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第十一話 愛があれば、いつかは・2

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※夕視点です

 
 12月に入ると、ところどころでイルミネーションが始まり、いよいよクリスマス一色になっていく。同時に封印している去年のクリスマスの思い出がついつい漏れる。
 ハルと初めてした日。そして失敗した日。思えばそこからもう俺たちは間違った方向に進んでいたのかもしれない。いや既に間違ってると気づきながら進んでいたのかもしれない。
 結果、これ以上ないくらいの行き止まりにいる気がする。
 俺が無理にでもハルとやろうとして結局ハルを中折れさせてしまってから、一切性的な事をしていない。俺はあの後もやる気で、何度も誘ったし仕掛けてもみたのだが、ハルは一向に勃たなくなってしまった。
 
 ハルはあれ以来、普通にスキンシップを許してくれた。キスもしてくれるしハグもしてくれる。一緒に眠ってもくれた。だけどほとんど俺から言い寄ると、だった。
 別に前みたいに避けられているわけじゃない。なんだかもう解脱してしまったかのようにハルの性欲はポンと抜け落ちたようだった。
 とはいえ、それは俺と対峙した時のみで、ハルがこそこそ一人で抜いてるのは嫌でもわかるし、もしかしたら浮気でもしているのかもしれないなと思い始めていた。別にハルが疑わしい言動をしているわけではなかったけれど、あれほどセックスにこだわっていたのに急に無欲になってしまった事が半ば信じられない思いでいたのだ。

