要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
34 / 165
第三章 冒険者

ヒーロー戦隊のリーダーはレッド派です

しおりを挟む
 ギルドの扉を開けると、とびっきりの嗤い顔でエディスさんに抱きつかれ、そしてその俺を今にも校舎裏に呼び出しそうな方々に囲まれた。

「……何コレ?」

「取り敢えずヤナ君『Cランク』に昇格おめでとう! あとさっきの色々の査定で、金貨でキリよく百枚ね!」

「「「金貨百枚!?」」

 瘴気纏いオーガは、通常のオーガより身体も大きく取れる素材も希少だそうだ。その為、素材の売却価格もいいらしい。あとは全部クエスト報酬やら、他の魔物の素材の売却やらでそうなったらしい。

「十分だな。ありがとう。で、なんでいきなりCランクまで上がったんだ?」

「エディス姉さんに馴れ馴れしいぞ!」
「元Aランク冒険者に対して、なんだその態度は!」
「俺も抱きついてほしい!」

 若干の既視感デジャブを感じていると、ガヤっていた冒険者に対してエディスさんが口を開いた。

「ぴーぴーぴーぴーやかましいわ! あたいが話してんだろうが! てめえら全員、オークの苗床にすんぞ!」

「「「ひぃ!?」」」

 俺も・・含めた全員がケツを抑えて悲鳴をあげた。

「ヤナ君、あんな怖くて野蛮な冒険者はほっといて、支部長の部屋いきましょ?」

「あんたが怖いわ!」

「ん? なぁにぃかなぁ?」

「さーせんした! 今行きます! だからその嗤い顔を、こっちに向けないで! 怖いコワイ!」

 素直にエディスさんの後ろをついて行き、支部長室とプレートのついた部屋の前に案内された。

「ガストフ支部長、ヤナ君を連れてきました」

「そうか、はいっていいぞ」

 支部長室に入ると、スキンヘッドの厳ついおっさんが、机に座り書類作業をしていた。

「来てもらって悪かったな。受付が騒がしかったろ?」

「あぁ、まだここにはニ回しか来てないのに、既に色々・・と面倒くさそうだ」

「ハッハッハッ! 誰かさん・・・・が、ランクの事をバラしたからなぁ」

「それに、その場で誰かさん・・・・が、報酬額をバラしてくれたからな」

 俺とガストフ支部長がエディスさんに視線をやるが、エディスさんはニコニコしているだけだった。

「はぁ……で、何なんだ? わざわざこの部屋まで呼ばれたのは」

「おぉ! そうだった! まず報酬額のことなんだがな、金貨百枚は大体瘴気纏いオーガ二体の討伐報酬と素材の売却なんだが、結構オーガは良い防具なんかの素材になるが、全て売却していいのか?」

「そうなのか、全く気にしてなかったな。防具に使えそうな素材を売らなかったら報酬額はどんなものになるんだ?」

「そうだなぁ、まぁ半分ってとこだろうな」

「なら、防具に使えそうな素材は売らずに貰っていく。報酬額は金貨五十枚でいい」

「そうか、わかった。エディス、その様にしといてくれ。あとはランクだな。お前さん今日Gランクに登録したばかりだったよな?」

「あぁ、今日冒険者になったばかりだな」

「瘴気纏いオーガ二体以外の持ち込みの魔物と薬草で、魔物討伐と採取クエストの達成だとなランクDってとこだ。ランクCってのは聞いてると思うが、指定クエストも入るランクでな、一応一人前の中級クラスってとこだ。だからランクCからはクエスト達成評価だけでなく、昇級試験が本来はある」

 エディスさんが説明してくれた事を思い出すと確かにその様な説明を受けた。

「このランクCに成れるか成れないかで、冒険者としての壁があるんだ。Dランクまではコツコツとクエストを重ねれて行けば成れるからな。Cランクに上がるには、指定魔物の討伐とBクラス以上の冒険者との戦闘試験があるんだが、これが壁ってやつだ」

「あぁ……なるほど。それで俺がその昇級試験受けずに、その壁をいきなり超えちまったから、あの連中が怒ってるわけか。そりゃそうだろ。別に俺はDランクでいいし、試験も受けるぞ? 絡まれるほうが面倒くさい」

「……チッ、そのほうが面白いに……」

「……この人は……」

 エディスさんを睨んでいると、ガストフ支部長がある提案をしてきた。

「正直な所、瘴気纏いオーガを一人で殺っちまう様な奴は、さっさとAランクぐらいに上がってもらって他の瘴気纏いとか討伐してほしいんだがな。最近特に各地で活発化してきやがったからなぁ。でもまぁ、そのせいで俺も少し焦っちまったか……よし! それなら、きちんと試験受けてもらうか!」

