要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
42 / 165
第三章 冒険者

整列する自動人形達

しおりを挟む
 二人はお互いにボロボロになりながら街に戻り、広場の屋台で昼食を取っていた。

「何とか生き残った後の飯は、格別に美味いなぁ」

「……わたしは、主様にボコボコにされてたんですけどね……」

 アシェリは、結局何回も気絶させられては起き上がり、そして気絶させられてと繰り返していたらしい。正直俺は自分に精一杯だった為、全く見て・・いなかったが、死神の危険/気配慟哭自動感知で気にはしていた。その為、何度も立ち上がり、立ち向かっていたのは知っていた。

「随分頑張ってたしな。スキルは何か覚えたか? 自分のギルドプレートで見れるぞ?」

 アシェリは、ギルドプレートを手に取り「ステータスオープン」と唱えた。

「主様、そんな簡単にスキルなんて……覚えてる……しかも『気絶耐性』って……」

「よかったじゃないか。これからどんどん覚えるぞきっと。『痛覚耐性』もすぐだろうな。あとは、そのうち火の棒を剣に変えるから『斬撃耐性』とか、避けないと斬られるから『致命傷回避』とか覚えるかな?」

「鬼にぃいいいいい!」

 折角スキルが増えるというのに、何故か・・・酷いことを言われたがスルー無視した。

「あと、スキルとか新しく何を覚えたかとかは、俺に言わなくていいからな。勿論今何が出来るという事もだ。手の内はわざわざ見せることはないし、俺から一人立ちしたら、アシェリは同業者になるんだからな。俺も特に自分のスキルの事を、アシェリに教える気もないしな」

「……わかりました」

 アシェリは一瞬寂しそうな表情を見せるも、すぐ様いつも通りに戻り昼食後の予定を尋ねてきた。

 俺はアシェリの頭の上に、手を乗せて笑顔で話しかける。

「まだ暫く一緒にいるから、心配するなよ? 途中で放り出したりしないからさ。親代りって……俺がそんな歳でもないから、お兄ちゃんみたいなもんだからな」

「鬼ぃちゃん……?」

「おい……字が違わなかったか?」

「えへへ」

「はっはっは」

 アシェリの笑顔を初めて見る事が出来た事に安堵しながら、今度はちゃんと昼飯後の予定を話した。

「午後は、アシェリの採取クエストと討伐クエストだな。昼飯を食ったら、冒険者ギルドでエディスさんに出来そうなクエスト選んで貰おう」

「はい、わかりました」

 そのあと、特盛の昼食を済ませて冒険者ギルドに向かった。相変わらずのエディスさんの列は空いていたのだが、若干いつもと雰囲気が違っていた。


「おい! あれが冒険者登録して直ぐに、『五蓮ゴレンジャ』を白目剥くまで追い回してCランクになった『黒炎のブラック狂犬マッドドッグ』か?」
「あぁ、確かあいつが宿屋で大臣の甥っ子を、白目剥くまでボコボコにしたCランクの『深淵のアビス暴力狂いバーサーカー』だな」
「おぉ……やっぱり聞いてた通り、幼女を連れてるな『暗闇ダーク紳士ジェントルマン』は……しかも獣人奴隷とは……流石Cランクは違うな……」

「全て主様……の事ですか?」

「……」

 俺が口から魂が抜けて放心していると、エディスさんが満面の嗤い顔でアシェリに答えた。

「えぇ、そうですよ。全て、アシェリちゃんのご主人様のことですよ。言ってる事も全て・・事実ですよ。ねぇ? ヤぁナぁくぅん?」

 俺は完全に四つん這いになり、魂から慟哭した。この理不尽な世界に。やたらめったら二つ名を付けたがるこの世界に、俺は負けたのだ。

「そんな二つ名は……いやぁあああああああ!」

「主様……そっちですか……」

 アシェリに呆れられ、ジト目さえ向けて貰えずにため息を吐かれてしまった。断じてご褒美ではない。辛い。

「そこの変態は置いといて、アシェリちゃん、クエスト選びましょう」

「はい、主様変態は置いておきます」

「酷くね!?」

 取り敢えず変な二つ名で俺を呼んでいた奴を、片っ端から嗤いながら全力の威圧と殺気をぶつけて黙らせてから、アシェリのクエストを受注して冒険者ギルドを出た。

 その後、冒険者ギルドではヤナを新たな二つ名『嗤うスマイル無法者ベルセルク』で呼ぶ冒険者も出てきたのだった。その後それを知った俺が、再び慟哭を上げる事になる事を、この時の俺は知らない。



