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一章

6 悪霊の独白【悪霊side】

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 お腹が焼けるように痛い。意識が遠くなっていく。あ、死ぬんだなと感覚で分かる。
 涙をボロボロ零して私の名を呼び続ける彼の声が聞こえる。
「×××!しっかりしろ!×××!」

 彼の無事を確認してほっとする。そして白のワンピースが赤色で染まっていくのを見て残念に思った。これは彼がプレゼントしてくれた物だから。

「×××!×××!」

聞こえてるよ。でももう何も見えないみたい。

あまりいい人生ではなかったけれども、貴方と出会えた事が唯一の幸福でした。
貴方と出会えて初めて人間らしくなれたのです。
初めて生きようと思えたのです。

優しくて少し頑固で…あったかい気持ちになる貴方。

許されるならば貴方の側で貴方の幸福を見守らせてほしい……












と思っていた時期が私にもありました…。


 死者と生者の違いに気がついたのは、霊となって間もなかった。
 彼が階段から落ちそうになり、私はとっさに霊力のようなものを使って彼を支えた事があった。
その後すぐ彼は体調を崩してしまった。生者が食事をする様に、死者も力を使うためにはエネルギーが必要となるらしい。
無意識に彼の生気を吸ってしまったのだろう。私は大人しく見守るだけにする事に決めた。

時はどんどん進んでいく。

彼は様々な人と出会い、どんどん成長していく。仲間達に囲まれとても幸せそうだ。
だがそこに私は入れない。

そして彼に愛する女性が出来た。

こういうのを生き地獄というのだろう…もう死んでるけど。

彼と彼女は共に助け合い愛を語り幸せになる姿がそこにあった。
胸が痛い。刺された時よりもずっと痛い。どす黒い気持ちがぐるぐる回る。

 幸福を見守るとはこういうことだ。
私は覚悟が足りなかった。驕っていた。
自分で望んだことがこんなにも苦しいとは思わなかった。

ただ透けているだけの身体が闇に飲まれていく。最初は足が、次に手が。そしてあれだけ好きだった白いワンピースが黒色に染められてしまった。

こうして私はじわじわと蝕まれ、誰かを恨む覚悟もない、ただ存在するだけの情けない悪霊に成り下がったのだ。






※※※※※※※


「君、可哀想だから神である僕が再び生きるチャンスをあげる!
君が入る身体は悪役だけど、頑張りによっては逆ハーも夢じゃないよ!
ほら、最近流行っているでしょ、異世界転生!その悪役令嬢物語みたいな感じ!よかったね!」

「お断りします。」

 本当に大きなお世話だ。このままそっと消えさせて欲しい。
 急に魔法陣が目の前に現れ、吸い込まれた先に金髪で顔の整った少年がいた。大きな翼を持つ彼は自らを神アビスと名乗った。
「神の間でも流行っててね~。
新しい世界を作る時に乙女ゲームやRPGゲームをモデルにして、他の異世界の人間を連れてきてどんな人生を送るかってよく賭けをするんだー。
それで今回モデルにしたのはこのゲームだから、予習しててね♪」
私の言葉をガン無視した自称神はゲーム機を投げて寄越した。

あっ、これS●●●chだ。画面にはファンシーな字体のタイトルと煌びやかなイケメン達が映っている。

「僕世界作るの初めてでさ。
中々上手くいかなくって、実はまだ君の入る身体生まれてないのよね。でもせっかく連れて来たんだし、現場をあらかじめ見ておくのもいいかと思うんだよねー。」

雲行きが怪しくなってきた。あと私は了承していないぞ。
目の前に大きな光の玉が現れ、体を包み込む。あ、これヤバいやつだ。

「てなわけで、新しい世界へいってらっしゃい!あ、時期がくれば身体に入るから安心してね!」



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