要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第三章 冒険者

長い夜の始まり

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 護衛クエスト開始前日の夜に、ヤナはセアラに呼出コールしていた。

「『明日の朝から、北の都ノスティに行き帰り合わせて、一週間程行ってくる。もし魔族が攻めてきたら、迷うことなく俺を呼出コールしろよ?』」

「『はい、ヤナ様のお手を煩わせて申し訳ありませんが、そうさせて貰います』」

「『気にするなよ? 俺も彼奴らには、喧嘩売ってるからな。それでどうだ、鍛錬は?』」

 セアラが俺が城を出てから、旅をする為に鍛錬すると言っていたことの進捗を聞いてみた。

「『私は、結界魔法が得意な様です。それを今、鍛えている所ですね。城の書庫からサーレイス大臣が、これでもかというくらいの、禁書やら何やら持ってきますから』」

「『はは、あのおっさんも大概だな。そういえば、城を出たその日に大臣の甥っ子だという奴を、ボコボコにしたけど、何も言ってなかったか?』」

「『ヤナ様、初日から何を……特に何も申しておりませんでしたね』」

「『そっか、泣きつかないだけの根性はあったかな?』」

「『……ヤナ様?』」

「『ん? なんだ?』」

 セアラの声色が少し低くなった気がしたが、気のせいだろうと普通に返事を返した。

「『城からでられて、何日経ちましたか?』」

「『え?……えっと一週間ちょっとくらい……かな?』」

「『正確には十日ですね?……呼出コールありませんでした……よ?』」

 背中に汗が出てくるは、何故だろう。

「『いや、あれだ、忙しくってさ?』」

「『……そうですよね……忙し…』」

「『主様ぁ、もう寝ないと。明日早いんですよ』」

「『主…様?』」

 部屋の温度が下がった気がしたのは、何故だろう。

「『しかも、やけにはっきり、明瞭に声が聞こえましたが? すぐ近くにいると? もう寝るのに? ヤナ様? 声も幼そうな女の子の……声でしたね? フフフ……ヤナ様?』」

「『ひぃ!? 怖いコワイ!? セアラは、そんな嗤い方しない子だったはずだよな!?』」

「『エイダに教わりました……ウフフ、殿方ヤナ様はこの嗤い方をすると、正直に何でも話してくれると』」

「『あの性悪メイド! 王女に、なんつぅことを教えてやがる! 王女が、そんな嗤い方やめなさい! そんな事しなくても話すから!』」

 そして俺は、初日から今までの事をセアラに聞かせる事になった。冒険者登録から始まり、ランクアップ試験、アシェリを助け保護奴隷した事、盗賊を討伐した際に瘴気纏いに人がなってしまい討伐殺した事。あくまで掻い摘んでだが、概ね伝える事が出来た。

「『そうですか……瘴気纏いとなった盗賊の討伐ですか……ヤナ様、大丈夫ですか?』」

「『あぁ、俺には不撓不屈折れない心あるから大丈夫だ。だから、安心して鍛錬続けろよ?』」

「『……わかりました。今度は私からも呼出コールしますね』」

「『別に、今までも呼出コールして良かったのに』」

「『エイダが、初めては殿方からシテ・・貰うものですと、教わりました』」

「『……なんかニュアンスが変な気がするが……まぁ、とにかく明日から王都を離れるから、気をつけるんだぞ』」

「『分かりました。ヤナ様もお気をつけて」』

「『あぁ、おやすみ』」

「『おやすみなさい』」



 回線切断ハングアップしてから、セアラは目を静かに閉じた。

 そして再び目を開けると、頬を涙が流れ落ちた。

不撓不屈折れない心あるから大丈夫……ですか……ヤナ様の住んでいた国は魔物もいない、戦いもない平和な国……ヤナ様はとても……寂しそうな哀しそうな声でした」

 セアラは涙を拭い決意を新たに、誰に聞かせる事もなく言葉を放つ。

「私は、あの人の力になる……強く、強くなってみせる!」

 翌日からのセアラはこれまでにも増して、鬼気迫る鍛錬を始めるのであった。



 そして、護衛クエストの朝はいつも通りにやってきた。

「おはよう『五蓮ゴレンジャ』。今日から宜しくな」

 俺は集合場所へアシェリと来て、今回のリーダーである五蓮ゴレンジャに声をかけたのだ。そして、俺を見るなり五人共固まった。

「「「「「………」」」」」

「あれ? おーい?」

「主様……彼ら立ったまま失神してます……何したんですか一体……」

「いや、まだ・・何もしてないけど……しょうがねぇな」

 俺は立ったまま失神してる五人に、少々強めの殺気を当てた。

「「「「「ぎゃぁああああ! 助けてぇえええ!」」」」」

「よし、起きたな」

「……酷い……」

 朝から人の顔見るなり、失神する方が酷いと思う。

「は!? 俺は何を!」

「リーダーのクロだったな? よろしく頼む。この子が俺の奴隷のアシェリだ。奴隷と言ってもEランクの冒険者だ。今回はランクが足りないが、俺の奴隷として連れてきた」

「あ、あぁ。エディス姐さんから聞いている。二人ともよろしく頼む」

 リーダーのクロにアシェリも紹介すると、クロか今回の参加者冒険者パーティを教えられた。今回は俺たち意外に三組のパーティが参加しているらしい。Bランクパーティ『五蓮ゴレンジャ』、Cランクパーティ『疾風の三本矢ウィンドアロー』、同じくCランクパーティ『堅固なストロングウォール』の三組だ。

