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しおりを挟む「なぁ、俺思ったんだけどさ」
昼飯のメロンパンに食らいつきながら村瀬が小声で話題を切り出した。村瀬は週に3日はメロンパンだ。そんなことは、どうでもよくて本日ここまでこの話題は2人とも出してはいなかった。
「昨日のことか?」
「そう。昨日のこと。」
俺はというと、親の作った弁当を食っている。今日は生姜焼きだ。
村瀬が切り出したにもかかわらず、おれの脳内は食い物の話しかしていないな。
「俺さ、森のこと好きだよ」
ああ、生姜焼き美味いな。美味い。うん美味い。
「聞いてる?」
村瀬が、俺の弁当箱の片隅に入っていたミニトマトを取って食べた。
「きいてる。ミニトマト返せ。何?何言ってるわけ?意味わからない」
「無理。だろ?意味わからないんだよ。」
「ああ、意味わからないな。」
「森はさ、俺のこと好き?」
何?なんなのこの会話。俺らカップルだっけ?
「え、好きだけど。ん?…え?違うよ?」
「うん。だろ?違うんだよ。」
村瀬はメロンパンを齧った。
「男が有りならさ、俺、お前でもいいんじゃないかって。そう思ったんだよ。ずっと一緒にいるし気心も知れてる。一緒にいて楽しいし、楽だ。」
「お、おう。そうだな。」
ちょっと照れくさい。
「でも、違うんだよ。無いなって。なんか別なの。昨日のやつは初対面だからかもしれないけど何か突き放せなかった。キモイとかそういう感情も無かったことに、お前のこと助けてくれたやつの一言で気がついた。よくはない事だけど偏見とかそういうの?キモイとか?ないとか?そういう事じゃなくて、びっくり!みたいなのが先行しちゃって、よく分からなかったんだけど、考えてみてもやっぱりそうは思わなかった。相手が真剣だった分、ちゃんと考えてやらなきゃなって、思ったんだよ。俺なりに。」
村瀬が、ぼそぼそと言っている。まあ、内容が内容だから俺らの会話はかなりの小声で繰り広げられているのだが、それにしてもボソボソと自信なさげに。
「お前、偉いな。俺は、お前が唯一の友だちで良かったよ。」
「…惚れた?」
「漢気にな。」
答えた俺に、一呼吸おいて、村瀬がさらにゆっくり問いかけてきた。
「じゃあ、昨日のあの人は?」
弁当の中身を口の中にかき込む。
飲み込むまでは答えなくていい猶予があるはずだ。
「…分からない。でも、分かってるのは感謝の気持ちと、安心した気持ち。あと目が合ったとき、息が止まるかと思った謎の衝撃」
咀嚼の間に頭に浮かんだことを飲み込んだあと声に出して言ってみた。
顔が赤くなるのを感じていると、村瀬がニヤっと口の端を上げた。
「なぁ、森、お前さ意外と…」
「な、なんだよ」
「ロマンチスト?少女漫画みてぇな発言じゃね?」
「うるせぇ、俺こそキモイじゃねぇか!」
声を荒らげた俺に村瀬はカラカラと笑っている。
「恋愛すると、そうなんだな森って」
村瀬に言われて、俺はまた弁当の中身を口いっぱいにかき込んだ。
「恋愛しているのか、俺は。つまり俺は一目惚れをしたと…?」
咀嚼中には解決しなかった疑問を口に出すと村瀬は、それ以外なくね?と軽やかに笑った。
自分の感情も自分が今どう発言したら良いかも分からなくなり発声すらも困りあぐねいていると村瀬が「そういえばさ、」
と、別の話題に移った。
こいつは、本当に良い奴だ。空気も読めるし人の気持ちにまで寄り添おうとすることができる。こいつの恋人になるやつはさぞ幸せにしてもらえるだろう。
それでも、俺が。とは思わずにいた。それなのに、突然現れたあの男に一目惚れ?女と付き合ったことはもちろんある。と、いっても小学生やら中学生の頃言われるがまま付き合っただけだし、遊びに行ってもみたが暇だった。早く帰りたい感情しかなくて、2回目は無いまま振られるか相手にいつのまにか彼氏がいたりした。恋愛自体、意味がわからない。
