要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第三章 冒険者

月光に照らされて

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「……それで、こんな事になったのか?」

 ガストフ支部長が見ているのは、ギルド倉庫に積み上がったロックベアの死骸と、それとは別に積み上がっている瘴気纏いロックベアだった残骸だ。

しょうだそうだまはまたそはいの素材のかひとり買取おねはいしたいお願いしたい

「お前、それで通じてると思うなよ?……ったく、エディスだな? どうせお前が無茶して、シメられたんだろう。はぁ……あと、ロックンドルの卵も出せよ。取ってきたんだろ?」

 俺はエディスさんにボコボコにされた顔で、黙って頷いた。



 アシェリを一人で生きていけるまで、自分の奴隷にする事を決めた後、ロックンドルと瘴気纏いロックベアと通常のロックベアの死骸を回収した。

その後、帰ろうとした際だ。

「三人に増えたし、馬車を近くの村にでも手配しに行きますか?」

「ご迷惑をおかけし、申し訳ございません」

 エディスさんが、面倒臭い事を言っている。

「ん? 三人なら大丈夫だろ? 俺は腕二本あるんだし。色々あって時間もかかったしな、早くアシェリの装備も頼みたいし。すぐだよすぐ、な?」

「……逃げますよアシェリちゃん……」

「え?」

「それにほら、せっかく今俺ちょっと普段外さない装備外してるから、来た時より早く済むぞ?……っと、よし! しっかり抱えたし、大丈夫大丈夫! 俺を信じろ!」

「ぐえ! いつに間に!?」
「きゃん! ぐるじいです……主様が消えたと思ったら……もう、抱えられて……」

「大丈夫ダイジョウブ……たぶん……そぉっと走るからさ? 行くぞっと!」

「やめでぃえええええ! いやぁああ!」
「多分てぇええ! きゃぁああぁぁぁ!」

 結局、行きの半分の時間で王都に着いたので、まだ明るい内にギルドに来れたのだ。気絶した二人を脇に抱えたままギルド持ってきた為、意識を回復したエディスさんにボコボコにされ、アシェリは意識を取り戻した後も放心状態になったので、結局支部長室に来たのが到着してから暫く経った後になってしまった。早く着いたのに、不思議な事もあるものだ。

「あーあー、やっと普通にしゃべれる様になった……あの人、どんどん俺の扱いが酷くなって来てる気がするわ」

「……どちらかと言うと話を聞いた限りじゃ、お前の彼奴らに対する扱いが酷いんだがな……」

「ん? なんか言ったか?」

「……まぁいっか、俺は関係なさそうだし……取り敢えず、Cランク試験は合格だ、おめでとさん。Cランクからは指定クエストもあるランクだ。お前は冒険者になってまだ数日だが、きっとすぐ色んな意味で有名になるだろうから、そのうち指名クエストも入るだろう。忙しくなるぞ? ハッハッハ!」

「何だよ色んな意味って…、ったく、まぁでも、そうだな。難易度のあるクエストは、ドンドン受けたいからな。願ったり叶ったりだ。そうじゃないとレベルもあがらんしなぁ」

「先ずはこいつらの討伐報酬と、ロックベアと通常個体が三十体以上と瘴気纏い個体の素材だが、査定に流石に時間がかかるから、明日また来い」

「だろうな。あと忘れてたが、これもだ」

 鞄からロックンドルのを出した。

「はぁ!? お前これ、ロックンドルの成長体じゃねぇか! しかも羽毛の状態がすこぶるいいな……なるほど、頭を一撃で落として仕留めたのか……いやしかし、血糊が付いてないのは……」

 ロックンドルの羽毛を触りながら、思考に耽っているガストフ支部長に一言声をかけてからギルド倉庫を出てきた。ギルドのフロントには、ギルド職員の制服に着替えたエディスさんとアシェリが待っていた。

「どうでしたか? 無事にクエスト討伐の証は、支部長に見せられましたか?」

「あぁ、Cランク合格だってさ」

「それはおめでとうございます。私からの評価は、既に支部長に報告していましたから、あとは卵さえ見せれば大丈夫でしたからね」

「ありがとう。エディスさんもお疲れ様。またなんかあった時はよろしくな」

「えぇ、今度出かける時は馬でも借りましょうね? でないと……次はコロスしますよ? ふふふ」

「ひぃ!?」

「あとヤナ君、忘れてましたが、アシェリちゃんと、正式な奴隷契約を結ばないといけませんよ?」

「ん? そんなのあるのか?」

「『奴隷の首輪』に触れながら、『契約コントラクト』と唱えてください」

「これも、魔道具なのか。わかった。アシェリ首輪触るぞ。『契約コントラクト』! うぉ、なんか出てきたな。設定? 行動許可? 何だこれ」

「その出てきた『設定』で、奴隷の行動の制約を決めることができます」

「あぁ、なるほどね。『主に対し攻撃不可』『主の命令は絶対』とか『自死禁止』、てか細いのも結構あるのな。ふーん、まぁ全部チェック外しちゃうけどね」

 俺は奴隷の行動制限全ての・・・項目を外して、全ての・・・行動ができる様にした。それを見たエディスさんが信じられないという顔をした。

「はぁ!? 奴隷に全ての・・・行動を許してどうするんだよ!」

「はい? だって、別にいいだろ。放置するのも売るのも俺が・・嫌だったから、俺の奴隷になってもらっただけだからな。単なる保護者の証みたいなもんだからな、こんなもん」