「ねぇ、ハルの触ってみてもいい?」
 2人でハルの布団に入って俺はハルにバックハグされながらなんとなくテレビを見ていたが、番組のつまらなさも最高潮になる頃、ハルの方をごろりと向いて尋ねた。
「えぇ~?いいよ。どうせ勃たないよ」
 ハルはあからさまに嫌そうな顔をした。
「勃たなくてもいいから」
 ハルとはもう1ヶ月以上何もしていない。俺は時間が経ったから勃つんじゃないかと安易な事を考えていた。
「うーん、まあいいけどー…」
 許可をもらったので、布団をめくるとハルのゆるっとしたトランクスを全部脱がす。ハルは冬でも布団に入ると下は下着しか身につけない。
 ハルの縮こまっているそこにゆっくり舌を這わせてみたけどやはり無反応だ。ふにゃふにしてるそこに優しくキスをしていく。どこをどうしたら気持ち良いか、とかは全部ハルが教えてくれた。ハルが好きなところを舌先で刺激したり、わざと音を立てて口に含んでみたけど、そこは形状を変える器官ではなかったかのように何も変わらなかった。
「……」
 ハルの小さいままのものを握りながら、どうしたら刺激を与えられるのかを思いあぐねていると、
「もういい?勃たないのずっと見られてるの、だいぶ恥ずかしいんだけど…」
 と、ハルからクレームが入った。
「ご、ごめん」
 拗ねたようにハルが言うので、俺は慌てて下着とスウェットを履かせた。
「夕は?」
「え?」
「してあげようかー?」
 ついでに言ってるだけなのは分かっていた。念のためというか社交辞令というか。俺が断ると思って言っているのだろうし、実際いつも断ってきた。
「……」
 けれど。
「う...うん、して欲しい」
 と初めて言った気がする。ハルは少しだけ目を丸くした。
 だいぶ恥ずかしい。本当はして欲しいわけじゃない。けれど、俺のやらしいところを見ればハルも少しは興奮するんじゃないか?俺の魂胆など、ハルにはバレてそうだけど、まあいいや。
「珍しいね。溜まっちゃった?」
 と言いつつ、ハルは俺のスウェットと下着を脱がす。
「ハルのしてたら……さ、されたくなっちゃった…」
 俺は自分のセリフに顔から火が出そうだった。あまり顔に出ないから分からないかもしれないが、わーーーっと叫びたいくらい恥ずかしかった。
「……そう?」
 一方ハルは、俺にしては最上級にエロい受け答えをしたのに、いや、したからか若干怪訝な顔をした。言わない方がマシだったかもしれないと思うともはや死にたくなる。
 俺はこういう時にリップサービスをすることに全く慣れてない。ハルは軽い言葉責めが好きみたいだけど、俺はそういうのは嫌なのでいつもスルーしていた。
 なんだか今までの性行為を思い返すと、あまりにも自分は淡白で何もして来なかったのだな、と反省する。初めてだから興味ないからと逃げていたがハルはどれだけ俺に対して肩透かしを食らっていただろう。そういうのも含めて俺は1人で勝手にめちゃくちゃ恥ずかしくなっていた。
 俺はいつもマグロ状態で、ハルを悦ばせようなんて考えてなかった気がする。こう言ったらハルが喜ぶかなとか、こうしたら気持ちいいかなとか。
 楽しむためというより早く終わらせるために気持ちよくさせてたし、ハルは俺とやれればなんであれ喜んでいるだろうと思い上がっていたのだと思う。
 結果、恋人を不能にさせて、自分の無能ぶりに呆れている。最悪だ。
 とか考えてる間にハルは俺の会陰から睾丸にかけてふにふにと揉みしだき出した。
「ぁっ」
 急な刺激に声が出る。ハルは下からそっと舐め上げていく。強い刺激が苦手なのをハルは知っていて、触る手も舌もいつも優しい。それはずっと変わらない。
 ハルの大きくて温かい掌が優しく俺に触れてくるのが好きだった。俺とできなくなっても、その触れ方は変わらなかった。
 今までだってずっとそうだった。ハルはずっと俺と最後までしたかったのに、できなくて、それでも優しくしてくれてた。
 ただの偏見だけど俺の男性像はやれないと機嫌が悪くなったり、雑な扱いをしてくる生き物だ。俺は異性愛者ではないと思うが、かといって男という生き物は凶暴でずっと苦手だった。なんなら女の人といる方が安心するまであった。
 でもハルはそうじゃなかった。俺の思い描いていた男とは違っていた。確かに人並みに性欲は持て余していたし、強引と思う事もあったが、性欲に振り回されて態度を変えたり機嫌を損ねる人ではなかった。
 でもハルのそういう良さを俺が潰してしまったのだと思う。
 ハルが優しく俺に触るのをいつの間にか当然だと思ってしまい、ハルが触りたいから触らせてやってるくらいに思っていたと思う。性的な事を嫌悪するばかりでハルに歩み寄ってあげられなかった。
 その傲慢さが恥ずかしい。今、ハルが優しくしてくれるのはハルの欲求ではなく、ただの施しだ。そう思い至るとすごく惨めな気持ちになってくる。
「ぁっ、ふっ、ん…」
 だから。俺はできるだけ熱っぽく、息を吐く。ハルの舌の動きに合わせてだらしなく足を開いて、腰を浮かす。ハルで感じてるよ、と伝わって欲しい。もう一度俺で興奮して欲しい。ハルに優しくしてもらった分を返してあげたい。
「ん、ぁ、あっ…」
 できるだけ高い声をあげる。こんな声、上げたことあまりない。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「そんなにきもちい?」
「えっ!?う、うん、久しぶりだから…」
 カッと顔が熱くなる。演技過剰すぎた?でもこれくらいやらないと今のハルには効かない気がする。
「そっか」
 ハルのその返事からはどう思っているかは読み取れなかった。ハルは俺のものから一旦口を離してゆっくり扱き出した。
「あ…、んう…」
 俺はできるだけ声を出すようにしていたが、だんだん本当に興奮してきた。自分の喘ぎ声でも興奮する作用とかあるんだろうか?
 ハルは行為の最中もっと声を出してとか声が聞きたいとかよく言っていた気がする。俺は案の定ほとんど無視をしていたが、ハルも自分も気分が盛り上がるなら言う通りにしてあげればよかった…。
「あ、はっ…」
 ハルがゆるく手で扱きながら俺のものを飲み込む。そのままゆっくり顔を上下に動かして口でも扱かれる。ハルの温かい口の中で溶けそうな気持になる。なんだか申し訳ないような気持ちと快感がないまぜになって考えられなくなってきた。
 ハルは普通にこういう事が上手いのだ。比べる対象がないから分からないが、多分かなり上手い方だと思う。
「んん…あっ、ハル、そろそろイキそ…」
「出していいよ」
 ハルの手と口の動きが早くなる。
「ん、あ、でる…っ」 
 ハルの口の中に出してしまった。俺は呼吸を整えながらちらっとハルを見たが、ちょっと風呂掃除をしてきたくらいのなんでもない顔しかしていなかった。
「よかった?」
 ハルは口をぬぐいながらと聞いてきた。そんなによかったの?とちょっと引いてるようにも感じた。俺は恥ずかしさで死にたくなる。
「うん…ハルは?俺のしてて勃ったりしてない…?」
「え、ううん。俺は大丈夫。ありがと。寝よ」
「そ、そっか…うん、寝よう…」
 俺の恥ずかしい努力は一体…と密かにショックを受けていると
「夕すきだよ」
 と俺の頭にキスをしてハルは隣に寝転んだ。俺はハルの腕にくっつく。
 さっきまでの無駄になった努力はもう忘れることにした。思い返すと自害しかねない。
「ねぇ、俺以外だと勃つ?」
 俺はずっと気になってた事をもうはっきり確認することにした。
「え」
 ハルの顔が引きつる。
「EDになってるわけじゃないの?」
 ハルが目を逸らす。
「俺にだけ…?」
「う…」
 ハルは口ごもる。俺は責めてるわけではなかった。ただ現状を把握したかっただけだ。でもハルは俺が何かを咎めているように聞こえたのかもしれない。
「夕としようとすると緊張しちゃうみたい…」
「そう」
 やっぱり原因は心因性で俺のせいなのだ。ハルからはっきりそのことを聞きたかったのにいざ聞かされるとやはりショックだ。
「だって夕が痛かったり辛かったりするの俺耐えられないよ」
 ハルは自分が痛いみたいな顔をする。共感性の高いハルらしい理由だ。
「俺我慢するのに」
 我慢する覚悟ができてたのに。
「ありがとー。でも俺が間違ってた。好きな人に我慢させる恋愛なんてやっぱ俺したくないよ。ごめんね。これからはやらなくても、良い関係築いてこ」
 ハルが俺の頭をぎゅっと抱え込む。もう何も話さないで欲しいという態度だったので、俺はハルの心臓の音を聞きながら
「うん。分かった。おやすみ」
と答えた。
 
 多分、俺が望んでいた結果になったのに、何も嬉しくなかった。ちっとも幸せだと思えなかった。

 俺は一体何を望んでいたのだろう。
 
 いつかハルとできると思えていたのに、いつかはもう来ない気がする。
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