「冒険者として生きていくには知識も必要だが、アシェリはその辺の知識を持っているか?」

 アシェリに薬草や採取の知識、魔物の事に関して知っている事を話させた。

「へぇ、小さいのによく知っているな。知識に関しては、ほとんど教えることはなさそうだな」

小さい・・・頃に、とうさまとかあさまに教えて貰いましたので」

「今も小さいだろ、大人ぶらなくてもいいぞ? くくく」

 アシェリをからかうと、ジト目を向けて来たので、慌てて襟を正した。

「ゴホン、それなら俺がいなくても大丈夫そうだな。今日は、薬草の採取クエストとスライム討伐だったよな?」

「はい。どちらもこの草原に居ますので、大丈夫そうです」

「分かった。なら、今日はアシェリは自分のクエスト依頼を完了してくれ。達成報酬は、全部自分の物だからな? 俺に渡すとか言うなよ、面倒臭いから」

「……はい。わかりました。主様はこれからどうされるのですか? また鍛錬ですか?」

 最初は俺もアシェリのクエストに付いて行こうと思っていたのだが、この様子なら大丈夫だろう。その為、自分のクエストの準備をする事にした。

「いや、俺はギルドからの指定クエストの下見をしてくるよ。少し時間がかかるだろうから、クエスト終わって報酬受け取ったら、先に宿屋に戻って飯でも食っといてくれ」

 勿論帰って来なければ、先に寝るようにとも伝えた。

「わかりました……もし、もっと私が強くなれば、主様のクエストに、いつか付いて行くことは出来ますか?」

「そらそうだろ。そう同業者になれる様に、鍛錬しているんだろ?」

 少し表情を明るくしたアシェリは、俺を送り出した。

「はい! 頑張りますので、主様もお気をつけて行ってらっしゃいませ」

「おう、じゃあ行ってくる。今度は一人だし、パッと行ってくるかな。『獄炎のヘルフレイム絶壁ウォール』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎のヘルフレイム射出機カタパルト』! ヤナ! いっきまぁあす!」

 獄炎魔法で作った射出機カタパルトで、空へと俺は射出された。

「え……えぇええええええ!?」

 アシェリの声が聞こえた様な気がしたが、一瞬で空高くまで飛ばされたのて、余り聞こえなかった。



 俺は、一気に空まで打ち上げられたので、当然このまま何もしなければ落下する。

「『獄炎のヘルフレイム絶壁ウォール』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎の鎧』『部分的パーシャル』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎の大翼』! ひとっ飛びぃいいい!」

 大空を飛んでいる為か、変なテンションになってしまった。だが、しっかりとケシン渓谷方面へ飛んでいる。

「空を飛ぶっていう、人類の夢を体一つで叶えてしまった、フハハハハハハ!」

 この日、ケシン渓谷へ向かう高笑いする魔族と思われる個体を見たとの報告が、多数ギルドに上がったらしい。



 ケシン渓谷を越えた所で、ヤナは地面に降り立った。

「ここからは、慎重にいかないとな……『神出鬼没隠蔽/隠密/偽装』……行きますか」

 神出鬼没隠蔽/隠密/偽装により、気配を消したヤナは、周りの景色に身体の模様を偽装する完璧なカメレオン形態であり、そのことに少なからずテンションを上げていた。

 神出鬼没隠蔽/隠密/偽装で周りの色に全身が変えられているのにも関わらず、敢えてヤナは洞窟前に獄炎魔法を形状変化デフォルマシオンで『黒炎のヘルフレイム忍び装束ニンジャ』に衣装チェンジしていた。ここからもヤナが潜入という、ある意味浪漫な響きに浮かれているの事が分かる。

 準備を整えたヤナは、ギルドで教えて貰っていた洞窟へと、忍者の様な黒装束で近づいていく。

(見張りは二人か……やっぱりここは、天井からだよな)

 洞窟の天井にへばりつく様に、コソコソと洞窟内へとヤナは侵入して行った。

 別にヤナは、洞窟の天井にへばりつく必要は無い。神出鬼没隠蔽/隠密/偽装を発動している為、横を素通りしても問題ない。しかし、忍者ヤナにとって普通に横切る等ありえないらしい。

 態々『双子ツイン』『二指ツーフィンガー』『火球ファイアボール』『形状変化デフォルマシオン』『大釘スパイク付き靴シューズ』『蜘蛛のスパイダー手袋グローブ』と唱え、どこぞの蜘蛛男よろしく洞窟の上部にへばりつき、コソコソしているのである。

 洞窟内に潜入すると中は意外に広く、幾つも部屋があった。

(どうなってんだ?何かの魔道具か?)