「……そう言えばそうでしたね。アシェリちゃんにとっては、今の状態ならヤナ君が保護者みたいなもので、生活の責任はヤナ君が持つわけで、きちんと養ってもらえれば逃げる意味もないですね」

「それに俺に対して攻撃許可しとかないと、鍛錬時に困るからな」

「なるほど。ならその契約内容で良ければ『締結コンクルード』と唱えて下さい。但し、一度『締結コンクルード』すると変更出来ませんから、慎重に……」

「『締結コンクルード』! っとこれでいいんだなぁあああああ! こめかみがへこむぅうう!」

締結コンクルード』と唱えて、すぐにエディスさんにアイアンクローをかまされた。

「あぁん? お前、こっちの話を聞く気あんのか?」

「あだだだだだ! 気をつけます! 次からはい! しっかりとぉおおお!」

「ふん!……説明は最後まで聞いてくださいね? ヤナ君」

「その猫かぶりもう意味なくないか……いででで」

 その後エディスさんに怯えるアシェリとギルドを出て、防具屋へ行きアシェリの分の装備を追加で注文した。勿論、この間の瘴気纏いオーガの素材を使って貰うのは勿論の事、且つ今回瘴気纏いロックベアも手に入る事を告げてきた。

 素材は明日持ってくる事を伝え、それも使って貰う事になった。追加注文で更に金貨が十数枚消えたが、明日にはまた増える予定だったので特に気にせず使っていた。隣でかかる費用の事を聞いていたアシェリは、その場に固まっていたがスルー無視だ。

 一週間後にしか装備が揃わない為、それまでアシェリの装備をどうするか悩んでいたら、防具屋のオヤジがサービスだと言ってアシェリのサイズの革鎧レザーアーマーと初心者用のナイフ二本くれた。アシェリがナイフ二本で戦闘すると聞き、態々奥から持ってきたのだ。

「あとは、服屋で布服は買ってやれよ」

 やけにアシェリに優しいなとオヤジにジト目を向けていると、昔アシェリと同じくらいの子供がいた・・らしい。オヤジに礼を言って店を出て、アシェリの身の回りの服やら何やらを買ってから宿屋に戻った。

「にゃ! おかえりにゃさい! ヤニャ様!」

「ただいま、リアンちゃん。女将さん呼んでもらえる?」

「はーい! 女将さぁあん! ヤニャ様が呼んでるよー!」

 リアンちゃんが、元気よく女将さんを呼びに行った。

「何だい? そんな大きな声で全く。あら、おかえり。今日はCランクへの昇級試験だったんだろ? どうだったんだい?」

「それはバッチリだ。ちゃんと受かって来たぞ」

「おめでとうごにゃいます! 流石ヤニャ様ですね!」

「ぐはぁ! ま……眩しすぎる純粋な笑顔が、俺を癒すぅうう」

「そりゃ、めでたいね! 今から夕食だろ? 旦那にも言っておくから、少しは期待しときな」

「それでだな……ちょっと……部屋をもう一部屋借りたくてな」

「はぁ? 何だい歯ぎれが悪いね」

 俺は後ろに隠れていたアシェリを、二人の前に出した。当然首には奴隷の首輪がついている。

「あんた……」
「ヤニャ様……」

 二人が、俺から一気に距離を取る。

「いやいやいやいや、確かに俺の奴隷なんだが、そういう事じゃないぞ? 断じてないぞ? リアンちゃん、逃げないで!?」

「主様……わたしは(ご迷惑をおかけしたく無いので)部屋は一つでいいです。(床で寝ますから)ベットも一つで構いません」

「色々足りない言い方しないで!?」

「あんた……やっぱり……」
「ヤニャ様……変態?」

「ノォオオオオオオ!?」

 俺はこの後、これ以上ないくらい必死に説明をした。それはもう、何かの英雄譚でも話すかのように語り、如何に今の状況が仕方のない事だったのかを!

「まぁ、そういう事にしておいてあげるさ。只、申し訳ないが部屋は一杯なのさ。それに奴隷に一部屋貸すってのも、他の客と余計な問題になっちまうからね。料金は食事代の分だけ追加にしとくよ」

 その後、かなり豪華な夕食をアシェリと堪能させてもらった。旦那さんからの、お祝いという事らしい。アシェリは、料理の量と味に目を丸くしていた。量は多いがとても美味しく、二人で満足しながら部屋へと入った。

 寝る場所で一悶着あったが、子供に床で寝させる訳には行かないと、俺が言い張りアシェリにベットで寝かした。

 俺は毛布を貸して貰っていたので、床で眠りについた。



 その、夜中の事だった。月明かりにふと目に入り込み、夢とも現実とも言えない微睡みの中で目を覚ました。

 目の前には、女神の様な美しい女性が月明かりに照らされながら、俺を見ていた。

「綺麗だ……」

 俺は微睡みの中で、月の女神に会ったのだ。
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