要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第一章 幕開け

離れの塔

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 第2王女のエルミアが勇者達を引き連れて部屋から出て行き、大臣達もセアラに頭を下げてから部屋を出ていった。

 部屋には俺、セアラ、セアラ付きの侍女三人と護衛だと思われる爺さんの六人だけだった。

(他にも居た侍女達や護衛は、セアラ付きじゃなかったのか。第一王女だってのに、人が少なくないか?)

「ヤナ様、後ろの者達を紹介させて頂きます。私付きの侍女たちが三名となります。三人の真ん中に立っているのが侍女長のエイダ。向かって右側がアン、左側がアニーです」

「「「よろしくお願い致します」」」

「よ……よろしくお願いします。えっと……アンさんとアニーさんは双子ですか?」

「「はい」」

「……呼ぶ時に、名前を間違えたらすみません……」

「「お気遣いなく」」

 見事なユニゾンに感動していると、隣にいた爺さんをセアラが紹介してきた。

「私専属護衛のアメノ・トウヤです。アメノの先祖はヤナ様と同じ召喚者です。王国剣術指南役は引退しておりますが、私の直属護衛として残ってもらっております。腕は王国随一ですので、戦闘に関してはアメノに聞いてもらえるとよろしいかと」

(やっぱり勇者の子孫はいるんだな)

「老い先短い爺じゃが、よろしく頼みますじゃ。ふぉっふぉっふぉっ」

 ニコニコしながら腰に刀を2本携え、とても老い先短いとは思えない、そんな凛とした空気を持っている老人だった。

「こちらこそ、よろしくお願いします。この世界で戦う術を持っていませんので、戦い方をご指導頂ければありがたいです」

「ヤナ殿が望めば、幾らでもよろしいぞ」

 この世界で城から出てから生きて行く為に、戦う力をどうやって得ようか考えていた所だったので、非常にありがたい話であった。

「あと私付きの料理長がいますが、それは食事の際にでもご紹介致します。私付きの者達はそれだけになります」

(この世界食べ物ってどんな感じなのか、楽しみだな。流石に米はないだろうなぁ)

「そう言えば勇者達は先に出てっちゃったけど、どこ行ったんだ?」

「勇者様達は、エルミアがお世話致しますので、城内の客室にお連れしたのでしょう」

(勇者達は城内のってことは、俺は城の外なのか? でも、城から出るのは一ヶ月後で良いっていってたけど……)

「えっと……俺のことはセアラがお世話してくれるってことだけど、なら俺はどこ行くんだ?」

「ヤナ様は、私がお世話するということですので……申し訳ございませんが、私と『離れの塔』に来ていただくことになります。客室になる様な部屋はありませんが……エイダ、どうしましょう?」

「そうですね……あの塔には、今いる人数分の部屋しかありませんし……」

「ならば、儂の部屋でよろしかろうて。ヤナ殿なら、タタミの上でも寝られよう」

「えっ!? この世界に畳があるんですか? もしそうなら、俺は全然問題ないです。そもそもお世話になる身ですし、どこでも文句はいいません。むしろ畳の上で寝られるなら、大分気が楽になります」

 それを聞いてエイダさんは、セアラに向かって小さく頷いていた。

「お一人のお部屋をご用意出来なくて申し訳ございませんが、それではアメノの部屋にて出立するまでの間、生活をよろしくお願い致します。不都合ありましたら、御遠慮なく御申し付け下さい。エイダ、準備お願いしますね」

「畏まりました。それでは、アンとアニーは先に離れの塔に戻って準備をして来て下さい」

 アンとアニーさんは再度見事なユニゾンで返事をし、部屋をでていった。一ヶ月で見分けがつく自信は…ない。

 これから住むという離れの塔は、城の東の端に建っているとのことだった。離れの塔までの通路は城と繋がってはいるが、城の中心からは大分離れてしまうので離れの塔と呼んでいるらしい。

 塔までの移動中は、これからどうなるのかセアラに尋ねていた。

「勇者様達は、魔王討伐に向けて城内にて、王宮騎士団長と宮廷魔術師達が鍛錬を行うでしょう。ヤナ様は自由にしろとの王の言葉通り、自由に行動して貰って構いません。戦闘訓練はアメノが対応いたしますし、この世界の常識はエイダに聞いてもらえれば市井の事も分かるでしょう。この世界の勇者召喚や女神様、魔王の事など知りたい場合は、私に聞いてもらえればお答えできる範囲で、御返答する事はできます」

 移動してる間に、この世界の一日は二十四時間で一年は三六五日、月や週の数も元の世界と同じという事も分かった。時間の数え方も秒、分、時間というのも変わらなかった。只距離の単位に関しては、微妙に異なっていて、センツ、メトル、ケロと言った具合だ。此処まで似てるならむしろ同じにしとけよと思ったのは内緒だ。

(勇者召喚といい、ゲームみたいな設定といい、この世界の女神様というのは俺らの世界のこと、好きすぎだろう……)

 塔の簡単な構造も教えてもらい、中でも風呂がある事に驚いた。しかもセアラ用だけでなく、従者や警備の兵士用まであるという事で、俺も従者用に入らせてもらえると聞いてほっとした。

「着きました。此方が、これからご一緒に生活して頂く離れの塔でございます」

 塔の前には広場があり、そこでは鍛錬を行うことも出来るらしい。塔の扉の前には兵士が数名で警護していた。そして塔全体を見ようと広場に少し出て見てみると、薄い膜の様なものが塔を覆っていることに気がついた。

「塔を覆っているこの膜みたいなのは、なんなんだ?」

「それは、対瘴気結界です。瘴気自体や瘴気に侵食された魔物や魔族から塔を護る結界を魔道具によって展開してきます」

「へぇ、瘴気に対する結界があるなら、城全体や国全体を覆うことは出来ないのか?」

「対瘴気結界は、広い範囲に展開が出来ないのです。この塔を覆うぐらいが限界で、塔の前の広場は範囲外となっているくらいなのです。結界の範囲を広げる研究も行われているのですが、中々難しいそうです。この魔道具も古き時代の失われた技術で作られた古代魔道具アーティファクトであり、この国では一点しかなく、それがこの離れの塔を護る結界なのです」

(一点しかない対瘴気結界の古代魔道具アーティファクトを王を護るためではなく、城の端に建てられた塔を護る為に使われているだって?)

「セアラは、王に随分大事に護られているんだな」

「……護られているのか……隠されているのか……」

 改めて塔の真下から離れの塔を見上げると、まるで魔王に攫われたお姫様が囚われている様な、まるで砦のように堅固な塔がそこにあった。

「凄いな……」

 俺は間近でみる離れの塔の迫力に、圧倒されていてセアラが呟いた言葉を聞き逃していた。


 まるで他人事のように呟いた、囚われの姫君の言葉を

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