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2(エロシーンもりもり注意)

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 幾歳を重ねようともこの手の誘い掛けは苦手だ。だって彼が意地悪するから。
 自分でもわかる。ひどく赤面していると。
 顔だけじゃない。体も熱くてたまらない。気を落ち着かせようとすればする程、全身がじっとりと汗ばんでいく。
 画面に目を向けられない。見なくても彼がどんな顔をしているのかはわかる。「ふんふんそうかそうか」なんて言い出しそうな喜色満面に違いない。

「ふんふんそうかそうか……」

 ね?言った通りでしょう?

「この前贈ったあれ、気に入ってくれたんだ?」
「いや、まだ箱からも出してない」
「え?どうして?」
「だって……」

 あんなの、使ったら絶対おかしくなってしまうもの……。
 淫らな姿を見せたいからではない。心身が壊れてしまわないように繋ぎ止めてほしいから彼に「見てほしい」と頼んだのだ。興味はあるけど一人じゃ怖い。
 彼が私に贈った物とは天界の一部界隈を騒がせている性具「バベル」である。

 ――言葉を失う程の快楽に襲われます。
 ――貞淑の象徴だった妻が堕ちました。
 ――神話崩壊!○ウス様も真っ青!
 ――これを使えば誰でも無の境地へ。
 ――八百万の神々絶賛!出雲会合にて満場一致の満足度ナンバーワン!
 ――これぞ、神殺し。

 天尊アマゾン(天界の通販サイト)のレビューにはこのような文言が並んでいたが、周囲の女神様や天女の間でもその絶大なる力はまことしやかに語られていた。
 二週間前のあの日、夫はそのような物をわざわざ用意してきたのに、当の私といったら仕事の疲れからすっかり眠りこけてしまい、待ちに待った年一回の大切な一夜もただ添い寝されるだけで終わってしまった。まぁそれはそれで最高だったけど……。
 やっぱり私だけ満足していてもダメだし、彼を喜ばせたかった(実は私自身も期待に胸を躍らせているのは内緒)。そんな訳でどうにか使う機会を作らなければと思い、準備を進めて今に至る。
「開けて見せてよ」とせがまれて、渋々と箱から品を取り出す。もちろんこれははしたないと思われたくないが故の振る舞い。本当はときめきが止まりません。彼もそれがわかっているからこの様式美を受け入れてくれているのだ。
「はい」とカメラに映るように性具を取り出した。画面越しだが、彼にまじまじと見つめられてほんのり心が揺れる。

「ほうほう、思ったより小さいんだね」
「うん。普通のバイブより小さいくらいかな」

 手に取ってみても、普通のバイブレーターにしか見えない。サラッとした材質でできており、柔らかさも程々でぐにっとした感触がある。持ち手の部分にはスイッチが一つのみ。竿の部分はポイントに合わせるように曲線が形作られていて、先端はカリや凹凸がある訳でもなくシンプルな形状となっている。現状、特殊な法力も感じない。
 本当にこんなので昇天できちゃうのかしら。いや、私ら天に居るけどね。

「ふーん……使ってみないことにはわからないね」

 冷静な口調と裏腹に夫の目は「早く早く」と語っている。期待しているのが見え見えだ。

「かもねー。一回スイッチを入れてみるね」

 手に持ったまま「ポチっとな」とスイッチを入れてみる。ヴーンと静かな振動音が鳴る。竿がグリングリンにうねることもない。音が静かなのは悪くないけど、並みのバイブとしか思えない。

「ねえ、これって本当に評判すごいの?」
「だと思うんだけどなぁ」

 夫も「詐欺られたか」と首をひねっており、少々白けた空気が私達の間を流れている。「微妙っぽいねー」と言いつつ、震える性具で何気なく凝っていた肩の周辺を撫でてみた瞬間――。

