AYA~色彩都市より愛を込めて

琥珀燦

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AYA~色彩都市より愛を込めて

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序章




「Everybody's sin is nobody's sin

Because everyone is bound to commit some sins

Does nobody know no one is alone?

Well,I say "no"

Because I know you know

From "YOUR LOVE IS MY SIN" By HIDEAKI MATUOKA」




「僕、もうあんな大きな闇の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たちいっしょに進んで行こう。

宮澤賢治 『銀河鉄道の夜』より」







天使が、降りて来るのは、真夜中とは限らない。

特に、初恋の始まりにはハプニングがつきもの。

無色透明の天使は今、階段を踏み外す。

・・・物語の始まり。




【夜が、終わる。】







(夜が、終わるわ・・・頼哉(らいや)。

今、成層圏の果てにいるのよ。ここからゆっくりゆっくり降りていくの。あなたの枕元めざして。ベルベット・ブルーのスカートの裾を靡かせて。

ねぇ、こんな高い空から、あなたの住む街が見えるのよ。

彩鳥市(いろどりし)・・・きれいな、きれいな街だわ。おじいちゃまのくださった、大好きな絵本の中の街のような、まるで砂糖菓子細工の夢ね。

ほら、雲の隙間を擦り抜けたわ。薄桃色の空気が甘い。街の建物の輪郭がくっきりと見えてくる。東の空、新しい今日が生まれようとしている、直前の瞬間。あたしの髪がばら色に染まる。街中の窓が輝きだす。煉瓦の赤、コンクリートのグレイ、針葉樹の深緑・・・すべてが金色のキラメキを放つこの時。

・・・さあ、たった今、この足先が、街一番の高台の時計塔に着く・・・)




「南風?」

少年はふと顔を上げた。

「どうしたんだい?頼哉ちゃん」

大きな木箱を両手で抱え上げた初老の婦人が、自転車のサドルに腰掛けている少年に、声を掛けた。

「真冬に・・・南風が吹くわけない、ですね」

少年は、目を閉じたまま、クンと風の匂いを追いかける。銀色のくせっ毛が風を撫でるように軽く揺らぐ。

(あ、やっぱり北風だ・・・)

「変だな。あったかい、甘い風が吹いたんだ、今確かに」

「ああ、それは、パンの匂いだよ。今日はオダさんちの坊やのための蜂蜜パンがあるからね」

おばさん、ふっくらとした手を陽気にポンとたたく。

「わあ、蜂蜜パン? 坊やの喜ぶ顔が目に浮かぶなぁ」

少年はサドルからぴょこんと降りて、木箱を荷台にくくりつけながら、箱に鼻を近付けた。

(いい匂い・・・眠気も溶けてしまいそうに甘い匂いだ。・・・でも、ちょっとさっきの匂いとは違う・・・)

そう思いながら彼が顔を上げると、おばさんは手を額にかざし、東の空を見上げてる。

「ああ、いいお天気だね。今夜は星がきれいだよ、きっと」

「今夜は聖星節だね。だけど、雪にはなりそうもないや」

「そうそう、去年の聖星節は雪だったねぇ。星みたいに粉雪が舞って、その中にあんたの歌声が響いてね、・・・素晴らしかったね。まるであんたは天使のようだったよ・・・」

おばさんは目を細めながら、祈るように両手を合わせる。

「今年も歌ってくれるんだろ?」

「ええ、そりゃもう喜んで!僕もこの日が楽しみなんです。聖星節の夜に歌うのは、心が生まれ変わるようで」

「街中があんたの歌を楽しみにしてるよ。この街自慢の"歌鳥さん(ソングバード)"」

そう言って、おばさんが肩をポンとたたくと、少年は恥ずかしそうにほほ笑み、はぁいと小さく返事をした。

「さぁさ、街のみんなの朝ごはんに間に合うよう、頑張って配達してきておくれ。ただし、冷たい風と、運転には気をつけてね。喉を傷めたりしたら今夜のお祭りが台無しになっちまう」

「はーい」

カタン、カタタンタン

青いマフラーをぐるぐると首に巻いて、少年は上り坂に自転車を漕ぎ出した。




水臣頼哉(みなとみ らいや)。彼がこの『色彩都市の物語』の語り部である。

ひょろりと背の高い体の上に、小さな、ちょっと子供っぽい表情の顔、くりくりと良く動く蜜色の瞳。銀色の髪は光の具合で時に空に溶け入りそうな水晶色に見える。

外見も少々風変りだが、さらに彼を特徴づけるのはその声(テノール)。"透明"という表現が似合う。声変わりは確かに終わっているし、時に語尾も少し掠れたかんじになる。しかし、発音の美しさのため、耳に引っ掛かる感じがない。おっとりと言葉を選び、そうかと思うとふと、無邪気に言葉が転がる、快いリズム。

