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第四章 亡国編

亡国ⅩⅨ 昼③〜妖羽化の兄妹喧嘩・弐

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 デステールとの力の差に絶望し、膝をつき項垂れるアルエット。デステールはゆっくりと彼女に近付き、前髪を無造作に掴み持ち上げる。痛みに悶絶するアルエットの顔をデステールは冷たく見下ろしていた。

「うぅっ……離せ!」
「ようやく大人しくなってくれたねぇ……よっと。」

 デステールはそう言うと、アルエットの腰に腕を回し、アルエットをだき抱えるように持ち上げる。そしてそのまま一気に力を込め、アルエットを締め上げた。

「うがぁぁぁぁっ!!」
「さっさと諦めろ……今のお前では勝てん。」
「い……嫌だ!」
「そうか。」

 デステールは腕を少し緩めると、瞬時にさらに力を込めて持ち上げる。アルエットの体はギシギシと音を立てて軋み、骨と内臓に大きなダメージを与える。アルエットは悲鳴をあげながらなんとか逃れようともがいたが、まるでびくともしなかった。

「暴れても無駄だ……強情なやつめ、地獄であの女と再会しようってのか?」
「うぐぅ……あ、貴方だって、逆の立場なら同じことをすると思うけど。お母様に皆を殺されたあの日にこうしていたぶられたとしたらね……。」
「……それもそうか。」

 デステールはそう言うと、アルエットを解放する。アルエットは咳き込みながらよろよろと数歩後ずさり、デステールの顔をゆっくりと見上げた。デステールは変わらず……いや、より一層冷たく、失望したような目でアルエットを見下していた。
 ぞわり、と総毛立つ感覚がアルエットの表面を走る。アルエットが恐怖し、さらに一歩間合いを取ろうと足を少し上げた瞬間、首にデステールの足が突き刺さった。

「だったら仕方ない……邪魔だ、数日寝てもらう。」

 ぼきりと濁った音が響く。アルエットは数メートル地面を転がっていき、やがて力無く仰向けの姿勢で止まった。手足はだらんと投げ出され、白目を向き泡を吹いている。そして身体がビクンと一度跳ねると、魔力が身体から抜け妖羽化ヴァンデルンが解除された。

「……片付いたか。さて。」

 デステールはそう言うと魔力行使封じの結界を解除し、城壁の様子を伺う。城壁では人間の兵士達との交戦が始まっており、多少の抵抗こそあるものの概ね問題なく侵攻は進んでいた。

「……ふふふ、くははは……ハーッハッハッハッ!!!」

 仇討ちの達成、アルエットの返り討ち、城門の侵攻……全てはデステールの思い描く通りに、順調すぎるほど上手く進んでいた。思わず頬が緩み高笑いをするデステール。そこへ……デステールの誤算となる者が、勢いよく扉を開き現れた。

「なっ、お前たちは!!」
「で……殿下!?アムリス、治療を!!」
「分かってます!!」

 扉が開いたと同時に飛び出したアムリスはアルエットの元へ一直線に駆けつける。しかしそれを見逃すデステールではなかった。アムリスより早くアルエットの前へと割り込むと、腰を落とし真っ直ぐ拳を突き出した。アルエットは慌てて聖剣を抜きデステールの正拳突きをなんとか受け流すが、その余波だけでガステイルとルーグのいた場所まで戻されてしまう。

「……あれが、デステールの妖羽化ヴァンデルンか。」
「アルエット様にそっくりね……」
「ああ、真っ白なことを除けばね。」
「城壁に向かったんじゃなかったのかね……君たち。」
「もちろん、最初はそのつもりでいたさ。だけどこいつが……」

 ルーグがガステイルを指さして言う。デステールは目線だけをガステイルに向け、話を聞いた。

「ルーグさんは魔法を使えない、アムリスも広域な攻撃魔法は苦手、そして俺は魔力が回復しきってない……この三人が増えたところで城壁付近の戦況に大きな影響はない。だったらアルエット殿下と一緒にこの戦争の総大将をぶっ殺した方が話が早い……とね。まさか、妖羽化ヴァンデルンした殿下ですらこの一瞬でボロボロにされてるとは思わなかったけど。」
「なるほど、発想は悪くないね……僕と魔王様以外が相手なら最善の一手だ。」
「ハハ。お褒めに預かり光栄です……って言っときゃいいか?」
「その頭脳を見込んで一つ提案だ……今ここで逃げるなら、見逃してやってもいい。どうする?」
「なっ……」

 三人を舐めた提案に、ガステイルは少し怒りを露わにする。ルーグとアムリスも戦闘準備を万全にし、ガステイルの答えを待つ。そこへデステールが口を挟んだ。

「いやなに、不快にさせてしまったなら謝るよ。ただ……アルエットの時とは違ってね。僕にとっては君たちの命を奪おうが無視しようがどうでもいいんだよ。」
「俺たち程度ならいつでも殺せると言わんばかりの口振りだな……舐めやがって!」
「ははは……事実、その通りだからね。試してみるかい?」

 デステールが言い終わる前にアムリスとルーグが剣を構え突撃する。ガステイルも火炎の弾丸フレイムシュートで援護し、デステールの両肩に二人の剣がヒットする。しかし、デステールの皮膚一枚斬ること叶わず剣が止まってしまう。

「なっ!」
「力比べといこうか!!」

 デステールはそう言うと、ルーグの大剣の刃を掴み、ゆっくりと持ち上げていく。ルーグも抗うべく腕に全力を込めるが、デステールはまるで意に介さず大剣を持ち上げ、無造作にルーグごと投げ捨てる。

「ぐわぁっ!!」
「ルーグさんっ!」
「さて……君の聖魔法と聖剣は厄介だからね。最初に殺しておこうか。」
「ひっ……」

 デステールはアムリスの方へと向き直す。アムリスは圧倒的な力の差に顔を真っ青にし、足がすくんでしまった。そして次の瞬間には、デステールの拳がアムリスの腹に突き刺さった。

「ふぐぅ」
「アムリス!!!てめぇ、ぶっ殺してやる!!!」

 ガステイルが弾けたように飛び出す。デステールはそれに手を向けて魔力の壁を作り押し出した。ガステイルの突撃の勢いは完全に殺され、そのまま魔力の壁に押され建物の壁まで吹き飛ばされ挟まれてしまう。

「ぐああああっ!!」
「そこで大人しく見ていろ……」
「ガ、ガステイル……うぐっ……」

 アムリスは剣を支えにしながら立ち上がる。デステールはそんな彼女を冷たく見下ろしていた。
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