要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第二章 錬磨

迷宮の異変

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 初心者ビギナーズ迷宮ダンジョンは、村から森と反対側の草原にぽっかりと洞窟の入り口の様にあり、歩いての体感時間で大体三十分くらいで到着した。

「おぉ……まさに、ダンジョンの入り口って感じだな……」

「なんかそれっぽ過ぎて、逆に安っぽいアトラクションみたいだね」

 俺とルイが初ダンジョンの入り口に対する評価をしていると、ケイン騎士団長が全員に話しかけた。

「ここの迷宮は五階層しかなく、よく駆け出しの冒険者が、魔石を稼ぎに頻繁に来る。その為、魔物が溢れる危険が少ない迷宮ダンジョンなんだ」

「魔物が溢れる?」

 迷宮ダンジョンは、長い期間放置されると中から魔物が溢れでるらしい。そして溢れた迷宮は崩れ「死ぬ」という事になるそうだ。

「ほっといたら溢れるなら、人里離れた見つかっていない迷宮ダンジョンとか危ないんじゃないのか?」

 普通に疑問に思うことだと思い聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「新しく出来る迷宮ダンジョン何故・・か村や町といった人が住んでいる所の近くに出来るんだ。その理由は分かってないが、人を迷宮ダンジョンに誘いたいのかも知れないね」

 ケイン騎士団長は苦笑しながら、そう答えた。何か理由でもあるのだろうかと考えていると、ケイン騎士団長から引き締めの言葉が告げられた。

「今回は見学みたいなものだと思っているが、くれぐれも油断はしないように。最終階層のボスは確かオークエリートだった筈だから、そいつを討伐したら地上へ出るための転移陣のある部屋の扉が開く。今日はそこまでしたら、村に帰り翌朝に城へ戻るといったところかな」

 最後は俺も、同じく行動する事になった。今回は迷宮ダンジョンチュートリアルみたいなものだから、さっさとクリアして帰りたいのだろう。

「さぁ、行きましょう。勇者様方とヤナ様」

 ミレア団員に促され。俺らは初めての迷宮ダンジョンに足を踏み入れた。中は意外に明るく、アリスがスタスタ歩きながらミレア団員に尋ねていた。

「結構中は、明るいのね。でも、特に光源はあるように見えないんだけど?」

迷宮ダンジョンの中は、何故か明るいのです。一説には迷宮内に人間を誘う為とか言われていたりしますが、真相は分かっていませんね」

「おっ、ゴブリンだね。僕がいくよ! せぃ!」

 コウヤが飛び出し、一刀のもとにゴブリンを切り捨てた。人型の魔物を討伐する事には、すでに忌避感は無いようだ。

 そして、斬り捨てられたゴブリンは光の粒子になって消えて行き、魔石がそこに残っていた。

迷宮ダンジョン内ではこの様に、魔物を討伐しても死骸は残りません。これは、迷宮ダンジョンが魔物を食べているとも、そもそも迷宮ダンジョンの魔物自体が、魔力により作りだされた擬似魔物という説がありますが、これも真相は分かっておりません」

 ミレア団員が、ツアーの添乗員さんの様に説明しながら初心者ビギナー迷宮ダンジョンツアーは特に問題なく進んだいった。

「あれ? あんなとこに階段があるよ? 下りろってこと?」

 ルイが不自然にある下り階段を見つけ、ミレア団員に尋ねる。

「はい、迷宮ダンジョンの階層には、最下層を除いて必ず下り階段が有ります。それを下れば下るほど、その階層の魔物の強さは上がるってくるという具合です」

 ここは初心者ビギナー迷宮ダンジョンの為、階を下りて強くなると言ってもたかが知れているらしい。これが古くから存在している迷宮で、階層が深くなるとそうは行かないらしいが。

 そして俺たちが順調に階層を下って行き、四階層に降りた時に異変は起きた。

"ゴゴゴゴゴゴ"

