要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第一章 幕開け

彫刻の王女

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 俺は勇者達と別れ、セアラ王女達と客間に移動した。案内された客間には、俺とセアラ王女と後ろには侍女と護衛の人が立っている。

「凄いな。流石、王がいる所って感じだ。立派で豪華で、デカい」

「ここはジャイノス王国の王城ですので、城内も広く通路も複雑です。移動する際は、後ろに控える侍女達に案内させますので、遠慮せずに仰ってください。おそらく、お一人では迷ってしまいますから」

「そういえば、セアラ姫さんは勇者達と一緒に行かなくてよかったのか?」

「先程もお伝えいたしましたが、セアラとお呼び下さい。使徒であるヤナ様にそう呼ばれては、私が心苦しいのです」

「……なら、セアラさんは勇者達と…」

「セアラと。さん付けも不要です」

「……一応、俺たちの居た所では年上には敬意を払うのが当たり前で、年上を呼び捨ては俺としても言いにくいんだけど」

「……年上? ヤナ様や他の皆様は、失礼ですがお幾つなのですか?」

「俺たちは、全員同い年だな。誕生日が来てる来てないかは知らないが、全員が17歳だ」

「……なら、私の方が二歳も年下です……」

「……はっ!? えっ! 本当マジで!?」

「……はい……」

「「……」」

 部屋に静寂が訪れた。

「……あぁ、うん……凄くしっかりしてた感じで、見た目も大人っぽいからな。俺とかむしろ凄く顔も平凡だし、言動も子供っぽいから自分と比較してセアラが年上に見えちゃったんだなぁ。うん、年下なら呼び捨ても抵抗ないな。ダイジョウブダイジョウブ」

 俺は大いに動揺していたが、セアラは全く表情も変わらず俺を見ていた。

「お気になさらないで下さい。私の顔は、無表情だと自覚しておりますので、きっと年相応には見えないのでしょう」

「……とりあえず、年齢のことは置いておくとして、なんでセアラは勇者達と王との謁見に同席しないんだ?そういうものなのか? 王女なんだろ?」

「謁見の場には、第二王女のエルミアが同席しております。あのような公式の場には、エルミアが出ることになっておりますので、私は行かなくても良いのです」

「えっと……第一王女が同席せずに、第二王女が勇者と王の謁見の場に同席するのか? 理由を聞いても?」

「妹は表情豊かで感情も豊かですから、場が華やかになります。王との謁見という場で、勇者達の緊張を和らげることにもなりましょう。勇者召喚における出迎えは、代々第一王女のお役目でしたので、あの場に私が居たのです」

(何だか理由になってるような、なってないような感じだな。まぁあんまり聞いてくれるなってことなんだろうな)

「……ヤナ様は……本当に、自ら望まれてこの世界にいらっしゃったのですか? それは、何故でしょうか?」

「さっき話してた理由じゃ、おかしいかな?」

「これまで召喚された方の中に、自ら望まれて此方の世界に来られた方はいらっしゃらなかったので……それに、其方の世界の物語でしょうか? それに憧れてと仰って居ましたが、召喚された時には、その様に見えなかったものですから…」

 じっと俺の目を見てくるセアラの目には、やはり感情の色は見てとることが出来ず、何を考えて聞いているのか俺には分からなかった。

「ステータスの称号通り、俺は自分で望んでこの世界に来たよ。召喚直後は、流石に本当に異世界召喚されたのかどうか信じられないし、周りを人が囲んで居たら普通は身構えるさ」

 俺は、少し苦笑しながら答えた。じっと聞いてきたセアラの表情は読めないので、納得したかどうかわからなかった。

「そうですか……召喚直後に私を見たときに、ヤナ様は凄く怒っている様に見えましたから、少し気になりまして……」

「えっ!?」

 これには、流石に驚いてしまった。

「皆様が召喚の衝撃から目が覚めた時、他の勇者様達は困惑した表情や様子が見てとれました。しかし、ヤナ様だけは……私を見たときに、非常に強い怒りの感情をぶつけられた気がしたのです。私は何か、おかしかったでしょうか?」

 確かに召喚から目が覚め、セアラを見た時に非常に強い怒りを抱いたのは覚えている。実は今も表には出さない様に気をつけているが、あまり良い気分ではない。

(流石に、セアラの目がムカついたとは言えないよなぁ……)

「あぁ……うん……なんて言ったらいいのか……」

 セアラは、静かに俺の返事を待っていた。

「上手く説明出来ないが、俺は諦めて絶望したりするのがどうにも嫌いなんだよ。自分ことはもちろんそうなんだが、他人のそんな様子を見るのも嫌いなんだ……召喚の時に見たセアラの目がな……全てを諦めた様な、しかもそれを受け入れている様な、そんな目をしていた様に見えたから……かもしれない」

