要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第三章 冒険者

冒険者ギルドへ行こう

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「一晩くらい休まれれば良いのに……もう行かれるのですか?」

 王達との昼食も無事に終わり、これから城から出発する為に城門に来ていた。

「セアラは、これから鍛錬だしな。くれぐれも、無理はするなよ?」

「えぇ、無茶はしますが無理はしません、ふふふ」

「大丈夫かな……頼むから王女が脳筋にならないでくれよ……」

 セアラをアメノ爺さんとエイダさんが鍛錬する時点で、既に手遅れなのを知りつつも僅かな望みに縋るしかなかった。

「本当にセアラは、感情が大分出る様になったなぁ」

 俺が魔族を討ち、身体の悪神の聖痕を清めてから、これまでよりも表情が豊かになった様に見えた。

 この数時間でそうなのだから、きっと鍛錬を終える頃には別人の様になっているに違いない。

「ええ、ヤナ様のお陰です。早くヤナ様と一緒になる・・為に頑張りますから、待っていて下さいね」

「ん? そうだな、一緒に旅に・・出る為にも頑張れよ」

「それじゃあな。また何かあれば『呼出コール』するんだぞ?」

「はい、必ず。ヤナ様からの……『呼出コール』もお待ちしております」

「そうだな、きっと・・・そうするよ」

絶対・・!……ですよ?」

「お、おう……必ずな」

 セアラがじーっと俺を見ながら念押しして来るので、思わず苦笑しながら答えていると、アメノ爺さんとエイダさん、クックルさんが笑っていた。

「ヤナ殿は嫁に尻に敷かれる感じかの? ふぉっふぉっふぉっ」

「やかましいわ。ったく、それより二度目の見送り申し訳ないな」

「ヤナ様には、セアラ様の件で返しきれない恩がありますから。恩の肩代わりに、私を貰っていってもよろしいですよ?」

「エイダさんまで、やめてくれよ……うわっ! セアラも俺を呪う気か!? そんなに睨むな!」

「そんなことありませんよ……ウフフ」

 セアラが嗤っていたのだ、俺を見ながら。それを見て、俺は戦慄した。

「誰だ!? そんな嗤い方をセアラに教えたのは!?」

「誰でしょう?」

「「ウフフフ」」

「ひぃ!? やめろ! 怖い怖いコワイ!」

 この二人の嗤い顏を見て、色々既に手遅れなのを確信した。

「ふぅ、もう元気ならいいや。またな。行ってくるよ」

「ヤナ様……」

「ん? なんだ?」

「……いえ……お気をつけて、行ってらっしゃいませ」

「あぁ、行ってくるよ」

 そして、俺は城を出た。



「セアラ様、本当に良かったのですか? お気持ちを、ヤナ様にお伝えしなくて。あの鈍感は、きっと気づきませんよ?」

「エイダ、鈍感て……きっとその通りなのでしょうけど。あと、私の気持ちって何の事かしら? さぁ、今から鍛錬です! 一ヶ月でヤナ様と一緒に、旅に出られる様になるんですから! いきますよ!」

 セアラは、これまでに出したことのない様な大きな声を出しながら、離れの塔の広場へと向かっていく。

「これからが楽しみじゃのぅ」

「えぇ、そうですわね」
「恋する乙女に、不可能はないわね!」

 前を歩くセアラの背中を見ながら、三人は幸せそうな微笑みを浮かべるのであった。



「さて、先ずはやっぱり『冒険者ギルド』だな!」

 城でエイダさんに、冒険者ギルドまでの道を教えて貰っていたので、割とすんなりギルドを見つける事が出来た。目的の建物の入り口の扉の上に、大きく『冒険者ギルド』と書いてある看板がたてかけられていた。

「おぉ……ここが、冒険者ギルドかぁ」

 完全にお上りさんの様に入り口で、突っ立ってると後ろから怒鳴られてしまった。

「おい! 邪魔だ! 入らねぇならどかねぇか!」

「おっ、悪い」

 入り口を塞ぐ形で立っていたので、怒られてもしょうがないなと若干凹みながらも、今入って行った冒険者を見た。

(こいつ、村の護衛任務断った奴か)

 俺を見ても何の反応もなかったことから、あっちは覚えていないのだろう。

「俺も今から冒険者になるんだから、舐められない様にしないとな」

 少し気合を入れて、ギルドの扉を開く。そこには、まさに戦う者たちの姿があった。そしてアメノ爺さんが言っていた通り、結構荒くれ者が多い感じの雰囲気が出ている。

 酒場が隅の方に併設されている感じになっており、まだ真昼間だというのに飲んでいる冒険者も多かった。命懸けで依頼をして帰ってきたら、酒でも飲まないとやってられないのかもしれないなと、考えながらカウンターの方へ歩いていく。