 Cランク三人組パーティ『疾風の三本矢ウィンドアロー』は、見るからに狩人といった感じの三人組だった。アウ、ロウ、コウの三兄弟らしく今回の護衛の斥候役との事だ。

 同じCランクパーティ『堅固なストロングウォール』は四人が全身鎧でデカイ盾と槍を持っており、一人は神官のような格好をした金髪翠目の女性だった。今回の護衛の盾役と回復役らしい。

 五蓮ゴレンジャは、今回の護衛全体の指揮とオールラウンダーの彼らは、その場で回復や盾役、攻撃役と足りない所へ都度参戦するらしい。

「わかった。で、俺らは?」

「ヤナは、火力だな。アシェリちゃんは冒険者としてではなくヤナの従者奴隷として来ているから俺らからは、特に指示は出来ない。見張り役も、アシェリちゃんは数に入れない」

「あぁ、夜の見張りは俺だけで頼む。まぁ俺は、感知系のスキルがあるから寝てても何かあれば、すぐ動くがな」

「ほう、そりゃ助かるな。火力バカ脳筋じゃなかったのか?」

「ちげぇよ……」

 馬車が四台の商隊を、これから共に護衛する冒険者のお互いの紹介が終わると、リーダーのクロに呼ばれた。

「ドリゲス盗賊団を潰したんだってな。今回の一番の脅威だったから、助かった」

「あぁ、ガストフ支部長からの指定クエストでな。あとの盗賊団は、大丈夫なのか?」

「多分な。ドリゲス盗賊団があの辺で一番の奴らでな。奴らが音頭をとって他の雑魚盗賊団を束べられるのが一番怖かったが、その頭がいない状態で雑魚盗賊団に俺らを襲う度胸も力もない」

「なら、今回は楽そうか?」

「まぁ、そうなると良いがな。取り敢えずヤナは最後尾を頼む。お前なら、殿を安心して任せられるからな」

「任せとけよ。ならまた後でな」

 アシェリと共に最後尾に移動した。因みに各パーティリーダーには俺の通信魔法チャットを教え、今回の護衛クエスト中は仲間パーティ登録して何か連絡はこれでする事にした。何気にこれパーティチャットにはかなり驚かれた。

「……何故私達は……馬車や馬に乗らずに……走ってるので……しょうか?……ハァハァ」

「鍛錬だよ鍛錬。時間がもったいないだろ? 流石に何かあった時に困るから、俺は起死回生窮地:能力倍増の発動はしてるけどな」

 そして、何事もなく出発してから二日が経った。野営の予定地へと向かって一行は馬車を進めていた。

「『先行しているアウだ。不味いことになった。何があったのか野営地が、荒らされている』」

「『なんだと! あと少しで商隊も野営予定地に着く。全員周辺を警戒してくれ』」

 クロから、各パーティのリーダーへと指示が飛んだ。

 そして、商隊が野営予定地へと到着した。

「これは……何があったらこうなるんだ?」

 クロが野営予定地の惨状をみて唸った。野営予定地の地面は、何かが暴れたような跡で、地面は掘り返されていたり、デカイ爪でえぐったような跡が付いていたり、とにかくボコボコになっている状態になっていた。

 周りの木々も明らかに・・・・、無理矢理引っこ抜かれ、そのままばら撒かれた様に散散している。

「クロ殿、どうしましょうかね?」

「ドイラ殿、流石にこれではここは使えませんね。少し先に、此処よりは狭いですが野営地があります。今そこを確認に向かわせているので、少しお待ちください」

「わかりましたよ」

 ドイラと呼ばれているのが、この商隊の商人側のリーダーらしい。白髪の中肉中背といった感じの、中年男性だ。

 少しすると、斥候役のアウから連絡が入り、其方は無事との事だった為。其方に移動し始めた。

 次の野営地に向かいながら、通信魔法チャットで嫌な予感を感じながら、クロに尋ねる。

「『ヤナだ。クロ、どう思う?』」

「『分からん。分からんが、あれは人為的な何かを感じる。全員油断するなよ。このまま回線切断ハングアップしないでいろよ。何かあればすぐ連絡だ』」

 そして、次の野営地に着いて、俺は嫌な予感が的中したと確信した。

「おいおい、奥が崖になってんぞ?」

「そうなんだ、何年か前にデカイ揺れがあってな。その時に奥が森ごと崩れて、崖になっちまったのさ。それで、さっき荒らされた所を、新しい野営地としてつくったんだがな」

「明らかに怪しいんだが?」

「分かっちゃいるが、これだけの商隊だと野営地も限られるからな。今夜は充分警戒するしかな…」

 全ての馬車が野営地に入り、これから野営の準備をするという段階で異変は起きた。

死神の危険/気配慟哭自動感知に反応がある! 何だこの量は!? やばいぞ! 退路確保だぁ!」

「「「グルァアアア!」」」

 俺が叫んだ瞬間に、突然森の中に湧き出るように現れた大量の魔物の群れが、商隊に向かって咆哮を放った。

 そして、それが長い夜の始まりを告げる号砲となったのだった。
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