・・・ここらで私は、この小さな語り部にその本来の役目を譲ろう。 

彼の言葉で、この美しい街の聖星節(クリスマス)の一日の、ささやかな物語を皆さんと一緒に楽しもうと、思う。




【BOY MEETS GIRL・・・永遠に続く物語】







「焼きたての甘い夢は 少しだけ焦げた匂い

昼下りの風に乗り 窓を抜け流れてゆくよ

『午前一〇時 午後三時』~song by 遊佐未森~」




お気に入りの歌を口ずさみ、朝の街を自転車で走り抜けている。空気が新鮮で、酸素も水分も多くて、僕は今、この街で一番幸せな住人なのかも、なんて思う。 

今日はやっぱり風が強烈に冷たいなぁ。空気が澄んでいるし、こういう日の夜は、星の光が鋭く、きれいになる。

でも、一番理想的な聖星節は、昼のうちに街中に雪が積もって、真っ白になって、夜は満天の星空になるっていうパターン。そこから雪が降ったら、もう言うことなし、なんだけど・・・雪か星、どちらかしか無理だよねぇ。

・・・毎朝、パンの配達が全部終わるのはちょうど日の出の時間。海がお陽様の光でいっぱいになってる頃に、港沿いの公園へと寄り道をする。配達箱の底に残ったパンくずを、スズメ達の朝食に届けるのも、僕の毎朝の仕事。

ティティ、テュテュティ

公園通りに入ると、待ちかねていた小鳥達が、僕の自転車を取り囲むように追いかけて来る。

「おはよう、おはよう、スズメさんたち」 

ラララ、ライヤ、オハヨウ

「おはよう、みんなおいで、おいで、ごはんだよぉーぅ」

公園の真ん中に自転車を止めて。箱の中のパンくずを両手いっぱいにつかむと、空中に投げ上げる。羽毛のように広がる白い破片に、何十羽もの小鳥達が群がる。

サドルに両肘ついて、アスファルトの上の小鳥達の、行儀良い朝食風景(絶対取り合いしないんだよね)に見とれてる。この子たちのこういうときの顔、見るの好き。すごく幸せそう。だからこの朝の仕事好き。

あ、そうだ。天気予報聞いてみよう。僕は、澄んだ冷たい空気を大きく吸い込んで、ささやくように歌い始めた。

『星姫たちのごきげんいかが?

彼女たちのおしゃべり

ちょっと盗み聞きさせて

宴のドレスの準備はいかが?

今宵の夜空の夢は何色でしょう?』

スズメたちのうちの一羽がちょこんと顔を上げる。僕の歌に続けてチチチとさえずる。

『星姫たちのおしゃべりは

今宵の奇跡の噂でもちきりよ

火星姫様が恋をしたの

彼女のときめきとためいきで

街が虹の色に彩られるわ』

・・・むむ、これは、天気予報の歌じゃないぞ。奇跡が、起こる?しかも、恋の奇跡だって!ああ、何だか僕までどきどきしてきた。すてきな夜になる予感。

『ねぇ約束よ 歌を聞かせて

色彩都市の歌鳥ライヤのLOVE SONGをね』

「OK 約束だもんね いつもの」

天気予報には、いつも歌をお返ししている。天気予報が特技の彼女は、実は最近秘密の片思いをしているのだ。彼女の溜息のようなさえずりからこぼれた、ひとつのフレーズをモチーフに、ひそかに作っていた歌を披露することにした。

『想いが揺れながら 小さな花になる

こころが急ぐから 小さな鳥になる

きれいな きれいな 歌になりたい

あなたにあいたくて 青い夜風になる

あなたをまもるため 優しい月になる

大きな 大きな 愛になりたい』




おや?・・・また温かい風が来た。南風・・・僕を取り巻くように、甘いつむじ風になって舞い上がる。スズメ達、驚いて飛び去る。何か、変。見上げれば、お陽様の光が眩しい。眩しさとホコリで僕は大きなくしゃみをしてしまう。

「・・・お・・・は・・・よ・・・水臣、頼哉さん」

あ、誰かが僕を呼んでる。慌てて目を開く。僕の方にお陽様色の光の束がサラ、と掛かる。え・・・?