 普通に聞けば、あなたの目が嫌いですと言っている様なもので、なるべく気を使って言い回してみたつもりだったが、自分の語彙力の無さに一人凹んでいるとセアラが小さく呟いた。

「そうですか……」

「俺が勝手にそう見えただけだったのに、気を悪くしたよな。ごめんな。性分みたいなものだと思って許してもらえると嬉しい」

 俺は頭を下げ、セアラに謝った。

「頭を上げて下さい。私は別段気にしておりませんし……事実、そうでもありますし……」

「んっ?」

「いえ……私は感情の起伏がほとんどありませんので、その様に見えたのではないかと思います。実際城内では余りに表情が変わらない為に私のことを『彫刻の王女』等と呼んでいるそうですから」

「恐れながらセアラ様。それはセアラ様が彫刻の様に美しいということを、讃えているのです。ヤナ様が誤解を招く様な言い方を、なさらないで下さい」

 後ろに控えていた侍女が、セアラ対して諭す様に語りかけていた。

「ごめんなさい、少し余計な話をしてしまいましたね」

 再び沈黙が部屋に訪れ、俺が間を持たせようとこちらの世界の通貨や一般的な生活について質問し、セアラと侍女の女性が答えてくれていると、扉の外から足音が聞こえ始め、扉が開いた。

「勇者様方こちらが客間になっております。今後のことについてご説明致しますので、そちらのお席にお掛けになって下さい」

 美しいブロンドの髪を靡かせながら如何にも楽しげに、周囲を明るくする様な笑顔をして美少女が、さっきのいけ好かない大臣と勇者四人とその後ろに護衛と侍女を引き連れ、部屋へと入ってきた。

(まさか、あれがセアラの妹か!? 確かに、セアラと正反対だな……それにどう見ても俺らと同い年ぐらいにしか見えんのだが……こっちの人間は、成長が早いのか?)

「まず改めまして、王からの勇者様方魔王討伐の依頼を受けていただき、ありがとうございます。国を上げて支援させて頂きますので、どうかご安心下さい」

(魔王討伐を受けたか……まぁ、魔王倒さないとあいつら帰れないし、当たり前か)

「これより一ヶ月は、城内にて戦闘訓練を受けて頂き、その後は城から出立し迷宮や旅先での戦闘を繰り返して経験を積みながらジョブレベルを上げて頂きます。これまでの記録から、レベルが大体九十を超えた所で魔王討伐に出陣となります。魔王城への道のりは、スーネリア騎士国の騎士団が露払いをし、勇者様方は魔王討伐に集中して頂く形になります。大まかにはこの様な段取りとなりますが、よろしいですかな?」

 四人の勇者達は、魔王討伐を正式に引き受けたためか、若干顔が強張っている。

「あと、先ほども王が申しておりましたが、勇者様方のお世話はエルミア様がお願い致します。勇者様方も慣れない地で心労が絶えないと思いますので、エルミア様に色々とご相談されるとよろしいかと」

「よろしくお願い致します、勇者様!」

 溢れん笑顔で勇者達に元気いっぱい返事をしているエルミアを見ると、本当に嬉しいんだろうなぁという感情が伝わってくる。

「大臣、ヤナ様のことはお父様は何と?」

「あぁヤナ殿はですね、『自由にさせろ』とのことです」

「はい?」

「王は『ヤナ殿は、魔王討伐の使命を持った勇者ではなかった。しかし、勇者召喚にて召喚されたということは何かしらの使命を持った女神様の使徒様である事は明白。城内に留まっていては、その使命を果たすことは出来まい。勇者様方の出立に合わせて、ヤナ殿も出立して貰うのが良いだろう』とのことです」

(分かりやすく厄介払いかな。問答無用で放り出されないだけよいな)

「つきましては、ヤナ殿を城から出立させるまでの一ヶ月ほどは、セアラ様が面倒を見る様にとの王からのお達しです。ヤナ殿がどんな使命をもっているか分かりませぬが、力になる様に動くようにとの事です」

「父に分かりましたと伝えといて下さい。ヤナ様、精一杯お勤めさせて頂きます。よろしくお願い致します」

 彫刻の女神のように美しい顔と絶望と諦めの瞳で、俺をセアラは静かに見ている。

「こちらこそ、迷惑かけて申し訳ないが、これからよろしく頼むよ」

 自分の使命とは何なのかと、俺は大嫌いなあの目を見ながら考えていた。
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