 轟音と共に、地面が激しく揺れたのだ。

「ケインさん! これは!?」

「こ……これは……迷宮が成長する時の……しかし、なぜ? ここでは、殆ど死者なんて出ない筈……」

「ケインさん! 考察は後にして! 今はどうすればいい!?」

 ケイン騎士団長が思考に耽りそうだったので、大声で指示を仰いだ。

「少しすれば音も振動も止まる筈! それまで周りに警戒しながら、待機!」

 俺らは指示通りに、周囲を警戒しながら揺れと音が収まるのを待った。ケイン騎士団長のいった通り、数分で音も振動も収まった。

「偶々階層が増えたタイミングだったのでしょう。これも貴重な体験ですね。皆さん運がいい」

 笑いながらそう告げるケイン騎士団長だったが、俺の死神の危険/気配慟哭自動感知は何か嫌な気配を感じていた。

「まぁ、取り敢えずクリアしちゃいましょ」

 アリスが先に進みだした時、死神の危険/気配慟哭自動感知が強い死の気配を感じた。

「アリス止まれ!!」

 咄嗟にアリスに止まる様に叫んだ。

「何?いきなり大声で、ひゃ!?」

 とまらなかったら、アリスの頭があったであろう場所を矢が通り過ぎた。アリスはヨロヨロとこちらに後退りし、ぺたりと座り込んだ。

「な……何、今の?」

「矢……みたいだな。しかも完全に即死狙いだったな、飛んできた位置が」

「おかしい……こんな罠この迷宮にはない筈……何が起こったんだ」

 再度ケイン騎士団長がぶつぶつ言いだしたので、先に俺が提案した。

「危険感知や回避系統をスキルを持ち、且つ使いこなせてる人は俺以外いるか?」

 誰も返事がなかった為、話を続けた。

「なら俺が先に罠の有無を調べる。解除の技術はないからわざと作動させて避けるわ。生への渇望致命傷回避があるから、即死は避けられる筈だ。もし、ダメージを受けたらルイ頼む」

「わかったよ! 気をつけてね!」

「あぁ、油断しないようにいくよ」

 そう告げてから先頭で歩きだした。俺以外は少し遅れて歩いて来てもらっている。道連れにしてしまったら意味が無い為だ。

「うお! 落とし穴って、地味に殺傷率高いよな絶対……おわ! あぶね! ん? 地面が溶けてる? 酸を落としてくるとか、どっかの誰かさんみたいな性悪だな」

 遠くで性悪なメイドのくしゃみが聞こえた気がした。

 何とかスキルとルイの回復ヒールのお蔭もあって、五階に下る階段を見つけた。

「ヤナ殿、助かったよ。あのレベルの罠は、斥候職の上級冒険者が必要だったからね。既にヤナ殿は、冒険者で生きていけそうだね」

「まだ冒険者になってもいないけどな」

 苦笑しながら答えていると、ミレア団員が階段を見ながらこちらに話しかけて来た。

「これまで通りなら、5階への階段を降りると一本道になっており、そのままボス部屋の扉になっている筈です」

「そうだったな。階層が増えているかもしれないが、取り敢えず降りてみないことには分からないから、気をつけて降りて行ってみよう」

 五階最終階層予定に降りてみるとミレア団員が言っていたように、一本道が続いており、突き当たりに扉があった。

 扉に近づいて見ると、中から魔物の咆哮が聞こえてきた。

「今のボスの声か? えらい元気な感じだったな」

 扉を少し開けて中を覗いてみると、普通のオークよりもふた回りぐらいデカくなっている瘴気を纏ったオークエリートがいた。

「おいおい……また黒いのかよ」

 ケインさんにその事を伝えると、驚愕していた。

「なんだって! ボスが瘴気纏の魔物になっているということは……まずいまずいまずい!」

 ケインさんがかなり焦っている様子だったので、コウヤが何を焦っているのかを聞いた。

「ケインさん落ち着いて! 何がそんなにまずいのさ」

「これは失礼しました。ボスが瘴気に纏われているという事は、この迷宮ダンジョンコアが、瘴気に汚染されている可能性が高いのです。迷宮核ダンジョンコアが汚染されると、迷宮ダンジョン内に発生する魔物も瘴気纏の状態になるのです」