これは長い髪の毛先だよな。そう思って顔を上げると。

・・・目の前に、小さな女の子が立っている。いや、浮かんでいる。いやいや、地面から高さ約1mの辺りに見えない床があって、そこに立っている。・・・うん、そういう感じ。体を「く」の字に折って、ちょこんと首を傾げ、僕を見下ろしている。ちょっと赤みがかった亜麻色の長い長い髪が、僕の頬に掛かる。

「はじめまして。あたし"あや"と言います」

ふっくらとした、真っ赤な頬がにっこりほほ笑む。僕もつい、つられて頬が緩んでしまう。

「おはよう。あやちゃん。僕は"らいや"です」

何気なく挨拶しただけなのに、彼女はエメラルド色の目を大きく見開く。両手を翼のように軽くはばたかせながら、

「驚いてないの?」

って聞く。・・・宙を自在に歩き回るひとってのは、まぁ・・・珍しいけど。

「うん・・・妖精とか天使の存在は信じてるから」

「あたし、幽霊よ」

少女は眉間にしわを寄せて、少し厳しい目で笑う。あどけない鼻先に一瞬、物凄く長い時の流れが翳りになって過ぎった感じがした。

「似たようなものだよ」

あぁ僕は、よっぽど緊張感のない、にこにこ顔をしているんだろうな。だって、一目見て、この子のこと、とても好きだなって思ったんだ。綿菓子のような、ちっちゃな、陽だまりのような女の子。ずーっと、生まれる前から知ってるようで。・・・この世の中にたった一つの掛け替えのない宝物のようで。

「変な人ね。・・・でも、あなたならやっぱりあたしのお願いかなえてくれそう」

クスクス笑いながらそう言う。空中に透明な椅子が浮かんでるみたいに、あやはひょこんと腰を下ろして、瑠璃色のビロードのスカートの膝に、頬杖をつく。

「あたしの生前のことを調べて欲しいの。さっきの天気予報みたいに。・・・あたし、生前の記憶が無いの。あやっていう名前以外覚えてないのよ」

「んー、僕は霊媒師とかじゃないんだけど」

「あら、似たようなものよ。あたしがこの姿を手に入れたのは今あなたが歌った歌とあたしの願いが共鳴したせいでしょ?ねー、歌の魔術師さん」

「僕はただの歌好きな子供だよ」

「うそうそ、あたし、空からずっと見えたのよ。時々、花や水の精を呼び出して、子供達を喜ばせてたでしょ? それに、ナゴノーラ広場のクスの樹先生は、あなたのともだちまだものね・・・。あなたは歌で、言葉ないものの心に触れることができる、一種の超能力少年。風の笛や、木々の葉擦れの歌とか、動物たちの鳴き声を歌で通訳するの。五年前、大雨を予知して市民を安全なところに避難させ、しかも津波を歌で鎮めてしまった。以来、市長さんからも何かと頼りにされているのよね」

得意げに、あやはまくしたてる。うん・・・そりゃそうなんだけど。僕は今までも幽霊なんて呼び出した経験は無いよ。もしそれが本当なら、ぼくんちの近所の公園墓地はとっくに幽霊だらけになっちゃってる筈だよ。家では朝から晩まで歌ってばかりだもの。・・・僕は困ったなぁと思いながら尋ねた。

「でも、何のために生前のことを知りたいの?」

それまでの転がる鈴のようなあやの言葉のリズムが、止まる。

「・・・天国の門が・・・くぐれないの・・・心残りがあるせいで。自分がなぜ死んだのか、どんな人達に囲まれて生きていたのか・・・愛されていたのか・・・悲しみの中にいたのかもわからない。だからどこにも行けないの」

あや、泣き笑いの表情。うーん、女の子の涙には弱い。

「・・・例えば、今夜、星空から雪を降らせてくれたらね。お願い聞いてあげようか」

あやの表情、ぱっと明るくなる。

「約束よ。タイムリミットは午前0時、美術館で待ってるから」

そう言って、いきなり顔を近付けてくる。びっくりして思わずぎゅっと目をつぶった。・・・あれ?・・・目を開くとあやの姿は消えていた。微かに、肩の辺りを光の束が擦り抜けるのが見えて。唇に甘いイチゴの香りがほんのりと残って。

