要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第三章 冒険者

ヤナとアシェリ

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 主様が森で狩り・・をしている間に、わたしは他の冒険者に主様から貰った回復薬ポーションをかけてまわった。特に飲まさなくてもいいらしいので、頭から被せていった。そして、馬車の方へと向かった。

 戦闘していた所と馬車の列は離れていた為、あれだけの戦闘をしていたと言うのに無事だった。

 馬車に隠れていた商人や従者を確認すると、全員が気絶していた。冒険者と違い目立った外傷は見られなかったので、一人一人起こし念のため回復薬ポーション飲ませて回った。

 どうやら、ラオラインの咆哮で全員が気絶したみたいだ。

(主様以外には、悪神の巫女だと知られていないみたい……よかった)

「〝番狂わせジャイアントキリング〟、結局何がどうなったんだ?」

 変な・・二つ名は無視して、集まってきた冒険者達と商隊のリーダーに事のあらましを話した。そして、逃げた魔族ラオラインを追って、主様が森に入っている事を伝えると、クロ様が口を開いた。

「そうか……ザコスは魔族に殺されたか。クズだったが、一応冒険者ギルドのメンバーだからな、帰ったらギルドに報告しておくか。あいつと分かるもんは……おっ、あいつの家の家紋が入った指輪があるな。取り巻きの奴らは……あぁ駄目だなこりゃ」

 ザコス達の死骸からクロ様は身元が分かりそうな物を探し出し、自分の鞄に入れていた。

「貴方の御主人は、大丈夫なのですか? お一人で、魔族を追っていかれたという事ですが」

 商隊のリーダーでイナイ様が、主様を心配をしてくれており、私が口を開く前にクロ様が笑いながら答えた。

「ハッハッハ! イナイの旦那、〝漆黒の騎士ジェットブラック〟なら心配ねぇよ。あの陰険脳筋野郎なら、そのうち戻ってくるだろ」

 クロ様達は、大声で・・・そんな事を言っていた。

「そうよぉ、あの変態・・ヤナちゃんなら元気に戻ってくるわよ」
「そうそう、魔族を狩って上機嫌に帰って来るって! 脳筋だしな!」
「アイツ腹まで黒いから、森の闇に紛れて魔族なんてすぐ狩って来るだろ、ギャハハ!」
「今度こそ、このクエストから帰ったら俺……」

 そんな時に、主様から話し・・かけられた。

「『今から戻る………コロス』」

「ひぃ!?」

 私は、主様の小さな呟きに込められる怒気に引いてしまった。

「ん? どうした?」

「もうすぐ主様が帰って来ると、今言って・・・・いました……」

「そうか! 良かったじゃないか! これでやっと一安心……ん? 今なんて?」

 クロ様の顔が、見る見る青くなっていく。

「なので、『から戻る』と言われました……」

「いつ言われたって?」

「今です……」

「ちなみに、通信魔法・・・・は?」

 既にメンバー全員の顔色が土気色になっているが、私は告げねばならない。

「……繋がっています……」

「「「「「………」」」」」

 五蓮ゴレンジャは、全身をガタガタ震えだした。

「おおおおおお落ち着け! ままままだ、アイツがさっきのをを聞いたかどうかわわわからん!」

 クロ様が一握りの希望も無い・・ことを言っている姿に、私は思わず泣きそうになった。

「〝番狂わせジャイアントキリング〟……何故、泣きそうな顔で俺たちを見ているんだ? なぁ? なんでなんだよぉ!」

 その時、一陣の風が吹いた。そして何故か・・・、その場に静寂が訪れた。



"みぃつけたぁ"



