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第三章 冒険者
ヒーロー戦隊のリーダーはレッド派です
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ギルドの扉を開けると、とびっきりの嗤い顔でエディスさんに抱きつかれ、そしてその俺を今にも校舎裏に呼び出しそうな方々に囲まれた。
「……何コレ?」
「取り敢えずヤナ君『Cランク』に昇格おめでとう! あとさっきの色々の査定で、金貨でキリよく百枚ね!」
「「「金貨百枚!?」」
瘴気纏いオーガは、通常のオーガより身体も大きく取れる素材も希少だそうだ。その為、素材の売却価格もいいらしい。あとは全部クエスト報酬やら、他の魔物の素材の売却やらでそうなったらしい。
「十分だな。ありがとう。で、なんでいきなりCランクまで上がったんだ?」
「エディス姉さんに馴れ馴れしいぞ!」
「元Aランク冒険者に対して、なんだその態度は!」
「俺も抱きついてほしい!」
若干の既視感を感じていると、ガヤっていた冒険者に対してエディスさんが口を開いた。
「ぴーぴーぴーぴーやかましいわ! あたいが話してんだろうが! てめえら全員、オークの苗床にすんぞ!」
「「「ひぃ!?」」」
俺も含めた全員がケツを抑えて悲鳴をあげた。
「ヤナ君、あんな怖くて野蛮な冒険者はほっといて、支部長の部屋いきましょ?」
「あんたが怖いわ!」
「ん? なぁにぃかなぁ?」
「さーせんした! 今行きます! だからその嗤い顔を、こっちに向けないで! 怖いコワイ!」
素直にエディスさんの後ろをついて行き、支部長室とプレートのついた部屋の前に案内された。
「ガストフ支部長、ヤナ君を連れてきました」
「そうか、はいっていいぞ」
支部長室に入ると、スキンヘッドの厳ついおっさんが、机に座り書類作業をしていた。
「来てもらって悪かったな。受付が騒がしかったろ?」
「あぁ、まだここにはニ回しか来てないのに、既に色々と面倒くさそうだ」
「ハッハッハッ! 誰かさんが、ランクの事をバラしたからなぁ」
「それに、その場で誰かさんが、報酬額をバラしてくれたからな」
俺とガストフ支部長がエディスさんに視線をやるが、エディスさんはニコニコしているだけだった。
「はぁ……で、何なんだ? わざわざこの部屋まで呼ばれたのは」
「おぉ! そうだった! まず報酬額のことなんだがな、金貨百枚は大体瘴気纏いオーガ二体の討伐報酬と素材の売却なんだが、結構オーガは良い防具なんかの素材になるが、全て売却していいのか?」
「そうなのか、全く気にしてなかったな。防具に使えそうな素材を売らなかったら報酬額はどんなものになるんだ?」
「そうだなぁ、まぁ半分ってとこだろうな」
「なら、防具に使えそうな素材は売らずに貰っていく。報酬額は金貨五十枚でいい」
「そうか、わかった。エディス、その様にしといてくれ。あとはランクだな。お前さん今日Gランクに登録したばかりだったよな?」
「あぁ、今日冒険者になったばかりだな」
「瘴気纏いオーガ二体以外の持ち込みの魔物と薬草で、魔物討伐と採取クエストの達成だとなランクDってとこだ。ランクCってのは聞いてると思うが、指定クエストも入るランクでな、一応一人前の中級クラスってとこだ。だからランクCからはクエスト達成評価だけでなく、昇級試験が本来はある」
エディスさんが説明してくれた事を思い出すと確かにその様な説明を受けた。
「このランクCに成れるか成れないかで、冒険者としての壁があるんだ。Dランクまではコツコツとクエストを重ねれて行けば成れるからな。Cランクに上がるには、指定魔物の討伐とBクラス以上の冒険者との戦闘試験があるんだが、これが壁ってやつだ」