「んんっ!」

 電撃のような快感が体を走り抜けた後、思考が追い付く。「えっ何?今の……」と混乱している私に対し、彼はきょとんとした表情を浮かべている。
 思わず取り落としてしまったバイブが床で唸り続けている。どうしよう……こんなのもう一度触れたら……。
 下腹がにわかにざわつく。元より期待で若干熱を帯びていた局部がジュンと潤み始めている。

「どうしたの?」
「今ね、点けた状態で肩を撫でたら変な感じが……」
「変?気持ちよかったの?」
「……うん」

 彼は「へぇーすごい」と素直に感心しているようだった。詐欺商品じゃなくて安心したのかもしれない。さらに続けて「もう一度どこか撫でてみてよ」と私からすれば鬼としか思えない要求をしてきた。

「ちょっと待って。これ、本当にやばいかもしれない」
「大丈夫。恥ずかしがることないから。ほら、早く早く」

 どうやらよがるのが恥ずかしくて躊躇していると思われているらしい。いつも恥じらっているのは雰囲気作りの為なのに!そこから押し倒されるのが好きでしているだけなのに!いつもいつも「ダメぇ」なんて言いつつ、欲しがっているけど、今回は本当にダメな奴なんだって!

「無理無理無理!本当にこれはダメ、絶対無理」
「えー。そう言う割に眼はすんごいとろんとしているよ?」
「えっ……?」

 ちらりと鏡に映る己を見て息を飲んだ。そこには淫靡な香りを撒き散らす雌の姿がありありと浮かび上がっていた。薄く漏れる吐息は熱く、紅潮した頬には艶があり、瞳は据わって目尻が垂れて物欲しそうな情が溢れ出ている。
「ね?そんな状態で止めても、どうせ収まらないでしょ?」と悪魔の囁きが耳に送られる。私はそれに導かれるように再び淫具を手に取った。
 持ち手の部分なら触れるようだ。バイブはなおも微弱な震えを発している。今度は指先でちょんと竿の部分に触れてみた。

「っ!」

 先ほど感じた程ではないものの、性感がゾクリと通り抜けて体がビクンと跳ねる。どうして?どうして?と疑問が湧くけれども、それを紐解く為の思考力はもう残されていなかった。

 ――咥えてみたい。

 徐に舌先で触れてみる。
 高密度の振動を感じて全身の力が抜けそうになった。一旦離して今度は唇を先端に……。

「んんぅっ!」

 チュッと口づけしただけで振動が全身に伝わってくる。癖になる感覚に思わず先端から根元に至るまでチュッチュッと何度も唇を触れさせる。淫具は唾液に塗れて少しずつテカり、輝きを増していく。口から糸を引いて橋を架ける様を見て、私の欲情はますます歯止めが利かなくなっていく。
 口をすぼめてバベルの先端を迎え入れる。そこからズズズっと口腔に侵入させていく度に、ビリビリと脳にダイレクトに刺激が加わる。舌、上顎、頬の裏、咽喉と、口内全体から快楽が迸り、この間に数回絶頂していた。
 衣の中は大変な状態になっていた。胸は張ってピンと立った乳頭が肌着を押し上げ、服と肌がわずかに擦れるだけでも声が漏れる始末。陰部はぐっしょりどころか、だくだくと露に塗れており、下着が役に立っておらぬ有様だ。
 無心で玩具を頬張り舐め回す私を、夫は複雑な表情で眺めている。戸惑いと興奮、そして期待……もっと見せてほしい、淫らな君を見たい、壊れていく様を、尊厳も慎みも何もかも取っ払って、ただ欲するままに乱れる姿を……と語っているように見えた。画面に映っていないが、夫の一物は怒髪天を突いているに違いない。だから私は嬌声を上げ、思考を捨てて感じるままに悦楽を貪ってそれに応える。

 もっと私を見て。
 ぐちゃぐちゃに乱れて、あなたとしている時より感じてしまっているのよ?
 口だけで何回も逝っちゃって、ふしだらでどうしようもない私を見ながらあなたも感じなさい。
 見えていないけどわかっているよ?ほら、ギンギンの竿をしごいていっぱいおつゆを飛ばして。