「森さ、せっかく俺が話題変えたのにあの人のことばっか考えてるだろ」
ニヤニヤと村瀬が顔を覗き込んでくる。
「あ…何?なんの話しだっけ?」
「いや、もういいよ。いや、森お前可愛い。」
「…は?お前の方が可愛いぞ」
声量が普通だったために、そこらへんにいた女子たちがいっせいにこちらを見た
「チャイムなるぞ」
村瀬がニヤニヤのまま席をたち自席に戻っていく。
俺は弁当箱をしまいながら大きく溜息をついた。
悶々と。至極悶々と。俺は放課後を迎えた。
「帰ろうぜ」
不意に声をかけられ、我に返るほどには悶々としていた。
「あ、ああ。終わったのか」
俺が言うと、村瀬が吹き出した。
「お前まじか!こんな森はじめてみた!」
「俺だって、こんな俺知らねーよ!」
困った。自分がどうするべきなのかも、普段何もしていない時頭は何を考えていたのかもわからなくなってしまった。
「今日、電車にいるかな?あ、でも痴漢のトラウマとかあれば1本遅らせるか?30分後になっちゃうけど」
村瀬が横を歩きながら腕時計をみている。
「ああ、それはまあ。てか、そんな毎回毎回痴漢にあってちゃ困るし、意外と平気」
思い出しただけでも鳥肌がたった腕を勢いよく擦りながら答えた。
「だよなぁ~。いつも乗ってたのにな」
それに、同じ電車に乗ればまた会えるかもしれないのだ。
「それは僕が牽制していたからです」
駅に到着し、ホームに立っていた例の少年に声をかけられ、その話題になると同時に食い気味に少年が答えた。
「あなたは可愛すぎるから、いつも狙われてる」
「あっ…えっ…は…そんな事ない」
村瀬が困惑したような照れたような顔をした
そう、この少年は昨日、村瀬に告白をしたという少年である。
ホームに着くと同時に声をかけられ今、一緒に電車をまっている。
「僕はもう声をかけてしまって想いも伝えてしまったので、隠れる必要が無くなりました。堂々と守ります」
少年が、涼しい顔で言う。
「君は元々男が好きなのか」
何も考えず口から疑問が出てしまった。とても嫌な質問だったかもしれない。
だが、少年は事も無げに答えた
「いいえ。…と答えるのも違うかもしれないです。僕は、初恋なので。」
「は!初恋ってお前…」
村瀬が、しどろもどろになっている
「村瀬、お前今可愛いぞ」
俺は学校でからかわれた分を仕返ししようと、笑いを堪えながら言った。
同時に少年の顔が強ばる
「あの、おふたりの関係性を聞いてもいいですか」
これまで、物怖じすることなく発言し続けていた少年がおずおずと言う
「親友だよ。だから変なやつにはこいつは渡せないな」
俺が言うと少年が俺を見た。そこで、こいつがずっと村瀬しか見てなかったんだなと感じる。
「…気にすんな、こいつは天然のイケメンだ。親友なのはほんとだが。そんなこと言われて俺がドキッとすることもないし、お前を牽制したつもりもねーよコイツには。本音なんだ、ただの。裏表なし」
ため息混じりに村瀬が言った。
「なに?解説いる発言だった?どういう意味?」
「そうですか。あなたがそう言うなら、とりあえず僕に勝機がある。と言うことをあなた自身が僕に言ってくれたってことですよね!」
「う、まあ。そうだな」
村瀬が答えると少年はほっとしたように微笑んだ
「と、ときに少年。名前を聞いていいか」
「僕の名前を聞いてくれるんですか!?」
「は?!え…話しずらいし、今後どうやって呼び止めるんだよ」
「呼び止めてくださるんですか!?」
俺は、この2人のやり取りをニヤニヤしながら見守っていた。
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