「あぁ……なるほど。それで俺がその昇級試験受けずに、その壁をいきなり超えちまったから、あの連中が怒ってるわけか。そりゃそうだろ。別に俺はDランクでいいし、試験も受けるぞ? 絡まれるほうが面倒くさい」
「……チッ、そのほうが面白いに……」
「……この人は……」
エディスさんを睨んでいると、ガストフ支部長がある提案をしてきた。
「正直な所、瘴気纏いオーガを一人で殺っちまう様な奴は、さっさとAランクぐらいに上がってもらって他の瘴気纏いとか討伐してほしいんだがな。最近特に各地で活発化してきやがったからなぁ。でもまぁ、そのせいで俺も少し焦っちまったか……よし! それなら、きちんと試験受けてもらうか!」
「おう、それでいい。まぁ、実際俺もそっちの方が面白そうだし」
「ハッハッハ! なんだ、お前もアレか? なら少し面白くしてやろう。おいエディス、騒いでた連中の中からBランクの奴集めて、訓練場に連れてこい。まずは彼奴らの頭を冷やすのとヤナの試験を一緒にやっちまう。彼奴ら面倒くさいからな、ヤナに丸投げしちまおう」
「そうですね。面倒くさいですから、ヤナ君に丸投げでいいでしょう」
「本人の目の前で丸投げとか言うなよ……それに、俺はアレじゃねぇ!」
エディスさんは、騒いでた連中の中からBランクの冒険者を連れてくる為に、先に部屋を出て行った。俺はガストフ支部長と訓練場に向かっていた。
「ここが、この支部の訓練場だ。空間拡張魔法で広くしてあるのと、部屋全体を障壁系の魔法で覆っている。あと観客席も同じく障壁魔法で守っているから、余程の無茶しなきゃ、好きに暴れて構わないぞ」
「へぇ、即死無効結界は張られているのか?」
「いや、あれは流石にないな。あんな魔道具持ってるのは、国レベルだ。しかし、そんなものよく知ってたな」
「まぁ、聞いたことがあってな。って事は、やり過ぎると普通に死んじまうってことか」
「そうだな。まぁ死んじまったら自己責任だ。だがまぁ、ギルドには優秀な治癒師もいるからな。腕や足が一本二本飛んでったぐらいなら治るから安心しろ、ハッハッハ!」
「そうか、なら即死だけ気をつければ、大丈夫そうだな」
「……腕や足が一本二本飛ぶって聞いたら、大抵尻込みするんだがな」
「ん? そんなの、鍛錬してたら当たり前だろ? 一度、心臓も貫かれたしな。でもまぁ、流石に心臓貫かれた時は危なかったから、そこまでする気もされる気もないけどな」
「……ハッハッハ、鍛錬だと思って、程々にしといてやれよ?」
俺はガストフ支部長と別れ、訓練場の真ん中で相手が来るのを待った。待っている間にどこから湧いたのか観客席が冒険者で埋まり出した。
「あいつか、今日冒険者登録して、いきなりCランクになろうとしてる奴は」
「装備は、新品の革鎧と刀二本だけか、初心者丸出しな感じなんだがな」
「なんでも、瘴気纏いオーガ二体を一人で殺ったらしいぞ?」
「流石にそれは嘘だろ?」
ガヤガヤと外野が騒がしくなってきた頃、試験相手の冒険者達が現れた。
「おう! 逃げずにちゃんといやがったな! その度胸だけは褒めてやる!」
「囲んでボッコボコにしてやんよ!」
「今なら泣いて謝れば許して……やらねぇよ!」
「終わった後で、私が優しく慰めてあげるわよ? まずは動けなくしなくちゃね! ゴラァ!」
「お前を倒したら……俺、エディス姉さんに告白するんだ」
俺の試験を担当する冒険者達を一目見て、思わず文句を叫んでいた。
「お前らどんなヒーロー戦隊だよ! 髪型ぐらい変えろや! 色分けは評価するが、それ以外が同じ装備って……もっと個性出せや!」
目の前には、それぞれが五色に分けた髪色の五人組がいた。しかし、違うのは髪の色のみで装備も髪型もほぼ同じで、忘年会のネタでやるより酷いクオリティだった。
「はぁ!? 何言ってやが…」
「しかも色分けが髪の色だけだと! 手抜きにも程があるぞ! 全身で個性を表現しろや! リーダーは誰だ!」
「えっ! えっと、俺か? 俺だな? お、俺だ!」
