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第六章 決戦編
決戦Ⅱ 紡ぎ継がれる赫焉たる希望
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アムリスが宿屋を飛び出し数時間ほどが経過した頃、ルーグはザイリェンに到着し、アルエットを訪ねていた。アムリスが先に着いていると聞いていたルーグは、宿屋に一人で佇んでいるアルエットを見て驚く。
「あれ?アルエット様一人ですか!?アムリスさんは……」
「多分、教会に行ったんじゃないかな。」
「何かあったんですかね?」
「私がガステイルのことを話した。多分それを確かめているところだと思う。」
「そっか……それで教会に……。」
ルーグは部屋の片隅に荷物をまとめて置くと、机を挟んでアルエットの向かいの椅子に座る。
「お邪魔しますね。」
「ダメって言ったら?」
「勘弁してくださいよ。オルデアからすっ飛ばして来たんですから、休憩させてください。」
「……まあ、別にいいけど。」
アルエットはそう言ってテーブルの紅茶を手に取り口に含む。アルエットは向かい合ったルーグを上目遣いで見つめながら紅茶をこくりと飲み干す。腕を組み窓からザイリェンの街を見下ろすルーグに、妙な空気感が耐えられなくなったアルエットが口を開いた。
「怪我は、もういいのかしら?」
「はい。おかげさまで……。オルデアの術士の皆様や修道士さん達の聖魔法が素晴らしかったです。流石研究の大国だと改めて思いました。」
「そう……だったら、良かったわ。魔王討伐もなんとかなるかもしれないね。」
「アルエット様達こそ、この期間ご無事だったんですか?聞けば方々で魔族との戦闘があったらしいのですが。」
「昨日報告した以上のことは何もないよ。故郷の村の跡地でフラーヴと戦闘になり、乱入したデステールによってフラーヴが斬られた……それだけ。」
「……それで、ガステイル君が今塞ぎ込んでいると。」
「……ルーグにも言っておくわ。私たちは何があっても明日の正午にはこの街を出発する。私たちがデステールや魔王と戦う裏で何が起こるか……ルーグも昨日聞いたわよね。だから、この約束は絶対。正午の時点でメンバーが何人であろうと、私たちは魔王城へと向かう。いいわね?」
「分かってますよ、アルエット様。」
ルーグはそう言って徐に立ち上がる。
「それじゃ俺は、仮眠を取ってきます。アルエット様も、今日は早めに休んでくださいよ。」
「わざわざ別で部屋を取ったの?ここで寝ればいいじゃない。」
「流石に男一人では気まずいですよ。それでは、失礼します。」
ルーグはそう言ってドアノブに手をかけた瞬間、そのドアがバタンと勢いよく開いた。
「いてぇ!」
「えっ……あっ!ルーグさん、すみません!!」
ドアを勢いよく開けた少女――アムリスは入り口でルーグに向かって90度のお辞儀をする。ルーグはドアに当たった顔を押さえながら、アムリスに呆れながら言う。
「なんてタイミングなんだよ全く……」
「あ、あはは……それにしても、傷治ったんですね。良かったです!」
「たった今新しく君に付けられたけどね……まあ、ありがとう。心配してくれて。」
「これで……あとはガステイル、だけですね。」
アムリスの挙げた人名に、二人は驚き一斉にアムリスの方へと視線を向けた。
「アムリスさん……ガステイルさんと何かあったんですか!?」
「さっきまで教会にいたんでしょう!?何があったの、教えてちょうだい!!」
勢いよくアムリスに迫る二人を手で制しながら、アムリスは咳払いをし語り始める。その瞳は自信に満ちていた。
「……例の魔道具をエリフィーズに繋げていただきました。ですがあの地の魔道具の置き場所はエリフィーズ中枢の精霊樹とはかなり離れた場所にあります。なので唐突にこちらからアプローチをかけても応答はありませんでした。」
「それなら、何も手がかりはないじゃない……」
「ええ……話がここで終わりなら、ですが。」
「……アムリスさん、何をやったんですか?」
「そのまま相手からの応答を待っても無駄なのは分かっていました。ですので出力を音だけに絞り、魔道具の感度を引き上げて地表付近の音を探りました。すると確かに聞こえたのです……何かを探すように草を分ける音に混じるように『ガステイルはどこだ』という複数の男の声が。」
アムリスの報告に、アルエットは目を細め驚く。それと同時に少しだけ口角が緩んでいた。
「ガステイルが、エリフィーズを出た……!」
「エリフィーズを出たなら、彼が行く先はたった一つ……私はそう確信しています。アルエット様、ガステイルは必ず来ます!だから王都奪還のただの時間稼ぎだなんて言わず、四人でさっさと魔王を倒してしまいましょうよ!」
「……うん。そうだといいわね。」
アムリスの言葉に希望を抱いた一行はその夜、普段より早く床に就いた。最終決戦の直前、吹っ切れたアルエットは体の疲労に身を任せ、深く深く意識を降ろしていった。