 そして、五蓮ゴレンジャは、粉々に精神的に散って物理的にいった。

「さて、取り敢えずスッキリしたし、もう一度野営準備をし直そう!」

「「鬼がいた……」」

 私と商人のイナイ様の、声と気持ちが一致した瞬間だった。

 その後、目を虚ろにした五蓮ゴレンジャのリーダーが、ヨロヨロと他の冒険者達にも支持を出し野営の準備を進めた。

 ヤナ様は準備がひと段落した所で、クロ様に用事があると話しかけに行った。

 そして帰ってきた主様に、話しかけた。

「主様、このクエストが終わり王都に戻ったら、お話したい事があります」

「あぁ、分かった」

 その後、商隊は問題なく北の都ノスティに到着した。そして、ノスティで一泊した後、帰りは二日で王都に戻った。帰りは荷が無いため、早く帰ってこれたそうだ。

 それでも王都に到着したのは夕暮れ時だった。到着後に主様と他のパーティの其々のリーダーが、ガストフ支部長とギルドの倉庫に向かうと言って、ギルドの奥に消えていった。

 私はその間、エディスさんと話しながら主様を待っていた。

「どうでしたか? 初めての護衛クエストは」

「色々ありましたが、無事帰ってこれてホッとしています」

「ふふふ、何か良いことあった様な顔してますが?」

 エディス様が自然な笑顔で私に尋ねてきた為だろうか、つい口から出てしまった。

「えぇ、月が私の願いを叶えてくれたから」

 私は、微笑みながら答えた。

「アシェリ……ちゃん?」

 エディスさんの困惑した表情を見て、つい元の口調で喋ってしまっていた事に気が付いた。

「はっ! すみません。奴隷である事を、一瞬忘れてしまいました!」

「いいえ、良いのよ。それにさっきの話し方と表情の方が自然だったわ。不思議だけど、とっても大人っぽくて、艶っぽかったわね。ふふ、誰かに・・・恋でもしたかしら」

「ふふ、どうでしょうか?」

 その時奥の扉が開き、主様達が出てきた。

「あとは、クロと支部長に任せたぞ。あと、アシェリの件も宜しく」

「あぁ、任せておけ」

 ガストフ支部長様が私に関する何かを了承した様だった。

「さて、護衛クエスト完了っと! お疲れさん! 報酬は明日担当の職員から其々の受け取ってくれ! 今回はヤナのお蔭で、特別報酬もあるからな! 楽しみにしてろよ!」

「「「おぉおお!!」」」

 クロ様が今回参加した冒険者達に労いの言葉をかけて、解散した。

 主様はエディス様から明日報酬を受け取りに来る様に言われた後、私と一緒にギルドを後にした。

「主様、私の件とは?」

「ん? あぁ、ちょっとな。それより飯だ飯!」

 宿屋に一週間ぶりに帰ってきて、リアンちゃんや女将さんにお帰りと言われて、ホッとした気持ちになった。主様は、宿泊の延長をしないで護衛クエストに出かけていた事を、女将さんに怒られていたが。

 そして食事を済ませると、主様に話しかけられた。

「少し、月夜の散歩でもしようか」

 そして外に出ると、主様はいつも鍛錬している城の外の荒野の方へと駆けて行った。

「え!? あっ! ちょっと! それ散歩じゃない!」

 私も急いで後を追いかけた。主様が走るのをやめた所は、いつも鍛錬する場所だった。

「はぁはぁ……ご飯を食べて…いきなり…全力疾走…させるとか……鬼ぃ…」

「ふふ、でもちゃんと付いてこれたじゃ無いか。それに護衛クエストの時の戦いっぷりも、立派だったしな」

「主様……?」

 主様がいつもより優しい笑顔だったので、何か気になったが、主様が口を開いた。

「アシェリの話ってのは、何なんだ?」

「はい、それは……」

 私は、自分が悪神の巫女である事を、もう一度自分の口から主様に話した。左眼に聖痕がある事。それを隠す為に目を瞑っていること。そして、自分の一族が獣人族の巫女を守ることを使命としている事。そして、私が一族の最後の一人である事。