「てめぇ……なんでリーダーが赤じゃないんだよ! 戦隊舐めんな!」
「お前何言ってやが……」
「よぉし、お前らそんな格好で俺の前に出て来たという事は、そういう事なんだな? 俺が『悪役』という事でいいんだな? ガストフ支部長いいぞ! 始めてくれ!」
「いいのか? 五人で相手する事に、文句とか驚きとかないのか?」
俺が身体をほぐしながら準備をしていると、ガストフ支部長が不思議な事を聞いて来た。
「何言ってるんだ? 当たり前だろ? あいつら五人で、一人扱いだろ?」
「……そうか、良いなら何も言わん。これから、ヤナのCランク戦闘試験を始める! 試験官はBランク冒険者パーティの『五蓮の蛇』だ! どちらかが、戦闘不能になれば終了だ! 始め!」
外野から五人で相手する事に驚く声と、『五蓮の蛇』というパーティはそこそこ有名らしく、その事についてもザワつきが大きかった。しかし、俺はそんな事は気にもなっていなかった。
「お前らパーティの名前が『五蓮の蛇』だと? よーし、分かった。そういう事なら俺もそのつもりで行こうじゃないか……フハハハハハ! 『五蓮の蛇』よ! 我に、滅ぼされに来たのか!」
「クロ……こいつ何だか……」
「お前達、いいか、アレと目を合わせるな……」
「さぁ、行くぞ? 正義の戦隊よ……先ずは小手調だ。『十指』『火球』!」
「お前、魔法剣士か! だが、ただの火球なんぞ効くかよ! オラァ!」
俺が放った『十指』『火球』を簡単に『五蓮の蛇』は其々が剣戟、魔法、障壁で防いで見せた。伊達に、Bランクパーティという事では無いらしい。
「こっちはどうだ? せいぁあ!」
俺は二刀を抜き『五蓮の蛇』向かって走り出す。
「レド! 盾で抑えろ! 俺、ロイエ、ルブで取り囲む! クピンは、全員に身体強化の補助だ!」
「リーダーがブラックだとぉおおお! 俺は認めねぇええ! おらぁああ『狂喜乱舞』『旋風舞』!」
「ぐううう、重い二刀の回転剣戟か! だが、これを防いだら俺は……俺はぁ!」
「よし! レド! そのまま盾で抑えてろ! クピン!」
「わかったわよ! 皆に我の愛を『天使の嘆き』届け! ッチュ!」
「ぐはぁ! 精神的ダメージと引き換えに、身体強化だと? お前ら死ぬ気か!?」
俺はクピンの身体強化魔法にメンタルダメージを食らっていたが、魔法を受けた三人を心配しないではいられなかった。
「「「よ……余計な……ぐおぉお……心配だ!」」」
「既に、瀕死じゃねぇか!?」
「ロイエ! ルブ! 今だ! 合わせろ! 『合わせ剣技』『爆裂三重激烈波』!」
三人が息を合わせ、『合わせ剣技』なる合体技を放ってきた。当然、俺は避けない。
「ぐわぁああああ!」
激しい爆裂と共に身体を三方向から同時の強い衝撃に襲われ、俺は技の衝撃で舞い上がった砂埃と煙で周囲から見えなくなった。
「「「「「やったか!?」」」」」
「おい! 『五蓮の蛇』! やり過ぎだ! 新人を殺す気か!」
「あ……いや、すまねぇ。つい熱くなりすぎた」
俺はそんなガストフ支部長と『五蓮の蛇』の会話を聞いていた。
「早く治癒師を呼んでこ……」
カツーン
カツーン
カツーン
「何の……音だ?」
砂埃と煙の中から、俺の足音が聞こえるように、徐々に『悪役』の俺が姿を現した。
「なんだ……その姿は……?」
「フハハハハハハ! 中々やるではないか『五蓮の蛇』よ。これが我の真の姿、『漆黒の騎士』だ!」
俺は煙と砂埃で姿が見えない間に、神出鬼没でバレない様にしながら、獄炎魔法で『悪役っぽい』姿になるように、出来るだけ禍々しいデザインに『形状変化』で『黒炎の鎧』を纏っていた。勿論、『十指』で『黒炎の大剣』10本も普段より『悪役っぽい』デザインに仕上げている。
「さぁ、『五蓮の蛇』よ……俺に負けるなよ? 『黒炎の大剣』『自動操縦』……フハハハハハハ! 滅びよ!」
「「「「「ぎゃあああああああ!!」」」」」