「ああ、あのこ本当に幽霊なんだなあ」

その事実を口に出して言ってみたら、何だかキューッと胸が痛くなった。




【きみを、探してる。探し求めている。】







「遅い!スープ冷めちゃったじゃないの」

勝手口のドアを開けるなり絵里世(えりぜ)の怒鳴り声。

「ごっめーん。ちょっと、頼まれごとしちゃって」

うちの分のライ麦パンの袋をキッチンのテーブルに放り出し、急いで一個を手にした。ああ、朝ご飯の時間ももったいない。うーん、移動は自転車を使おう。大急ぎで今日の計画を練りながら、パンをかじる。あ、そうだ。

「謝りついでに、ごめんね織笛(おるふぇ)。今日工場の仕事代わって」

向かいの席で新聞を読んでいた織笛、びっくりして顔を上げる。

「えー? 何だよ、またさぼるのかい?」

「お願い! 今日中に片づけなきゃならない大問題があって」

両手をパチンと重ねて織笛を拝む。

「・・・まぁ、僕達は頼哉には逆らえないからなー」

言いながら織笛は僕の肩越しに窓を見遣った。

「頼哉、お客さんだよ。赤毛の可愛い女の子」

「見えるの?」

あやが見えるのは僕だけかと思ったのに。

「僕は、目が良いからね・・・依頼主は、あの子だろ?」

織笛は視力のことと、勘違いしている。

「頼哉の好みのタイプだもの、ね」

絵里世までクスクス笑ってる。織笛と同じ笑顔して。




「お兄さんもお姉さんも、頼哉さんには随分甘いのね」

坂道を石畳すれすれに、歩くように滑りながら、あやは振り向く。煉瓦の壁に赤毛がキラキラと映える。

「あの家出は僕が稼ぎ手だからね。織笛は楽器職人で、たいてい家の中で研究ばかり。絵里世は家事で忙しいし。・・・あ、あの二人は双子なんだ。そっくりでしょ?」

「パンの配達と、普段は工場でも働いてるって・・・辛くないの?」

「だって、好きなんだもの。パンの甘い匂いも、自転車で走る朝の風も、工場の歯車の黄音も、コンピュータのキーボードをたたくリズムも、木炭の匂いも。パンの配達先の子供達のあいさつの声や、一緒に働いている工員さんの汗も。とってもすてきだよ。僕だけじゃない。この街の人々はみんな働くことを楽しんでいるんだ」

「すてきね」

あやは、僕の前に舞い降りて、にこっと笑う。

「ね、あたしのこと、本当に全然怖くないの?」

「どうして? ・・・ぜーんぜん怖くはないよ。あやちゃんは可愛いし」

あや、大きな溜息をつく。

「あなた・・・何者なの? 何か、ずーっと年上に見える」

「見ての通りだよ」

彼女の小さな体を見下ろしながら、僕は肩をすくめてみせた。

「ちがう! あたしよりっていう意味じゃなくて! 見かけよりっていう意味。幽霊のあたしより、よっぽど凄い存在に見える」

「見ての、通りだけど」

あやは、ばら色の頬を膨らませて見せる。こんな表情見てると、とても幽霊には見えないけど。

「ライヤって名前、歌を奏でる『竪琴』の意味? 『大嘘つき』のこと?」

「僕は、楽神オルフェウスから名前をもらったんだよ」

「やっぱり『大嘘つき』なんだわ」

あやがぼそっと言ったのが何だかとてもおかしくって、僕は噴き出してしまった。

パン屋さんの軒先に預けてる自転車を引っ張り出そうとしていると、窓からおばさんが顔を出した。

「まぁ頼哉ちゃん、かわいいお嬢さんを連れているね。おや?お嬢さん、どこかで会ったね。・・・なんていう名前だっけ」

「え? 本当?」

ってことは、あやはこの街の最近の住人なんだ。意外と簡単にわかっちゃいそうだね。

「迷子なんです。あやちゃんっていうんだ。どこの子かご存知ないですか?」

「ああ、そう、あやちゃんだね。だけど・・・うちのお客さんだったかね。・・・どこの子だかはねぇ・・・」

あやは、自転車の荷台に腰掛けるふりをして、黙って笑ってる。まるで他人事みたいに、ね。




「みんな、あたしが見えているのね。さっき織笛さんも絵里世さんもそうみたいだったし、何だかうれしいなぁ」

荷台の上のあやの幻影にさっきから街中の人が笑いかけてくる。始めの十人くらいは、僕はその度に自転車を止めて、話しかけた。だが、誰もがあやを見かけたことはあっても彼女の身の上を知らない。

「ねぇ・・・難しい顔して何考えてるの・・・? どこへ行くの?」

難しい顔は誰のせいだを思ってるんだろう? 急な上り坂で自転車を押している僕のしかめっつらに、あやは不満気味である。

「・・・クスの樹先生のぉ、ところだよぉ。彼はぁ、樹齢二千年だからねぇ、街一番のぉ、物識りなんだぁ。あれ?」

振り向くと、荷台にあやの姿がない。待てよ・・・。協力しに来たんじゃなくて・・・ただのひやかしだったって?