 そう目で訴えかけながら、己の胸を揉みしだく。ぎゅっと締め付けられた感触で私はまた逝った。

「あぁんっ!」

 口が開いた拍子にバベルがごとりと零れ落ちる。見れば始めより大きくなっている気がした。唾液塗れでべちょべちょのそれは、明かりに反射して艶やかな光沢を放っている。微細な振動が有機的な蠕動を生み、床の上で蠢いている。「早く俺を入れろ」と主張しているようだった。
 わずかに残された自我はもはや快楽を得る為にのみ存在していた。汗と愛液の滴る下着を取り払い、股をかっ開いて、私はカメラの前に陰部をさらけ出す。

 こんなにおかしくなったのは初めて。気持ちいい。怖い。助けて。お願い。最後まで見ていて。壊れてしまった私を見て。帰ってこられるように。あなたの元に帰ってくるから。私のいやらしい所をいっぱい見て。一緒に気持ちよくなって。好き。好き。愛してる。

 細切れの思考を眼差しに込めて画面の向こうに飛ばす。静かに頷いたあなたを見てから、私はブツを「中」に迎え入れた。

「あああっ!」

 私の体はそれを抵抗なく飲み込んだ。これだけで果てしない絶頂が私を襲った。膣壁はヌプリと棒を包み込み、ぐねりぐねりとうねって奥へ奥へと誘っていく。にゅるりとした摩擦が連続して、私の意識は断続していく。体の痙攣が止まらない。感情が乱れに乱れて涙が勝手に流れる。声が抑えられない。
 淫具は私の体内に入り込んでから、心なしか振動だけではなく本物に似た跳ねや突き上げるような伸びをするようになり、さらに雄々しく猛々しく盛っている気がした。
 体の芯に爆発のような官能を叩きこまれ、私はこれまで経験したことがない絶頂が近付いているのを感じ取った。単語の羅列で夫に限界を訴えかける。

「ダメ無理、イクっイクっ、ああん、見て、怖い、ああ、あなた、イっちゃう、見て、イクぅ、イクとこ見て、ああ、ダメっ、ダメっ、ああイっちゃうイっちゃうんんんっあああああ」

 弾けるような気持ちよさを感じた刹那、視界が真っ白になった。その後にふわふわとした心地よさが全身を包む。意識は混濁し、遥か天上の無重力空間にいるのか、それとも深き深淵の底を揺蕩っているのか、いずれにしても自らの状況を掴めぬ程に感覚がとろけていた。

「おーい」と呼びかける声が白い空間に響いている。私はそれを聞きながらもう少しだけここに浸ることにした。




 乱れ、壊れていく彼女の痴態を眺めながら二発、彼女が半ば気絶のような睡眠に入った後、最中の様子を思い出しながら三発。溜めに溜めていた性欲が見事に爆発した。
 性具バベル、実に恐ろしい一品だ。一見何の変哲もない玩具と思わせておいて、あれ程のパワーを備えていたとは。
 あの後、妻は説明書を読んでようやくバベルの秘密を知ったようだ。
 バベルは人の願い、中でもエロ願望に強く反応する特徴を持つ。さらに欲求を蓄積して、それを使用者の性感に変換する機能を持っている。
 私が彼女にこれを贈ったのは七月七日、この日は私達が主役の日でなおかつ下界からの願い事が集まる日であった。そこで集積された官能が二週後のあの日に一気に開放されたおかげであのような事態を引き起こしたのだろう。
 私と妻がハッスルしたせいで、下界ではやはり雨が降ったらしい。下界から飛んでくる波動を読み取ってみた所、おおよそこのようなことが言われていた。

 ――今日は七月二十一日、オナニーの日。織姫と彦星が二週前の七夕の一夜を思い出しながら各々一人で致しているのだろう。


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