そして、俺は無事にCランク戦闘試験をクリアした。
そして暫くの間、俺は誰にも声をかけられなくなったのだった。
「なぜだ…」
「……何コレ?」
「取り敢えずヤナ君『Cランク』に昇格おめでとう! あとさっきの色々の査定で、金貨でキリよく百枚ね!」
「「「金貨百枚!?」」
瘴気纏いオーガは、通常のオーガより身体も大きく取れる素材も希少だそうだ。その為、素材の売却価格もいいらしい。あとは全部クエスト報酬やら、他の魔物の素材の売却やらでそうなったらしい。
「十分だな。ありがとう。で、なんでいきなりCランクまで上がったんだ?」
「エディス姉さんに馴れ馴れしいぞ!」
「元Aランク冒険者に対して、なんだその態度は!」
「俺も抱きついてほしい!」
若干の既視感を感じていると、ガヤっていた冒険者に対してエディスさんが口を開いた。
「ぴーぴーぴーぴーやかましいわ! あたいが話してんだろうが! てめえら全員、オークの苗床にすんぞ!」
「「「ひぃ!?」」」
俺も含めた全員がケツを抑えて悲鳴をあげた。
「ヤナ君、あんな怖くて野蛮な冒険者はほっといて、支部長の部屋いきましょ?」
「あんたが怖いわ!」
「ん? なぁにぃかなぁ?」
「さーせんした! 今行きます! だからその嗤い顔を、こっちに向けないで! 怖いコワイ!」
素直にエディスさんの後ろをついて行き、支部長室とプレートのついた部屋の前に案内された。
「ガストフ支部長、ヤナ君を連れてきました」
「そうか、はいっていいぞ」
支部長室に入ると、スキンヘッドの厳ついおっさんが、机に座り書類作業をしていた。
「来てもらって悪かったな。受付が騒がしかったろ?」
「あぁ、まだここにはニ回しか来てないのに、既に色々と面倒くさそうだ」
「ハッハッハッ! 誰かさんが、ランクの事をバラしたからなぁ」
「それに、その場で誰かさんが、報酬額をバラしてくれたからな」
俺とガストフ支部長がエディスさんに視線をやるが、エディスさんはニコニコしているだけだった。
「はぁ……で、何なんだ? わざわざこの部屋まで呼ばれたのは」
「おぉ! そうだった! まず報酬額のことなんだがな、金貨百枚は大体瘴気纏いオーガ二体の討伐報酬と素材の売却なんだが、結構オーガは良い防具なんかの素材になるが、全て売却していいのか?」
「そうなのか、全く気にしてなかったな。防具に使えそうな素材を売らなかったら報酬額はどんなものになるんだ?」
「そうだなぁ、まぁ半分ってとこだろうな」
「なら、防具に使えそうな素材は売らずに貰っていく。報酬額は金貨五十枚でいい」
「そうか、わかった。エディス、その様にしといてくれ。あとはランクだな。お前さん今日Gランクに登録したばかりだったよな?」
「あぁ、今日冒険者になったばかりだな」
「瘴気纏いオーガ二体以外の持ち込みの魔物と薬草で、魔物討伐と採取クエストの達成だとなランクDってとこだ。ランクCってのは聞いてると思うが、指定クエストも入るランクでな、一応一人前の中級クラスってとこだ。だからランクCからはクエスト達成評価だけでなく、昇級試験が本来はある」
エディスさんが説明してくれた事を思い出すと確かにその様な説明を受けた。
「このランクCに成れるか成れないかで、冒険者としての壁があるんだ。Dランクまではコツコツとクエストを重ねれて行けば成れるからな。Cランクに上がるには、指定魔物の討伐とBクラス以上の冒険者との戦闘試験があるんだが、これが壁ってやつだ」
「あぁ……なるほど。それで俺がその昇級試験受けずに、その壁をいきなり超えちまったから、あの連中が怒ってるわけか。そりゃそうだろ。別に俺はDランクでいいし、試験も受けるぞ? 絡まれるほうが面倒くさい」
「……チッ、そのほうが面白いに……」
「……この人は……」
エディスさんを睨んでいると、ガストフ支部長がある提案をしてきた。