「ちぇ、時間が無いんだから、遊ぶなよ! 僕の歌の魔法の有効期限は午前零時なんだぞ! それまでに謎が解けなくても知らないぞ!」

・・・と、空に向かってつぶやいてみても。パズルを解きかけのまま放っておけないのは、本当は僕の方なんだけど。




ざざぁああ・・・さらさらさら・・・

ざざぁああ・・・さらさらさら・・・

ナゴノーラ広場に風が走って行く。丘の上の大きな大きな広場に、雲の影が流れる。

クスの樹先生は風と仲が良い。いつも豪快な声で風と歌を歌っている。少し古い発音の歌だけど、意味はだいたいこういうことだ。

『わしはただ見ているだけ この場所でこの街を

風が無ければ動くこともできん

身を守るために逃げることもできん

切られもせず 燃されもせず

"見守る"という言葉があるが

ただ見ておっただけで

守ったことになるのじゃろうか』

彩鳥市が生まれる前からここにいて、この街を見守り続けてる。彼は、気の遠くなるほど長い時間の流れに、身を委ねてきたのだ・・・ごつごつした、黒い幹を両手で触れるとき、いつも僕は思う。彼ならば本当に"見守る"力を持っているはずだと。

「おや、頼哉かい? ・・・ほう、あやに会ったのか」

先生は幹に触れている手から直接僕の心を読むのだ。

「先生なら、あやを見たことがあるでしょう? 街の子供はみんなここで遊ぶもの。まだ生きてた時、あやだって遊びに来てたはずだよ」

「わしはここから見える風景しか知らぬが、あの子のことは良く知っておる。何百年も昔から子供のままの姿でこの広場に現れるよ。風に乗り風と戯れ、広場の花や草に手で触れて色を着けていく。・・・なぁ頼哉。もしあの子が幽霊なら、あの子は随分前に死んだはずじゃ。しかし、現在の市民でさえ、誰もがあの子を知っておるようじゃ。総ての人の心にあの子は息づいておる。この街の何もかもにあの子の気配がある。これはどういうことかのぅ」

そうだね・・・なぜだろう。あやの死の時期は調べる程に、増々わからなくなっていくのに・・・段々あやの本当の心に近付くような気がする。

「案外似た者同士、引かれ合っているのかもしれんの」

「それ僕のこと?」

きょとん、として彼の梢を見上げると、彼はざざざざと枝を揺すって笑った。

「ほれ、あやが呼んでおるよ。もうしばらく、遊んでおやり・・・」

いつのまにか一番高い枝先に座っていたあやが、ふわりと飛び立つ。えーっ。先生まで"ぐる"だったのぉ!

慌てて自転車で追いかけた。空色のドレスのあやは、高いビルを飛び越え、擦り抜け、すいすい、街の上空を横切る。こっちは道沿いにしか走れないんだぞぉ!

緩い放物線を描きながら、あやは街外れの公園墓地へと降りて行く。門の前に自転車を止め、当然僕も後に続く。

墓地なんてと皆気味悪がるけど、僕は平気。むしろ居心地が良くて、僕はよくここに散歩に来る。ここに葬られている魂は皆、幸せに満ち足りて息を引き取った人ばかりだったことを僕は知っている。

・・・ああ、やっぱり、あやに似た気配がある。南風のような、蜜のような、あの柔らかな気配、とても、とても、微かだけれど。

「ここだ・・・」

気配を追ってたどり着いたのは・・・古い、小さな、黒い石でできたお墓。表面のほとんどをつるばらが覆い隠し真冬だというのに、七つの小さな花が虹の七色を着けて開いている。トゲに気をつかいながら、そっとつるを外していくと・・・

『AYAKA ROTII』の名に添えて彫られた、俯く紫苑の花。あぁこれは市長の血筋の紋章・・・そして没年は・・・彩鳥暦元年・・・!