翌日、正午。最低限の荷物をまとめた一行は強行用の馬車に乗り込んでいく。アルエットは離れて小さくなっていくザイリェンを名残惜しそうに見つめていた。
ガステイルは姿を現さなかった。
「あれ?アルエット様一人ですか!?アムリスさんは……」
「多分、教会に行ったんじゃないかな。」
「何かあったんですかね?」
「私がガステイルのことを話した。多分それを確かめているところだと思う。」
「そっか……それで教会に……。」
ルーグは部屋の片隅に荷物をまとめて置くと、机を挟んでアルエットの向かいの椅子に座る。
「お邪魔しますね。」
「ダメって言ったら?」
「勘弁してくださいよ。オルデアからすっ飛ばして来たんですから、休憩させてください。」
「……まあ、別にいいけど。」
アルエットはそう言ってテーブルの紅茶を手に取り口に含む。アルエットは向かい合ったルーグを上目遣いで見つめながら紅茶をこくりと飲み干す。腕を組み窓からザイリェンの街を見下ろすルーグに、妙な空気感が耐えられなくなったアルエットが口を開いた。
「怪我は、もういいのかしら?」
「はい。おかげさまで……。オルデアの術士の皆様や修道士さん達の聖魔法が素晴らしかったです。流石研究の大国だと改めて思いました。」
「そう……だったら、良かったわ。魔王討伐もなんとかなるかもしれないね。」
「アルエット様達こそ、この期間ご無事だったんですか?聞けば方々で魔族との戦闘があったらしいのですが。」
「昨日報告した以上のことは何もないよ。故郷の村の跡地でフラーヴと戦闘になり、乱入したデステールによってフラーヴが斬られた……それだけ。」
「……それで、ガステイル君が今塞ぎ込んでいると。」
「……ルーグにも言っておくわ。私たちは何があっても明日の正午にはこの街を出発する。私たちがデステールや魔王と戦う裏で何が起こるか……ルーグも昨日聞いたわよね。だから、この約束は絶対。正午の時点でメンバーが何人であろうと、私たちは魔王城へと向かう。いいわね?」
「分かってますよ、アルエット様。」
ルーグはそう言って徐に立ち上がる。
「それじゃ俺は、仮眠を取ってきます。アルエット様も、今日は早めに休んでくださいよ。」
「わざわざ別で部屋を取ったの?ここで寝ればいいじゃない。」
「流石に男一人では気まずいですよ。それでは、失礼します。」
ルーグはそう言ってドアノブに手をかけた瞬間、そのドアがバタンと勢いよく開いた。
「いてぇ!」
「えっ……あっ!ルーグさん、すみません!!」
ドアを勢いよく開けた少女――アムリスは入り口でルーグに向かって90度のお辞儀をする。ルーグはドアに当たった顔を押さえながら、アムリスに呆れながら言う。
「なんてタイミングなんだよ全く……」
「あ、あはは……それにしても、傷治ったんですね。良かったです!」
「たった今新しく君に付けられたけどね……まあ、ありがとう。心配してくれて。」
「これで……あとはガステイル、だけですね。」
アムリスの挙げた人名に、二人は驚き一斉にアムリスの方へと視線を向けた。
「アムリスさん……ガステイルさんと何かあったんですか!?」
「さっきまで教会にいたんでしょう!?何があったの、教えてちょうだい!!」
勢いよくアムリスに迫る二人を手で制しながら、アムリスは咳払いをし語り始める。その瞳は自信に満ちていた。
「……例の魔道具をエリフィーズに繋げていただきました。ですがあの地の魔道具の置き場所はエリフィーズ中枢の精霊樹とはかなり離れた場所にあります。なので唐突にこちらからアプローチをかけても応答はありませんでした。」
「それなら、何も手がかりはないじゃない……」
「ええ……話がここで終わりなら、ですが。」
「……アムリスさん、何をやったんですか?」
「そのまま相手からの応答を待っても無駄なのは分かっていました。ですので出力を音だけに絞り、魔道具の感度を引き上げて地表付近の音を探りました。すると確かに聞こえたのです……何かを探すように草を分ける音に混じるように『ガステイルはどこだ』という複数の男の声が。」
アムリスの報告に、アルエットは目を細め驚く。それと同時に少しだけ口角が緩んでいた。
「ガステイルが、エリフィーズを出た……!」
「エリフィーズを出たなら、彼が行く先はたった一つ……私はそう確信しています。アルエット様、ガステイルは必ず来ます!だから王都奪還のただの時間稼ぎだなんて言わず、四人でさっさと魔王を倒してしまいましょうよ!」
「……うん。そうだといいわね。」
アムリスの言葉に希望を抱いた一行はその夜、普段より早く床に就いた。最終決戦の直前、吹っ切れたアルエットは体の疲労に身を任せ、深く深く意識を降ろしていった。
翌日、正午。最低限の荷物をまとめた一行は強行用の馬車に乗り込んでいく。アルエットは離れて小さくなっていくザイリェンを名残惜しそうに見つめていた。
ガステイルは姿を現さなかった。
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