「おう、それでいい。まぁ、実際俺もそっちの方が面白そうだし」

「ハッハッハ! なんだ、お前もアレ脳筋か? なら少し面白くしてやろう。おいエディス、騒いでた連中の中からBランクの奴集めて、訓練場に連れてこい。まずは彼奴らの頭を冷やすのとヤナの試験を一緒にやっちまう。彼奴ら面倒くさいからな、ヤナに丸投げしちまおう」

「そうですね。面倒くさいですから、ヤナ君に丸投げでいいでしょう」

「本人の目の前で丸投げとか言うなよ……それに、俺はアレ脳筋じゃねぇ!」

 エディスさんは、騒いでた連中の中からBランクの冒険者を連れてくる為に、先に部屋を出て行った。俺はガストフ支部長と訓練場に向かっていた。

「ここが、この支部の訓練場だ。空間拡張魔法で広くしてあるのと、部屋全体を障壁系の魔法で覆っている。あと観客席も同じく障壁魔法で守っているから、余程の無茶しなきゃ、好きに暴れて構わないぞ」

「へぇ、即死無効結界は張られているのか?」

「いや、あれは流石にないな。あんな魔道具持ってるのは、国レベルだ。しかし、そんなものよく知ってたな」

「まぁ、聞いたことがあってな。って事は、やり過ぎると普通に死んじまうってことか」

「そうだな。まぁ死んじまったら自己責任だ。だがまぁ、ギルドには優秀な治癒師もいるからな。腕や足が一本二本飛んでったぐらいなら治るから安心しろ、ハッハッハ!」

「そうか、なら即死だけ気をつければ、大丈夫そうだな」

「……腕や足が一本二本飛ぶって聞いたら、大抵尻込みするんだがな」

「ん? そんなの、鍛錬してたら当たり前だろ? 一度、心臓も貫かれたしな。でもまぁ、流石に心臓貫かれた時は危なかったから、そこまでする気もされる気もないけどな」

「……ハッハッハ、鍛錬・・だと思って、程々にしといてやれよ?」

 俺はガストフ支部長と別れ、訓練場の真ん中で相手が来るのを待った。待っている間にどこから湧いたのか観客席が冒険者で埋まり出した。

「あいつか、今日冒険者登録して、いきなりCランクになろうとしてる奴は」
「装備は、新品の革鎧レザーアーマーと刀二本だけか、初心者丸出しな感じなんだがな」
「なんでも、瘴気纏いオーガ二体を一人で殺ったらしいぞ?」
「流石にそれは嘘だろ?」

 ガヤガヤと外野が騒がしくなってきた頃、試験相手の冒険者が現れた。

「おう! 逃げずにちゃんといやがったな! その度胸だけは褒めてやる!」
「囲んでボッコボコにしてやんよ!」
「今なら泣いて謝れば許して……やらねぇよ!」
「終わった後で、私が優しく慰めてあげるわよ? まずは動けなくしなくちゃね! ゴラァ!」
「お前を倒したら……俺、エディス姉さんに告白するんだ」

 俺の試験を担当する冒険者達を一目見て、思わず文句・・を叫んでいた。

「お前らどんなヒーロー戦隊だよ! 髪型ぐらい変えろや! 色分けは評価するが、それ以外が同じ装備って……もっと個性出せや!」

 目の前には、それぞれが五色に分けた髪色の五人組がいた。しかし、違うのは髪の色のみで装備も髪型もほぼ同じで、忘年会のネタでやるより酷いクオリティだった。

「はぁ!? 何言ってやが…」

「しかも色分けが髪の色だけだと! 手抜きにも程があるぞ! 全身で個性を表現しろや! リーダーは誰だ!」

「えっ! えっと、俺か? 俺だな? お、俺だ!」

「てめぇ……なんでリーダーが赤じゃないんだよ! 戦隊舐めんな!」

「お前何言ってやが……」

「よぉし、お前らそんな格好で俺の前に出て来たという事は、そういう事なんだな? 俺が『悪役ヒール』という事でいいんだな? ガストフ支部長いいぞ! 始めてくれ!」

「いいのか? 五人で相手する事に、文句とか驚きとかないのか?」

 俺が身体をほぐしながら準備をしていると、ガストフ支部長が不思議・・・な事を聞いて来た。

「何言ってるんだ? 当たり前だろ? あいつら五人で、一人扱いだろ?」

「……そうか、良いなら何も言わん。これから、ヤナのCランク戦闘試験を始める! 試験官はBランク冒険者パーティの『五蓮ゴレンジャ』だ! どちらかが、戦闘不能になれば終了だ! 始め!」