「市長さん!ちょっとちょっと」

市役所の一階にある市長室に窓から飛び込む。仏頂面の市長はデスクから顔も上げず、羽根ペンを持つ手も止めずに、いつも通り挨拶代わりにこう言う。

「頼哉・・・いつも言ってるだろ? 一応、面会は玄関から、秘書を通してくれないかい?」

「そんな事言ってる場合じゃないよ!ねぇ、『とりい あやか』は何者?」

あやの名前に鳥居市長の右手が止まる。銀縁の眼鏡と八の字髭がトレードマークの顔を上げる。目が、心持いつもより大きく見開かれて。

「何故その名前を知っているんだ?」

「本人から教わったんだけど」

「そんな、馬鹿な・・・」

市長の言葉はそこで止まった。僕の後ろの・・・さっき入ってきた窓に、カタン、風が当たる。あやがガラス越し、ほほ笑みながら手を振っている。

「ほら、ね」

「あ・・・あれは・・・彩香!」

市長、椅子を後ろにひっくりかえして立ち上がる。いつもまじめくさってる彼の、こんなうろたえたところを見るのは初めて。結構おもしろいけど、今はあやを追っかける方が先だ。コロコロ笑い声を上げながらまた飛び去って行くあやを、追いかけて再び窓を飛び越えた。

ヒントになる場所にいつも現れる。あやは、すべて知ってるんだ。何考えてるんだ・・・あやの奴・・・。ホント、遊ばれてるとしか思えないよぉ。

角を曲がるたびごとにあやがいる。瑠璃色の髪を靡かせ、踊ってるあや。緑の髪を震わせ、泣いているあや。紅玉色(ルビイ)の瞳でほほえむあや・・・そして、いつからか、ひとつの歌が耳の奥に響いている。どのあやも同じ歌をくちずさんでいる。




『歌の翼に憧れ乗せて 思い忍ぶガンジス 遥かの彼方

麗し花園に月は照り映む 夜の女神は君を誘う』『歌の翼に』




同じ歌を同じ声で歌う、たくさんの、様々なあやたち。細い声が共鳴し、不思議な音波が生まれる。僕は船酔いのような目舞いを感じた。

・・・色彩都市のすべてが、多分、この子の味方なんだ。



【TWINKLE NIGHT・・・白い奇跡が舞い降りる】







・・・自分のくしゃみで目が覚めた。

星が降ってる。満天の星空から、白い星がとめどなく舞い降りて来る。僕は、雪の上に仰向けに転がってた。・・・あ、星と思ったのは粉雪だったんだ。でも。満天の星空から雪が落ちて来るなんて。あぁ、これは、あやの・・・奇跡だ!

小学校の校庭。赤煉瓦の建物も白に埋もれている。時計塔が見える。午後11時。

「約束・・・美術館・・・行かなくちゃ」

のろのろと起き上がる。5kmも離れた墓地公園に忘れて来たはずの自転車が、校門の前に横倒しにして置いてある。起こそうとして屈むと、胸元から、懐中時計が滑り落ちた。・・・午後2時半をさしてる。秒針もちゃんと生きている。僕は時間を超えて飛ばされたのだ。 ・・・あぁ、やはり間違いない。あやの目的は、自分の過去ではない。

すべて知ってて「僕に」それを探させることが目的なんだ。




海沿いの公園の中にある、その美術館は、建物自体が一つのオブジェのようだ。白と水色とレモン色の、マッチ箱を重ねたような愛らしい形。星降る夜の中、その建物は、あやにふさわしい城だ。

入り口の重い扉を、かじかんだ手で押す。2階まで吹き抜けになっている。玄関中央ホールは、天井が全面ガラスになっていて、星明りが昼間のようにフロア中を照らしている。 

入口の向かいの壁に絵がかかっている。月が、スポットライトのようにその絵を照らしてる。こんな絵、いつもここにかかっていたっけ?

