわぁ」」」

「エディスさん! あんたの仕業かぁああ!?」

「あら? ヤナ君、『エディスさん』なんて、他人行儀ですね……二人の時は、エディスなのに……」

 エディスさんが、俺ではなく勇者達の方に向けて微笑みかける。

「ヤナ……お前って、大人になった・・・・・・んだな……」

「コウヤ! 違う! 俺はエディスさんに、嵌められたんだ!」

「ハメられたなんて……ひぃ!? 僕は何も言ってません……言ってません」

 コウヤが他の勇者達から、俺と同じ目を向けられてガクガクと震えだした。

 そこから俺は、三人の勇者達からの精神攻撃をジッと耐えながら、根気強くこれまでの経緯を説明した。この時ほど、俺は不撓不屈折れない心を意識して発動させた事は無いだろう。同時にこの時ほど、このスキルに感謝した事は、あの時殺した時以来だろう。

 そして、勇者達はエディスさんの冗談だとやっと理解すると、今では女性陣同士で何事も無かったように、盛り上がって話をしている。

「疲れた……俺は一体何の為に……理不尽過ぎる」

「ヤナ……流石にこれは、気の毒だと僕も思う……エディスさん、コワイ」

 すっかり打ち解けている女性陣を尻目に、コウヤからここにいる理由などを聞いた。どうやら、この街に来た理由は俺と同じで、瘴気纏いキングクラーケン討伐をドルフィ伯爵から頼まれたらしい。

「丁度、ノスティからここに移動している時だったから、すぐこれたのさ」

 ここに来る前は、北の街ノスティにいたらしい。俺が護衛クエストで行った時も居たらしいが、鉱山にある迷宮などでレベリングをしていたらしい。そのおかげで既に全員が五十レベルを超えたらしい。流石の勇者の成長促進スキルである。俺なんて、あれだけ暴れて魔族も討伐してやっとラオライン討伐後に三十レベルにやっとなったというのに。

「折角だから、協力しないか? 唯でさえ、情報が無いからな」

「うん、いいよ」

 丁度良かったので、勇者達とミレアさんエディスさんに、俺の通信魔法チャットを説明し友達・・登録させて貰った。

 エディスさんは驚き固まっていたが、アシェリに肩を叩かれ、何故か慰められていた。ミレアさんも驚いていたが、俺も召喚者だと知っているためか、これくらいなら許容範囲らしく、割とすぐに受け入れていた。

「何で城出る時に、これ教えてくれなかったのよ……」

 シラユキが、半眼で俺を睨んでくる。

「本当は、そのつもりだったんだけどさ。色々忙しくて、お前らに会いに行く暇が無かったんだよ」

「来ようと思えば、すぐ来れたくせに……」

「悪かったって。確かに、これは便利だからな。これからは、何か情報仕入れたら呼出コールしてくれよ」

「ふん、わかったわよ。何か・・情報仕入れたらね!」

 シラユキは、そう言うなりギルドを先に出て行った。慌ててコウヤとアリス、ミレアさんも別れの挨拶をしながらシラユキを追いかけて出て行った。

「何なんだ? あれか? 機嫌が悪い日か?」

「ヤナ君、それ言ったらシラユキちゃんに色々えぐられるよ?」

「……気をつける……ルイは追いかけないのか?」

 一人ルイだけがまだ、出て行ってなかった。

「今いくよ。実はね、シラユキちゃん結構強がってるけど、精神的に結構きてるんだ。北の都でも瘴気纏いの魔物と戦ったんだけど、火力職で目立つせいかシラユキちゃん狙われやすくてさ。結構危ない場面とかあったから」

「所謂ヘイトって奴だな。その辺は、皆んなでカバーしていくしか無いだろうなぁ」

「だからね、別に新しい情報がなくても、時々でいいからシラユキちゃんに呼出コールしてあげて?」

「わかったよ。時々からかってやるさ」

 俺は笑いながら、そう答えた。

 そして、それを聞いてルイもギルドを出て行こうと出口に歩き出す。扉に手をかけたところで、振り返り笑顔を俺に見せた。

「私にも呼出コールしてね?」

「はは、わかってるよ。そっちも気をつけろよ? 何かあれば呼出コールしろ」

「そしたら、ヒーローみたいに来てくれるの?」

「そうだな。ギリギリのタイミングで、駆け付けるぞ?」

 そして、笑顔でルイもギルドを出て行った。

「何ですかコレ? ヤナ君脳筋のクセに……」
「なんなんですかね? 主様脳筋のクセに……」

「お前らの俺の評価って何なの……?」

「「変態脳筋鍛錬バカ」」

「俺も終いにゃ、心折れるぞ!?」

 俺の心の回復薬ポーションは、何処で売っているのですか?