 外野から五人で相手する事に驚く声と、『五蓮ゴレンジャ』というパーティはそこそこ有名らしく、その事についてもザワつきが大きかった。しかし、俺はそんな事は気にもなっていなかった。

「お前らパーティの名前が『五蓮ゴレンジャ』だと? よーし、分かった。そういう事なら俺もそのつもり・・・・・で行こうじゃないか……フハハハハハ! 『五蓮ゴレンジャ』よ! 我に、滅ぼされに来たのか!」

クロリーダー……こいつ何だか……」
「お前達、いいか、アレと目を合わせるな……」

「さぁ、行くぞ? 正義ヒーローの戦隊よ……先ずは小手調だ。『十指テンフィンガー』『火球ファイアボール』!」

「お前、魔法剣士か! だが、ただの火球ファイアボールなんぞ効くかよ! オラァ!」

 俺が放った『十指テンフィンガー』『火球ファイアボール』を簡単に『五蓮ゴレンジャ』は其々が剣戟、魔法、障壁で防いで見せた。伊達に、Bランクパーティという事では無いらしい。

「こっちはどうだ? せいぁあ!」

 俺は二刀を抜き『五蓮ゴレンジャ』向かって走り出す。

「レド! 盾で抑えろ! クロ、ロイエ、ルブで取り囲む! クピンは、全員に身体強化の補助だ!」

「リーダーがブラッククロだとぉおおお! 俺は認めねぇええ! おらぁああ『狂喜乱舞ヤナ流二刀剣術』『旋風舞つむじ』!」

「ぐううう、重い二刀の回転剣戟か! だが、これを防いだら俺は……俺はぁ!」

「よし! レド! そのまま盾で抑えてろ! クピン!」

「わかったわよ! 皆に我の愛を『天使の嘆き身体強化』届け! ッチュ!投げキッス

「ぐはぁ! 精神的ダメージと引き換えに、身体強化だと? お前ら死ぬ気か!?」

 俺はクピンピンクの身体強化魔法にメンタルダメージを食らっていたが、魔法投げキッスを受けた三人を心配しないではいられなかった。

「「「よ……余計な……ぐおぉお……心配だ!」」」

「既に、瀕死じゃねぇか!?」

「ロイエ! ルブ! 今だ! 合わせろ! 『合わせ剣技』『爆裂三重激烈波』!」

 三人が息を合わせ、『合わせ剣技』なる合体技を放ってきた。当然、俺は避けない・・・・

「ぐわぁああああ!」

 激しい爆裂と共に身体を三方向から同時の強い衝撃に襲われ、俺は技の衝撃で舞い上がった砂埃と煙で周囲から見えなくなった。

「「「「「やったか!?」」」」」

「おい! 『五蓮ゴレンジャ』! やり過ぎだ! 新人を殺す気か!」

「あ……いや、すまねぇ。つい熱くなりすぎた」

 俺はそんなガストフ支部長と『五蓮ゴレンジャ』の会話を聞いていた・・・・・

「早く治癒師を呼んでこ……」


 カツーン



 カツーン




 カツーン





「何の……音だ?」

 砂埃と煙の中から、俺の足音が聞こえるように、徐々に『悪役ヒール』の俺が姿を現した。

「なんだ……その姿は……?」

「フハハハハハハ! 中々やるではないか『五蓮ゴレンジャ』よ。これが我の真の姿、『漆黒の騎士ジェットブラック』だ!」

 俺は煙と砂埃で姿が見えない間に、神出鬼没隠蔽/隠密/偽装でバレない様にしながら、獄炎・・魔法で『悪役っぽい』姿になるように、出来るだけ禍々しいデザインに『形状変化デフォルマシオン』で『黒炎の鎧黒炎のマント付き』を纏っていた。勿論、『十指テンフィンガー』で『黒炎のヘルフレイム大剣グレートソード』10本も普段より『悪役っぽい』デザインに仕上げている。

「さぁ、『五蓮ゴレンジャ』よ……悪役に負けるなよ? 『黒炎のヘルフレイム大剣グレートソード』『自動操縦オートパイロット』……フハハハハハハ! 滅びよ!」

「「「「「ぎゃあああああああ!!」」」」」

 そして、俺は無事にCランク戦闘試験をクリアした。

 そして暫くの間、俺は誰にも声をかけられなくなったのだった。

「なぜだ…」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...