「ひ!……ひぃ! やめてくれ! 殺さないでくれぇ!」
「うわぁあああ! ガタガタガタガタ」
「ぶくぶくぶく……」
「おい! いきなりどうしたんだ!?」

 いきなり周りが騒がしくなっていたが、気にせずカウンターに向かった。

 舐められない為にと言っても、誰彼構わず威圧と殺気をぶつけてたら完全にどっかの戦闘狂脳筋なので、俺はそんな野蛮なことはしていない。

 俺に対して威圧や殺気をぶつけて来やがった相手のみに、豪傑殺しの腕輪と魔導師殺しの指輪を装備した状態でだが、割と本気の威圧と殺気をくれてやったのだ。

 腕輪と指輪は装備しているだけで、かなりの鍛錬になる為に城を出る時に再び装備している。それに腕輪と指輪外した状態だと手加減が出来そうにもなく、洒落にならない被害を、周りに出しそうだった。その為、力をセーブするためにも腕輪と指輪を装備することにしたのだ。

 受付らしきカウンターには、受付職員らしき三人が座り冒険者の対応していた。空いていた・・・・・受付の人のところへ歩いて行った。

「こんにちは。今日はどんな御用でしょうか?」

 どどん! っと効果音が出そうな立派なアレを前面に押し出しながら、受付のお姉さんが笑顔で聞いていた。

「……あっ、あぁ、冒険者の登録をお願いしたくて」

 あまりにも惜しげも無く主張してくるので、ついついそれでかいなぁ見てしまって返事が遅れた。すると受付のお姉さんは、俺を見て嗤って・・・いた。

「どうしましたか? ナニ・・か気になることでも? ウフフフ」

「いや! 何でもありません!」

 エイダさんと同じ嗤い顔をされ、背筋がゾクゾクっとしてしまった。この人はあれだ。関わっちゃいけない人だ。

「お忙しそうなので、隣の受付に行ぐぇ! ぐる……ぐるじぃでず」

 早々に立ち去ろうと戦略的撤退した所で、後ろから首元をぐいっと捕まれた。

「どぉこぉへぇ行くの? 私が・・、貴方の冒険者登録をしますよ」

「ぐぇえ……わがりばじだがら……ばなじで……がはぁ……ごほごほ……何なんだ、この人……」

「私の名前ですか? エディスですよ。これからよろしくお願いしますね、フフ」

「名前とか聞いた訳じゃねぇよ……ん? これから? 登録だけじゃないのか?」

 不穏な事をエディスさんが言ってきたので、すぐさま確認した。

「登録した受付担当が、そのまま担当となります。担当は冒険者のクエスト管理や、昇格の勧め等、冒険者としての活動をサポートするオペレーターです」

「……因みに担当を変えるってことは……」

「ほほう……私が気に入らないと? フフフ」

「ひぃ!? その顔で嗤うのやめて! 分かったから! 変えるなんて言わないから!」

「それなら良いんですよ。さてそれでは、冒険者登録を始めますね」

 それからエディスさんに言われるがままに登録をしてしまった。特に問題はなく、登録料として銀貨2枚を支払い無事に登録を済ませた。登録に必要な情報は名前だけだったので、『ヤナ』とだけ登録しておいた。

 それからそのまま冒険者ギルドの説明を受けた。冒険者ランクと言うものがあり、最初はGランクからで、SSランクまである事やクエストの受け方云々。クエスト報酬の事やら何やらと細々な事まであり、俺はクックルさんとの鍛錬のお蔭で一回で覚えられるが、みんな一回で覚えられるのかと思ったが、やはり覚えられないらしい。

「その点についても、冒険者のサポーターである私達が、皆さんの助けとなっているのです」

 ドヤァと胸を張り、エディスさんの無駄にアピールするソレ明らかに罠を、全力でスルー見ない見ないした。

「そしたら、初クエスト受けようかな。Gランクで受けられる採取や討伐系クエストを教えてくれるか?」

「そうですねぇ……少しお待ちを。Gランクだと薬草採取、スライム、ゴブリン討伐ぐらいですかね」

「オークやフォレストウルフ、アサシンアウルの討伐は?」

「その辺りはFランクからですね」

「わかった。ならこれだけで受けられるだけGランククエストを受けるから、見てもらえるか?」

 エイダバック収納魔法付きから、村を襲ってきた時に回収したゴブリンの討伐部位と森の中で討伐した分のスライムの魔石、同じく森の中で採取していた薬草を鞄の中空間拡張機能付からカウンターにドサっと出した。

「はっ?」

 エディスさんの間の抜けた声が、やけに響いた。
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