 俺が、四つん這いで嘆いていると、それすら無視して二人は歩き出す。

「エディス様、とりあえずゲッソ様が言っていた、海が一望出来る高台に行こうと思います」

「私は、評価者ですからアシェリちゃんの好きにしたらいいですよ」

「俺の試験だからね!?」

「「遅い」」

 近いうちに俺はきっと、『精神耐性スキル』を取得出来ることをこの時確信した。



 その後、三人でギルドをあとにし、ゲッソの言っていた高台へと向かって歩いて行った。途中海岸に出たので、ある事を試して・・・その結果に驚いていると、エディスさんには何をそんなに驚いているのかと逆に聞かれてしまった。海を見るのが初めてと誤魔化しておいたが、訝しげな顔をされてしまった。

 暫く高台に登る道を歩いていると、開けた場所に出た。

「おぉ、これは中々の絶景だな」

「えぇ、風も気持ちいわね」

「水面がキラキラして綺麗です」

 景色を楽しんでいると、遠く・・に何かが見えた。

「ん? 何だあれ? 魚……にしてはデカイな……何か追いかけてる?」

「主様? 何か見えるんですか?」

「あぁ、ちょっと待ってな。何か……なぁ、エディスさん? 人魚っているのか?」

 魔物の群れに追われて、追われている方の水面を跳ねた姿を見た俺は、エディスさんに聞いた。

「えぇ、いますよ。彼らは、あまり海岸近くには現れませんから、目撃自体は少ないですが、人魚族は海に暮らしていますよ」

「なら、あれが多分そうだな。恐らく魔物に襲われてるから、ちょこっと逃げるのを手助けするかな」

「アシェリちゃん……見える?」

「身体強化して、やっと何か動いているのがわかる程度です……人魚族かどうかは全く……」

 二人がブツブツ言っている横で、準備を進める。

「『十指テンフィンガー』『獄炎ヘルフレイム極球フルムーン』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎のヘルフレイムハープーン』『自動操縦オートパイロット』『対象ターゲット:あの人魚の少女を襲っている魔物の群れ』」

 特に必要はないのだが、『黒炎のヘルフレイムハープーン』を一本手に取り、少し助走を取り走りだす。

「ぬぉりゃぁあああああ! せぃいいい!」

 思いっきり魔物に群れに対して投擲し、黒炎のヘルフレイムハープーンを投擲し、残りの銛もそれに付いて行くように一斉に飛び出した。

「今の意味ある?」
「きっと気分でしょうね」

 それが気分が、大事なのだ。

 そして、十本の黒炎のヘルフレイムハープーンは綺麗な弧を描き、魔物の群れに直撃した。

 そして魔物が絶命するまで何度も貫き、最後には銛に魔物を刺した状態で、此方に向かって戻ってきている。

「情け容赦もないわね……」
「見えない所から……哀れの一言です」

「そんなに褒めるなよ? 照れるだろ、ふふふ」

 二人から冷めた目線を頂いたが、そんなのはご褒美で断じてない為スルー無視した。

 そして、助けた人魚の少女はと言うと、何が起こったのか分からないと言った様子で辺りを見回していた。

「まぁ、いきなりだったからな。流石に混乱するよな」

「いきなりじゃなくても、この距離から普通助けられるとは思わないでしょうね……」

 エディスさんの呟きを聞きながらも、様子を見ていると取り敢えず銛に貫かれた魔物が飛んで行った方向、つまり此方を見ていた。一応高台から見下ろす位置に俺は立っている為、彼方からも角度的には見える。

 不意にその人魚族の少女と、目が合った。

「エディスさん、人魚族ってのは目が良いんだな。目が合ったぞ?」

「そこまで私も詳しくはないですね。しかし、この距離でヤナ君と目があうという事は、相当良いのでしょうね」

 俺とその人魚の少女は、お互い視線を切らずに居たが、不意に少女は海に潜り消えてしまった。

 俺は、海に潜り消える瞬間に見せた少女の表情が偶然目に入った。

 その顔は、とても命が助かった表情とは思えなかった。

 そして、海は次第に荒れ始めたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...