 瘴気纏オーガに殺されかけたシラユキが、顔を青くしながらケインさんに声をかける。

「それってかなりまずいわよね? どうにかならないの?」

「もっとマズイことがあります。瘴気に汚染された迷宮は、早い段階で魔物が溢れてしまうのです。何故か瘴気を纏った魔物は迷宮の外に出ようとするのです。それを止めるには迷宮核ダンジョンコアを破壊すれば、新しい魔物は発生しなくなります」

「じゃあ迷宮核ダンジョンコアを破壊すれば……」

「ただし通常の迷宮核ダンジョンコアを破壊しただけであれば、何日もかけて迷宮が潰れていくのですが、瘴気を纏った迷宮核ダンジョンコアは破壊された瞬間から、最下層からまるで土砂崩れでも起きるかのように階層が崩れ出すのです」

「でもボスを倒せば、転移陣が使えるんだよね?」

迷宮核ダンジョンコアを破壊すると迷宮ダンジョンの転移陣も使えなくなるのです。通常は瘴気に侵食された迷宮を破壊する場合、転移魔法が使える術者を連れてきて、コアを破壊したらすぐに、転移魔法によって脱出するのです」

「ならその術者を連れてきてから破壊すれば」

「今から連れてくるのは時間が……既にボスが瘴気纏魔物になっているという事は、数日前からコアが汚染されていたのだしょう。さっきの振動は階層が増えた現象ではなく、即死性の罠が発生するような所まで侵食が進んだせいかもしれません。もういつ魔物が溢れてもおかしくない状態です」

「そんな……」

 その場が暗い雰囲気になって来たので、敢えて明るく俺は告げる。

「それなら、ボスを倒してお前らが転移した後に俺がコアを破壊して、迷宮ダンジョンが崩れる前に脱出すればいいだろ。俺は疾風迅雷早く速く疾くがあるし、間に合うだろ」

「危ないよ! 失敗したら埋まっちゃうよ!」

「そうよ! 流石にそんな事になったら、目覚めが悪いわよ!」

 ルイとシラユキが声を上げ、他のメンバーも止める様に言ってきたが、これは譲れなかった。

「このまま引き返せば、いつ溢れるか分からないんだろ? 溢れたらどうなるんだ?」

 ケイン騎士団長が、渋い顔をしながら答えた。

「恐らく周辺の村は、間違いなく滅ぶだろう。王都までは距離があるから、辿り着く前には対応出来る筈だ」

「ほらな? 今ここでやらないと、この間せっかく助けた村が滅ぶってことはさ、この間の頑張り無駄になるしな」

「でも、何もヤナが残らなくても」

 コウヤが何とも言えない顔で言ってきたが、気になることがあったので、ケイン騎士団長に尋ねた。

コアを破壊した後の罠はどうなるんだ?」

「……既にある罠は作動する。恐らく階より浅い階層でも先程同様の罠が作動するだろう」

「な? ってことはだ。俺しか、残ってコアを破壊する役目は出来ないということさ」

「そんな……」

「また泣きそうな顔して、心配するなって姫ちゃん」

「だだだ誰が心配なんかするもんですか! それに私はシラユキよ!」

「ははは、そうだったな。そうだこれだけはみんなに、言わなきゃいけない事があった」

 みんなが何だという顔をしていたので、俺はドヤ顏でこう告げる。

「俺の事は心配するな! 先に行け! 俺も必ず後から脱出する! 俺がくたばる訳ねぇだろ! 俺は殺されたって、死なない男だぜ!」

「そんなドヤ顔で、フラグを乱立させないでよ…」

 シラユキの、ため息混じりの呟きがやけに響いた。
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