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一章

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 ご機嫌よう。絶賛囚われ中のクリスティーナよ。
栗毛の女の子に結構離れた場所にある古い小屋まで案内されたのだけれど、中に入った瞬間、潜んでいた柄の悪い男達に捕まったわ。

「なんでアタシまでっ!ただちょっと怖がらせるだけっていったのに…!」

 隣で栗毛の女の子…略して栗毛っ子と呼ぼうかしら…がギャン泣きしてるわ。一緒に捕まってしまったのね。

「自分だけ助かろうってかぁ?よくねぇなあ。おいガキ、でこのお姫さまは死ぬんだ。よく見とけよ!」

…随分趣味が悪いこと。
栗毛っ子をちらりと見ると表情が抜け落ち、目は絶望の色で染められていた。


それにしても、悪霊アイツ何処行ったのよ!
先程からまったく姿を現さないのよね。
私の危機だというのに!無視したから拗ねたのかしら!まあ、居たからといって何か役に立つわけじゃないけれど。


もしかして、
悪霊アイツも私を見捨てたのかしら…?

 男達の1人がニヤニヤ下卑た笑いを浮かべながら迫ってくる。

私は震える手を握りしめて、栗毛っ子を庇うように前に出た。
背筋を伸ばし、不届き共達をキッと睨み付ける。
目の前がじわっと霞むのをぐっと堪えた。しっかりしなさいクリスティーナ。私はこの国の尊い存在。強く気高く美しい!それが私よ!

首をガシッと掴まれた。呼吸が上手く出来ず、痛くて、苦しい。

 死んだらきっとお兄様は悲しんでしまうでしょうね…。辛いわ。

私はぼんやりと薄れゆく意識の中考えていた。


ドクンッ!

心臓が大きな音を立てた。
瞬間、体が動かなくなった。
いえ、


 私を掴んでいた男の顔が恐怖で歪む。

「なんだよこれ!さみぃ!何しやがったテメェ!」

 本当に寒いのか、血の気がなくなりガタガタ震えてる。
 彼の目には私の顔が映り込んでいる。でも、青色の瞳があった場所はがらんどうの漆黒が広がっている。かなり不気味だ。三日月のような弧を描いていた唇が動いた。

『「う・ら・め・し・や」』

 黒い影が床一面に広がり、黒い人の手の様なものが何本も出現した。その手達は悪漢達を捕まえようと次々に襲いかかっていく。
 得体の知れない物から逃げ惑う男達。追いかける触手のような黒い手達。
小屋の中は混沌で包まれた。
 黒い手達に捕まった者は絶叫した後、泡を吹いて気絶した。
 それを見て私と栗毛っ子は抱き合って震えていた。怖すぎる。暫く夢に出てきそうだわ…。

 悪漢共が全員倒れて、床の影が引き、一つの形になった。

 悪霊だ。
黒くはない。私に憑依していた時の様な気味の悪い顔もしていなかった。いつものやる気の無い顔だ。


私はほっとして…

糸が切れた様にわんわん泣いた。
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