「正直な所、瘴気纏いオーガを一人で殺っちまう様な奴は、さっさとAランクぐらいに上がってもらって他の瘴気纏いとか討伐してほしいんだがな。最近特に各地で活発化してきやがったからなぁ。でもまぁ、そのせいで俺も少し焦っちまったか……よし! それなら、きちんと試験受けてもらうか!」
「おう、それでいい。まぁ、実際俺もそっちの方が面白そうだし」
「ハッハッハ! なんだ、お前もアレか? なら少し面白くしてやろう。おいエディス、騒いでた連中の中からBランクの奴集めて、訓練場に連れてこい。まずは彼奴らの頭を冷やすのとヤナの試験を一緒にやっちまう。彼奴ら面倒くさいからな、ヤナに丸投げしちまおう」
「そうですね。面倒くさいですから、ヤナ君に丸投げでいいでしょう」
「本人の目の前で丸投げとか言うなよ……それに、俺はアレじゃねぇ!」
エディスさんは、騒いでた連中の中からBランクの冒険者を連れてくる為に、先に部屋を出て行った。俺はガストフ支部長と訓練場に向かっていた。
「ここが、この支部の訓練場だ。空間拡張魔法で広くしてあるのと、部屋全体を障壁系の魔法で覆っている。あと観客席も同じく障壁魔法で守っているから、余程の無茶しなきゃ、好きに暴れて構わないぞ」
「へぇ、即死無効結界は張られているのか?」
「いや、あれは流石にないな。あんな魔道具持ってるのは、国レベルだ。しかし、そんなものよく知ってたな」
「まぁ、聞いたことがあってな。って事は、やり過ぎると普通に死んじまうってことか」
「そうだな。まぁ死んじまったら自己責任だ。だがまぁ、ギルドには優秀な治癒師もいるからな。腕や足が一本二本飛んでったぐらいなら治るから安心しろ、ハッハッハ!」
「そうか、なら即死だけ気をつければ、大丈夫そうだな」
「……腕や足が一本二本飛ぶって聞いたら、大抵尻込みするんだがな」
「ん? そんなの、鍛錬してたら当たり前だろ? 一度、心臓も貫かれたしな。でもまぁ、流石に心臓貫かれた時は危なかったから、そこまでする気もされる気もないけどな」
「……ハッハッハ、鍛錬だと思って、程々にしといてやれよ?」
俺はガストフ支部長と別れ、訓練場の真ん中で相手が来るのを待った。待っている間にどこから湧いたのか観客席が冒険者で埋まり出した。
「あいつか、今日冒険者登録して、いきなりCランクになろうとしてる奴は」
「装備は、新品の革鎧と刀二本だけか、初心者丸出しな感じなんだがな」
「なんでも、瘴気纏いオーガ二体を一人で殺ったらしいぞ?」
「流石にそれは嘘だろ?」
ガヤガヤと外野が騒がしくなってきた頃、試験相手の冒険者達が現れた。
「おう! 逃げずにちゃんといやがったな! その度胸だけは褒めてやる!」
「囲んでボッコボコにしてやんよ!」
「今なら泣いて謝れば許して……やらねぇよ!」
「終わった後で、私が優しく慰めてあげるわよ? まずは動けなくしなくちゃね! ゴラァ!」
「お前を倒したら……俺、エディス姉さんに告白するんだ」
俺の試験を担当する冒険者達を一目見て、思わず文句を叫んでいた。
「お前らどんなヒーロー戦隊だよ! 髪型ぐらい変えろや! 色分けは評価するが、それ以外が同じ装備って……もっと個性出せや!」
目の前には、それぞれが五色に分けた髪色の五人組がいた。しかし、違うのは髪の色のみで装備も髪型もほぼ同じで、忘年会のネタでやるより酷いクオリティだった。
「はぁ!? 何言ってやが…」
「しかも色分けが髪の色だけだと! 手抜きにも程があるぞ! 全身で個性を表現しろや! リーダーは誰だ!」
「えっ! えっと、俺か? 俺だな? お、俺だ!」
「てめぇ……なんでリーダーが赤じゃないんだよ! 戦隊舐めんな!」
「お前何言ってやが……」
「よぉし、お前らそんな格好で俺の前に出て来たという事は、そういう事なんだな? 俺が『悪役』という事でいいんだな? ガストフ支部長いいぞ! 始めてくれ!」