「主様が私を奴隷にする前に、先にお伝えしなければならなかったのに……本当に申し訳ありません」

「ん? いやそれは別にいいぞ? 聞いていたとしても、結果は変わらんしな。それに聖痕がある事を言うなんて、普通に無理だろう?」



 私は、嬉しかったのだ

 温かい火をくれた人に出会え、一緒に居られる事を

 私は、怖かったのだ

 一緒にいる事で、この人が大事な人になってしまう事が



「まぁ、その事については、今から解決するから心配するな」

 主様が私に近づき、私の左眼の前に手をかざした。

「主様?」

「『神火の清めアブルーション』」

「え!? これは?……温かい?……ん……あ……あぁああああああ!」

 左眼に優しい温かさを感じた直後、身体の芯から癒されている様な、魂を直接触られている様な、そんな感覚に襲われた。私は立っていられなくなり、その場にへたり込む。

 主様は、刀を一本鞘から抜き、刀身に私の顔が写る様にしてくれた。

「これは……左……目が……聖痕が……無い! なんで!?」

 自然と私の両目からは、涙が溢れ出していた。

「もう、左眼に包帯を巻く事も、眼帯をする事もしなくていい。自分の周りに不幸を呼ぶとも、考えなくていい。無理に感情を抑えなくていい。アシェリは自由なんだ。本気で喜んだっていい。本気で怒ったっていい。本気で喜んだっていい。だからな?」

 私は、主様の言葉を待つ。

「そんな遠慮しながら泣くな。ここなら、俺以外誰もいない」

「ふぇ……うぐっ……うわぁああああ!」



 私は泣いた

 溢れ出る感情に身を任せ、大声で泣いた

 主様に頭を撫でられながら、その温かさを感じて、また涙が溢れ出た

 とうさま

 かあさま

 一族の仲間

 みんなで一緒に見た月を思い出した



 私は泣き疲れて、そのまま寝てしまったらしい。

 主様は私を抱きかかえて、宿屋に向かってくれている事に気がついた。

 私はこの日、今まで願いを掛けるだけの遠くにある月に、触れることが出来たのだ。

 私はずっと、寝てるフリをした。

 少しでも、優しい月の温もりの包まれていたかった。



「え!? Dランクですか!? 私は今回は主様の奴隷として参加したはずでは?」

 次の日の朝、ギルドに行くとエディス様にDランクに上がった事を伝えられた。

「ふふ、驚いたか。今回、襲ってきた魔物が大量に居ただろう? アシェリもかなりの数を討伐・・していたからな。護衛クエストは受けていないが、その他の討伐した魔物は全部・・俺が回収してきたからな。当然アシェリが討伐した分も含まれる。そこから討伐クエストを改めて受ける形で、アシェリは討伐クエスト完了した事にしたのさ」

 主様が得意そうな顔をして説明している。

「だからな、当然討伐報酬も結構貰える。でだ、当面の生活費も稼げた事しな、Dランクにもなり、今回の事で他の冒険者からの評判も上がるだろう」

 主様は、じっと私の目を見て言う。

「アシェリは、もう一人で生活できる。ガストフ支部長に、その事について証明書も書いて貰うことになっている。だからな?」

 そして、主様はさも感慨深いといった様子で、私に言い放つ。

「アシェリを、俺の奴隷から解放する!」

「拒否します」

「……は?」

 私はもう決めていたのだ。

「拒否とか……えぇ!? いやいやいや、俺が解放すると言っているんだから、解放だよ!」

「主様、それは私に『奴隷から解放するから一人で生きろ』という命令ですか?」

「ん? 別に命令って事でもないんだが……まぁ。そうだな、主人からの命令だ! 『俺の奴隷を辞めろ』!」

 それを聞いて、私は嗤った・・・

「拒否します」

「はぁ!?」

 そこで、隣でその様子を聞いていたエディス様が、何か気づいたような顔をして嗤っていた。

「ふふ、ヤナ君覚えてる? 奴隷契約の時の事」

「ん? 今更何を言って……」

「貴方、奴隷の全ての行動制限を外して、契約したでしょ? しかも、私の話の途中で【締結コンクルード】しちゃうし」

「だから、何を言って……」

「だからアシェリちゃんは『主人の命令を遵守』しないのよ。因みに説明したけど、契約内容は契約中は変えられないわよ? そして、『奴隷を解放する』命令は『拒否』されるから……詰んだわね、ふふふ」

「はぁあああああ!?」


 何を主様は、驚いているのだろう?

 当たり前でしょう?

 主様からが、離れられる訳がないのに
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