『街の魂』

作者は"マルク・シャガール"。大昔の絵描きさんらしい。重い鉛色の街を背景に、画家が宗教画を誇らしげにキャンバスに描いている。しかしそこに重なるように俯くもう一つの彼の顔は、深い絶望に満ちた表情で、画面下方の、恐らく・・・戦争で失った美しい恋人の、天使のようなウェディングドレス姿を見つめている。

この絵が、つまり最後のヒントって訳だ。

「あや、この中に隠れてるんだろ? 出ておいで」

「やっぱり、あたしの見込み通りだったな。名探偵さん」

大きな中央ホールに響く、あやの声。同時に、絵の中の白いドレスの女性の姿が、キラキラと輝き出す。・・・真っ白なドレスのあや。まるで出窓の窓枠に腰掛けるかのように、大きな額に座っている。

「あや、きみ、この『街の魂』 ・・・彩鳥市の"精"なんだね?」

「・・・うん。あたしの名前、鳥居彩香(とりい あやか)。元はといえば、『彩鳥市』の初代市長なの。名前だけ、だけどね」

彩、小さく舌を出して笑う。

「この街の創始者は、あたしのおじいちゃまなんだ。昔、あたしが生まれた国で戦争が起こってね、家の近くに大きな爆弾が落ちて、パパとママは死んでしまって、あたしだけが生き残ったの。それから半年もかかって、パパの故郷のこの街に届けられて、おじいちゃまに引き取られたの。怖くて、不安で、寂しくて、朝も昼も夜もただ泣くことしかできなかったあたしに、おじいちゃまは約束してくれたの。この街を、争いのない、みんなが幸福に生きられる、夢の国にしようって。・・・そして生まれたばかりのこの街に、あたしの名前を着けたのよ」

あどけない顔に不釣り合いな、大人びた彩の笑顔。

「だけど・・・パパとママを殺した爆弾は空気中に猛毒も撒き散らしていたの。あたしの体にもその毒が潜んでいた。ここに着いてふた月も経たず、あたしの体は毒でいっぱいになって、死んでしまったの。そのときあたし、まだ十歳になったばかりだった・・・」

あっさりと、そう言う。死を経験した者が死を語るのはこういう物なのか。冷静な、総てを許している笑顔。

悲しいね。何も知らない子供のまま、この世のすべてを許してしまうなんて。うつくしすぎて、かなしい。

「あたしを愛してくれたみんなの祈りの中、あたしは、あたしと同じ名前のこの街の魂になったの。この街の風、光、動物、植物、石、水・・・すべての中に溶け込んで。・・・そして、この街はあたしの夢見たユートピアそのものになったのよ。でもねあたしが一番欲しかったのは、この街で生きるあたし自身なの・・・。もう、見ているだけではいられない。一人でいい。たった一人でいいから、あたしの存在に気付いて欲しかった・・・そうして、ある日、いつからかこの街にいた、歌好きの超能力少年を見付けたの」

彩はそう言って俯く。頬にさぁっと赤みがさす。

「このひとなら、あたしの願いをかなえてくれるかもしれない。始めはそう思って・・・でもいつの間にか、ただあなたを見ていたくて、ずっと見つめていた。街の守り神としてのあたしではなく、ひとりの女の子として、あなたに気づいて欲しくて、ずっとチャンスをうかがってたの。そういう、あたしの片思いが、今朝、あのとき、あの歌に共鳴しちゃったの。・・・ごめんね。頼哉さんを試すようなことばかりしちゃって・・・。でも、あなたがあたしのためにここまで来てくれて、とてもうれしい」

いたずらな天使の、涙混じりの笑顔。あれだけ振り回されたのに、彼女に対して、ちっとも怒っていない自分に気付く。今の話を聞いたから、というよりも・・・彼女との"追いかけっこ"を僕は結構楽しんでいたのかも知れないから。

「いいんだ。きみに頼まれたからじゃなく、僕が、きみを、知りたかったんだから」

僕は正直にそう言って笑った。彩はほほ笑んで額縁から飛び降りた。僕に右手を差し出した。温かな手。握り返すと柔らかな感触がある。美しい奇跡が、また起きている。彼女の体にも、僕の体にも。

「見せてあげる。あたしが見つめ続けてきた、空からの眺めを。どんなにこの街が美しいか」

ばさばさっ 彩の背中に大きな翼が開く。虹色の鱗粉がきらめく。

彩の手に引き上げられ、床から足が浮き上がる。二人で、天井のガラスを擦り抜けて、大空へ。




『見上げてごらん 夜の星を

小さな星の 小さな光が

ささやかな幸せを歌ってる




手をつなごう僕と おいかけよう夢を

二人なら苦しくなんかないさ




見上げてごらん 夜の星を

僕らのように名もない星が

ささやかな幸せを祈ってる』『見上げてごらん 夜の星を』




僕は、彩の翼に包まれて空からこの街を見た。生命の光溢れるこの街の美しい夜景。それを取り巻く黒い黒い荒野も、見てしまった。

涙が、出た。・・・止まらなくなった。ちいちゃな彩のたった一人の夢が、今やこの星中を覆いつくしてしまった猛毒から、この街だけを守り続けていたのだ。何十年も何百年も。