「いいのか? 五人で相手する事に、文句とか驚きとかないのか?」
俺が身体をほぐしながら準備をしていると、ガストフ支部長が不思議な事を聞いて来た。
「何言ってるんだ? 当たり前だろ? あいつら五人で、一人扱いだろ?」
「……そうか、良いなら何も言わん。これから、ヤナのCランク戦闘試験を始める! 試験官はBランク冒険者パーティの『五蓮の蛇』だ! どちらかが、戦闘不能になれば終了だ! 始め!」
外野から五人で相手する事に驚く声と、『五蓮の蛇』というパーティはそこそこ有名らしく、その事についてもザワつきが大きかった。しかし、俺はそんな事は気にもなっていなかった。
「お前らパーティの名前が『五蓮の蛇』だと? よーし、分かった。そういう事なら俺もそのつもりで行こうじゃないか……フハハハハハ! 『五蓮の蛇』よ! 我に、滅ぼされに来たのか!」
「クロ……こいつ何だか……」
「お前達、いいか、アレと目を合わせるな……」
「さぁ、行くぞ? 正義の戦隊よ……先ずは小手調だ。『十指』『火球』!」
「お前、魔法剣士か! だが、ただの火球なんぞ効くかよ! オラァ!」
俺が放った『十指』『火球』を簡単に『五蓮の蛇』は其々が剣戟、魔法、障壁で防いで見せた。伊達に、Bランクパーティという事では無いらしい。
「こっちはどうだ? せいぁあ!」
俺は二刀を抜き『五蓮の蛇』向かって走り出す。
「レド! 盾で抑えろ! 俺、ロイエ、ルブで取り囲む! クピンは、全員に身体強化の補助だ!」
「リーダーがブラックだとぉおおお! 俺は認めねぇええ! おらぁああ『狂喜乱舞』『旋風舞』!」
「ぐううう、重い二刀の回転剣戟か! だが、これを防いだら俺は……俺はぁ!」
「よし! レド! そのまま盾で抑えてろ! クピン!」
「わかったわよ! 皆に我の愛を『天使の嘆き』届け! ッチュ!」
「ぐはぁ! 精神的ダメージと引き換えに、身体強化だと? お前ら死ぬ気か!?」
俺はクピンの身体強化魔法にメンタルダメージを食らっていたが、魔法を受けた三人を心配しないではいられなかった。
「「「よ……余計な……ぐおぉお……心配だ!」」」
「既に、瀕死じゃねぇか!?」
「ロイエ! ルブ! 今だ! 合わせろ! 『合わせ剣技』『爆裂三重激烈波』!」
三人が息を合わせ、『合わせ剣技』なる合体技を放ってきた。当然、俺は避けない。
「ぐわぁああああ!」
激しい爆裂と共に身体を三方向から同時の強い衝撃に襲われ、俺は技の衝撃で舞い上がった砂埃と煙で周囲から見えなくなった。
「「「「「やったか!?」」」」」
「おい! 『五蓮の蛇』! やり過ぎだ! 新人を殺す気か!」
「あ……いや、すまねぇ。つい熱くなりすぎた」
俺はそんなガストフ支部長と『五蓮の蛇』の会話を聞いていた。
「早く治癒師を呼んでこ……」
カツーン
カツーン
カツーン
「何の……音だ?」
砂埃と煙の中から、俺の足音が聞こえるように、徐々に『悪役』の俺が姿を現した。
「なんだ……その姿は……?」
「フハハハハハハ! 中々やるではないか『五蓮の蛇』よ。これが我の真の姿、『漆黒の騎士』だ!」
俺は煙と砂埃で姿が見えない間に、神出鬼没でバレない様にしながら、獄炎魔法で『悪役っぽい』姿になるように、出来るだけ禍々しいデザインに『形状変化』で『黒炎の鎧』を纏っていた。勿論、『十指』で『黒炎の大剣』10本も普段より『悪役っぽい』デザインに仕上げている。
「さぁ、『五蓮の蛇』よ……俺に負けるなよ? 『黒炎の大剣』『自動操縦』……フハハハハハハ! 滅びよ!」
「「「「「ぎゃあああああああ!!」」」」」
そして、俺は無事にCランク戦闘試験をクリアした。
そして暫くの間、俺は誰にも声をかけられなくなったのだった。
「なぜだ…」
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