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二章

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「久しぶりだな、クリスティーナ。」

燃え上がる炎のような逆立った短髪。髪と同じ真紅の色の瞳。ジャケットはワインレッドの布地に金糸の美しい刺繍が施されている。
 カイン・ブラッドファウルは、代々優秀な騎士を輩出してきた公爵家の嫡男だ。

「おい、聞いてんのか?」
両手で頬を包まれ、顔をジッと見ている。ちょっ!ほっぺをプニプニするのはやめなさい!

「…ご機嫌よう、ブラッドファウル様。お久しぶりですわね。今日はどの様なご用件で?」

 私は手を振り解いて、カーテシーを披露する。気に食わなかったのか、彼は眉を顰めた。
 なによ、さっさと要件言ってお帰りなさい!私恋愛小説の続きが早く読みたいのよ!

「…お前が…その…襲われたと聞いたから…。」

ブラッドファウル様が口をモゴモゴさせながら、しどろもどろ話した。

『心配して来てくれたんじゃない?』
悪霊がそう言うが、私は騙されないわ。どうせ碌な事考えてないわよ。

「…っ、お前が、また泣きべそかいてんじゃないかと思って!ツラ見に来たんだよ!お前の鼻水垂れ流した顔すっげーブスだもんな!」

一気に言い終えた彼は、ーー酸欠かしら?ーー顔を真っ赤にさせている。

ほらっ!見なさいな!しょーもない奴でしょう?!こんな美しい私に!ブスですってぇ!?この!私に!
運命の恋人(仮)ならこんな事絶対に言わないわ!泣いている君も素敵だ…と跪いてハンカチを渡してくれるわ、きっと!

「まぁ!ご心配には及びませんわ?私のかんばせはその程度の出来事で歪むようなものではありませんもの。
ささ、お帰りは彼方ですわよ?」

『私の悪霊姿見てギャン泣きしてたような?』

ささ、悪霊さんもお帰りは彼方ですわよ?シクシクと嘘泣きしてもダメよ?

 私の言葉に彼は傷ついた様な顔を見せた。

「…俺は…一昨日まで、お前が襲われてたなんて…知らなかったんだ。」

 私は伝えてませんしね。
関係者にはお兄様が箝口令を強いて下さった。淑女が暴漢に襲われただなんて、有る事無い事噂されて醜聞になってしまうからだ。
じゃあ、どうやって知ったのかしら?

「殿下が伝えて下さったんだ。」

お兄様!余計なことを!

「ッ!お前なんでそんな危ない目にあってるんだよ!
何故俺にすぐ伝えなかった!
俺は…お前の婚約者だろ!?」

「あら?何故貴方に知らせなければならないのかしら?」

 だってそうでしょう?
 貴方は義務で私の婚約を受け入れてくれているだけですもの。
 それに、貴方にとって

※※※※※

 前に彼と他の令息達の会話を聞いてしまったことがあるのだ。

『なぁ、ブラッドファウル。お前の婚約者って王女様だろ?お前も大変だなぁ。高飛車な女だって聞いたぞ?』

 私は思わず柱の物陰に隠れた。

『お前の好みとは違うしな。たしかーー』

私は聞いてはいけない気がして、耳を塞ごうとしたけれど…間に合わなかった。

『物静かでお淑やかな、深層の令嬢…だったな』
『そう、それ!昔、そういうご令嬢と結婚したいって言ってたもんなぁ。全く正反対じゃねーか。残念だったな。』

『…まあ、確かに正反対だな。』

 彼の返答がまるで私を嘲笑っている様に感じた。
 私は今度こそ耳を塞いでその場から立ち去った。
ショックだった。
ぶっきらぼうだが、彼との交流は楽しかったのだ。少し…信頼していたのだ。

それ以来、私は彼に一線距離を引いて接するようにした。

※※※※※

…嫌なこと思い出しちゃったわ。

 彼は顔を顰めーー、何かに気付いたのか上に目線を上げていた。

「なんだ、これ?」
「あっ」

 私の書いた短冊だった。
ぎゃあああ!!!
見られてしまったわ!
私の妄想と願望が!
 私が羞恥で下を向いて赤くなっていると、

「‥俺を裏切ってやがったのか…」

はぁ?
何言ってーーひいっ!

「相手はどこの家のやつだ?身分差があるそうだな、…あいつか?それとも…あいつのことか?…」

 ブツブツ呟きながら、幽鬼の様な顔をして近づいてくる。
怖い!怖いわ!

「まあ、もうどうでもいいや…」

何がいいのよ!
 壁まで追い詰められた私の、頭の真横に手を置き、もう片方の手で私の顎をグイッと上げた。

何か物凄い勘違いをされている様な気がするわ!是非とも話し合いを…!

「俺は…絶対に許さねえからな」

 深紅の瞳が私を捕らえた。
彼はそう言うと、私を解放して去っていった。

 緊張が解けた私は、へちゃっと地面に座り込み、暫くその場から動けなかった。

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