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第八話

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「異世界の勇者は、転移時から騎士団が預かると言うことで良いのよね?」

ほぼ・・だな。軍にも短期間だが、任せることになる。だが、軍では大規模戦闘訓練だけの予定だから、騎士団の訓練が一通り済ませての最終段階だな。でないと、全く戦えない勇者など軍の訓練にならならいからな」

「指導方法は、騎士団一任よね?」

「当然だ。事務方が、その辺りに関して物申すことはない。とにかく強く、そしてこの国に忠誠を誓う騎士に憧れを抱かせてくれ」

「洗脳系か隷属系魔法を使ったりは、考えていないの?」

「……これまでの文献で、それを用いた国に降りかかった神罰が凄まじくてな。その選択を取ること自体が、女神への反逆と見なされるようだ」

 あ……ぶねぇええええ! 何その挑発的かつ高圧的な視線! そんな目で、洗脳と隷属とか言われて意識が保てると思うか! 否! 無理に決まってるだろ!

「確かに女神様の使徒に対して、自国かわいさにそんな事をして、赦されるとは思えないわね」

「そう言うことだ。だから、内面から支配、洗脳、いやちがうな……心よりこの国に忠誠を誓うのが当たり前のように、騎士団には勇者を是非とも矯正してほしい」

「言いたいことはわかるけども、もう少し貴方はやわらかく言ったほうが良いわね」

「この部屋の外では、そうするさ。ここにはお前と俺しかいないんだ。少しくらい強い言葉を使っても良いだろうさ」

「……騎士団への挑発行為でなければ、特に言うことはないわ。ただし、私と貴方の二人きりの空間だったとしても、騎士団への侮辱があったとしたら……わかってるわね?」

 ちょっと待て……それは、どっちなんだ!? 騎士団への侮辱をしてくれって言う振りなのか!? 分かってないんだが、何がこの身に起きるんだい!?

「そんな危ないことは、間違ってもしないさ。ここに監禁されて、お前から拷問うけるなんてことなったら、日常生活に戻れる気がしないからな」

「分かっているのなら、いいの」

 次の日に有給とっていれば……いや、一日で戻って来れる気がしないから、やっぱり無理だな。刺激が強すぎて、帰って来れる気がしない。

「それで訓練期間は、どれくらい貰えるのかしら」

「雪解けと共に勇者を呼び、次の年の雪解けと共に魔王城へと出陣する予定だ」

「一年……短すぎない?」

 正直、それは俺も思っている。この準備期間含めて、二年でラフラとこの部屋で仕事を出来る時間がなくなるなんて……

「こればかりは、王を含む上層部の判断だから覆すのは難しい。勇者の成長度合いによって早まることはあっても、遅れることは出来ない。それほどに、帝国が崩壊した影響が大きいと言うことだ」

「そう……それで魔王討伐の際には、貴方はどうするの?」

「当然、勇者一行に同行することになるだろうな」

「は?」

「ん?」

「事務局長が、魔王討伐隊に同行するの?」

「するが?」

「何故ゆえに?」

 本気で言っているのか? 顔が本当に不思議そうな素の顔しているけどさ……普段の冷静でかつ凛とした表情からの、呆けた表情とか……可愛すぎるだろぉおおおおおおお!!!!!!!!

 いやね、女神のような君に冷たく見下されながら罵られたいのは変わらないんだよ? だけどさ、その普段との落差に悶えるのも、また事実! これもまた、真理なのだよ!

 この落差で、何度こっちが死にかけたことか! 心臓が止まった責任を、どうとってくれるんだよ!

「聞いているのだけど? 騎士団部隊長の問いを、無表情で無視するとは良い度胸ね」

「無視したわけではないさ。その質問が想定外だった為に、逆に何て答えれば良いか考えていただけだ。そもそものこの事務局は、勇者全般に対する統轄部として立ち上げられた訳だ。やんや横槍が入ったせいで、事務局と名乗っている訳だが、その現場責任者である俺が、勇者達に同行することで、より魔王討伐を成功させられるとのうちの大臣の判断だ」

 更なる追い討ちの氷の睨みなんて反則だろうが! 焦って早口で説明しちゃったじゃないか! 興奮してることバレてないよな!? 変態だってバレてないよな!?

「本格的に勇者が旅立った際に、各都市や各国の調整などの仕事が必要になるのは分かるわ。貴方が行うということなのでしょうけれど、その間の貴方の秘書としての仕事はどうなるのよ」

「それは、勇者が旅立つまでの期間に、大臣付き秘書としての職務は後任に引き継ぐことになっているから問題ない」

「そもそも貴方が、勇者一行に行く必要は? 他の事務局員も増員されるでしょうし、わざわざ事務局長が出張る必要はないのでは? それに私には、その話は来ていないのだけれど」

「単純に、事務方の中では力量的には俺が一番だったということだ。騎士団や軍が、同行することになると各国に刺激を与えかねないということと。と言うのが建前だな。単に騎士団か軍か、どちらかの誰かが同行するとなると、互いの面子が邪魔して、どちらも認めなかったから。中立無害で防衛大臣付き秘書官兼勇者事務局長の俺が落とし所だったというわけさ。だから、騎士団に所属するお前には、その話がなかったといことだろうさ」

 世界の危機だろうが、結局は生き物なんて、身近な縄張り争いが大事なんだと言うことさ。騎士も兵も、互いに譲れないことがあるのは、理解出来なくもないがな。その皺寄せが、大臣付き秘書にくるってのが、何ともやるせないが。

 ん? あれ? 背中に冷たい汗が流れ……ひぃ!?

「ラフラ……? 何故に、古代竜を撃退する時みたいに、聖騎士の全身鎧と大剣を魔法で転移換装して装備してるんだ?」

「急用を思い出したわ。少し出てくるわね?」

「キレてるよな?」

「キレてないわよ? 私をキレさせたら、大したものだわ」

「……そうか。うん、気をつけてな」

「えぇ、それじゃ」

 ラフラの単純な怒りって、普通に怖いんだよなぁ……よく分からんけども、ラフラの癇に障ったんだろう。誰に向かって行ったのか、考えないようにするのが良いな。

 あの怒りを向けられないということに、全く羨ましさはないのだから。
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