彩が、耳もとでささやく。

「頼哉さん、忘れないでね。この光景を。あたしがいつも、ここから、この街を見守っていることを。そうしたら、あたし、これから一人でも寂しくない」

涙で詰まりそうになる喉をもっともっと大きく開いて、僕は歌った。歌わずにはいられなかった。こんなに深い、大きな愛を歌うには、きっと永遠という時間が必要。この星で今まで死んでいった総ての魂の愛が必要。僕の歌は広がるだろうか・・・彩の愛のようにこの街中の空を包めるだろうか。喉が裂けたっていい。歌い続けたい。

彩、きみの悲しみを半分、これからは僕に分けて下さい。きみを二度と一人ぼっちにはしない。・・・そう、誓います。




地上の星座・・・彩鳥市のひとところに、光の粒が集まっている。すばる星団のようだね。海沿いの公園に、人々がキャンドルを手に集まってきているのだ。地上に近付いていくほどに、人々が僕達を見上げてほほ笑んでいる顔が、キャンドルの柔らかな火に照らし出されて見えて来る。

「ねぇ、彩・・・みんな、きみを知ってた。初対面なのに、きみの姿を知ってた。きみをわかってた。・・・それは、この街の人達が、みんなこの街を心から愛してるからだよ。触れることは出来なくても、きみはみんなを愛することができる。きみの愛がこの美しい街を彩ってきたんだよ。・・・きみは、この街の子だよ」

昼間、街角で彩に笑いかけた人達の姿が見える。子供達が彩の名を叫びながら、両手を振っている。

「僕は、きみの愛を歌にして、街じゅうに伝えることができるよ。だから、また地上においでよ。今度は僕が呼び出してあげるから」

彩は、僕の耳元で、黙ってうなずいた。そして、小さくちいさく、ありがとう、と囁いた。

・・・砂場の大きな鉄棒に、大きな、2mはありそうな額が立てかけてある。彩鳥市初代市長"鳥居彩香"の肖像画。

鳥居家の階段室に代々引き継がれてきたこの絵を、鳥居市長は、少年時代から初恋のように見つめ続けていたのだ。

鳥居市長が、今までに見たことのない優しい笑顔で両手を差し上げている。涙顔の彩の

幻影が、そっとそこに舞い降りる。まるで市長の腕に受け止められるように。

丘の上の時計塔が、午前零時の鐘を打つ。

星の光と、雪の光、彩鳥市全住民の拍手と涙と笑顔に包まれ、僕は、彩のために歌った。彩を彩鳥市市民として迎える歌を。




「ひとつのいのちに愛が灯るように

ひとつの街に歌が生まれました

それは世界の新しい目覚めです

おはよう そしてHAPPY BIRTHDAY」


【IF YOU SAY"LOVE IS FOREVER" I KNOW I'LL NEVER LET YOU GO】




後から考えると、意外なことだけどこの街が、彩の見ている夢の中の世界だと知っても、そう驚きはしなかった。まあ、ショック受けていても仕様がないしさ。だって、今までもこれからも、僕達がこの街で生活している以上、この街は僕達にとって現実以外の何物でもない。

いつもの配達帰り、自転車で坂を上っていると、パン屋の軒先、彩が手を振っている。

「すみません、おばさん。また彩が商売の邪魔しちゃって」

「まぁ頼哉ちゃんったら、すっかりお兄さん気取りだね」

膨れっ面の彩と、僕の顔を交互に見比べ、おばさん、噴き出している。

「あたしも、毎朝彩ちゃんが遊びに来てくれるのが楽しみなのよ」

おばさんはそう言って、店のシャッターを上げた。店内一杯に朝の光が差し込む。

「彩ちゃんのおかげで今日もこの街は輝いてるんだね」

おばさんの一言に、彩はうれしそうにうなずいた。

・・・彩、幸せになろうね。この街の住人としてきみは今、幸せをその手で作り出す権利を手にした。僕の魔法の力を超え、朝日の中、そうして輝く笑顔が証拠。

そんな思いを込めて、僕は言った。

「おはよう、彩」

彩は、恥ずかしそうにほほ笑んで、顔を上げた。

「おはよう、頼哉さん」

《fin》







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