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第4話 政宗

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 政宗は、奈々子を強引にこの異世界へ連れて行かなかった。
 シロツメクサの指輪を茉奈が持っていると知っていた。奈々子をかばって茉奈が顔を出したときに彼が見ていたのは、首にかかっていた小さな袋。恐らくその中に指輪が入っていると知っていたのではないかと予想できる。

「しばらく経ったら人間の世界へ帰してやる。俺の憂さ晴らしにつき合ってくれるんだろう」

 奈々ごめん。やさしい男はバツつけるわ。

「すぐに帰して、ここは人間界との時間の流れが違うの。私はあっという間におばあちゃんになっちゃう……ふへほ」

 口に何かを突っ込まれた。いきなりだったので飲み込んでしまった。
 異世界の物って食べちゃいけないんじゃなかったっけ。その辺、そんなことがセオリーのような気がする。

「いきなり何すんのよ」
「同じ顔なのにあの時とは違う性格なのな」

 顔を覗きこまれて、咳き込む。
 まずい着物男子は、私のツボなのだ。乙女ゲームで何のイベントが一番楽しみにしていたというと夏祭りイベント。全員が浴衣姿で誘いにきてくれるのだ。その時を境に私の中でのゲームイベントは終了し、全部コンプリートする前に終わったのだった。

「顔が赤いな。おまえ大丈夫か」
「だ・か・ら、覗き込まないで!」

 突き飛ばした先が崖だった。花に囲まれていたために切れている部分が少し手前だったことに気づくのが遅くなった。

「政宗! 大丈夫? 翼あるから大丈夫だよね。返事して」
 何度か声かけをして、小さく「おう」という返事が聞こえた。

 崖から脱出したあとに病院に行くの一点張りの彼につきそった結果。

「全治三ヶ月」

 腕を吊って帰ってきた人を見て、冷や汗が止まらなくなった。
 翼を持つ眷属が崖から落ちるってないよね。

「おまえ、責任とれ」
「いや、無理でしょ。でも、ごめん。謝るのは謝るから帰して」
「このまま帰ったら、俺一生おまえにつきまとうわ。やっとで天狗の長になったから、いつでも人間界には行き放題切符を手にいれたも同然だからな」

 幼稚園児が足をバタバタさせて、駄々こねていると思えば微笑ましいか。
 人間界ではどれだけの時間が過ぎるのか恐ろしい。グッバイ、事務職。やっとでありつけた職を手放す私の心を誰か慰めて。
 誰も慰めてくれる相手などいないのに目の前の男は、黙っていたら好みなんだけど、妹の初恋の相手。私のツボである着物を着ている。黙っていればイケメンの部類に入るよね。
 かなりの長い間黙って眺めていたら、

「おまえ、失礼なこと考えているだろう」

 うん。そうなのだが。素直に頷くものかと心の中で思いながら、そっと目をそらした。
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