 鍵がかかっている扉があったが、恐らく略奪品の倉庫だろうと、更に他を見て回っていた。すると、今度は牢屋の様な鉄格子がはめ込んである場所を見つけ近づいてみる。

 その場所をよく見ると、牢屋の中は二つの部屋に分かれており、出入り口も二つあった。片方の牢屋には、高貴なドレスを着ている中学生くらいの少女と、俺と同じ歳ぐらいに見える女性が座っていた。

(どっかの貴族の令嬢って奴か?)

 そして、もう片方の部屋には、ボロボロに傷ついた女性の騎士が倒れていた。そして、女性騎士が倒れていた方の牢屋は非常に臭い・・。幸いと言っていいのか、今は・・他に誰もいないが、盗賊がここでナニをするか想像するには容易かった。幸いにも女性騎士の着衣の乱れは未だ・・なかったが、ヤナの心は深く沈んでいく。

(はぁ、最悪……)

 忍者ゴッコしていたヤナも、この世界のどこにでも転がっている『絶望』という奴に冷水をかけられた様に心も身体も冷えた。

(取り敢えず、手は……届いた『応急処置ファーストエイド』っと。死んでなけりゃこれで大丈夫だろ)

 隣の少女二人がいた牢屋からは、酷い匂いがしなかったので、恐らく奴隷商にでも売る人間様なのかもしれない。

 取り敢えず二人の方は、見た目の傷・・・・・は無さそうなのだったので、そのままにして牢屋を離れた。

(取り敢えずの下見のつもりだったんだけど、どうすっかな)

 これからの事を、考えながら洞窟の最奥の部屋へと向かう。

「頭ぁ! 明日が楽しみですねぇ!」

「フハハ! そうだな! ありゃ、どこぞの貴族の令嬢だろうからな。高く売れるぞ楽しみだぁ!」

 頭と呼ばれた男を中心に、十数人の盗賊が酒を飲みながら騒いでいた。

 どうやら今朝、あの少女達の一行を襲撃したらしい。あの三人以外は襲撃で死んでいるとの事で、周りに知られず仕事・・が出来たと喜んでいた。

「頭ぁ、明日売るのはあの嬢ちゃん二人だけ・・っすよねぇ?」

「あぁ、そうだな。今夜は楽しみだな。女騎士は流石はどんな泣き顔見せるか、今から滾るな」

 下卑た笑い声を上げ、盗賊達は牢屋ある方向を見ていた。

「最近人数増えたからか、みんなで使ったら・・・・すぐ壊れちまいますからねぇ。騎士ってくらいだから、持って欲しいですねぇ」

「全くだ! ハッハッハッ! あの目がどんどん暗く絶望に染まっていくのは、堪らんな! あの嬢ちゃん達の目の前でってのもいいな! ガッハッハ!」

 ヤナは其処まで聞いて、洞窟の外に出た。

 そして、静かにこれまでに自分でも聞いた事の無い程低く冷えた声で魔法を唱える。

「『双子ツイン』『十指テンフィンガー』『獄炎ヘルフレイムの柱ピラー』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎のヘルフレイム自動人形達オートマタ』」

 十本の獄炎で出来ている火柱を、全て使用し『黒炎のヘルフレイム自動人形達オートマタ』に形状変化デフォルマシオンして俺の後ろに整列させた。

 そして俺は、五蓮ゴレンジャの時より禍々しく、リオンちゃん達を襲ったクソ貴族の時より憤怒の気持ちを込めて、『黒炎の全身鎧』を創り出した。

 まるで今の俺の心を写すかのような、この世界の誰よりも『魔王』らしい姿かもしれないな。



「さぁ、悪役わるもんの登場だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...